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第17話:ヒカリの桔梗

「晩御飯、どうしようか」


そう言ったのは他でもない俺だ。

今日は家具などを揃えるため一日中出歩いていたが、晩御飯のことを忘れていて食材を買っていなかったことに気が付いた。


「また外食でいいと思います」


ヒカリがそう言うとみんなは少し考えた後、その意見に賛成した。


「確かに今から作るって言っても時間かかっちゃうよね」


ケデアがそう言ったので俺は頷いた。


「朝は家を出て城の方へ行ったから、次は家を出て左の方へ行ってみようか」


「そうですね」


ヒカリが陣の意見に賛成し、みんなで外食することになった。


5人は家を出て左へ曲がり歩きだした。


城から離れていくせいか少しずつ建物が減っていき寂しくなってきた。

本当に食べ物屋があるのか不安になってきた。


道を歩いて聞こえてくるのは住宅から漏れる食器を洗っているような音だけ。

カッチャカッチャと食器が当たる音だ。


結局誰とも会うことも食べ物屋を見つけることもなかった。

こっちの方は何もないことがわかった。


俺たちは何もせず家に戻ってきた。

疲れだけがたまっただけだった。


「どうする?」


俺は困ったのでみんなに声をかける。


「今日はもう遅いですし、これから出掛けるのも危ないと思うので、今日は我慢でいいんじゃないですか?」


ヒカリにそう言われて家の外を見ると確かに暗くなっている。


「仕方ないね。今日は我慢しよう」


「そうだね」

「「うん」」


この世界に電気がない訳ではないようだがとてつもなく高いらしい。

電気と言っても豆電球のようなものだ。

蝋燭も電気ほどではないが高い。

家には電気も蝋燭もないため、外が暗くなれば必然的に室内も暗くなる。

何もすることがないので今日はもう寝ることにした。

5人はちゃぶ台と座布団を端へ寄せて押し入れから布団を出して敷いた。

4人が並んで寝て1人が4人の足元に横になって寝る感じだ。

何もかも新しいため、“新品”という匂いがした。


俺は玄関から一番近い所に1人で寝ることにした。

俺の頭を通り越して裏口の方を頭にして寝るのがヒカリ。

ヒカリの隣がヒナタ。

ヒナタの隣がハナ。

ハナの隣がケデアだ。


「じゃあみんな、おやすみ」


俺はそう言って足だけ布団に入れてストレッチを始めた。

するとみんな不思議そうな顔をして陣を見ていた。


「何をしているんですか?ジン」


ヒカリの言葉に3人も頷いて知りたそうな顔をしていた。


「え?ああ、ストレッチだよ」


4人は聞いたことがない言葉に唖然としていた。


「ストレッチっていうのは、うーん、なんて言えばいいのかな?体をほぐす・・・ものだよ」


「体を?」

「ほぐす?」


ヒナタとハナはまだ分からないようでポカーンとしていた。


「体をほぐす事で疲れを軽減させたり睡眠の質をあげたりできるんだよ」


「疲れを軽減?」

「睡眠の質?」


ヒカリとケデアも訳が分からないようなので5人でやってみることにした。


「じゃあみんなでやってみようか」


俺は布団から足を出すと布団の上で足を伸ばした。


「まずは座った状態から足を伸ばしてみて」


4人は言う通り足を伸ばした。


「そう。そしたら手を出して足のつま先に触れるように体をゆっくり前に倒してみて」


「イテテ」

「いたっ!」

「う!」

「あ!」


4人はとても痛がっていた。


「これがストレッチって言うんだよ」


「ジンはこんな苦しいことをやっているんですね。凄いですね」


「いやー、慣れてるだけだよ」


俺はヒカリに褒められて少し照れてしまった。どんなに些細な事でも褒められると嬉しいのもなのだと改めて実感した。


「他にもいろいろあるんだよ」


「やっぱ、ジンっていろんなこと知ってるんだね」


ケデアも感心した様子で言った。


「いやー、ま、ストレッチもしたし今日はもう寝ようね」


俺はそう言って今度こそ布団に入った。

その後、すぐに寝てしまった。




目が覚めると今日もまだ真っ暗だった。

昨日に引き続き誰も起こさず外に出ようと裏口へ移動する。

みんなはすやすや気持ち良さそうに眠っていた。

ジンはゆっくり戸を開けて外へ出る。


陣は昨日の素振りをしていた場所までやってきた。

暗い空を見上げた。


これからこの国に住むなら働かないと駄目だ。

俺がみんなを支えてあげないと駄目だ。

でも、何をすればいいのかわからない。

どこかのお店で働かせてもらうか、自分で経営するか。

どうしよう。


考えても何も出てこないので素振りを始めた。


それからしばらくして、様々なことを考えてしまい集中出来ないため素振りをやめた。

心の中にあるの膨大な恐怖と不安。


俺はそれらに打ち勝つことができなかった。

気づけばいつの間に家に着いていて心ここにあらずといった感じだ。


はぁー

思わずため息が漏れる。


家へ入り布団の上で仰向けになった。


「今日も剣を振っていたんですか?」


左側からヒカリの声が聞こえた。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」


「いいえ」


「今日も行ったけど全然集中出来なくて」


「そうなんですか」


