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後悔は自分のその先の未来を左右する

人生の行路をかなり遠くまでたどってくると、以前は偶然の道連れに過ぎぬと考えていた多くの人が、ふと気がつくと、実は誠実な友だったことがわかる。

ハンス・カロッサ



誰がマオをさらった?

いや、人さらいなんてするやつはこの町にはやつしかいない。

カンゲツの野郎か...!!

何をするつもりだ。くそが。

よりによって何でマオが標的にされる。


ハルキはそんな悔念を胸に無我夢中で城下町を駆け巡った。

目指すは夕閣殿の最上階、カンゲツのいる場所だ。

おそらくそこにマオが連れていかれたはずだ。

「俺はまた同じ過ちを犯すのか。」




ーー六年前ーー


その日は雨が降っていた。

俺は妹ミヨリと共に病気に苦しむ母ハナヨの為、雨の時しか咲かない薬草、雨美草を採るために出かけていた。

俺たちの住むこの町、フローラでは至る所、美しい花や植物に囲まれており、毎日眩しい太陽が照りつける日か今日のように一日中雨が降るという二つの天気が繰り返される。

晴れの日には、鳥の綺麗な歌声が聞こえたり、草木の陰から動物たちがひょっこりと顔を出す。

雨の日には、蛙の鳴き声や水面に浮かぶアメンボが右往左往に動いており、晴れの日とは違った動物たちの様子が見られる。

この町は人口も少なく、人の住む家もポツポツとしかない。他の土地の用途といえば彼らの農耕地か花と植物で埋まっているくらいだった。

また、雨の日は外でめったに人を見ることはない。

いるのは家の周辺の植物の手入れをしている人くらいだ。

ミヨリと俺はそんな人の少ない町からさらに人の少ない場所へと向かう。

そこに雨美草がある。

実は農園でも取引されているのだが、雨の日にしか咲かず、特定の場所でしか取れないことからその値段は高く、到底俺たちが扱えるような額ではない。

物珍しさに他の町から人がやってくることもある。

自らおもむいて採取することは可能なのだ。

だから時折こうしてミヨリと一緒に取りに行くのだった。


それは些細なことが原因だった。

俺たちはある程度進んでY字路にさしかかるとお互いに行きたいとする方向が別れた。

「こっちだろ。ほらミヨリ。」俺は左を指さす。

「やだ!そっちぬかるんでるもん!絶対こっち!」ミヨリほ右へ指をさす。

「はあ?こっちに決まってるだろ。俺はこっち行くからな。」

「ふん!いいもん!ミヨリはこっち行くから!絶対雨美草見つけてお母さん元気にするんだから!」

「勝手にしろよ!」

こんなくだらないことで始まる言い争いの喧嘩が後に後悔してもしきれないものとなる。


俺はそのままぬかるんだ道に足を取られながら進んだ。

ミヨリも諦めてすぐ俺のとこに戻ってくるだろう、そう思っていた。

しかし、数分たってもミヨリは戻ってこなかった。

そして、俺の行く道はどんどんぬかるんでいき、とうとう行き止まりになってしまっていた。

くそっ、俺としたことが。

俺は仕方なく来た道を戻り、今度はミヨリが進んだ方の道に足を向けることにした。

さっきと違ってこっちの道は全然ぬかるんでおらず、結局雨美草も無かった事から俺の選択は間違っていた、ミヨリの方があっていたという、兄としての恥ずかしさが頭の中を支配した。

