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―Story is art― 【第二回・文章×絵企画】  作者: 些稚 絃羽
halさまイラスト 『【第二回・文章×絵企画】』より
9/14

To be continued…

イラスト:halさま ( http://5892.mitemin.net/ )

指定ジャンル・必須要素:なし。左の子は男の娘でもボーイッシュ女子でも可。


→→ ジャンル:学園(?) コメディー(?) (イラストは表紙として)

  この作品は8,204字となっております。※一部修正有り。

挿絵(By みてみん)




「おーい、孝大(こうだい)……って、お前何やってんの?」


 俺は部室の真ん中で床に座り込んでいる男の背中に問いかけた。


「悩んでる」

「いや、明らかに悩んでるポーズ取ってるんだからそれは分かるよ。

 周りのソフトが何か魔方陣みたいになってるけど、どういう状況?」

「それは、たまたまだ」


 男を取り囲むようにゲームのソフトが並べられている。たまたまだと言うけど、偶然こんな形になるのは不自然……あぁ、この男ならあり得るか。

 俺の幼馴染の孝大は超がつくほどの几帳面な奴。身体に染み付いているんだろうが、散らかしたつもりが整列してるなんてよくあることだ。顔は結構いいと思うんだけど、自分の世界に入ってしまいやすくて、そういう面では幼馴染の俺でも手に負えないからもう諦めている。

 孝大の横を通り過ぎて、空いた机に荷物を置く。窓に目を向けると、階下のグラウンドで走る野球部の姿が見えた。


「で、そうやって何を悩んでんの?」

「文化祭のことだ」


 振り返り改めて聞くと、同じ体勢のままで答えが返ってきた。胡坐をかき、右手で顎を摩りながら悩んでいる。

 文化祭。あと二ヶ月ってところか。そろそろ部の展示を決めて書類出さないと、会長の目が最近厳しいんだよなぁ。


「何、いい展示思いついた? 最後の文化祭だし、まあまあちゃんとしたいとは思うけど、俺達ゲーム部だしなぁ」


 俺と孝大はゲーム部に所属している。しかも俺は部長、孝大は副部長だ。

 ゲーム部なんてふざけてると思われるだろうが、活動自体は結構ちゃんとしている。ひとつのゲームを部員全員がプレイして構成とかストーリーについて考察、それから売れるゲームの傾向を考えたり、逆にあまり売れてない原因を考えたり。言ってみればゲーム研究部だな。

 三年は俺達だけだが、後輩部員は八人いて、幽霊部員はなし。これだけでも実はまともな部ってのが分かってもらえるだろう。

 部の創立は今から五年前らしい。校長が面白いことが好きな人で、駄目元で提案に行った先輩に「ゲーム部とか面白いじゃん」って言ってその場で決定の判を押してくれたって聞いている。俺達が三年になるまで続けてこられたのは、校長という強い味方がいるからだ。


 でも味方はいても活動が見えないと周りの反感は出るもので。

 毎年の文化祭でゲーム評論の冊子を出している俺達に、そろそろ違うことをしろと生徒会からのお達しが来ている。それに乗じて俺の金髪を今更黒くさせようとしてくるから厄介だ。女に見えるなんて言うけど、俺だって好きでこの容姿してる訳じゃないし、そもそも俺のは地毛だっての。

 それもあって、生徒会をあっと言わせるようなアイディアがないか模索しているところなんだけど。

 孝大、何か思い付いたのか?


「ゲームを作ろうと思う」

「……は?」


思いがけない提案に開いた口が塞がらない。ゲームを作るなんて、そんな。


「いやいやいや、無理だろ。よくそんな突飛な発想が出てくるな」

「そうか? ゲーム部だからこそ、だろう。俺達がしないで他の誰ができる?」

「そういう問題じゃないんだよなぁ……」


 俺は立ったままなのに気が付いて、椅子を引くと背凭れを前にしてどかりと座った。一際暑かった今日は、スラックス越しに感じる椅子の冷たさが気持ちいい。孝大はどんなに暑い夏でも涼しい顔でいるが、もしかして今日の暑さで頭がやられてまともな判断ができなくなったんじゃないか?

