内側から見る空はいつもと変わらない
今日という一日は、明日という日の二日分の値打ちがある。
ベンジャミン・フランクリン
人間が生きるために必要不可欠な水。
そのほとんどは海にある。
海というものは日光の真下で穏やかな姿を見せる一方、荒れ狂い時には人の命までも奪う。
そこには生物も存在する。
多くの生物を抱え、人間までも養うその海について人間達はまだまだ知らないことが多くある。
一体海の底はどこまで続くのだろう。
人間の立ち入れない未知の領域に何が潜んでいるのだろうか。
マオは車窓に張り付いて外の様子を眺めていた。
青い空、白い雲、そして透明に近いほどの澄んだ海。
マオの目はキラキラと輝いていた。
しかし、そんなマオにも一つ疑問が湧いていた、
「ねぇ、ハルキ。もうすぐ駅に着くけど町は?町が見当たらないんだけど。どこ?」
「着いたら教えてやるよ。」
駅に着くと、ハルキは一応車掌さんに停車時間を聞いていた。
きっかり二日間だそうだ。
夕幻郷にいた時間より一日長いことになる。
しかし、一体ラーンリルという町はどこにあるのだろうか?
プラットホームは海の上にポツンとあるのみだ。
「よし、着いたな。じゃあ見てろよ。」
そう言うとハルキは思い切り助走をつけて海の中へとダイブした。
「ちょ、ちょっと何やってんの!?」
「いいから、お前も来いって。」
マオには訳がわからなかった。
「服濡れちゃうじゃん。」
ハルキはその言葉にニヤリと笑み浮かべて再びプラットホームに乗り出した。
真央はその時、ハルキの思惑に気が付いた。
ハルキの服は一切濡れた形跡がなかった。
確かにさっき海に飛び込んだのに、すぐに乾いてしまっていたのだ。
「すごいだろ。しかも...」
ザッパーン。再び海に飛び込む。
「おい、マオ。お前も飛び込め。」
マオは半信半疑で海に入った。
確かに海に入っているのに、濡れている感覚がない。
「潜るぞ。」
ハルキの合図で潜ると目を開けても痛くないことが分かった。
「どうだ、すごいだろ。」
「あ、うん。」
しばらくしてマオは自分がすぐに返事を返せたことに違和感を覚えた。
ハルキの声が水の中なのに鮮明に聞こえてくる。
「なにこれ!すごい!こいうの何かのアニメで見たことあるけど実際となるとすごい不思議な感じ!」
マオの興奮は増していた。
「実はな、この下にラーンリルって町がある。」
「えぇ!」
「水没都市?海底都市?みたいなやつだな。泳ぐ感覚で動けばいい。とりあえず行こうぜ。」
そして二人はハルキの先導で二つ目の駅の町、ラーンリルへと向かった。
「見えてきた。」
ハルキはそう呟いた。
そこは地上とおよそ変わらない風景。
並ぶ家々や商店街、様々な施設で賑わっている。
一つ、地上と異なること。
水中にいることから、浮力をコントロールして移動することが出来る。
つまるところ、町を泳ぐことができるのだ。
一度、町全体を空を漂い、見渡したいと思ったことが誰しもあるだろう。
今、二人はまさに「空」を漂っている。
マオはそれでいて疑問に思うことがあった。
普通なら、水中、つまり海の中にはもちろん海洋生物に溢れているわけだ。
しかし、一向にそれらの姿は見当たらない。
海の中の町は魚と触れ合い、共存していくような新鮮なライフスタイルなのではという期待は淡く弾け飛んでしまった。
「魚はいるぞ。」
ハルキはマオの心の中を見透かしたように疑問に答えた。
「後で分かる。」
後、とはどういうことだろうか。
何かの合図でいきなり魚が出現するのだろうか。
マオの頭の中で議論を交わしているうちに、ついに二人は海底へと降り立った。
「さて、どうする。」
知らない町に来た時、この町は一体どんな町なんだろうと好奇心を膨らませながらまずは適当に散策するというのが髄である。
「まずは、歩こう!」
ハルキの顔からは何かめんどくさそうな表情が読み取れたが気にすることはない。
道行く人々は人魚だとか半魚人だとかの部類ではなかった。
至ってよく見る一般的な容姿をしていた。
それでもさすがこの町の住民。
移動するときに泳ぐ姿はまるで魚のように見えた。
若い人ほど泳ぐことを移動手段としているけれど、年配の人達は整備された道路を歩いていた。
特徴的な家も見られる。
確かに雨が降らないという理由から屋根がない家。
覗かれてしまうリスクは大きいと感じたのは否めない。
二階へと上る階段の見当たらない家も見受けられた。