第13話:差別への怒り
俺たち3人は双子を連れて先ほどまでいた宿へ引き返した。
「おかえりなさ・・・え?」
宿に入ると受付の女性は困惑していた。
「今日この2人も泊めてあげたいんだけど、追加料金はいくらかかりますか?」
「あの、その子たちって双子の兄妹ではありませんか?」
「そうですけど、なにか?」
「申し訳ございませんがうちでは双子の宿泊を認めていないので余所へ行くか、双子だけ余所で泊まらせてもらえませんか?」
陣の質問に受付の女性は冷たい態度で答えた。
先ほどの対応とは真逆だ。とても受付の人が取る対応ではない。
そんな態度に俺は冷静さを失いかけた。
「は?なんで?」
「え?知らないんですか?双子は昔から―」
「知ってるよ!!」
俺は思わず受付の女性に怒鳴りつけてしまった。
「ジン。落ち着いてください」
「ジン。落ち着いて」
ヒカリとケデアは俺のその態度を抑えるように言ってきたが我慢できなかった。
「双子があなたに何かしましたか?」
「これからするのでしょう?」
「しないよ!」
「ごめんなさい。迷惑なので出て行ってください。お金は返しますので」
女性はそういうと机の下から先ほど渡した硬貨をテーブルに置いた。
「僕のせいで」
「私のせいで」
双子の兄妹は下を向いて落ち込んでいた。
「違う!ヒナタのせいでも、ハナのせいでもない!」
「え?」
女性は驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「双子に名前を付けたんですか?なんてこと」
女性は虫を見るような目で俺を見てきた。
「気になっていたんですよねー。黒の(・)双色者」
黒の双色者だとばれていた。いつから気が付いていたのかは知らないが明らかに見下している。
「なんだよ」
俺は受付の女性を睨んだ。これほどまでに怒りが湧いたのはいつ以来だろうか。
そんな俺の目を見た女性は挑発するように言ってきた。
「そんな双子を連れて、今度こそ世界を再び滅ぼすおつもりですか?黒の双色者」
「なに?」
耳を疑った。
今までそのような事を言われたことはない。
ついに双子だけではなく俺にも蔑んだことを言ってきた。
「おい!それはどういうことだよ!」
とてつもない怒りに気が付いたのかケデアがいち早く俺を抑え込んだ。
「ジン。落ち着いて。こんな所もう出よう」
「落ち着いてください、ジン」
そこにヒカリは俺と受付の女性の間に入った。
「なんなんですか?あなたたち」
女性は汚いものを見るような顔をしながら早く出ていけと言わんばかりに手で払った。
「おまえ!」
俺の怒りはとどまることを知らない。
「ジン。こんな国出よう」
ケデアは必死になって今も俺を抑えている。
ヒカリは硬貨を取って入口へと向かった。
ケデアも俺を抑えながら入口へ向かった。
その後を双子が申し訳なさそうに歩いて行った。
「二度と来ないでくださいね」
驚くことに女性はわざとらしく笑いながらそう言ってきた。
何とも気に障る女だなと思った。
「誰が来るかよ!」
こうして宿に泊まることはできなくなった。
5人ですぐさま来た時とは違う門から出て行った。
空はオレンジ色と黒色が混ざり合った色をしていた。
国を出てもしばらくの間はイライラが治まりそうになかったが、少し時間が経ってようやく落ち着いてきた。
「「ごめんなさい」」
双子の兄妹は俺たち3人に頭を下げて謝ってきたが
俺たちは別に悪いことはしてないから謝ることはないと言った。
「みんな、ごめん。俺のせいで」
カッとなってしまい2人に悪いことをしてしまったので謝った。
ゆっくり休めるはずだったが再び辛い思いをさせてしまった。
「ジンまで何を言っているのですか?ジンは悪いことなんてしていないじゃないですか」
「そうだよ。何も悪くないわ」
ヒカリとケデアは優しく声をかけてきてくれた。
その後5人は真っ暗になった空の下、うっすらと見える道を無言で歩いた。
ヒナタとハナの歩くペースが落ちていることに気が付いたため今日はこの近くで休もうと言った。
「今日はもう遅いし、疲れも溜まってるから休める場所を探してそこで休もう」
「わかりました」
「そうだね」
「「・・・」」
ヒカリとケデアあいつも通り返事をするが双子はもう眠たそうだった。
不慣れな事をさせてしまっているので無理のないのだろう。
「ヒナタ、ハナ、ごめんね。もうすぐ休憩するからもう少し頑張って」
双子に声をかける。
「「だい・・・じょう・・・ぶ」」
ケデアがハナをおんぶしてくれるとのことなので、俺はヒナタをおんぶすることにした。
「ケデア、ごめん」
「気にしないで」
俺はケデアに今一度謝った。
それを見ていたヒカリは申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。何もしていなくて」
「いいの。気にしないで」
「ケデア」
ケデアが微笑みながら答えていた。
それから数十分後、やっと休めそうな場所を発見した。
歩いていた道から少し離れたところで近くには細い川が流れている。
