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Slaughter Ball(殺戮の乱舞)

 人選って……人じゃないじゃん……

 出発の準備をする僕の許に中国行きのチームが集ったとの報告が届く。アークを出た僕は、その面々を呆気にとられて眺めていた。伊都淵さんは僕の不平を受け付けないがために先にここを発ったのだろうか。とんでもない混成部隊を率いることになっていた。さながらブレーメンの音楽隊か三蔵法師御一行様、新しいところではライラの大冒険。そう、僕のチームは犬、イヌワシ、熊で構成されていたのだ。

 ただ、僕が全開放しても敵わない嗅覚の持ち主である一歩、上空から広大な視界を得ることのできるサイト、肉弾戦なら抜群の戦闘力を誇るマリアと、確かに現在考えられる最強のチームではあった。


 走れるだけ走ったら乗り捨てておけ、といわれたクローラは大間崎の手前でバッテリーが尽きた。100kgを越えるマリアとサモエド犬としては大柄な一歩が同乗者では致し方ない。僕はローラーブレードに足を通した。

《ここからは自分達の足で》

《私は羽根ね、お先にっ》

 飛び去ったはずのサイトが数分と経たず舞い戻ってきた。

《大変、奴等が――》

 クローラの荷台でのんびりランチタイムを楽しむ一歩とマリアを残し、僕は駆け出した。視界を遮る高低差も遮蔽物もない。僕は視力を解放した。

 おそらく暫定国家の呼び掛けに応じようとしたのだろう。どこかに身を潜めていた人々を襲った二十体ほどの第二世代が、血みどろの肉塊に変わり果てた生存者を担いで歩いている。僕は奴等の整理的欲求――食欲に由来する行動力を甘く見過ぎていたらしい。それは流れる水の如く僅かな段差を下り、目に見えないほどの隙間に染み入り、果ては毛細管現象をも利用して進路を求める。海路を閉ざされれば陸路で、流氷で流されれば、氷点下の海を泳いででも、奴等はひたすらに食料を求めてこの国を目指したのだった。

 エラの出っ張ったアレがボスか――

《あれはフランジと言われてまして――》《うるさいっ! 黙ってろっ!》――そいつの首には、奇妙なネックレスがかけられていた。それが何で出来ているのかは、かつては生存者だった肉塊に視線を移した時にわかった。どの頭部にも耳がついていなかった。

「なんてことを……」

《危険よっ!》

 僕の身体は怒りで燃え上がった。サイトの制止を振り切って400m先を行く第二世代の一団目指し速度を上げる。両肩に背負った蛮刀に手をかけた。氷を切り裂くローラーブレードの音に気づき先頭を歩くボスが振り返った時、僕は既に半数の第二世代の頭部を身体から分離させていた。嬌声を上げ、てんでに逃げ惑う第二世代に追いついては蛮刀を奮う。異形の外観に似合わぬピンク色の体液が迸って、僕に返り血を浴びせた。

 繊毛が密生する指先には鋭い爪――人々の命を一撃で奪うほどの――があり、それで反撃を試みるものも数体いた。だが、僕の反射速度は第一世代を相手にしていた時を遥かに上回る。なんとなれば追い抜きざまに切り落とした頭部を更に半分にしてやることもできた。それをしなかったのは殺戮の残虐性を軽減しようとしたのではなく、ひとえに僕が怯えていたせいだ。圧倒的な速度差・力量差があればこそなしえた大虐殺だ。小学校時代に取っ組み合いの喧嘩をして以来、争いの雰囲気を感じ取っただけで逃げ回っていた。戦力が拮抗するような、所謂凌ぎを削るような戦闘は、とてもではないが神経がもたなかっただろう。

 血糊でべとついた蛮刀が切れ味を失い、最後の一体――ボスの頚部に叩きつけた一打は左手に大きな衝撃を残してヤツの首にそのまま残った。異形の間を駆け抜けた僕は、大きく肩で息をした後に天を仰いで叫んだ。