そうじゃなければ、学年で常に上位の成績を誇るこの男が、こんな無茶なことを言い出す訳がない。

 こんな時、幼馴染の俺が正気に戻してやらないと他の奴では手に負えないだろう。俺がこいつを冷静にさせないと。


「いいか? 俺達は確かにゲーム部だ。毎日のように色んなゲームをプレイしては考察を重ねてきた。ゲーム評論家とまでは言わないが、そこらのゲーマーよりも真剣にゲームに向き合っている自信はあるし、知識も広いだろう。

 けどな。やるのと作るのは違うんだよ。やるのはゲーム機の使い方さえ知っていれば見よう見まねでも何とかなる。でも作るのにはゲームの知識以上のものが必要なんだよ。お前は頭がいいから勘違いしてんだよ、ゲーム作りは自分でもできるって」


 そんな甘い世界じゃない。諭すような声色をわざと選んだ。意外にも澄んだ純粋な瞳が俺を映していて、分かってくれるはずだと思った。

 孝大は小さい頃から本当に何でも器用にこなしたし、大人相手に間違いを正すこともあった。孝大は誰かに教わるより、気になったことは自分で調べて考えて答えを出す、本物の天才だと俺は思う。だけど今回ばかりは自分を過信しすぎだ。至って平凡、成績も中の中をひた走る俺には天才の考えは分からないが、あまりに何でもできちゃうもんだから、間違えちゃったんだろうな。そういう意味ではまだ、孝大も子どもなのかもしれない。

 あるある、大丈夫だって。こんな一度の勘違いでお前の天才っぷりが落ちる訳ないんだから、心配すんなよ。


 そんな風に、俺はいつもと逆の立場に身を置いてその心地良さを堪能していたんだけど。


「ゲーム自体は作ったことがある。拓海(たくみ)も知ってるだろう?」

「え……えぇ!?」


 作ったことあるって嘘だろ?! 俺、知らないよ!

 テンパる俺に、何を今更とでも言いたげな視線を向ける孝大は事も無げに続ける。


「覚えてないのか? 中二の時にコルモという宇宙人を撃つシューティングゲームと、高一の時には『王冠を奪え』っていうRPGをプレイしてもらった。

 どちらも、ゲーム自体は悪くないが付属のストーリーがいまいちだと言っていた。このキャラは設定が弱いとか、この流れだとこうした方がいいと力説していたが」


 本当に覚えていないのか、と聞かれて戸惑う。その二つのゲームのことは覚えている。


 コルモってのは確かいかにも宇宙人といった風体の、目が大きくて身体が細身のやつだったはず。地球侵略を目論むコルモとそれを食い止めようとする地球防衛軍のストーリーがあって、ステージクリア毎にストーリーが展開していくというものだった。

 『王冠を奪え』は、王に就任したアスラという青年が謎の大男に奪われた王冠を取り戻すために旅に出るRPG。昔ながらのドット絵で、風景や出てくるザコキャラの細部までこだわっている感じはあった。


 けれど前者はステージ数が350と多すぎて、その割にストーリーが薄いから漫画のひとコマずつしか進んでいないように思えた。全ステージをやっとの思いでクリアしたのに、結末がただコルモが宇宙の彼方に消えて行っただけだったのには、コントローラーを叩き付けたくなっても仕方なかったと思う。

 後者は謎の大男の正体が最後まで不透明なのががっかりした。あんなに「俺が王になるんだ」と事ある毎に言っていたくせに、結局その執着の理由も分からなかったし。アスラはキャラ自体は悪くなかったけど、初めからスキルが高すぎてレベル上げの楽しみがなかった。


 と、こんな感じの感想を持った記憶もしっかりあるけど、それが孝大が作ったものだなんて。嘘だろ?


「でもお前、そんなこと一言も……」

「言ったはずなんだが」


 そう言って孝大は中二の時のことを話す。

 渡された時の状況を把握して、俺は声を上げた。


「それは言った内に入んねぇよ!

 俺が二つのこと同時にできないの知ってるだろ? 漫画読んでる時にさらっと「作ってみたんだ、やってみてくれ」なんて言われて頭に残るかよ!」

「でも拓海、はいはいって受け取っただろう? だから伝わっていると」

「そういう時はほぼ聞いてないんだよ、って自分で言って悲しくなるわ」


 俺が悪かったと簡単に言うのは気が引ける。この場合はどっちも悪い。うん、俺も孝大も悪かったんだ、そういうことにしよう?

 次に高一のこと。受け取った時のことを覚えているけど、自分が作ったみたいな話されたかな?


