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Feel the menace(脅威の予感)

《君がサイトだな、ご苦労だった。私は伊都淵貴之だ。少々、意識を探らせてもらうよ》

 バサバサッと大きな羽音と共に杜都市のアークに舞い降りたサイトを伊都淵が出迎える。無言で意思疎通を図る伊都淵を、アークを出たカジが見つめていた。ものの数分でアークの記憶をコピーし終えた伊都淵がサイトに礼を告げる。

《助かったよ、ありがとう。丈君のところへ戻るんだろう?》

《エエ》

《食事と水を用意させよう》

《ウレシイワ、オナカペコペコナノ》

 嘴を水桶に突っ込み、一掴みの肉片を咥えるとサイトは休む間もなく飛び立ってゆく。陽光が黄金色の翼を荘厳に輝かせていた。その姿が見えなくなると、カジは伊都淵に近づいて言った。

「どんな様子なんだ」

「とりあえず十州道のコミュニティは心配なさそうです」

 続いてアークに向かって声を上げる。

「応援の準備はとりあえず保留だ、警戒レベルも3まで下げておこう」

「了解ですっ!」スタッフの声が返ってきた。

「奴等は死滅したのかね?」

 中学生だった頃の正と寝食を共にしていたカジだ。心配になるのも当然だが、以前はそんな素振りなど決して見せることなどなかった。伊都淵にはカジが急に老け込んでしまったように感じられた。

「そうではありません。サイトの記憶に小銃を持った兵士の姿が見えました。記憶の前後は入れ替わりますが十州道に漂着していたのは手漕ぎボートが4隻、アークを襲ったのはそれに乗ってきたホモローチの第二世代だと考えて間違いないでしょう。そして――驚くなかれ、砕氷船が停泊していました」

「兵士に砕氷船だと? 米軍なのか」

「いえ、あの船体は〝しらせ〟です」

「しらせ……海上自衛隊のかね」

「そうです、20名程の兵士がアークを囲んだ第二世代の背後に回っていました。飛び立った後、サイトは銃声も耳にしていたそうです」

「そうか……船も船員もよく無事でいられたものだな」

「そうですね、詳細は本田君達からの報告を待ちましょう。サイトは北陸からずっと沿岸部を飛んでくれたようです。第二世代上陸の痕跡があったのは十州道だけ、警戒レベルを下げたのはそのためです」

「危機は去ったということだな」

「ええ、当面は――」

 伊都淵の言葉はどこか歯切れが悪い。カジが問い質す。

「まだ、なにかあるのだな」


「誰かいるかー!」

 第二世代を追い散らした白づくめの集団はアークの前まで進んできた。頭をすっぽり覆っていたフードを脱ぎ、ゴーグルを外したひとりがアークに向かって声を張り上げた。

「日本語だよ、おい!」

 正が顔を輝かせる。音波発信装置の出力をマイクに切り替えて返事を送った。

「26名の生存者が居ます、そちらは?」

「南極観測船しらせの海上自衛隊隊員19名だ。私は清水三等海尉、一体なにが起こっている、あのバケモノどもはなんなんだ」

「いま開けます! 詳しい話は中で」

 正、村山、新沼の三人は氷のシャッターを開けるべく管制室を飛び出して行った。

「さっきの人、自衛隊だって言ってましたよね? 政府が復活して救助活動が始まったんでしょうか? なんだかあの兵隊さん、なんにも知らないみたいだったけど」

「しらせってのは南極観測船なんだよ、戦艦じゃない。基地に物資を運ぶための船だから乗組員の半分は民間人だ。おそらく航海中に9.02に遭って、氷で身動きが取れなくなって、氷が溶け始めた今になってようやく日本に戻ってこれたのではないだろうか。だが、よく転覆も沈没もしなかったものだな」

「へーえ、村山さんって物知りなんですね。もしかしてプロ野球選手の前は自衛官だったとか?」

「ごく普通の銀行員だったよ」

 村山はふっと笑うような声を洩らす。

「新沼っ! 馬鹿言ってねえで、さっさと手え動かせっ」

 顔を真っ赤にしてハンドルを回す正から新沼に罵声が飛ぶ。ウィンチのハンドルに取り付いた三人は懸命にワイヤーを巻き上げていった。


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