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Mission completion(作戦成功)

「やはりか……」

 培養槽の並ぶホールを取り囲むように第(一)から第(五)まで实验室(研究室)のドアが並んでいる。独立していたのは第(一)から第(三)まで。(一)で遺伝子操作が行われ、(二)では受精卵クローンを試みたようだ。それが上手く行かずに第(三)で体細胞クローンに変更、まで。入口は別々でも移植された核を投入される第(四)、母体の代わりとなる培養槽に入れられる第(五)からホールまでは室内で繋がっている。

 この施設の役割はホモローチの大量生産であって、実験は別の場所で行われていたのだろう。さもなければ融合に失敗した異形以上の異形がホルマリン漬けになってそこいらに陳列されているはずだ。そしてクローン槽に新たな融合種が見られないことが研究の停滞、若しくは研究者そのものが居なくなったことを証明していた。

「やはりって?」

 行町には、ここにある機器の意味が理解出来ないようだった。

「クローンだったんだよ、ホモローチは。お前も言ってたろう? なんて数だって。 とんでもない施設を作ってやがったもんだ」

 これを作ったのが国家なのか、或いは一部のマッドサイエンティストなのかはわからない。だが、第二世代の群れを飛行機や貨物船で他の国に運んでは派兵するシステムが進行していたのだとしたら――僕は身の毛もよだつような情景を想像した。

「クローンってあの羊のドリーちゃんみたいな?」

「ホモローチちゃんと呼びたいか? 誰だかホモローチを兵士にして世界征服を企んだのが居たみたいだな」

 ようやく僕の言わんとすることが理解できた行町の目の下に数本の縦線が引かれた。そう、まるであの国民的アニメちびまる子ちゃんの『ガ-ン』のように。

「ぶっ潰そう」

 もとよりそのつもりだ。ただその前に――僕は电源室(電源室)と書かれたドアを開けた。地下深くまで伸びるパイプラインは、おそらくメタンハイグレートの鉱床にでも届いているのだろう。それを吸い上げ、精製し、タービンを回すといった方式の発電装置はオーソドックスなものだが、排気エネルギーを徹底的に再利用している技術は見事だった。これ程無限サイクルに近づけられた者は伊都淵さんの脳内ジャポニカにも載ってはいなかった。僕は背負っていたリュックを降ろしてC-4を取り出す。

「研究室のど真ん中にひとつ、後は電源室と給餌システム――あのでっかいタンクだ。それと出口を爆破して塞ごう」

「あのカプセルみたいのは?」

「電源がなくなればほっといても奴等は死ぬさ。成体になってないのがバラバラに吹き飛ぶ様は想像したくない」

「そうか、わかった」

 手分けして予定の箇所にC-4をセットするとマリアの待つ階段下まで戻る。行町は成体になりかけていたクローン槽の中心にもC-4を仕掛けていたが、僕はそれを知りつつ咎めることはなかった。いつしか彼が後悔に打ちのめされた時、罪の意識を分担する誰かが必要になる。

僕がここに来た本当の理由を言おう。生まれてくる子供を血塗られた手で抱き上げるための言い訳を欲していた。僕が殺した多くのホモローチが天から授かった命ではなく、とち狂った頭脳の持ち主によって産み出されたものだと、この目で確認したかったのだ。

「脱出だ」

 僕達は悪魔の巣窟を走り出た。


 援軍の到着に一度は局面を変えたかに見えた闘いだったが、圧倒的数的優位を覆すまでには至らない。戦い続ける人々の顔にも疲労感が漂っていた。

弾はいつか尽きる、ヘルメット組が撃ってるのは筋弛緩剤のようだが、あれとて無限ではない。鼻腔の奥が焦げ臭くなってきやがった――このままではジリ貧だ。確かここには衛星のアンテナがあったな。あれか――暫定国家の屈折型ピラミッドは頂点をさらって巨大なパラボラアンテナにしてある。伊都淵は決意を固めた。

「鈴木君、5分堪えていてくれ」

 伊都淵が建物に駆け込んで行く。いきなり三体の第二世代と鉢合わせしてギョッとする。群れで狩りをする獣のように統制のとれた陣形で、小銃も拳銃も撃ち尽くしてしまったふたりの隊員に襲いかかろうとしていた。伊都淵が三体の脳波をきれいに均すと、異形は何が起こったのかわからないままにその命を終えていた。

「助かりました」

 そう声を上げた自衛隊員の虹彩は青紫に輝いている。暫定国家の危機に引き返した者達のひとりだろう。伊都淵が訊ねる。

「コントロールルームは?」

「多分、ヘッドクオーターかと……」

 それはどこなんだ、と訊く前に開けっ放しのドアから洩れる灯りが目についた。もう、居ないだろうな、と注意深く足を踏み入れた部屋は壁一面に血飛沫のロールシャッハ模様が描かれ、遺体から流れ出た体液と消化物の匂いが充満していた。床一面に散らばった遺体とその内容物を踏みつけないようコントロールパネルまで進むのは、なかなか骨が折れる作業だった。

 シギントシステムまで構築してたのか――どいつもこいつも血税を好き勝手に使いやがって。平和利用しろよ、平和利用をよお。そう毒づきながらもモニタに赤い線が示す座標を覚えると制御盤を剥がして配線を付け替えて行く。

 上手く位相の転換が出来れば……と、作業に没頭する伊都淵の脳裏に或る可能性が閃いた。なんてこったい、一体全体どこのバカが……


 伊都淵が飛び出してきた。

「鈴木君! 全員連れて中に入ってくれ」

「えっ、でも奴等はまだあんなに――」

 雄一郎は南に延びる異形の列を見渡す。

「言われるまでもない、見えてるさ。俺は賭けに出る。だがこんな無茶は十五年ぶりだ、上手く行かなかったら後を頼む」

「何をするつもりなんですか?」

「失敗するかもしれないから、いーわないっと」

 状況にそぐわぬ茶目っ気たっぷりな口調が、却って雄一郎の不安を煽る。言葉の軽さに反して伊都淵の目は笑っていない。彼の覚悟を読み取った雄一郎は、それ以上の問答を止め、ホモローチとの闘いに疲れ果てていた人々に中に入るようにと、声を掛けて回った。


 行町がリモコンのボタンを押した。

「あれ?」

 氷壁をバリケード代わりにして伏せる僕達の前で爆発は起こらない。

「離れすぎたんじゃないのか?」

「200mと離れてないぜ、氷を割った時だって――」

 と僕たちが顔を上げた途端、耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。続いて施設の天井を覆っていた棚氷が暴力的なシャワーのとなって飛んでくる。

「伏せろっ!」

 ヘルメットのない僕は咄嗟にリュックを頭に被った。マリアは一歩を抱きかかえるようにしてかばっている。サイトは……心配ない。爆風も飛散物も届かない上空を悠々と舞っていた。バラバラと氷の破片が僕達の上に降り続いた後、ドスンと大きな音がしてマリアの頭大の石筍がリュックを掠めて僕の後方に落ちてきた。C-4爆薬6kgの破壊力は凄まじいものだった。

「成功……か?」

 行町の問い掛けに僕は立ち上げって氷煙の上がる施設跡に視程を伸ばした。鍾乳石の主成分は炭酸カルシウムだ。熱分解された高濃度の二酸化炭素が爆発による火災に抑制をかけている。薬品類の多くあった施設だが、いつまでも燃え続けることはないだろう。洞穴の広がる空間そのままの形状で台地は陥没していた。

「ああ、終わった。さあ、帰ろう」

 行町の足ののろさを考慮にいれても〝しらせ〟が待つ地点まで5時間とはかからないだろう。


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