今頃あいつは雨美草見つけているだろうか。

やっぱりミヨリの方が正しかったんだから!お兄ちゃんのばーか!なんて言われるんだろうか。

果たしてそこに雨美草をもっているミヨリの姿があった。

いや、一つ想像していたこととは状況が違っていた。

雨美草をもっているミヨリと何やらいがみ合っている男が二人。

一人はオールバックのいかつい体をした男、もう一人は体はひょろくメガネをかけた男。

オールバックの男がミヨリに言い寄っていた。

「お嬢ちゃん、この雨美草、誰のものかな?」

「ミヨリの!」

「違うよね?僕たちが最初に見つけたんだから、僕たちのだよ。ほら、渡して、お嬢ちゃん。」

「違う!ミヨリが最初に見つけたの!」

そのミヨリの頑固さにいきれてか、男は力任せに身寄りの体ごと雨美草をつかみあげる。

「俺たちのだろ!」

そう強く言葉を浴びせる。

このままじゃミヨリが...。

「ミヨリを離せ!」

俺は叫びながらそいつに向かって突進した。

だが、奴が俺に存在に気づくと、俺を一瞥し、俺が奴の体に触れる直前、走ってきた方向とは真逆の方向へとはじき飛ばされた。

奴の蹴りが俺の腹部に直撃した。

声も出なかった。

こんな小さな子供が大の大人に勝てるはずもなかった。

「お兄ちゃん!」

男はすぐにそう言うミヨリにつっかかると、遂にはミヨリを投げ飛ばした。

そして、顔を歪ませながら、「お前らが悪いんだからな!人のもの勝手に!」

そう吐き捨てて逃げるように道の奥へと消えていった。

もう一人の男も気まずそうに一瞬こちらに目を見やるとすぐにオールバックの男についていった。

俺はただ、奴らの背中を睨みつけることしかできなかった。

俺はなんとかミヨリの元へとにじり寄る。

ミヨリは微動だにしない。

さっきまでの元気さとは裏腹に口を固く閉じ、目も閉じていた。

おい、ミヨリ!と呼んでも返事がない。

俺は何が起きたのか分からなくなった。

あの時から数十分で俺の世界は奈落の底へと突き落とされたのだ。

ミヨリは痛がることなく、ただただ静かだった。

ミヨリは死んでいた。

意味がわからない。

どうして?

ミヨリや俺が何をしたっていうんだ?

全部あいつらが...。

後悔の念ばかりが募る。

そうだ、俺がミヨリを殺したんだ。

俺がミヨリを殺したも同然のことだ。

あの時あんな喧嘩なんてしないで素直にミヨリについていってやれば良かった。

俺が強くて、奴らを追い払えていればよかった。

俺がちゃんとしていれば。俺がちゃんとミヨリを見ていれば...。

こんなことにはならなかったのに...。

「うわああああああああああああああ!!!!!」


ーー雨はその後一週間以上続いた。ーー




ハルキはすでに夕閣殿の入口に付近に来ていた。

さて、ここからどうするか。

入口には堅く門番役人がいる。

御殿への入口はあそこしかないし、役員証がなきゃ入れない。

その上、御殿の周りは塀で囲まれている。

彼らをなんとかして切り抜けるのは問題ないが。

騒ぎを起こしてしまったら元も子もない。

侵入者があったとなれば全員の標的となってしまう。

そんなんじゃマオを助けるどころか、俺まで捕まっちまう。

じゃあどうする?

夕閣殿を上から下まで隅々まで見回す。

そんな俺の不審な動きに目が止まったのか、なにやらこちらに向かってくるものがいた。

竹笠を被り、着物を着ており、下は裸足の下駄付き。身長はスラッと高めの、渋い顔。

まさしく、あの見世店切っての曲芸人、ラクレンさんであった。

「ん?よく見りゃお前、ハルキじゃねえか?何してんだこんなとこで。」

「よく見りゃって、分からないのに近づいてきたんですか?知らない人だったら今頃警備隊呼ばれてますよ?」

いや、でもこの人がいればなにかできそうな気がする。

なんていったってラクレンさんはここのお役人、殿役員であるからだ。

「あ、いや、実はこんなことがありまして。」と、耳打ちで話す。

「ほうほうなるほど。で?俺に何ができるってんだ?」

「それがまだ...」

いい案が思い浮かばない。

...いや。ちょっと待てよ...。

「ラクレンさん、役員証持ってます?」

「役員証?持ってるが?」

「貸してくれませんか?」

「おいおい、笑わせてくれるな。俺が入れなくなっちまうじゃねえか。助けたい気持ちもわかるが、俺が入れなくなるんじゃねえか?」

「顔パス、」

「は?」

「顔パスで通ってくれませんか?」お願いします!ラクレンさん!

「ハハ、顔パスくるか。んーまー、そこまでってんなら貸してやってもいいんだけどよ?なんとか、交渉すれば俺ぐれえ位が高ければ行けそうか。でもお前どうすんだ?その格好で俺を名乗るってのはまず俺が許さねえぞ。」

「竹笠、着物、げた。これさえあれば十分ですよね。」


近くの店でこの三点を買い揃え、完全にハルキはラクレンになりすました。

「じゃあ協力ありがとうございます。」

そう言ってハルキは門へと向かう。

「おう、くれぐれもばれんじゃねえぞ!.........っても一人でいけんのか?相手はカンヅキだぜ?」


「俺の名前はラクレン。極度の女好き。町一番の曲芸人。それにして殿役員の上位層。俺の名前はラクレン...」ハルキは自分にそう言い聞かせる。

夕閣殿の門の前まで来てしまった。

だが、やけに今日は人が多い。この流れに乗って...。

「はーい、はい。はい、おっけーです。はーい次の人。はい、おっけーです。」

門番役人の回しが早い。

俺の番だ。ラクレンさんの役員証を出す。

「ん?」

なっ、なんだと!?気付かれたのか?