「ヒカリもケデアもずっと歩きっぱなしで疲れてるでしょ?だから今日はここら辺で寝よう」
ここへ来るまでほぼ一日中歩いてきた。これまでの人生でこれほど歩いたことはない。ヒカリと出会った初日よりも歩いている。
ヒカリは二日連続で歩き続けているのでとてつもなく辛いはずだ。
「ジンは寝るんですか?」
「うん。ちゃんと俺も寝るよ」
ヒカリには寝ると言ったが、今回も周囲の警戒のため寝る気は毛頭ない。
しかし、何故かヒカリの表情は冴えないものだった。
「ジン。さっきのこと気にしてますか?」
「まあ少しね」
「私はずっとジンの味方ですからね」
「ありがとう。ヒカリ」
俺はヒカリのその言葉を聞いて嬉しくなり、少し元気になった。
そして、自分のとった行動を反省した。感情に流されないようにしなければならない。
平常心でいなければ、ちゃんとした判断ができなくなってしまう。
「私もジンの味方だからね」
「ありがとう。ケデア」
その後ケデアも真剣な顔で言ってくれた。
「それにしても酷いよね。この子たちが望んだ訳でもないのに、大人の都合で生まれてきただけなのに、その大人に酷い目に遭わせられるなんて」
「そうですね」
「そうだね」
俺の覇気のない声が漏れ出た。
「明日、ヒナタとハナが起きたら2人は双子ではなく、1歳違いの兄妹ってことにしようって言ってみる」
「わかりました」
「うん。わかった」
しばらくの間は双子ではなく1つ離れた兄妹ということにしようと決めた。
そうすることにより初対面の人からはわからない。名前もある。
誰もが普通の兄妹だと思うだろう。
「俺ももっと気を付けるよ。黒の双色者だって気づかれないように」
「あまり気にしないでください。私は・・・その・・・えっと・・・好きですよ。陣の黒髪に黒い瞳。とても綺麗で」
きっとヒカリは勇気を出して、俺にその言葉をくれたのだと思う。
ものすごく嬉しかった。
「ありがとう。でも嫌なんだ。俺のせいでみんなに迷惑かけるの」
「迷惑なんて思いません」
「私も思わないよ」
「それでも、これからはもっと気をつけるよ」
正直、かなり落ち込んでいた。このままでは4人を守ることなんてできない。
「どうして、ただこの姿で生まれてきただけなのに、あんなこと言われなきゃいけないんだろうね。なんで、精一杯生きてるのにあんなこと言われなきゃいけないんだろうね」
「おかしいですよね」
ヒカリは優しく俺の話を聞いてくれていた。
ヒカリが一生懸命俺を気にかけてくれていることがわかる。
負担をかけさせないようにしていたはずが、逆に負担をかけさせてしまっている。
情けなく思う。
寄り添ってくれている人たちを安全で安心できる生活を送らせたい。
「ああ、ごめんね2人とも。もう寝よう?」
「私はジンが寝るまで寝ませんよ」
「ヒカリが寝ないなら私も起きてるよ」
「俺は大丈夫だよ。気にしないで」
ヒカリとケデアはそんなことを言ってくれた。その気持ちだけで十分嬉しかった。
「初めて会った日の夜、ジンは寝ると言って寝ていないんですよね?ケデアから聞きました。ジンはおそらく今日もそうするのでないですか。しかし、今度は私が寝ない番です」
「ジン。私も起きてるから大丈夫。安心して、何かあったらすぐに起こすから」
「ヒカリ、ケデア、なんでそこまで・・・」
力なく呟いていた。
「ジンがずっとそばに居てくれたからですよ。ジンが居なければ私は死んでいました。ジンが居なければケデアは今もウタヅカリーで過ごしていたでしょう。ジンが居たからヒナタとハナが今ここにいます。ジンが居なければ私たちは全員今ここにいません。そして、ジンは1人ではありません。私がいます。ケデアがいます。1人で悩まずにみんなで悩みましょう。これからは一心同体ですよ。これからはみんなで力を合わせましょう」
「ヒカリ・・・ありがとう」
俺は上を向いた。何度も瞬きをする。涙が流れないように。
「ヒカリの言う通り。ジンが居なかったらここに私はいないよ。ジンは1人じゃないんだよ。私もいるってこと忘れないでよね」
「ありがとう・・・ケデア」
「「お礼を言うのは―」」
ヒカリとケデアは同じタイミングで言葉を発し、かぶったことに気が付き2人は笑った。
「お礼を言うのは私の方ですよ」
「そう言うこと」
俺は何も言うことができなかった。なぜなら、涙を堪えるのに必死だからだ。
「だから今日はジンが寝て下さいね」
「・・・うん。ありがと」
ヒカリがそう言うと俺は感謝の言葉を口にして、その場で横になった。
「おやすみなさい、ジン」
「おやすみ、ジン」
「うん。おやすみ」
陣が寝たのはそれから5分ほど後のことだった。
―ヒカリ―
「ジン。寝てしまいましたね」
「本当?よかった」
私はジンの寝息を聞いてそう判断した。
ようやくほんの少しだけジンを助けることができただろうか。
「ケデアは本当に起きているんですか?」
「それは私の言葉よ」
私たちは結局2人で起きていることになった。
ケデアも起きて見守ってくれた。
その後もケデアと夜明けまで語り合っていた。




