It's raining cats and dogs.
外は大雨が降っている。
ざあざあという音を耳にしながら、ボクはソファの上で丸くなっていた。
低気圧の日は、いつも以上に眠くなるし、体調が悪くなる。
とにかくボクは、動きたくなかった。
トトトトト……リズム良く階段を下りてくる音をボクは耳だけで聞いた。そいつがボクに近寄って、鼻をすんすん寄せてきたのも感じた。
「なあ、遊ぼうよう」
やつは馬鹿に明るい声で言ったが、ボクはあえて無視し、寝返りを打つ。
「ねえねえ」
やつはボクの後頭部あたりをバシッと叩く。
「何だよ、痛いなあっ」
ボクが頭をもたげてイライラした声音で鳴くと、やつはヘラリと笑った。
「あ、起きてくれたっ。クロ、遊ぼうよっ」
「やだ。ボクは調子が悪いの。見て分かるだろ? 犬のお前のようにいつもバカみたいに元気! ってわけにはいかないんだよ」
「何でえ」
「ボクらは短距離型だろ? だから、狩をするときはものすごく集中しなければならないのさ。君たちとは違ってね。狩をしているときはテンションをあげなくちゃならないし、でもずっとその状態でいるのは結構つらいから、こうやって普段はテンション低くてクールな動物になりきっているのさ」
「ふーん」
「だから、今日は何もヤル気ないの。天気悪いと余計にヤル気ダウンだし。だから、今日は寝させてよ」
「ふーん」
やつは諦めて立ち去っていった。
ボクはまた平和が戻って、しばらくスヤスヤと眠った。
しばらくして。
ボクの好きな、香ばしい、よだれが出てしまうような美味しそうな匂いが、ボクの鼻を掠めた。
びっくりして顔を上げると、犬がどこから持ってきたのか焼き魚を口にくわえ、ドア付近でにんまりとしていた。
「あ、お前っ」
ボクはソファを飛び降りる。やつはくわえている魚を見せつけながら、階段を上っていく。
ボクの戦闘モードはすっかり発動してしまっていて、必死になって追いかける。
ボルテージが一気に上がっていく。
「お前、それ渡せよっ、魚はお前は食わないだろう?」
ボクは半ば叫ぶようにして言い、やつの大きくてボサボサした尻尾に飛びつく。しかし、やつの力の方が強くて、振り逃げられてしまう。
「まてっ」
「やーだ。待つもんですか。オレだってねえ、魚は食べますぜ。あんまり好きじゃないけど」
「なら、それを渡せよっ」
「やだよーだっ」
やつは、入ってはいけないといつも飼い主さんに言いつけられている寝室に入り込み、ベッドにダイブした。ボクも持ち前の跳躍力でベッドへ飛び上がり、犬に飛びついた。
「あっ……っ」
魚はもうなかった。犬の口からは美味しそうな匂いがぷんぷんするが、そのものはもう姿を消していた。
「お前……っ、よくもっ…!!」
ボクの魚が食べられた。ボクは怒りのあまり、やつを猫パンチ猫キックでぼこぼこにしただけでは足りなくて、羽毛布団を引き裂いてしまった。中から真っ白な羽が舞い上がる。
ボクはそれを見た瞬間、怒りがすっと消えて、ひたすらふわふわ舞う羽を追っていた。やつも何やら面白くなってしまったようで、2匹で羽毛に夢中になってしまった。
しばらく経って。
「こらっ!!」
部屋に入ってきた飼い主さんは怒り心頭といった感じで怖かった。ボクらは尻尾をに下げるしかなかった。やつなんか尻尾をお腹に巻きつけてしまっている。
ボクらは逃げることも抵抗もできなくて、飼い主さんに襟首をつかまれて外に繋がれた。
「しばらくそこで、反省しなさい!!」
大雨の中。ボクらは2匹並んで寂しく佇んでいる。
ボクは悔しくて、涙が出た。
雨が降っているから今日は気分が悪かったのに、びしょ濡れにならなくてはならないなんて。
ボクの心も大きな目も、どしゃ降りだ。