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Soldier(兵士)

 伊都淵からの緊急連絡は雄一郎から石井・中川の両名に伝えられ、続いてコミュニティの全員へと速やかに行き渡っていた。そのせいかパーティーの出発を見送る人々の表情も幾分硬く感じられる。

「ここも襲撃の危険があるのでしょうか?」

 惜別の感傷を上回る危機感が石井の表情にはある。雄一郎は努めて主観を排除しつつ危機管理の必要性を唱えた。

「直接接触のない現在では、なんとも言えません。ただ、連中がホモローチの第二世代であるとするなら、友好的な態度は望めないと思ったほうがよいでしょう。空からの調査が済めば、もう少しハッキリしたことをお伝えできると思います。それまでは、いつでも地下に逃げ込めるような体制で作業を進めていてください」

 第一世代の目的が食料という資源調達だったことからも楽観視はできない。いま一番欲しい情報は、脅威との距離、残された時間だった。

「これがスマートグリッドのシステム概要と回路図です。他のコミュニティでもお役立て下さい」

「ありがとうございます」

 石井からメモリーカードを受け取った雄一郎は、それをそのまま井上に託す。

「これは誠に渡してくれ。俺は残ったトコログリアを持って杜都市へ向かう。ふたりは橇で中ノ原に戻り、その後のことは所教授の指示を仰いで欲しい。くれぐれも注意するんだぞ」

「大丈夫ですか、ひとりで」

「ああ。頭は冴え、全身に力が漲っているように感じられる。心配するな、俺は逃げ足が速いんだ」

 雄一郎らしからぬ軽口が、却って井上と榊の緊張を煽った。

「お気をつけて」

「ありがとう、君達もな」

 かつてラウンド開始のゴングに反応した心身は、いまやローラーブレードに足をいれることによって戦闘態勢を認識するようになっている。風車の建ち並ぶコミュニティの前を、雄一郎は東に、榊と井上は西へと旅立って行った。


 そう言えば……農園第一期生の仲間だった尚人(〝続・ベガへの祈り〟参照)が、自衛官時代に盲腸で入院し、タイトルマッチの前日に見舞った病院がこの近くにあったなと雄一郎は思い出す。自衛隊病院ならおそらく地下もあるだろう、10瓶足らずになったトコログリアを使う機会があるのなら無駄にはすまい。雄一郎はかつて首都高速だった高架道を下りる。確かこの辺りのはずだが……人工の建造物のみに埋めつくされた都会だった。それらが崩壊し凍りついてしまった街は記憶と照らし合わすことさえままならない。微かな物音にも耳を澄ませながら周囲を探り、歩を進める。P300Aが身体に馴染み終えた雄一郎はプロボクサー時代よりも一層研ぎ澄まされた感覚が備わっていた。

 なんだ、この感覚は……全ての神経が異常事態を感知し、全身の細胞がそれに備える。右手が背中のクロスボウへと伸びかけた時、氷壁が一斉に動き出した。

「動くなっ! 我々は陸上自衛隊中央即応集団だ。日本国民に発砲するつもりはない、武器を下ろせ」

 氷壁に見えたのは真っ白の防寒衣に身を包んだ15名ほどの一団だった。フードを上げ、銃を構える兵士達に明確な敵意は感じられないが〝交戦も辞さぬ〟といった強い意思が感じられる。雄一郎はゆっくりと右手を戻し、抵抗する意思がないことを両手を上げて伝えた。

 まだ自衛隊が存在していたのか――規模は? 政府はどうなっている? 何故、事態の収拾、生存者の救助に動かなかったんだ? 指揮官らしき兵士の指示でクロスボウと衛星電話のはいったバックパックを奪われる。

「悪く思うな、君の身元が判明するまで拘束する。歩いてくれ」

 後ろ手に拘束しようとする兵士が樹脂製の結束バンドを締め上げる音が聞こえる。雄一郎はされるがままにしていた。

「国家は機能しているんですか? 自衛隊が存在するのなら、何故生存者の救済に向かわないのです」

 雄一郎は先ほど脳裏に浮かんだ疑問を指揮官と思しき兵士にぶつける。

「それが我々に与えられた任務ではないからだ。君の身元が確定するまでは捕虜として扱う、もう喋るな」

 苦々しげにそう答えた指揮官は、その後、一切の問い掛けに口を開こうとはしなかった。


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