俺は上半身を起こしヒカリの方を見るとヒカリも同じ状態で俺を見ているということが薄っすらだがわかった。一瞬ドキッとした。すぐに我に返る。


「うん。働いてお金を得なきゃ生活できないなと思って」


「そうですね。私もこのままではいけませんね」


「でも何をしていいのかわからないから」


「慌てずゆっくり考えましょう」


「そうだね」


確かに慌てて実行して失敗するなら多少時間はかかったとしても成功させた方がいいなと思った。


「今日は何しようか」


「今日もこの国を歩くっていうのはどうですか?」


「ああ、いいね。これからずっとこの国にいることになるから早く地理を覚えたいし」


俺はみんなが起きたらみんなにも今ヒカリと話していたことを話そうと思った。


それからみんなが起きたのは1時間ぐらい後のことだった。

みんなにも今日もこの国を歩くということを伝えた。


朝はみんなといろんな話をして過ごした。


「さて、明るくなってきたし、そろそろ探索しに行こうか」


「「おおー」」


ヒナタとハナが元気よく返事をした。

早速みんなは昨日買った服に着替えた。


こうして5人は今日も朝早くから家を出た。


昨日の夕方で家を出て左側は住宅地でお店は特にないことが分かったので右側、お城の方へ進むことにした。


俺たちが住んでいる住宅地を抜けて数十分歩くと相変わらず賑わっている通りにたどり着く。

通りを歩いていると昨日は気が付かなかった靴屋を発見したのでお店に入った。


「いらっしゃい」


お店に入ると30代くらいの女性が声をかけてきた。


「どのような靴をお探しですか?」


「歩きやすくて疲れにくい靴がいいなと」


「みなさんもご購入されますか?」


「そう・・・ですね」


「かしこまりました。それでは足の長さを測りますのでこちらへ来てもらえますか?」


店員はそう言うと5人を店の中にある椅子へ案内した。


それぞれサイズを測ってもらった。


俺は店員に君はまだ靴を買い替える必要はないと言われたので買わなかった。

今はいている黒い靴もこの世界からやって来た時から履いているものだが、軍服同様高性能な靴だということはなんとなくわかる。

俺以外の4人は靴を購入した。


「ありがとうございました」


みんなは早速新しい靴を履いて店をあとにした。


「ジン。あのお店によっていい?」


お店を出てケデアが指さしたのはお団子屋さんだった。


「昨日からあそこのお店のお団子おいしそうだなって思ってたの」


「いいね。行こうか」


こうして俺たち5人はみたらし団子を食べたのだった。


「あ、ジンはここで待っててもらえませんか」


みんなが団子を食べ終えたとき、突然ヒカリがそう言って近くにあったお花屋さんと思われるお店に入って行った。


俺は何も言うこともできずヒカリは駆け足で行ってしまった。


数分後ヒカリがお店から出てくるのが見えた。

ヒカリは両手で1つの花瓶を持っていて、花瓶には花が挿されていた。

紫の花と白の花が2本ずつ挿されていて合計4本あり、名前は知らなかったがとてもきれいだった。


「お待たせしました」


ヒカリは少し息が上がりながらその花を陣に渡してきた。


「私から陣へ贈り物です」


「え?俺に?」


俺はヒカリから花瓶を受け取った。

まさかそれが自分へのプレゼントとは思っていなかったのでとても驚いた。


「ありがとう。でも、お金は?」


「お金はほんの少しだけ持っていたんですが、これで使い切りました」


「ありがとね。ホントありがとね」


「いいえ。お礼を言うのは私の方です。いつもみんなの為に頑張って下さりありがとうございます」


ヒカリの感謝の気持ちを俺は受け取った。


「ジン、私からもお礼を言わせて。私、ジンに何もしてあげられてない。ごめんね。でも、物凄く感謝してるんだよ。いつもありがとう」


ケデアも今までの感謝の気持ちを伝えられた。


「ジン。ありがとう。大好きだよ」


「私もジンのこと大大大好き。ありがとう」


ヒナタとハナからもお礼を言われた。


俺は手で目を隠した。

なぜなら今泣いているからだ。

―あれ?俺、こんなに涙もろかったかな?―と思いながらも嬉しくて仕方なかった。

手で隠していても隙間から涙が零れ落ちていく。

こんな真っ直ぐな“愛”をもらったのは人生で初めてだった。


「みんないつも傍にいてくれてありがとう」


みんなに感謝の言葉を口にするも前が見えない。

みんながどんな顔をしているのか見えない。


しばらくたってようやくみんなの顔を見ることが出来た。

ヒカリは笑っていたが目が少し赤くなっていた。

ケデアは嬉しそうに微笑んでいた。

ヒナタとハナも嬉しそうだった。


恥ずかしかった。

人前で涙を見せたのは何年ぶりなのだろうか。


「この花、綺麗だね。なんて名前の花なの?」


カスッカスの声で俺はヒカリに聞いた。


「この花の名前はキキョウといいます。綺麗ですよね。私が好きなお花なんですよ」


「そうなんだ。ありがとう。大事にする」



それから俺たち5人はお昼前に一度家に帰ってきた。


「このあたりでいいかな?」


「いいですね」


俺はヒカリから貰ったキキョウを日が当たる場所に置いた。


紫と白のキキョウは風でとても美しく揺れていた。


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