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第2話:白


俺は死について最も深く考え込む、眠りに就く夜のこの時間が嫌いだ。

なぜなら、この時間帯が一番苦しいからだ。


俺は今日も布団に入ってから一時間以上眠れずにいた。


ただただ続く苦しみ。


目を閉じたらもう二度と起きられなくなるかもしれないという恐怖。

そんなことを思いながらも布団の中で深呼吸をして目を閉じた。


毎日いろんなことを考えていても気が付けばしっかり眠りに就き、気が付けば朝若しくは昼になっている。

しかし、今日は違った。


目を閉じてから数分が経った時、目を閉じているのにもかかわらず急に日に当たっている感覚に襲われた。

なんだか気持ちが悪くなる。

室内にいるはずなのに、冷房などつけていないはずなのに風が吹いている。

目を開けるのが怖かったがゆっくり開けてみることにした。






とても眩しかった。

俺は反射的に目をふさいだ。

無理もない。今まで真っ暗な部屋にいたのだから。先程より遅く目を開けるとどこまでも青い空が見えた。


「え?」


思わず声が漏れた。

俺は森の中で仰向けに横たわっていたのだ。

周りを確認すると見渡す限り木、木、木。どうやら森の中らしい。

あまりの衝撃に言葉を失った。


意味が分からない。

たしかに今まで自分の部屋のベッドで考え事をしていたはず。

それなのに今、屋外にそれも横たわっている。

ここは何処なのか?

これは夢だと思いたいがリアルすぎる。

身体も思い通りに動くし、頭も働いている。

俺は起き上がった。

そして、いつもより身体が重いことに気が付いた。

見慣れない服を着ている。

黒色の軍服のようだ。

黒色を基調とし、肩には金色の肩章がついている。右肩から前部にかけて飾緒が吊るされていた。袖には五本の金のラインが入っている。

ズボンも黒色で両足の外側には各一本の金のラインが入っている。

上下セットのようだ。

左の腰には真っ白い剣と鞘。


何が何だかさっぱり分からない。

とりあえず、誰かに話を聞くためにと思っていても、まずこの森から抜け出さなければならない。

ここにずっといるわけにもいかないので適当に歩き出した。

緑色の葉が生い茂る立派な木々が立ち並び、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。気温は温かく気持ちがいい。


10分程歩くと光と建物が見えた。

やっと森から抜け出せると思いほっとした。

久しぶりにまともに歩いたのにもかかわらず、なぜか疲労感はあまり感じられなかった。


森から出ようと思った時、森の外から男の罵声が聞こえた。

俺は警戒して急いで木に後ろに隠れた。


恐る恐る覗くと、そこには剣を持った男たちが多くの人を縄で縛って正座させていた。

縄で縛られている人々の前には対面するようにリーダーと思われる男が剣を握りしめていた。

その男の隣には白いドレスを着た女の子が同じように正座させられていた。

女の子の隣には男性が同じように正座させられていた。

リーダーと思われる男が何か言っている。

耳を澄まし聞くとそれはひどい内容だった。

「まず手始めに糞豚姫をぶっ殺す!」

男は勝ち誇った顔でケラケラと笑っていた。


自分の耳を疑ったが男は間違いなく殺すと言った。

縄で縛られている人たちの顔ははっきり見えないが明らかに動揺していた。


男は左手で泣いている女の子の頭を無理やり抑え、右手に持っていた剣をうなじ付近で止めた。


俺は焦った。

このままでは彼女が殺されてしまう。

死ぬことを恐れ、たった1人で立ち向かう勇気などなかった。

なかったはずなのだが、もう目の前で誰かが死ぬ姿を見たくなかった。


男が剣を振りかぶった。

その時、俺はこれまでの人生で間違いなく一番の声量で叫んでいた。

「やぁめぇろおおおぉぉぉ!!!!!」


男の剣がぴたりと止まった。


終わった。俺の人生、終わった。そう思った。


「あ?なんだテメ・・・」

男は勢いよく言い出したがその勢いは最後まで続かなかった。


ん?なんだ?

本当に訳が分からない。

周りを見渡すと皆も驚いていた。

リーダーと思われる男もその手下の男たちも縄で縛られている人たちもドレスを着た女の子もその隣にいる男性も皆が驚いている。


そして、男が口を開いた。

「黒髪・・・黒眼・・・だと!?」

よく見ると俺と同じ髪色の人は一人もいなかった。そのことに驚いた。

目の色が黒い人も見る限りいない。


「き、貴様、何者だ!」

男は顔に汗をかきながらも大声で言った。


正直、何者かと問われてもこっちが聞きたいと思った。

「内藤陣。高校二年の学生です」

「あ?何言ってんだ?」

ああ、たぶん通じていない。周りを見渡す限り学校とかなさそうな雰囲気だ。

本当に信じがたいが異世界に来てしまったのかもしれない。


「貴様、俺たちの邪魔をする気か?邪魔をするのなら敵とみなし殺すぞ!」

「い、いや、なんでですか。それにあなたたちは何故ここにいる人たちを殺そうとしてるんですか?」

俺は思い切って聞いてみた。

「それは我が国の為。国王様にこの領土を奉げる為だ」

「そんな理由で人を殺すんですか?」

俺は少しイラつくように言った。

「そんな理由だと?弱い奴は強い奴に殺される。それが世界の理だろーが!」

この男とは分かり合えないと俺は確信した。

「どんな理由であっても人を殺してはいけない!」


「ふん!貴様、何者かは知らんが我らの敵と見た。おい!お前ら!あいつを殺せ!」

男がそういうと20人ほどの手下が俺めがけて、雄叫びをあげながら走り出してきた。


このままじゃ死ぬ。まだ死にたくない!

俺は反射的に腰にあった剣を握った。

すると手下たちの足元から勢いよく土の塊が轟音とともに飛び出した。

土の塊は約四メートルまで突き出でて、男らを投げ飛ばすと何もなかったかのように地面へ戻って行った。

手下たちは上空へ飛ばされ、地面に叩きつけられた。

手下たちは苦しそうにもがいていた。きっと今ので骨が折れたのだろう。

静まり返ったのでリーダーと思われる男の方を確認すると彼も倒れていた。

驚いた。今日は何度驚けばいいのか。

リーダーと思われる男にも大地の攻撃が炸裂したのだ。

大地は敵だけを攻撃し、拘束されている人には誰にも当たっていない。


「畜生…」

リーダーと思われる男は苦しみながらも落とした剣を拾い、女の子だけでも殺そうと足を引きずりながらも歩き出した。


俺は咄嗟に男めがけて走り出した。

しかし、大分距離があった為、このままでは間に合わないと思った。

救えないのかと気を落としそうになったが諦めなかった。

「うぉぉぉ!やめろぉぉぉ!!!」

先ほど同様に真っ白い剣を強く握った。

すると、再び大地の攻撃が炸裂し、男は宙を飛んだ。

「がぁぁぁ」

そして、再び地面に打ち付けられた。

男は二度目の攻撃をくらい意識を失った。

手下たちは未だ動けず苦しんでした。

「あああ!腕が!」

「誰か助けてくれ!」

様々な苦しみの声が聞こえる。

俺はそのまま走り続け、殺されそうになっていた女の子の元へ駆けつけた。

「大丈夫?怪我はない?」

優しく陣が問いかけると女の子は涙を流したまま頷いた。


良かった。よく分からないけど、人を救えることができた。

死ぬのが怖かったはずなのに体が勝手に動いたのだ。


それにしても先程の大地の攻撃は何だったのだろうか。

いまだにこの状況を理解できずにいた。


前回に引き続き、お読みいただきありがとうございます。

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