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Second generation(第二世代)

「なんだ、ありゃあ……」

 正があんぐりと口を開ける。監視用モニタに映し出されたものはホモローチよりひと回りデカく、全身を体毛が覆っている。異様に長い腕の下に節足は生えておらず、障害物を無造作に払いのけて前進してくる様は、かなりの膂力を感じさせる。ざっと数えただけでも五十体はいそうだ。隣でモニタを眺めていた村山が声を上げた。

「あれもホモローチなのか? 新沼君、音波発振器の用意を」

 人間の聴覚では認識不可能な音波がアークに取り付けられたスピーカから発せられた。

「効かないっ! どうしよう、ムラさん」

 モニタを眺めていた新沼が村山を振り返る異形の集団はホモローチ対策として植えたハーブも踏みつけて前身してくる。

「夜半で屋外に出ている者が居なかったのが幸いだ。防護壁を下ろそう」

「俺が!」と、正がスリングの解除に向かった。

 丈の発案で採用された防護壁は、天井下部に張り廻らせたキャットウォークに吊り下げられており、スリングによるロックを解除することによって瞬時に氷のシャッターが引き下ろされる仕組みになっている。ズシンと重い音がして全ての入り口が閉じられた。

「ふう、間に合ったみたいだな。しかし、なんなんだ、こいつ等。ホモローチじゃないのかよ」

 会議室に戻った正は防護壁を押したり、手にしたオール状のようなもので叩いたりする姿を眺めて言った。氷で出来たそれに手を掛けられるような所はなく180kgのバラストがシャッターを閉じる力に変換されている。丈か雄一郎でもなければ持ち上げられるものではない。すると今度は外壁をよじ登ろうとしてきた。こういった襲撃を想定していた訳ではないが、何度も水をかけては鏡の如き滑らかさに仕上げられた氷の曲面だった。氷壁に挑む登山家並みの装備がなければ歯が――いや、爪が立たない。助走をつけ外壁に飛び付こうとする異形の者も居たが、一秒たりとて氷の曲面に取りついては居られなかった。音声はないが滑り落ちては歯を剥き出して唸っているようだ。

「ホモローチとは違うようだな、他のアークは大丈夫なんだろうか? 杜都市を呼んでみよう」

 十州班からの連絡を待っていたのか、伊都淵がすぐにコールに応じた。現況と異形の者の風体を村山が告げる。

――ふむ、体毛があって腕が長いか――連中、〝乗り換え〟を覚えたようだな。さもなければ氷が溶けてしまったこの時期、海を渡ってはこれまい。

「乗り換え……ですか?」

――そいつを見ていない現状では想像の域を越えないが、おそらく人間に遺伝子導入する前に、オランウータンか何かとでも掛け合わせたんじゃないだろうか。トランスジェニックならぬ、トランスファージェニックだから〝乗り換え〟と言ったんだ。俺の予想通りならホモローチのセカンドジェネレーション(第二世代)ってとこだろう。こうなる以前、台湾に密輸されたオランウータンを中国が引き取って吉林省に放したという報道があった。もしや、とは思っていたんだがな。

「すると、こいつ等もやっぱしメイド・イン・チャイナな訳?」

 正が送話口に顔を寄せる。

――オールのような物を持っていると言っただろう。ボートで海を渡ってきたのだとすれば、やはりアジア圏からのお客さんだろうな。となると、日本海側全域がやばいぞ。

「お客なんて品の良さそうな連中じゃないぜ、こいつ等は。撃退するいい方法を思いつくのがタッキーの役目だろ? ハーブも音波も効かないんだ、なにか考えてくれよ」

 東北のカリスマと呼ばれる伊都淵も、東日本大震災のボランティアに励んだ時代からずっと一緒だった正にかかっては形無しだ(〝錯覚の閃光〟参照)。

――タッキーは止めろってば。顔の横に出っ張りのあるのは居ないか?

「ちょっと待って――居た、居た、後ろのほうで指示を出しているみたいだ。こいつ等、前のより一段と統制がとれてやがる」

――おそらく、そいつがボスだ。しかし、脱線した高速鉄道の車両を埋めちまう連中だから犬に近いのかと思っていたが、よりによってオランウータンとはな……

「あははは――って笑い事じゃないってーの! どうすればいいんだよ」

――待ってくれ、考えてみる。

 数秒あって伊都淵の声が返ってくる。

――応急措置だ、猿の嫌う音波を探してみろ。音波発生装置の出力を100デシベルに固定して、スイッチのオンオフを繰り返せ、手動でPWM制御をするのと同じことだ。奴等に変化が見られる周波数域をモニタで見つけて固定してみてくれ。

「わかった、やってみる」

 正が答えると同時に村山が作業に取り掛かる。

「あっ! 撤退し始めたぞ」

――よし、その周波数域で固定だ。奴等の動きはどうだ?

「えっと、50mぐらい後退したところで様子を伺ってる感じかな。こいつ等も頭が破裂して死んでくれたりはしないもんかね」

――ホモローチほど短命ではないにせよ、自然の摂理に背く遺伝子の掛け合わせである以上、長くは生きられまいとは思うが……」

「思うが、なんでしょう?」

 杜都市でも老人ばかりのシェルターをホモローチに襲われ多くの犠牲者を出した。そこを担当していた村山に忌まわしい記憶が蘇る。

――村山君か、先ず十州道全てのアークとシェルターに連絡を取って、襲撃の危険と周波数域を伝えてくれ。オランウータンは異種交配をする、従ってサイトカイン・ストームへの耐性も強いと見るべきだ。奴等が死滅するのを待つだけの体力が全てのコミュニティにあればいい。そうでなければ、こちらから打って出る必要も生じる。勿論そうなれば応援には行くが、すくなくとも2~3日はかかる。

「それまでは様子を見ながら耐え忍ぶしかない、ということですか」

――そうだ、所達にも相談してみる。奴等に動きがあれば連絡をくれ。

 通話を終えた伊都淵は、すぐに丈を呼んで状況を説明した。

――すまないが、サイトの力を借してもらえないだろうか。十州道を襲ったのがホモローチの第二世代なのかどうか、奴等の上陸規模、他の日本海側はどうなのか、我々が足を運ぶより早くサイトなら見てこられるはずだ。ここのところ通信波に気になるノイズも入ってきている。君が担当するコミュニティにも、至急連絡をとってくれ。


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