第25話 懐かしい味。
「お帰りなさいませ。フィン様」
「ただいま。少し疲れたから、焼き菓子とお茶をお願い」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
部屋に戻り、外出用の服から楽な服へ着替えると、ソファーに横になりながらお茶を待った。
コンコン――
控えめなノックの音が響いた。
「入って」
「失礼いたします」
そう言って入って来たノアは、テーブルにお茶と焼き菓子を置いた。
「お待たせいたしました。お茶のご用意が整いました」
「ありがとう」
ノアは一礼すると、静かに部屋を後にした。
はぁ――……。
美味しい。
ノアが淹れてくれるお茶を飲みながら、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした。
それから数日間は――。
工房に籠もって魔導具を作ったり、フィリップ兄さんと魔法や魔導具について話したりと、いつも通りの日々を送っていた。
そんなある日、一通の手紙が屋敷へ届いた。
「フィン様。ウィルフリード殿下より、お手紙が届いております」
「……嫌な予感しかしない」
封を開け、読み進める。
『久しぶりだな。元気にしているだろうか。
私は学園を卒業してから、公務に勤しんでいる。
フィンは相変わらず、魔導具作りに邁進していると聞く。
最近では、清涼機と扇涼を作ったそうではないか!
清涼機は部屋を涼しく快適にし、
扇涼は優雅ながらも快適にしてくれると。
それが今、学園で流行りつつあると。
エルーシアから、ティアナがフィンの新作だと話していたと聞いた。
私は初耳だ!
なぜ、そんな素晴らしい物を作ったのにも関わらず、私に教えてくれないのだ!
私は毎日、暑い中、公務に励んでいるのだぞ。
友人として、そのくらいの情報共有はしてほしいものだ。
それと、すでに王家から夜会の招待状が届いているはずだが、ちゃんと来いよ。
私が声をかけないと、フィンはサボろうとするからな。
久しぶりに会えるのを楽しみにしている』
……もう学園で流行りつつあるのか。
ということは、アレク叔父さん、本当に急ピッチで作って、予約分を捌いているんだ……。すごい。
教えるも何も、王家には最初に贈りする予定なんだけど……。
はぁ……夜会に出席するつもりではいたけど、俺宛てに直接来たら本当にサボれないじゃないか。
手紙を読み終え、テーブルに置いた。
……作業部屋で昨日の続きをしようかな。
いや、今日は少し休もう。
そういえば、前から食べたいと思っていたものがあった。
カツサンドだ。
あれからずっと食べたいと思っていたけど、何だかんだ忙しくて、 料理長に作り方を伝える機会がなかったんだよな。
よし、今日は料理長に再現してもらおう。
「料理長。再現して欲しい物があるだけど」
「……フィン様。今度はどのような物で?」
「カツサンドって言って、他の国の料理なんだけど」
「カツ……サンドですか?サンドということは、サンドイッチのようなものでしょうか?」
「そう!サンドイッチの中身がトンカツなんだよ。
豚肉は脂身と赤身の間に数ヶ所切り込みを入れて、塩こしょうを振る。そのあと薄力粉、溶き卵、パン粉の順につけて油で揚げる」
確か、こんな感じでトンカツが出来るはず。
「なるほど。そうなると、少し厚みがある肉の方が良さそうですね。揚げ時間はどれくらいか分かりますか?中までカリッと揚げるのか、肉がしっとり柔らかなくらい揚げるのか」
「外はサクッと、中はしっとり!」
「分かりました。試しに作ってみましょう」
そう言うと、料理長は慣れた手つきで、下味をつけ、パン粉を纏わせ、油の温度を確かめながら揚げていった。
味見のため、一口に切ってもらい、塩をふって食べた。
「うまっ!」
衣はサクッと軽くて、肉は驚くほど柔らかい。
塩だけなのに、肉の旨味がしっかり感じられる。
前世の記憶を頼りに伝えただけなのに、この再現度……。
料理長、凄すぎる。
「ほぉ……確かに美味いですな。意外と簡単ですし、豚肉以外でも応用出来そうですね」
「これをキャベツと一緒にパンに挟むんだけど、甘酸っぱくて、少し濃厚なソースをかけるらしくて……詳しくは分からないんだけど」
「甘酸っぱいとなると……トマトを使ってみましょうか。そこに赤ワインを加えれば、味に深みが出るかもしれません」
おぉ……確かに、そんな感じだった気がする。
それに加え、料理長は味を確かめながら少しずつ調味料を加えていき、ソース第一弾が完成した。
「ん――……美味しいけど、少し塩味が強いかも。もう少し甘くてもいいと思う」
「そうですね……今度は少し甘めのワインを使って、砂糖ももう少し入れてみましょうか」
そして、第二弾のソースは――
「美味い!トマトの酸味とワインの風味がちょうどいい」
「これは肉料理との相性がとても良いでしょう」
「あとは、パンにトンカツとキャベツを挟んで、このソースをかければ完成だ」
料理長は薄く切ったパンに、揚げたトンカツと千切りのキャベツを挟み、先ほど作ったソースをかけた。
一口サイズに切ってもらい、口に運ぶ。
「……これだ。これが食べたかったんだよ」
衣のサクッとした食感。柔らかな肉。甘酸っぱいソースとキャベツの相性。
完全に前世と同じではない。 でも、懐かしさを感じるには十分だった。
「こちらを夕食の際に、皆さんにも食べていただきましょうか?」
「そうだな。夕食の時に、一口サイズを二切れずつくらい出してみようか。多分、父さんは気にいるはずだ」
みんなの反応が楽しみだ。
第25話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はウィルフリード殿下からの手紙と、フィンが前世を思い出す懐かしい料理の話でした。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。




