いざ!革命少女!
私は世界を嫌悪する。
私の思い通りにいかないから。
悪人が幅を利かせるから。
金が人を変えるから。
真面目に生きている者が、そうでない者に唆され、悲劇を生むから。
故に、私は反乱を起こす。
わたしが世界を変える。
わたしは、革命を起こすんだ!!!
「…………あー、はいはい。分かった分かった。
いつものね。」
友人、藍白 恵未は、私の超真剣な話に肘をついて、あまつさえ欠伸をしながら、聞いていた。
「いい加減に!聞いてくれないか!そして、我が同志となって………」
「はー、はいはい。なるなる。なってあげる。ほら、パンケーキ食べないなら、私がもらうよ。」
「ダメだ!わたしが食べる!!」
「早く食べないと、冷めるよー。」
わたしはガツガツとパンケーキを口に放り込む。
私の名前は、貴知 和夜。
みんなから、わーちゃんと呼ばれている。
「こらこら、口の中にかき込まないの。」
恵未は、私の口をハンカチで拭いてくれる。
「むっ………」
私は目を閉じて、口を恵未につきだす。
「はい、じゃあ店、出よっか。」
「え?もう出るの?」
「あんたねー、忘れたの?学校に用事があるって言ってたでしょ?先生に2時って伝えてあるの。今1時45分。歩いて10分かかるから、結構ギリギリよ。」
「ふーん、わかった。じゃあ、いこうか。」
わたしは恵未と店を出る。
「ねぇ、わーちゃん。」
「なに?」
「もしね、わたしが学校からいなくなったらどうする?」
「………どうして?」
「ううん、別に。」
彼女は、歯痒い笑顔で私に返事をした。
わたしは不思議に思いながらも、まぁいいか、
と前を向いて、口笛を吹いた。
「あー、藍白やっと来たか。向こうの親御さんも、生徒もとっくに来てるから。ほら、早く。」
「は、はい。ごめん、わーちゃん待ってて。」
「あ、う、うん。」
わたしは、何だか嫌な胸騒ぎがして、こっそりとついていった。といっても、正面から行ってずっと覗いていても、何してるんだと止められるので、外の窓からこっそりと覗く。
「すいませんでした!」
「うちの子、ケガしちゃってさ。どう責任取ってくれるの?」
「藍白、お前は成績も優秀で、推薦も間違いなしと思っていたんだがなぁ。残念だ。」
なんだなんだ!言われ放題じゃないか!
一体何があったと言うんだ?
「ともかく、この子は退学にしてください。」
「た、退学だけは、どうか………」
「ちょっと、待ったぁーー!!!!!」
私は、窓から飛び込み、さながらヒーローのように職員室に降り立った。
「話を、詳しく、聞かせてもらおうか。」
キラーン
決まった………。
そう思ったのも束の間。
「あー、わーちゃんね。よしよし、お外に出ましょうねー。」
担任のみーこ先生に外に連れて行かれた。
「先生!わたしは!恵未の友人として!話を聞く権利があるぞ!!」
「後にしましょ!後!今行くと、ややこしくなるから!」
確かに!と私は思い、職員室の外で三角座りをして待っていた。
「うわっ!びっくりした!」
恵未を責め立てていた男子生徒と親が私に、嫌悪の視線を向ける。男子生徒は、侮蔑の笑みを浮かべて、嘲笑していた。
「ごっめーん!お待たせ!」
「ううん。待ってない。恵未。こういう重要なことは、まず親友である私に話せ。力になるぞ。」
「うん………う、ん………ごめん。………ごめんね。」
恵未は感情が決壊したように、涙を溢し、私に寄り掛かった。
「恵未。安心しろ。」
私はな、友達が傷つけられることがこの世で1番嫌いだ。相手が例え、先生だろうと、親だろうと、どんなに偉いやつだろうと、私はお前の味方になる。
そして、お前を笑わせてみせる。
「恵未。こっちだ。こっちを見ろ。」
「えっ?」
私は、恵未に渾身の変顔をして見せる。
「あ……あは、アハハハハッ!変なの!おかしい!」
わたしは、恵未の目を見つめる。
「お前は、悪いことはしていないんだな?」
「………うん。女の子をね、男子が取り囲んで暴力を振るってたから、わたしがカバンを振りかぶって追っ払ったの。そしたら、たまたま鞄の硬い部分が、あの男子生徒の頭に当たっちゃって………。」
「うむ。よく頑張ったな。」
私は、恵未の頭を胸に抱き寄せる。
「あとは、私に任せろ。」
「ごめん………ごめんね………。」
ピンポーンと、チャイムが鳴り響く。
「こんな時間に誰だよ。」
件の男子高校生、獅子島 和牙芽は玄関に出る。
「はい、どちらさ……」
「よう。話があって来たのだが………」
バタンッ、と扉を閉める。
な、なんであの女うちを知ってるんだ??
