11話 黒と薄紫と水色。
今日も朝早くから作業部屋にこもっていたら、朝食の時間になった らしく、ノアが呼びに来た。
「フィン様、また朝食を忘れていましたね?」
開口一番、小言を言われる。
「…今から行く」
扇子型魔導具の仕様書を描いている途中だったが、仕方なく手を止め、食堂に向かった。
自分用に作った試作品を改良すれば、母上とティアナの分を作るのは難しくない。
ただ、アレク叔父さんに見せるなら、もう少し完成度を上げておきたい。
食堂に着くと、みんなすでに朝食を終え、食後のお茶を楽しんでいた。
「おはよう」
「あら、フィン。今日も朝食を忘れなかったのね」
「うん。ノアが声をかけてくれたから」
「フィン兄様ってノアがいないと生活能力ゼロよね」
ティアナの言葉に、思わず苦笑する。
「ははは! たまには騎士団に訓練をしに来るといい!」
父さんが豪快に笑う。
「体を動かせば自然と食欲も湧く。睡眠もしっかり取れるようになるぞ。フィンの細さは少し心配になるからな」
いや、父さんが鍛えすぎているだけでしょう。
「そうね。少しは外に出た方がいいと思うわ」
「昨日、リリエン商会に行った」
「それは外出とは言うけれど……」
ティアナが呆れたように呟く。
「あ、昨日渡してくれた扇子を魔導具にするけど、今日中には作る予定だから」
「本当?!フィン兄様は仕事が早くて助かる!」
「そうね。普段の生活にも活かせるといいのだけれど」
母さんは笑っている。
けれど、その目の奥が笑っていないことは一目瞭然だった。
「朝食を食べたら、すぐに作業部屋へ戻るの?」
「うん。アレク叔父さんに渡す仕様書も描いてる途中だから」
「そう。無理はしないようにね」
「……善処する」
朝食を済ませると、僕は再び作業部屋へと戻った。
またノアに「読めません」と言われないように、丁寧書かないと。
前世の記憶があるからなのか、この世界の文字はいまだに書きづらい。
読めないわけじゃない。けれど、どうにも手に馴染まないんだよな……。
だから昔、「自分しか見ないんだし、日本語でいいか」と日本語で仕様書を書いてみたことがある。
魔導具自体は問題なく完成したものの、じいちゃんやアレク叔父さんに見せた途端、
「これは..... 古代文字か?」
と真剣な顔で首をかしげられた。
結局、一から説明する羽目になったんだよな......。
..... ある意味、あれも黒歴史なのかもしれない。
――よし。仕様書は書き終わった。
あとは扇子型魔導具を作るだけだが……アレク叔父さんに渡す分も必要だな。
仕様書と一緒に渡したいし、とりあえず三つ作るか。
「あ、ノアいる?」
作業部屋の扉を開けて声をかけると、すぐに返事があった。
「はい。どうされました?」
「昨日渡した魔導具と仕様書、今日の午後にアレク叔父さんへ届けてくれるんだよね? 何時頃に行く予定?」
「そうですね。二時頃に伺う予定です」
「じゃあ、今から作る扇子型魔導具と仕様書も、一緒に届けて」
「かしこまりました」
ノアの返事を聞くと、僕は作業部屋へ戻り、扇子型魔導具の制作に取りかかった。
まずは叔父さんの分を先に作ろう。
扇子は黒色でいいか。
アレク叔父さんなら、商会でも普段使いするだろうし、黒なら服装も選ばない。
何気なく使っているだけでも、それなりの宣伝にはなるだろう。
扇子を選んでからは早かった。
すでに一度作っていることもあり、作業は慣れたものだ。
骨組みに魔導回路描写ペンで魔導回路を描き、持ち手部分に魔核とつまみを取り付ける。
魔法陣で冷却機能を付与し、最後に出力を調整すれば完成だ
叔父さんの分が完成すると、そのまま母さんとティアナの分にも取りかかる。
一度流れに乗ってしまえば、あとは同じ作業の繰り返しだ。
母さんは落ち着いた薄紫色の扇子、ティアナは淡い水色の扇子だ。
骨組みに魔導回路を描き、魔核とつまみを取り付け、魔法陣で冷却機能を付与する。
最後に出力を調整して、二人分も無事に完成した。
女性用の扇子は男性用より骨組みが少し細い。
魔導回路を描く時は少し気を使ったけど、問題なく完成だ。
魔導時計を見ると同時に、ノアから声がかかった。
「フィン様。昼食のお時間です」
「あぁ、今行く」
11話を読んでいただき、ありがとうございます!
次回はリリエン商会回の予定です。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!




