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Reconnaissance(偵察)

《頼めるかい?》

 夜が明けると、僕は早速サイトを呼んだ。伊都淵さんの依頼を伝えるためだ。

《オヤスイゴヨウヨ》

《すまない、まず古都府にこの包みを落としてきて欲しい、座標はここ。次に十州道に飛んで海岸線の様子とアークを包囲している連中を視覚に焼き付けて杜都市に寄ってもらいたい。君のイメージを読み取れる人が居る》

 真柴さんから依頼のあったトコログリアは古都府のコミュニティに18瓶と鼻腔用カテーテルを届ける予定で、サイトの足にくくりつける。彼女の鋭い爪でパッケージが破損することのないよう、厳重に梱包してある。

《カイガンゾイヲトベバ、ホカノチイキノヨウスモワカルワネ》

《ああ、でもそんなに一度に頼み事をするのは申し訳ない》

《イイノヨ、アノコタチノタメデモアルンデショウ》

 サイトがクイッと原田兄弟に首を振る。普段は真柴さんから譲り受けたかっこいいヘルメットを被っている彼等だったが、それを脱いだ頭は丸刈りが少し伸びた風(兄弟でバリカンで刈り合っていた)で、鳥の雛のように見えなくもない。しかもサイトは鳥だ、動くものへの反応は極めて機敏で的確だが所謂鳥目だった。彼女の行き場を失った母性は原田兄弟へと無理矢理向けられていた。何を言われているかわからない二人は僕とサイトをキョトンとした顔で見返してくる。

《くれぐれも無理はしないようにな》

《マカセテオイテ》

 数度羽ばたいて高度を安定させたサイトは、そのまま北の空へと向かって飛び立って行った。

「天狗様は、お出掛けになられたようですな」

 地下居住区から泰然法師が姿をあらわして、小さくなって行くサイトの姿を仰ぎ見る。

「ええ、彼女が居なければ、ここを見つけることも容易ではなかったでしょうし、こういった調査もできなかったはずです」

「良いお供がついてくれるのは、小野木さんの徳の高さの証なのかもしれませんな」

 傲慢な犬、母性本能丸出しの熊、そして手先の器用な原田兄弟と、確かに僕はパーティーの仲間に恵まれている。だが、未だ僕の使命感は独り立ちの気配を見せず、伊都淵さんに教えられたことを愚直に守るだけ、ターちゃんや雄さんに負けじと頑張るだけ、そんな僕に人徳などといったものがありっこない。

「防護柵を見てきます。海地、風真! 裏手を頼む」

「あいよっ!」

 原田兄弟に声を掛け、僕はその場を逃げ出した。

「どうだった?」

「侵入者の形跡はないよ、モニタにも兄ちゃんと交代で張り付いてたけど何も映らなかったし」

 欠伸混じりの声で風真が答えてくる。睡眠時間を削って、ほっそい目を光らせていてくれたのだろう。

そして僕が点検した箇所も同様に異常ナシ、ホモローチ第二世代の脅威は、まだこのコミュニティまで迫ってはいないようだ。基礎工事にはいるまで、もう4~5日はかかる。発ったばかりのサイトの帰還と報告が早くも待ち遠しく感じられていた。そして、こちらも夜を徹してここを目指してくれたようだ。氷原の彼方にクローラの車影が見えてくる。僕は大きく手を振った。


「ムラさん、あれ、タケ坊が言ってたサイトじゃないのか?」

 正の言葉に村山がモニタを覗き込む。大きな鳥の飛翔する姿が映っていた。かなりの低空飛行だが、アークに意識(連中にそういったものがあるならば)を捉えられた異形の者達は気づいてない。

「そうみたいだな、様子を見にきてくれたんだろうか?」

 イヌワシは南極圏には生息しない。殆どの鳥類が9.02で死滅し、残った種も氷の溶けかけた地域へと移動してしまった今、正と村山の希望的観測は間違ってはいなかった。サイトは丈の許を発って、たった数分で古都府のコミュニティに使いを済ませ、たった一日半で十州道のアークへとたどり着いていた。異形の集団の上で優雅に弧を描いていたサイトは、しばらくするとやってきた南の空に飛翔していった。

「ああっ! 帰っちまうぞ」

「サイトだけで、なんとかなるものでもないだろう。状況を知らせてくれるのではないだろうか。伊都淵さんの指示を待とう」

 音波発振器のお陰で包囲網を縮められることはなかったが、依然50mほどの間隔でアークを取り囲む異形の脅威は去っていない。このまま包囲が続くとなると……正を宥める側に回った村山だったが、拭えども落ちない染みのような不安が胸中に広がって行くのを感じずには居られない。

その直後、何気なく見やったモニタに、バタバタと倒れてゆく異形の姿が映し出される。

「見ろっ!」

 村山の声に正が視線を移す。離れていた新沼も戻って二人の間から顔を覗かせた。

「これって……例のサイトカイン・ストームなのかな? 伊都淵さんは第一世代より耐性があるっていってなかったっけ」

「違う、これは……銃撃だ」

 新沼の問い掛けに答えたのは固唾を呑んで見守っていた村山だった。異形の者達は、胸から頭部から体液を飛び散らせて倒れて行く。

「銃撃? 杜都市のアークに火器はなかったぜ。それに救援に駆けつけてくれたにしては早すぎる。一体、誰が……」

 散り散りとなって逃げ惑う異形の集団の間から姿を現したのは全身白づくめの一団だった。彼等が手にした小銃らしきものにはサプレッサーでも装着されているのか、マズルファイアも見えなければ、聞こえていいはずの発射音も届いてこない。

「誰なんだ、彼等は……外国の軍隊なのか?」

射殺されるか逃げたかで、モニタに映っていた異形のバリケードは消え去っていた。


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