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捨てられた聖女の再就職  作者: 秋月 もみじ


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9/10

第9話 公開断罪レビュー


「【店内放送】――ターゲットロック。害虫駆除クリーニングモード、出力最大」


私の声が冷ややかに響くと同時、ロビーの美しい天井が開いた。

現れたのは、無数の銀色のノズルと、巨大な回転ブラシ。

本来はドラゴンや巨人族のお客様を「丸洗い」するために開発した、当館自慢の全自動洗浄システムだ。


「な、なんだこれは……!? 魔王の兵器か!?」


アルドが聖剣を構える。

私は杖を振り下ろした。


「兵器ではありません。衛生管理です。――まずは予洗いから! 『高圧放水(ハイ・ジェット)』!」


バシュゥゥゥゥッ!!


天井のノズルから、鉄板をも貫く水圧の激流が噴射された。

狙いは一点。泥だらけの勇者アルドだ。


「おのれ! 【聖剣技・プロミネンス・スラッシュ】!」


アルドが聖剣に炎を纏わせて薙ぎ払う。

本来なら岩をも溶かす紅蓮の炎。

しかし。


ジュウウウウッ……!


「なっ、消えた!?」


圧倒的な水量が、聖剣の炎を一瞬で鎮火した。

属性相性は水が火に勝つ。それに何より、こちとら「ドラゴンの鱗の隙間の汚れ」を吹き飛ばす水圧なのだ。人間一人の魔力など、ホースの水で蟻を流すようなもの。


「ぐあっ!?」


水流の重さに耐えきれず、アルドが吹き飛ばされる。

彼は濡れ鼠になりながら床を転がった。


「き、貴様ぁ! 水遊びで勇者に勝てると……!」

「次は殺菌・消毒です! 『強アルカリ・バブルストーム』!」


ブォォォォン!