「チクショー! もう少し早く来ていればぁあー」

 そしてすぐに跪いて嘔吐した。杜都市で御馳走になった朝食を吐き切り、吐くものがなくなるとクリアブラウンの胃液を吐いた。懐から取り出したペットボトルの水を口に含んでゆっくりと飲み下す。暴れまわる心臓とぺしゃんこになったように感じられた肺を意志の力で正常な状態に戻した。

 マリアと一歩が駆け寄ってくる。彼等は息を呑んで凄惨な殺戮の現場を見回していた。ホモローチの首から蛮刀を引っこ抜くと、僕は氷を砕き始めた。

《なにをするつもりですか?》

「決まってるじゃないか、奴等に襲われた人々の埋葬だよ」

 僕らーズが訊ねてくる。わかりきった質問をするなとばかりに、僕はわざと声に出して言った。

《もう少し早く来ていれば、そう考えたのはなぜなんです?》

「わかったよっ!」

 怒声と共に叩きつけた蛮刀は氷に跳ね返って一歩の足元まで飛んで行った。彼の目が怯えていた。

《すまない、怒鳴ったのは僕自身に対してだ》

 どんな力を得ようと、それを使える機会を逸してしまえば、去って行った魂を呼び戻すことはできない。無力感に打ちひしがれている暇があるなら前に進むんだ。一刻も早く〝しらせ〟を動かし、奴等の本拠を叩き潰してやれ。だが、その前に……

 僕はマリアの胸を借りて泣いた。子供のように何度もしゃくり上げながら。悲しみなのか、怒りだったのか、殺戮の乱舞への嫌悪感だったのか、涙の属性はよくわからない。ただひたすら泣いていた。身体を摺り寄せていてくれた一歩は、それ以上僕を慰める術のないことを知ると、ホモローチの亡骸にマーキングをして回っていた。


 所々にコンクリートブロック大の孔が穿たれたアークは初めて目にするものだった。ターちゃんが杖をつきながら出てくる。第二世代との闘いで足を傷めたのだと聞いていた。

「タケ坊っ、よく来たな……くせっ! なんだ、この臭い」

 今、まさに抱きつかんばかりだったがターちゃんが僕の1m手前で足を止め、空いたほうの手で鼻を覆った。村山さんに到っては3mは離れていただろう。遅れて数名の自衛隊員も出てくる。

「生存者を襲った奴等の一団と遭遇したもんで……」

「やっつけたのか? よくやった。褒美にシャワーを使わせてやる。まず、その臭いをなんとかしやがれ。マリアも一歩もよく来たな。中にはいれよ」

 その問い掛けに明瞭な回答はしなかったがターちゃんは僕の様子から判断したようだ。隊員の先頭にいらした方――おそらく、これが清水海尉だろう。彼がボソリと呟く。

「600kmの距離を12時間でだと? とても信じられん。どんな魔法を使ったんだ」

「魔法などという便利なものは、この世界に存在しません。EVクローラで200kmちょい走った後はこれです」

 僕は未だベアリングから蒸気を上げるローラーブレードを指し示す。それでも彼の疑念は消えない。

「しかし君は銃もなしで、奴等をどうやって」

「こうやりました」

 僕は蛮刀を抜いて、振りかぶりもせずに転がっていた氷中を叩き折る。おおっ! とターちゃんが驚愕の声を上げた。見世物じみているのはわかる。自慢気だと言われても仕方ないが、初めて接する方々に僕のパフォーマンスを理解してもらいには、こうするのが一番であることを、生存者捜索の旅で学んでいた。

「そういえばタケ坊の怪力を見せてもらうのは初めてだったな」

 杜都市でのターちゃんとの再会は、ほんの数十分。ほぼとんぼ返りだった僕は村山さんともしっかり挨拶をしてないことを思い出し、彼に握手を求めた。

「しかし、小野木君は民間人だろう。爆発物の取り扱いも戦闘の訓練も積んではいない」

 以前、途切れることなく疑念を呈する清水海尉に、ターちゃんが僕の性能を説明していた。

「民間人は民間人でもそこらの民間人とは訳が違わあ。見てくれ、この手」

 と、僕の作り物の腕を掴んだターちゃんの文言はテキ屋さんのようだった。僕は自分が三日使えばインクがでなくなる万年筆のように感じられていた。


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