第13話 新たな価値。
昼食の時間になり、俺は完成したばかりの扇子型魔導具を手に、食堂へ向かった。
食堂の扉を開けて中へ入ると、母さんが待っていてくれた。
一緒に昼食を済ませ、食後のお茶を飲みながら、持ってきていた薄紫色の扇子型魔導具を母さんに渡した。
「はい、これ。試してみて。すぐ調整もできるから」
「もう出来たのね!ありがとう」
母さんは扇子型魔道具を開いたり閉じたりした後、ゆっくりと仰いでみせた。
「……涼しい。とっても気に入ったわ。それに、魔導回路が淡い青色に光って見えるのが素敵ね。薄紫色の扇子を選んで良かったわ」
「気に入ってくれたみたいで良かった。魔導回路の光は邪魔になるかなって思って、光を遮る素材でも付けようか迷ったんだよね。でも、そうすると重くなるし」
「そうなの?でも、この淡い光はなくさなくて良かったわ。それに、普段使いだけじゃなくて、夜会に持って行くのにも良いと思うの。装飾が沢山施された扇子より、こちらの方が注目を集められそうだわ」
「夜会用の扇子として作ったわけじゃないけど、いいの?」
「えぇ。ここまで綺麗な扇子型魔導具なら、引けを取らないわ」
「え、そうなの?いつも夜会に出席するときの母さんのドレスって、すごく華やかだから……この扇子型魔導具だと合わない気がするけど」
「だから良いのよ」
「え?」
「華やかな装飾品はたくさんあるもの。でも、魔導回路が淡く光る扇子なんて、今まで見たことがないでしょう?」
「まぁ、話題には上がりそうだよね」
「いいえ」
母さんは扇子を見つめながら、ゆっくり首を振った。
「話題に上がるどころか、同じものを欲しがる人はきっと出てくるでしょうね」
「そうなんだ」
そうなると、アレク叔父さん、忙しくなるだろうなぁ……。その時は差し入れでもしよう。
「……フィン。あなたはもう少し流行に敏感になりなさい。そんなことでは、将来素敵な人と出会えないわよ?」
「俺、別に結婚する気ないんだけど」
「はぁ。またそんなことを言って……」
「いや、俺より兄さんたちでしょう。あの二人も結婚どころか、恋愛の話すら聞いたことない」
二人とも顔はかっこいいと思うし、何しろ侯爵家だ。なのに、浮いた話を聞かない。
「エミールは次期侯爵という立場もあるから、慎重になっているのでしょうね。フィリップは……魔導師団に入り浸っているから、出会いそのものが少ないのでしょう」
「フィリップ兄さんはどちらかと言うと社交的だし、魔導師団に女性もいるから、彼女の一人くらいいそうなのにね。まぁ、それ以上に魔法が好き過ぎるのが問題なんだけど……」
「そういうことよ。……あなたも人のことは言えないと思うけれど?」
「俺は魔導具作りで忙しいから」
「本当に、フィンらしいわね」
母さんは小さくため息をつきながらも、優しく笑った。
「でも、夢中になれるものがあるのは良いことだと思うわ」
「うん。魔導具を作ってる時間が一番楽しい」
「それなら、せめて体調管理だけはしっかりしてちょうだいね」
また釘を刺されてしまった。
「分かってる。じゃあ、俺はそろそろ作業部屋に戻るよ」
そう言って、俺は再び作業部屋へ向かった。
「さて、次は何を作ろうかな――」
あ、タイマーみたいなものを作ろうと思っていたのを忘れていた。
魔導時計を元にすれば、作れそうだし試してみるか。
とりあえず、本体をどうするかだな。
砂時計を改良するか……いや、数分程度なら使えるけど、数時間単位になると厳しい。
そうなると、一番簡単なのは魔導時計にタイマー機能を追加することだけど……。
そもそも、俺が欲しいのは冷却魔導具を自動で操作するための機能だ。
操作盤に魔導時計の回路を組み込んで、光属性と無属性魔法を組み合わせれば――
……あぁ、無理だ。
操作盤に収まらない。
魔導回路を限界まで詰めれば収まるかもしれないけど……使っていくうちに回路同士が接触する可能性がある。
それじゃあ安全性に問題が出る。便利にするための魔導具で、事故が起きたら意味がない。
……無理に詰め込むより、操作盤本体を一回り大きく作り直すのが一番簡単か――
コンコン――
扉を叩く音で、思考が途切れた。
「フィン様。ただいま戻りました。アレクシス様へ仕様書と魔導具をお届けしてまいりました」
「ありがとう」
とりあえず、タイマーについてはもう少し考えようかな……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は母に扇子型魔導具のお披露目回でした。
次回もフィンの魔導具作りを楽しんでいただけたら嬉しいです。