巨大な送風機から、真っ白な泡が大量に噴射される。

それは瞬く間にアルドを包み込み、視界を奪い、足元の摩擦係数をゼロにする。

この泡は、オークの脂汚れすら瞬時に分解する強力な洗浄剤だ。


「め、目がぁぁぁ! しみるぅぅぅ!」

「目に入ると危険ですので、ちゃんと瞑っていてくださいね」


アルドが聖剣を振り回すが、泡を切っても意味がない。

ツルッと足を滑らせ、彼は盛大に後頭部を強打した。

無様だ。

泥だらけだった鎧が、泡の力でピカピカに磨かれていく。


「仕上げです! 『高速脱水(スピン・ドライ)』!」


床の一部が円形に切り替わり、猛烈な勢いで回転を始めた。

遠心力でアルドの体が壁に押し付けられ、水分と共にプライドも絞り出されていく。


「あばばばばばばば!!」


回転が止まった時、そこには目を回し、泡まみれでピクピクと痙攣する勇者の姿があった。

聖剣は手から離れ、カランと音を立てて転がった。


「ふぅ。これでようやく、衛生的に許容範囲になりました」


私はハンカチで手を拭いた。

隣で見ていた魔王ゼスト様が、ドン引きした顔で呟く。


「……えげつないな。俺の闇魔法よりタチが悪い」

「お褒めいただき光栄です」


しかし、アルドはしぶとかった。

ふらふらと立ち上がり、充血した目で私を睨みつけてくる。


「お、おのれ……! こんな奇術で……僕が屈するとでも……!」


彼はまだ、自分が「正義」だと信じている。

魔王に操られた哀れな女に、卑怯な罠をかけられた被害者だと。


「僕は勇者だ……! 王家公認の、選ばれた英雄なんだ! 騎士団が来れば、貴様らなど……!」


タイミング良く、ロビーの入り口に人影が現れた。

マッサージと食事の罠を突破(満喫)し、ようやく追いついた騎士団たちだ。

彼らは血色が良く、肌もツヤツヤしているが、状況を見て呆然と立ち尽くしている。


「だ、団長! 見ろ! 魔王だ! それに……泡まみれの勇者様!?」

「みんな! やれ! 殺せ! そいつらは人類の敵だ!」


アルドが喚き散らす。

騎士たちが迷いを浮かべて剣に手をかける。

腐っても国の兵士だ。勇者の命令には逆らえない。


ゼスト様が一歩前に出ようとする。

私はそれを制した。

物理的な戦いは終わった。ここからは、社会的な「死」を与える時間だ。


「お客様。当館では、トラブル防止のために全てのエリアで『防犯カメラ』を作動させております」


私は指輪をかざした。

ロビーの壁一面にある巨大なスクリーンが起動する。


「な、なんだ?」


「ご覧ください。これは数日前、当ダンジョン入り口の『監視ゴーレム』が記録した映像です」


映像が再生される。

そこに映し出されたのは――。


『回復魔法が出ない聖女なんて、ただの足手まといだ』

『国への報告は僕がうまくやっておくから、安心して逝くといい』


鮮明な音声と共に、アルドが私を崖から突き飛ばし、嘲笑う姿が映し出された。

さらに、映像は続く。


『これで悲劇の英雄になれる』

『聖女の遺体が見つからなければ、魔王の呪いということにすればいい』


独り言までバッチリ録音されていた。

魔界のセキュリティ技術を舐めないでほしい。


ロビーが静まり返った。

騎士団長が、信じられないものを見る目でアルドを見る。


「……勇者様? これは……」

「ち、違う! 捏造だ! 魔王の幻術だ!」


アルドが叫ぶ。

しかし、私はさらに映像を切り替えた。

今度は、つい先ほどの「マッサージ・ゴーレム」に斬りかかるアルドの姿だ。


『ぐあああ! 部下たちが拷問されているぅぅ!』


映像の中の彼は、気持ちよさそうにマッサージされている部下を見て、勝手に悲鳴を上げていた。

それを見ている騎士たちが、「あ、あれ俺だ」「めっちゃ気持ちよかったやつだ」「俺たちを拷問だと思ってたのか?」と小声で囁き合う。


「ご覧の通り、勇者様は『極度の疲労による錯乱状態』にあったようです」


私はマイクで淡々と告げた。


「聖女殺害未遂。虚偽報告。そして、当館への不法侵入と営業妨害。……これらが地上の王家に知られたら、どうなるでしょうか?」


「や、やめろ……消せ……!」


アルドの顔から血の気が引いていく。

彼は気づいたのだ。

この映像が、騎士団だけでなく、避難していた「VIP客(貴族たち)」にも見られていることに。


ロビーの二階バルコニーから、避難誘導された貴族たちが冷ややかな視線を送っていた。


「あれが勇者? ただの犯罪者じゃないか」

「聖女様を殺そうとするなんて……」

「それに比べて、このリゾートの素晴らしいこと。魔王様の方がよほど理性的だわ」


囁き声が、アルドの耳に突き刺さる。

彼の「名声」という鎧が、ガラガラと崩れ落ちていく。


「あ、あぁ……僕の、未来が……王位が……」


アルドが膝から崩れ落ちた。

もう、誰も彼を助けようとはしない。

騎士団長が静かに歩み寄り、冷たい声で告げた。


「アルド殿。……我々は貴殿に失望した。詳しいお話を、王城で伺いましょうか。……連行しろ」

「はっ!」


かつての部下たちに両脇を抱えられ、アルドが引きずられていく。

彼は最後に、すがりつくような目で私を見た。


「ミ、ミリア……助けてくれ……僕は君を愛して……」


往生際が悪い。

私は冷たく見下ろし、最後の業務トドメを行った。


「お客様。当館の規定により、貴方様を『永久出入り禁止ブラックリスト』に登録させていただきます」


「ひっ……!」


「二度と、私の視界に入らないでください。汚れますから」


バタン。


重い扉が閉まり、勇者アルドは「ゴミ」として搬出された。

ロビーに静寂が戻る。


「……終わったか」


ゼスト様が、退屈そうに欠伸をした。

そして、去りゆくアルドの背中に向かって、低い声で呟いた。


「『汝、安寧の夜を永久に失わん』」


ドクン。

空間が小さく歪んだ。

誰にも気づかれない、しかし絶対的な闇の呪いが、アルドの影に吸い込まれていく。


「オーナー? 今、何か……」

「なんでもない。……ただ、俺が味わった『眠れない地獄』を、あいつにもプレゼントしてやっただけだ」


ゼスト様は意地悪く口角を上げた。

アルドはこれから、死ぬまで悪夢と不眠に苛まれることになるだろう。

魔王の愛人を傷つけた代償は、高くつくのだ。


「フン。手間のかかる客だったな」


彼は私の腰を引き寄せ、耳元で低く囁いた。


「だが、悪くなかった。お前が俺のために怒り、俺の城を守ろうとする姿は……見ていて愉快だったぞ」

「か、からかわないでください」

「褒めている。……これでもう、邪魔者はいないな?」


彼の赤い瞳が、熱っぽく私を捉える。

勇者が消え、騎士団も去り、貴族たちも部屋に戻った今。

ここには、私と彼しかいない。


「ミリア。働き詰めだったろう。……今夜は、俺が『サービス』してやる」


彼は私を軽々と横抱きにした。

シルクのローブ越しに伝わる体温に、顔が熱くなる。


「ちょ、オーナー!? 業務時間はまだ……!」

「俺がルールだ。……寝室へ行くぞ。朝まで離さん」


「きゃあぁぁ!?」


私は抗議の声を上げたが、それは甘い悲鳴となって消えた。

最強の魔王様による「特別報酬(溺愛)」からは、どんな洗浄魔法を使っても逃げられそうになかった。

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