「「今回も感想をくれ」って」

「それで誰がお前が作ったって分かるんだよ! そもそも前回を知らないの。それ、前回を知ってる体で話しちゃってるからさぁ」

「仕方ないだろう、理解していると思っていたんだから」

「そりゃそうだけど。お前変なところで説明簡素化しちゃうんだもんな……」


 どちらも孝大のおすすめのゲームなんだろうと思っていた俺は、受け取ってプレイして感想言っておわり。こいつが作ったと分かっていても感想は同じだったろうからその辺りはいいとして。ストーリーの稚拙さを除けばゲームのクオリティ自体は素人とは思えなかった。

 そうだ、知らなかったことはもう気にしない。忘れよう。

 ……孝大がまさかこんな特技を持っていたなんて。やっぱ天才は違う。ゲームが作れれば文化祭は大成功間違いなし!


「それで? ゲーム作れるなら問題ないじゃん。ゲーム評論なんかよりずっと面白いし、一回プレイ百円とか決めておけば利益にもなるし。何を悩んでんの?」

南方圭(みなかた けい)、忘れた訳じゃないだろう?」


 突然何を言い出すんだ。きょとんと孝大を見返した。


 南方圭。忘れるなんてある訳がない。俺が、いや俺達が子供の頃から憧れているゲームクリエイター。彼がこれまでに出したゲームはほぼ網羅しているし、スマートフォンの中のゲームアプリもすべて彼が携わったものだ。雑誌のインタビューに答えたと聞けば発売初日に買うし、古いバックナンバーをネットで買ったりもしている。俺達の間で彼について話すことはなくなったけど、彼のことはいつも頭にある。

 南方圭はゲーム界の神様みたいな人だ。この人がいたからゲームを好きになったし、ゲームクリエイターという仕事を目指したいと思った。俺の尊敬する人。


「当たり前じゃん、何を今更」

「来るんだ」

「は?」

「来るんだよ、南方圭が。文化祭に」


 南方圭が、文化祭に、来る?

 へぇ、あの人、一般の文化祭とか参加したりするんだ。誰かの保護者……ってことはないよな。あの人独身だし。ということは会えたりすんのかな? でもすごい人だし囲まれちゃって近付けないかぁ。いや待てよ、俺にとってはすごい人だけどゲームやらない奴からすると、ただのおっさんなんだよな。じゃあ近付くのも簡単か。サインとかしてもらったりできるかな。あ、でもプライベートだからあんまり近付いてほしくないかもしれないし、やっぱここは様子を見ながら……。

 ん?


「ええぇぇぇぇ!?」

「よかった、死んだのかと思った」


俺の発狂に冷静に言葉を返す孝大。何でそんな落ち着いてるんだ。


「本当に? あの南方圭が来んの?!」

「あぁ」

「何でそんなこと知ってんだよ!」

「さっき聞いたんだ、校長から。何でも、古くからの友人らしい」


 奇跡みたいな話だ。ゲームクリエイターになるため専門学校への入試を控えた今、憧れの人に会えるなんて。

 そう思いながらふと気付く。孝大はいい。文化祭の展示にゲームを作ればそれをあの人に見てもらえる。けど俺はまだできない。構成を考えるのは好きだけど、ゲーム自体を作る基礎は何もできていないんだ。こんなことならもっと早くから勉強しておけばよかった。ゲームで遊んでる場合じゃなかった。


 頭を抱えそうになるのを堪えて、孝大に目を向ける。相変わらずソフトに囲まれて悩んでいるらしい。これだから真面目ちゃんは。悩むよりまずは行動だろ? 俺が背中を押してやらないと。

 俺は立ち上がると、羨ましさを隠しながら少し大げさに喜んでやる。


「孝大、やったな! 自分で作ったゲームを南方圭に見てもらえるなんて、こんな機会もう来ないかもしれないぞ!

 そのゲームが認められて、センモンなんかすっ飛ばして南方圭のクリエイターグループに引っ張られたりして。うわ、何そのシンデレラストーリー!