「ラクレン様!お勤めご苦労です。」そう言って会釈までしてくれた。

俯いたまま俺も会釈をし、ついに夕閣殿へ入殿した。

そこには大勢の殿役員が集まっていた。

良かった!切り抜けた!しかも会釈まで!どんだけあの人上なんだよ!

だが安心している場合ではない。ようやくステップワンだ。

この格好のままでは、ラクレンとして対応しなければならない。もちろんそんなことはできない。

まずは様子見。どこかに隠れるか?トイレ?いやダメだ。人が来てしまう。

...倉庫。倉庫だ。あそこなら人も寄り付かない。隠れられる。

そして目立たぬようそそくさと倉庫を目指した。


「アイツちゃんと入ったようだな。俺もぼちぼち行くとすっか。」

門の前まで着く。

「はーい、おっけーっす。はい、おっけー。次ーはい、おっけー。」

人が多い分、門番役人も雑だな...。

「んーおい。そこの。門番役人。」

「は、はい...。」

「今日役員証忘れちまったんだが、ダメか?」

「いや、ちょっと役員証ないと中には入れないですね...。」

「そこをなんとか頼むよ。この顔に免じて。」

そう言ってラクレンは竹笠をクイッと上に上げる。

「あむ、ラクレン様でしたか。確かにその喋り方とこの特徴ある身なり。ラクレン様の他にそのような者はございませんからね。今後気をつけてくださいよ?まあ、今日の宴楽しんでいきましょうね!」

「悪いなぁ。ありがとよ。.........っと案外簡単に抜けられるもんだな。これからあれ持ってこなくてもいいんじゃねえか?てか、今日宴か。忘れてたわい。...ん、とすると、ハルキの言ってたさらわれた娘って...。」


「おーい、さっきのラクレン様だよな。俺さっきラクレン様通したぞ?」

「そんなわけあるか。多分ラクレン様の生霊が宴を楽しみに早めに来ちまっただけだろ。ワハハハ。」

「そうか。ハハハ。そうだよな!」


一方その頃、マオはこの夕閣殿の最上階、カンゲツの部屋の片隅にいた。

布のようなガムテープのようなもので口を塞がれ、手を後ろで縛られている。

そしてまるで囚人のように鉄格子の中に匿われていた。

私どうなっちゃうんだろう?

何か宴?とか言ってたし、ももももしかして私のこの純潔な体が汚いものに。あーやばいやばい、そんなん無理だって。なんとかして脱出しないと。

でも、あそこの大きな椅子に座っている人。確かカンゲツと呼ばれてたかな。

綺麗に禿げてるけど、怖い。なんなのあの目つき。目つきだけで百人ぐらい人殺せそう。

無理かな、あんな人から逃げるなんて。もうどうしよう、

私死ぬのかな。ちゃんとハルキについていけばよかったな。

すると、ドシンッと音がすると、部屋の大きな扉が開いた。

「カンゲツ様。エウ様がお見えになられました。...ささ、エウ様こちらです。」

召使いの人が、エウ様というお偉いさんを部屋に招き入れるようだ。

入ってきたエウ様は美しい白い十二単と言ったらわかるだろうか?そういう着衣に身を包まれており、綺麗な黒髪を後ろに流していた。。

顔はうまく見えない。

「一度本月の女食をご覧なれ。」

そうカンゲツに言われ、エウ様は「かしこまり。」と言うと、こちらへにゆっくり寄ってきた。

何?私はこの町のこんなお偉いさんにお目にかかれるの?私はどういう立場なの?

エウ様が徐々に近寄ってくると、その顔は見覚えのある顔であった。

目の前に顔が来た時にはその人がケイトさんであることは間違いなかった。

えっ、どういうこと?ケイトさんはエウ様で、エウ様はケイトさん!?

私は訳が分からなくなっていた。

カンゲツ 完月

ミヨリ 実寄

ハナヨ 花代

ラクレン 楽蓮

エウ 恵兎

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