「私は君を責めることはしない。ただ、話したいだけだ。今すぐにとは言わない。もし後日、日を改めた方が良いのなら、そうしよう。」
俺は心臓をバクバクさせながら、奴に言う。
「お前には関係ない話だろ。首を突っ込んでくるなよ。」
「残念ながら、大ありだ。私は、藍白 恵未の親友。しかし、君にも事情があるのだろう。決して責めはしない。話し合いをしよう。」
「るっせーな!帰れ!!」
「なら、また後日ということで良いだろうか?」
「二度とくんな!!クソ女が!!!」
バタンッ!!
しばらく静寂ののち、帰ったかと思いドアを開けると、そこにはまだ女がいた。俺が口汚く罵る前に、女は口を開いた。
「君は悪くない。」
予想外の言葉に思わず声が出る。
「はっ?」
「君がこうなった原因を突き止めよう。私はそのために来た。」
「………何わけの分からねぇこと言ってんだ?」
予想だにしていなかった言葉に、俺は困惑する。
「君には、親友がいるかい?」
「………はぁ?親、友って………そんなのいねぇよ。」
「なら、私がなってやろう。君の親友に。」
「は、はぁ!?ふざけんな!!舐めんなよ!!」
(急になんだよ!こいつは!)
「舐めてなどいない。君に寄り添い、君のためを想い、私は君が納得するまで、君の心に愛を伝えよう。」
「あ、ああ、愛って………てめぇ、冗談も程々にしやがれ!!!」
「冗談などではない。この世界には愛が溢れている、それを今からお前に教えてやろう。」
ズカズカと、勝手に家に入り込んでくる。
「お邪魔します。」
「は、はぁ!?お前、何をやって………」
「ご両親は?まだ帰宅されていないのか?」
「あ、あぁ、そうだよ。夜遅くまで帰ってこねぇ。」
「なら、晩ご飯は?」
「適当だよ。カップラーメンとか。」
「なら、私が作ってやる。」
「ま、待て待て待て。おまえ、初めて上がり込んだ男の家で、あまつさえ勝手に飯作り始めるとか、イカレてるぞ。」
「愛は食卓からだ。冷え切った心も、私が温めてやろう。」
「な、ななっ………」
(なんなんだ!?こいつは!!?)
台所で知らん女が、料理をしている。
そして、リビングでソファーに座っている俺は、カラカラ鍋を回しているその女を眺めている。
(なんだこの状況……?)
「お前、名前は?」
「な、名前?名前は、獅子島だよ。」
「下は?」
「なんで教えなきゃなんねぇんだよ!和牙芽だよ!!」
「和牙芽だな。よし。いい名前だ。」
「う、うるせー。」
(いちいち余計な事を言いやがる。)
俺は腕を組みながら、静かに様子を眺める。
「辛いことはないか?」
「はぁ?辛いこと?んなこと、あるわけねぇだろ。学校サボって、ダチと遊んで、最高の毎日だよ。」
「そうか。それは何よりだ。」
女が微笑む。
思わず調子が崩される。
「お、お前はどうなんだよ。」
「私か?わたしは、辛いことの方が多いな。」
「………そ、そうなのか?」
「あぁ、昔から集団に馴染めなくてな。いつも1人になってしまう。寂しい思いをしているよ。」
「根暗なんじゃねーの。」
「あぁ。そうかも知れないな。」
「………誰かいじめりゃいーんだよ。」
「いじめる、とは?」
「誰かをいじめりゃ少なくとも、自分がいじめられることはなくなる。先頭に立ちゃ、誰もそいつに逆らえなくなる。だから、いじめりゃいい。」
「辛い思いをしたのだな。」
「はぁ!?なんでそうなんだよ!!?」
「いじめられる、孤独になる。その痛みを知っている。だから、それを恐れ、つい手を出してしまう。」
「何がいいてぇ。」
「痛かっただろう。その手は。」
「…………あのなぁ、何か勘違いしてるかも知れねぇが、俺は人の痛みなんて知ったこっちゃねぇぞ。
自分がよけりゃどうでもいいと思ってる。」
女は、コンロを止め、俺の方に歩いてくる。
「な、なんだよ………。」
すると、女は俺の手を両手で包み込んだ。
「強い手だ。………強く、孤独な手。私が覚えておこう。この手はきっと誰かを守る、優しい手になる。」
「い、い、意味わかんねぇこと言ってねぇで!!
いい加減離せ!!!馬鹿!!!」
すると、女はゆっくりと手を離す。
そして、俺を見下ろし微笑んで言う。
「さぁ、ご飯にしようか。」
「クソ不味い………。」
(あんだけ大見得きっといて、死ぬほど下手くそなことあんのよ!?こんなもん食えるか!!!)