 もしそうなったとしてもちゃんと俺のこと待っとけよ? 俺はちゃんと専門で知識身に着けてお前のこと追いかけるからな!」


 ビシッと効果音が付きそうな勢いで指を差して宣言するが、反応は薄い。それどころか眉を顰めるものだから、差した指を急いで拳へと引き入れた。


「そんな奇跡、起こる訳がないだろう」

「はい、すみません。……でもさぁ、世の中何があるか分かんないぞ?」


 期待をするくらいは許されると思う。それに孝大ほどの技術があれば、そんな夢みたいなことも起こり得る気がするんだ。そんな思いで孝大の顔を窺えば、小さく首を横に振っている。

 

「そんなに甘い世界じゃない。拓海だってさっきそう言っただろう」

「そりゃ言ったけどさ」

「第一、たとえそんな奇跡が起こったとしても、俺は断る」


 ……馬鹿と天才は紙一重、って本当かもしれない。願っても簡単に手に入るようなチャンスじゃないのに、それを自ら捨てるなんてあっていいだろうか。いや、駄目だ! ……まぁ、まだ決まった訳じゃないんだけど。

 哀れみみたいな気持ちで孝大を見つめると、何でもないことのように見つめ返して言った。


「俺は拓海と、一から始めたいんだ」


 どうしよう、泣きそう。そんな風に思っていたなんて。

 感動すると同時に、逆の立場なら食い気味でチャンスをもぎ取るだろうと考えて自分の非情さに少しがっかりした。


 頭脳明晰な孝大が周りの大人が願うような道を選ばず、俺と同じようにゲームクリエイターを目指すと言った入学式の夜を思い出す。

 中学の頃から成績が飛び抜けてよかったから、きっと将来は全然違う道に進んじゃうんだろうなって漠然と思っていた。そうなっても友達だと信じてはいたけど、進む世界が違ってしまえばいつの間にか会わなくなったリするんだろうという考えもあった。

 だからその決意を聞いた時、本当に嬉しかったんだ。同じものを目指して同じ道を行く。もしかしたら将来、ふたりで仕事をするようになるかもしれない。そう考えたらわくわくした。

 きっと孝大は中学の頃からもう決めていたんだろうな、俺よりずっと強い意志で。孝大が描く未来に俺が当たり前のようにいるのが、照れくさくてむず痒い。誤魔化すように荒く頭を掻いた。


「でも、折角だし、いいもん作って見てもらえよ。サポートは皆でするし」


 俺はしゃがみ込んで、床に並べられたソフトをひとつ手に取る。小学生の頃に流行ったアクションゲームだった。その隣には親の世代から廃れないプラットフォーム・ゲーム、シリーズ化しているRPGもあれば結構マイナーなテキストアドベンチャーものまである。


「また懐かしいの広げてんだな」

「家にあるものを全部持ってきた。作るなら初心に帰れるような内容がいいかと思ったんだが」


 考えても既存のものをなぞることしかできない。そう言って珍しく落ち込んだのが、噛んだ唇で分かる。ソフトを並べていた理由がやっと分かった。

 そういえばこいつは、どちらかといえば文系が苦手なんだ。とは言っても俺よりは断然成績いいんだけど。

 本人が言うには、「答えを見つけるのは簡単だが新しく生み出すのが難しい」とのこと。小学生の頃から、自由に書きなさいって問題が出るといつも空欄のまま出していた。考えていないんじゃなくて、考えても何も出てこないから書けなかったってことらしい。真面目すぎるのも大変だ。


 初心に帰れるような。その着眼点はいいと思う。文化祭の来場者は学生だけじゃないし、どんな年齢の人がプレイしても楽しめるという点では、古いゲームは参考になる。 

 何とか助けられないかと考え出した俺を見て、孝大が何か気付いたように声を出す。


「どうした?」

「拓海に考えてもらえばいいんだ」

「何を?」

「ストーリーを。俺はストーリーが書けない。しかしただのシューティングゲームじゃ面白くない。

 反対に、拓海はゲーム自体は作れないが面白いストーリーが書けると思う」


 きらきらした目で断言されて思わず口篭る。書けると思うって言われても、そんなこと一度もしたことないのに。


「いやぁ、でも俺そんな」

「大丈夫だ。小さい時から拓海を見てきたんだ、間違いない。その素質があると思う。

 それにどうせなら、一緒に作ったものを見てもらおう」


 孝大は口に笑みを作って頷いた。

 憧れの人に見てもらう。その対象に自分が入ることを想像してみる。

 思いの外、怖かった。孝大に言ったように純粋に喜べると思っていたのに、正体の分からない怖さが背中を撫でた。それでももしかしたら、これが生み出して発信することなのかもしれない。自分の描いたものを受け入れてもらえるか、楽しませられるのか。

