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どんな世界でもそれを軸に回っている

行動を起こすから、その先になにかが生まれる。

野口 健



マオが、ハルキがいないことに気付く少し前、ハルキは殿役員の群れの中で、何者かに肩を掴まれていた。

殿役員達はそんなことには気づかず、女食であるマオを求めて、あっという間にひとり残らずこの夕閣殿から出て行ってしまっていた。

残されたのはハルキとハルキの肩を掴むその何者かだけである。

その手は骨ばっているが、それでも力強い。

ハルキは誰なのか分かっていた。

かつてその手を重く受け止めた彼なら。

「カンゲツ。」

振り向いた瞬間、ハルキはしゃがみこむ。

カンゲツの回し蹴りがハルキの頭上を掠めた。

ハルキはそのまま横に転がり、距離をとる。

「再開しましたね。」

「またお前か、二度も宴を壊しやがってただで済むと思うなよ?」

二度目。あの時も宴の日だった。

かつて、カンゲツとは一線を交えたことがある。

身寄りを殺めた奴らをさがすため、様々な町に出向いていたのだ。

その時この町で、オールバックでいかつい体をした奴がいると聞いた。

すぐにカンゲツの元へと赴いた。

当時は警備も甘かったから、用意に夕閣殿に入ることができた。

問い詰めれば、やっていないの一点張り。

それはそうだ、カンゲツは犯人ではなかったのだから。

そんなこととも知らず感情に任せて、俺は暴力を仕掛けてしまった。

後に、ちょうど聞き込みをしていたケイトとラクレンさんが事情を聞きつけ、止めに入り事を終えた。

だが、俺とカンゲツはもちろん敵対することとなってしまった。

というのが、一度目である。

そんな追想も束の間、すかさず距離を詰め、左手の拳が右の横腹を狙ってくる。

なんとか右手で払いのけるが、すぐさま反対側から拳が飛んでかかってくる。

避けて、払いのけて、防いで。

ハルキはカンゲツの攻撃の嵐に圧倒されるばかりだ。

反撃する隙すら見せない。

以前より強くなっているのが肌で感じられる。

そして、ハルキに一瞬の油断が生じてしまった。

それを見ていたカンゲツは防御のゆるんだ右側に重い蹴りを一発。

ハルキは防ぎ切れず、吹き飛ばされた。

カンゲツが詰め寄ってくる。

ハルキはうまく立ち上がれない。

体制が整えられないまま、カンゲツの蹴りや拳がその無防備な体めがけて飛んでくる。

一瞬の隙を突かれて、相手の思うようなペースに持っていかれてしまう。

しかし、その後ハルキはなんとか一つ反撃を返し、再び距離をとった。

が、さっきまでかなりの猛攻に相当なダメージを負ったのか、体が思うようにいかない。

ズキズキと痛み出す。

カンゲツは無慈悲かつ無表情な顔でハルキに近寄ってくる。

くそっ、このままだとマジでやられる...。

カンゲツは本気だ...!!

こんなところで...

そう思った瞬間、夕閣殿の入口に見覚えのある人影が見えた。

着ていた十二単はどこかで脱ぎ捨てたのだろうか?

