旋律は彼方へ
イラスト:陽一さま ( http://10819.mitemin.net/ )
指定ジャンル・必須要素:なし (白鍵のみのピアノの前に垂らされている薄いスクリーンに映しだされた女性)
→→ ジャンル:詩
この作品は670字となっております。
並ぶ白に強く指を押し込めば
伸びる音と共に君へと繋がって
ノイズ混じりのそれだけが
僕らを繋ぐ唯一の標
目の前の君は幾光年先
姿も声もいつかの君のままなのに
指先に触れる薄い膜は 君の体温を映さない
違う世界を望んだあの日が
僕を置き去りにして過去に変わって
君にはただの過程になるから
鳴り響く音は苦痛な調べ
届かせるのは幾光年先
いつしか義務的な時の中で
華やかに語る君の声に 僕の鼓膜は震わない
漏れる溜息に揺れる君は
軽くて
軽くて
軽いから
さようなら なんて簡単で
触れる指に力を込める
ほんの少し 分からないような切り込みに
どこか安堵する僕が居て
何も知らない君の微笑みが
遠くて
遠くて
遠いから
さようなら なんて醜くて
触れた指を背中に隠す
ほんの少し 気付かないような切れ込みに
どこかが痛む僕が居て
境目も曖昧な白が続くその中に
悲しみのような黒が 要りますか
届かないからと取り払った半音を
取り戻したら 戻れますか
遮らない距離が暖かかったあの頃に
あと何度傷付けば 戻れますか
耳障りだった半端な音が
今はとても恋しくなる
針が回り 聴かせて、と強請る頃
滑らかな感触に指を押し込んで
知らない譜面を滑り出す
瞼を閉じて聞き入る君は
まるで君じゃない誰かのようで
初めから僕達には たったこれしかなくて
それでも幸せを語り合ったあの日々が
眩しいのは何故だろう
音でしか繋がらない君の元へ
心を隠した音色を送る
――ねぇ、君は今 幸せですか
並ぶ白に強く指を押し込めば
伸びる音と共に君へと繋がって
ノイズ混じりのそれだけが
僕らを繋ぐ唯一の標
目の前の君は幾光年先
こことは違う世界を選んで微笑み続く
音源を見つめる君の目に 僕の涙は映らない
陽一さま、またまたありがとうございました。
悲恋、ですね。今回はちゃんと人間な『僕』。
今回詩を書くと重くなるのは何故だろう……。
現代ではなく、望めば違う星に行けたりするような世界でのふたり。
スクリーン越しではどうやっても視線も温度も交わらない、というところから悲恋に繋がりましたとさ。