 でもプロを目指すなら、その不安や怖さを打ち破っていかなきゃいけない。そういう世界を俺は目指しているんだと思うから。


「……上手くやれるかは分からない。でも、俺やる。やってみたい」

「あぁ、ひとりじゃない。皆いるんだ。拓海が描くものを作ってみよう」


 孝大の言葉に大きく頷いた。やってみたい、その気持ちがきっと何よりも大切。高校最後の文化祭は、人生で最高の思い出になる気がした。


 俺は早速、キャビネットから真新しいCD-ROMを出した。評論の冊子の元になるデータを保存するために用意してあるものだ。パソコンを起動し、ROMをセットする。開いたテキストソフトには、出番を待つカーソルが点滅している。

 これからここに、人生初のゲーム原案を書き出す。どんなものができるかは分からない。でも今、頭の中を色んなものがひしめき合うように飛び交っている。多分俺にしか、俺達にしか作れないものができるはずだ。

 スタートラインを越えよう。ゲーム人生への一歩を踏み出すんだ。


 廊下から賑やかな声が聞こえてくる。他の部員達が来たんだろう。

 音を立てて教室のドアが開かれる。俺は入り口を振り返ると、挨拶もせずにこう言った。


「皆、ゲーム作るぞ!!」




**********





「ホント、あれが転機だったよな」

「なるべくしてなった、と俺は思っているが」

「お前、言うようになったな」


 向かいのデスクで平然と言ってのける孝大に笑いがこみ上げる。あれからもう七年、孝大も冗談が言える大人になったってことだな。

 本当にこいつには感謝してる、あの時俺のやる気を引き出してくれたこと。文化祭のため徹夜までしながら構成を考えたあの日々があったから、今があると思っている。悩む時も当然あるけど、あの日々を思い出せばまた気合が入るんだ。



 結果から言えば、夢見ていたような奇跡は起こらなかった。けれどそれに近い、予想外なことは起こった。

 孝大が教えてくれたように、南方圭は文化祭にやって来た。俺達が作ったゲームは予想以上の盛況ぶりで実際にプレイしてもらうことはできなかったけど、彼は他の客がプレイしているのをじっと後ろから眺めていた。

 小一時間ほどして彼は俺達に近付いてきた。間近で見た憧れの人は圧倒されるような存在感で、バクバクと心臓が暴れだしたのを覚えている。

 君達が作ったのか、と聞かれて緊張する俺の代わりに孝大が答えてくれた。クリエイターを目指しているのかと聞かれた時も、専門学校に入るために勉強中です、と至って冷静に応対していた。

 すると手を差し出されて、一瞬それが何を意味しているのか分からなかった。彼は俺達に握手を求めていたんだ。おずおずとそれに応えると、思いがけない言葉を彼が言う。


「専門学校を卒業して気が向いたら、私に連絡をくれ。君達とゲームを作ってみたい」


 向けられた眼差しがその真剣さを物語り、固く握られた手の厚みが夢じゃないと伝えていた。

 呆然として、それからやっと理解して、最後には泣いてしまうという情けない俺の頭を撫でてくれたことは、絶対死ぬまで忘れないと思う。




「……もしあれで入試落ちてたら最悪だったよな」

「そんな心配するをほど難しくなかっただろう」

「このやろ、嫌みな奴だな」


 俺は順位的にギリギリだったっての。

 それでも何とか合格して、専門学生として知識と技能を培っていった。その間ずっと、彼の名刺をお守り代わりにしていたな。必ずあの日の約束を実現させるんだ、そうやって毎日誓っていた。


 けどそれも今じゃ必要ない。だって。


「お疲れさん」

「南方さん! お疲れ様です、確認しましたよ!

 ただステージ3のこのシーンなんですけど、この流れだと……」


 だって今じゃ南方さんと俺達は、同じクリエイターチームで切磋琢磨する仲間なんだから。





 俺の人生はゲームじゃない。これまで作ったどのゲームと比べても、激しさはないし報酬もそんなに多くはない。他のクリエイターの中で埋もれないよう毎日必死でもがいている。

 でもこのゲーム人生は胸を張って誇れる。そしてそれは、これからもずっと続いていく。

 To be continued……なんてね。




halさま、またまたありがとうございました。


ゲームのことをあまり知らないのにチャレンジしてみちゃいました。

初見で男の子ふたりだと思ったので、拓海と孝大になりました。

孝大の持つソフトと拓海の掲げるROM、こんな感じで繋げてみましたがいかがだったでしょうか?

ゲームについてよく知っている方がおられましたら、指南の程よろしくお願いします。切実に。

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