身軽となったケイトがそこに立っていた。

「あらあらお二人さん、宴はまだ始まっていないわよ?」

カンゲツは動きを止め、ニヤリと笑みを浮かべながらケイトの方へと向く。

「やっぱりか、エウ。いや、ケイト。」

「やっぱり...だと?」

「あんなに女食に食いついていれば分かる。ラクレンもそうだろう?」

やはり、カンゲツは気付いていたのだ。

「そのままラクレンと女食もろとも逃がすわけにもいかないからなぁ。ヤツの元には四獅をやっておいた。」

その言葉にケイトが反応を見せた。

「四獅ってまさか、四人全員!?」

「クハハ、当たり前だ。今頃もう型がついてんじゃねえのか?」

「卑怯者ね。だったら、私達はあなたを片付けちゃわないと。」

ハルキは、ケイトの会話の時間稼ぎにより、ある程度息を落ち着かせていた。

「それだったらお前らも二対一じゃあ卑怯じゃねえのかッ!」

ハルキは、なんとかカンゲツの回し蹴りを避ける。

その隙にケイトはカンゲツとの距離を詰めていた。

カンゲツは今度はケイトに回し蹴りを浴びせるが、ケイトは難なく避けてみせた。

そして、ケイトは華麗な二段横蹴りを炸裂させる。

カンゲツはそれを回し蹴りの反動で防御を出来ずにモロに食らった。

ハルキもそれに応戦し、数的優位な状況で勝負はカンゲツの劣勢が続いた。

カンゲツは完全に追い込まれてるように思えた。

だが次にハルキの拳を防御もせず、腹いっぱいに受け止めると、ふぅと息をついてこう言った。

「さてと、本当の宴を始めようか。」

さっきまでの様子とは違い、明らかにカンゲツの目の色が変わった。

首や腕をポキポキと鳴らす。

その瞬間、ハルキめがけて走り出し、高くジャンプをした。

ハルキはカンゲツのあまりの速さについていけない。

カンゲツの飛び蹴りがハルキの顔面を捉えた。

ハルキは弾き飛ばされた。

だが、カンゲツの猛攻は終わらない。

そのまま空中で体をひねり、今度はケイトにボレーを食らわせた。

ケイトもガードがままならないままに直撃した。

ケイトもその場に倒れ込む。

その後もカンゲツの回し蹴りや飛び膝蹴りなどが二人を襲った。

一瞬にして劣勢から優勢へと逆転したのだ。

カンゲツはそれでも二人への攻撃を緩めない。

二人はただ防御の身を構えるだけ。

反撃すらする暇もない。

ここで一つ、ハルキはカンゲツの蹴り攻撃を防御していて、ふと、あることに気付いた。

カンゲツの今までの攻撃は全て片足じゃなかったか?

どうしてもう一方を使わない?利き足だから?使いたいだけ?

いや、本当は使えないんじゃないのか?

もしかして...怪我か?

やってみるしかない。

そう考えたハルキは、あえてカンゲツの攻撃をモロに喰らう。

ハルキへのダメージは相当なものであったが、カンゲツの攻撃はケイト中心に向いた。

ハルキはそれを待っていたかのようにカンゲツの元へ滑り込み、その軸足に蹴りを食らわせた。

果たしてハルキの目論見は当たっていた。

カンゲツはその攻撃を受けると悲痛なうめき声をあげると、その場に倒れ込んだ。

「くそ...。」

「やるじゃない......ハルキ。」

「も、もういいんじゃないか?終わりに...」

言葉を遮ってカンゲツが言う。

「この古傷でもう戦えるわけ無いだろ、俺の負けだ。どうにでもしろ。」

舌打ちを鳴らし、嘆いては続けた、

「...あと、あの女食...。この町の娘じゃないだろう。」

「カンゲツ、分かっていたのか。」

「あんな可憐な娘が面も被らず、そこらをうろちょろしてる筈がないだろう。」

そういうためのお面であるということに、ハルキは今更ながらに理解した。

もし、気付いていればこんなことにはならなかったかもしれないという後悔と共に。

「問題は宴が壊されたことだ。まぁ負けてしまった以上もう口出しはするまい。帰れ。」

いや.........

「今、幸い、宴開始予定時刻前だ。今から宴をするというのは...出来ないのか?」

「た、確かにまだ出来る望みはあるわ。」

「たわけ。もう殿役員は一人残らずこっから出ちまってやがる。どう集めろってんだ。」

うーんと悩んでいるとケイトがあることを思いついた。

「ねぇ、先に花火を打ち上げちゃいましょう?そうすれば殿役員は宴の合図じゃないかって戻ってくるんじゃないかしら?」

「クッ、なるほど。」

「問題は...」


少し前、ラクレンはマオと共に隠れるための宿を求め走っていた。

「おい、女食ちゃん、どの宿に行けばいい?」

「分かりません。この町初めてなんで!」

「もう、なんでこんな目に合わなきゃならんのだ......おっ」

と、目の前に人が居たので、ラクレンは宿について聞いてみることにした。

「あのーすんません、ここらへんに何か身を潜め...ってうわっ!」

間一髪で避けることができたが、そのまましていれば死んでいただろう。

ラクレンをねらった狙った鋭利な刃物を持ったその手はラクレンの頭上を通過していた。

「殺す気かよ!...ってまぁ殺す気か、四獅の野郎。カンゲツの命令か?」

「え、ちょっと、誰この人...達?」

達...。いつの間にかラクレン達の四方は全身黒い服に包まれた四獅達に囲まれていた。

「おいおい、まさか四対一ですかい?この女子ちゃんは数に入れちゃならんで?」

そんなラクレンの言葉も耳に入れず、四獅達は無言でラクレン達に襲いかかる。

ラクレンはなんとか反撃を試みるが、数は圧倒的不利。

一瞬にして、二人共々捕らえられてしまった。

「いや!離して!」と喚くマオに対しても容赦はしなかった。

ラクレンは両手を縛られ三人がかりで、マオはガムテープのようなもので口を塞がれた。

くっそ、こんな呆気なく...。

しかし諦めかけていた次の瞬間、そんなラクレンの無念の思いを切り裂くかのような出来事が起こった。

ラクレンを抑えつけていた四獅のうちの一人が吹き飛ばされたのだ。

「は?」

見ると、そこにはラクレンが通り名ガクとして所属している見世店の同じ曲芸人レイの姿があった。

もう一人も吹き飛ばされる。今度はショウ。

マオの方を見ると、すでに解放され、ゼンが四獅の一人と対立していた。

「何でお前らここに!?」

「宴の日の城下町の出店って大幅に値引きされるんですよ。知ってました?」

そうレイが答えながら四獅の一人に突っかかっていった。

「なるほどね。...これで四対四。文句はないよなぁ!」

言って、四獅の刃物の攻撃をするりとかわしては、懐に渾身の拳一撃を叩き込む。

そのままひるんだ四獅はなす術もなくラクレンの胴回し回転蹴りとやらをお見舞いされた。

一対一となればラクレンにとっては楽勝であった。

そして、どうやら見渡す限り、ほとんど同時にレイ、ショウ、ゼンも四獅をそれぞれ倒していた。

マオも一瞬の出来事だったので目を大きく開いては感動しているようだった。

四人は四獅達を縛り上げる。

「まったくお前らが来てくれて助かったぜ。」

三人に感謝の意を述べる。

「......。」

ゼンは恥ずかしめに横に目を逸らすだけだった。

「ホントすか?実際ラクレンさん一人でイケたんちゃいます?」

ショウが笑いながら言う。

「ハハ、かもしんねーな。」

そんな冗談を言っていると、遠くからケイトが走ってくるのが見えた。

「おーい。」

近くまで来るとケイトは周りの状況を見ながらラクレンにせがめた。

「ま、こんなことだろうとは思ってたけれど...。それより、早く夕閣殿に来てちょうだい。花火を上げるわよ。マオちゃんも早く。」

「おい、ちょ、待てって。花火は最後だろ。」

「いいから。」

そう言ってケイトは二人を連れて言ってしまった。

残されたレイ、ショウ、ゼンはとりあえず夕閣殿までこの四獅達を連れて行くかということになった。


夕閣殿では、ケイトが途中会って事情を説明していた殿役員数人がおり、ハルキは宴の手伝い、カンゲツは最上階、自分の部屋へと戻っていた。

また、事情を聞いたラクレンは花火を打ち上げる準備ができていた。

「じゃ、いいのか一発だけ。」

「ええ、お願い。」

そうして、宴を知らせる花火が一つ、夜空に舞い上がった。

花火で照らされた町は夜なのに明るく、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

事情を知らない町の人たちは足を止めてはその夜空に咲く一輪の花を眺めた。

その後、ケイトの思惑通り殿役員達が夕閣殿に姿を現し始めた。

女食であるマオの姿を見ると驚いていていたが事情を説明し、謝罪するとすぐに宴モードへと意気込みが変わっていった。

マオやケイトが率先して食事を手伝い、ハルキやラクレンは宴の場作りを始めていた。

殿役員達は全員、夕閣殿へと戻っていた。

そして、本来の宴の開始時刻を過ぎてしまってはいたけれど、ついに宴の準備が整った。

壁には豪華で華やかな装飾、テーブルにはとても食べ切れそうにないほどたくさんの料理に溢れていた。

そして、夕閣殿の殿であるカンゲツが呼ばれ、宴の開始挨拶へと入った。

「宴が始まる前に少し騒動があったが、それも宴の一環として見逃すこととしよう。今宵、このように宴が開かれることを感謝するとともに、さらなる夕幻町の幸福と発展を祈ってここに祝杯を上げるとする。乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

大勢の殿役員とともに祝杯の杯を挙げることとなった。

こうしてなんとか宴の始まりが告げられたのだった。

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