「うむ。美味いな。」
「味音痴かよ。クソ不味いぞ。」
「食べてみろ。よく噛んで。しばらくしたら、うまみがでてくる。」
俺は、渋々といった感じで何とか顎を咀嚼する。
「た、確かになんかさっきよりはマシなような感じがするな。」
「そうだろう。なかなか味わい深いぞ。」
女は美味しそうに笑顔で食べている。
なんか、もう仕方ねぇから食べてやるか。
なんとか胃に押し込んで、すべて食べ終わる。
「お粗末さまでした。」
「………ごちそうさま。」
まぁ、食ってみりゃ悪くはなかったな。
「さぁ、それではお暇させてもらおうか。」
女は帰り支度を始める。
「あのさ、男の部屋、簡単に入り込むなよ。」
「?どうしてだ?」
「お前、女だぞ。襲われるだろ。」
「私を?そんな物好きがいるのか?」
(こ、こいつ!?全く自覚してねぇ!)
「いいから!絶対他の男の家には、入り込むなよ!」
「あぁ。ここには来てもいいのか?」
「くっ!?………ま、まぁ、考えといてやるよ。」
「ふふっ、ありがとう。また来るよ。」
女はそう言って、帰っていった。
(そういや、名前も……連絡先も聞いてなかった。)
「い、いやいや!?なんで俺があんな女に!!」
(あんな変人に付き纏われたらたまったもんじゃねぇぞ!!次は絶対追い返す!!!)
「じゃあな、また。」
「………………」
日を跨いで、あの女はうちに何度かきやがって、飯を勝手に作って、仕方ないから俺はそれを食べてやった。そして、そんな日が続いたある時だった。
いつもの路地裏。つまらねぇ時間。たむろする場所。
「おい、お前、獅子島に付き纏ってるらしいな。」
「いい加減吐けよ。」
「うっ………。」
女のボロボロな姿。俺は思わず大声をあげる。
「おい!!てめぇら!!!」
思わず、そいつに殴りかかり、それは頬にヒットする。
驚いた様子で、こちらを見る。
「獅子島〜、お前ともあろう奴がこんな根暗女に、唆されてやんの?お前、変わっちまったなぁー。」
「あぁっ!?なんも変わってねぇよ。」
そうだ。俺は変わってねぇ。
変わって……ねぇ。
「お前、分かってんの?」
みんなの視線が俺に刺さる。
「今から、この女、殴れ。」
指を指した方向には、頬を赤くしてへたり込んでいる女がいる。
「殴らねぇと、今度の標的、お前な。」
クズどもが。………あぁ、そうか。ずっと、俺はこれと同じ事をやってたのか。そりゃ、みんなの視線が冷てぇわな。誰からも見放されるわけだ。
「………あぁ、いいぜ。やってやるよ。」
「はははっ、」
「ただし、テメェらをなぁ!!!!!」
俺は、目の前のクズ野郎をブン殴る。
「こいつっ!?み、みんな!やっちまえ!!!」
次々と、他勢に無勢。殴りかかってくる。
当然、喧嘩が多少強かろうと、人数に適うわけがねぇ。俺は、女に標的が向かないように、抗うので精一杯だった。
「ハァ……ハァ………」
俺は何とか膝をついて堪える。
「こいつ、いつになったら、倒れんだよ。」
「いい加減にしろよ。こっちの拳が痛くなってきたぜ。」
「お前ら、も、目、覚せよ。」
「あぁ!!?」
「俺たちがやってきた事は、どうしようもねぇクソなんだよ!!!!罪もねぇやつを傷つけて、悦に浸って!こんなもん、死んだ方がマシだぜ!!!!」
「………なら、死ねよ。」
振りかぶる。それは俺の頭に向かってゆっくりと………
「お前ら!!!何やってるんだ!!!!」
声のした方を向くと、先公が憤怒の表情で、怒声を上げていた。
「やべぇ!!逃げるぞ!!!」
「わーちゃん!!!」
前に、俺がやっちまった女が、彼女に近づいてくる。
「恵未。ありがとう。」
「ごめんね。ごめんね、助けてあげられなくって。」
恵未という女は、涙を流している。
俺は、その女に向かって膝をつき、頭を地面につき、声を上げた。
「悪かった!!!!俺が!俺の、俺の一生をかけてでも、償い切れるとは、思っちゃいねぇ!!!!すまねぇ!!!!本当に、すまなかった!!!!!」
彼女は、驚いた表情の後、笑顔を俺に向けて言う。
「いいよ。わーちゃんから話はぼちぼち聞いてたし。………それに、見たところ守ってくれてたんでしょ?わーちゃんのこと。」
「………………」
「かっこいいとこあるじゃん。見直した。」
俺は何だか自分が悔しくって、悔しくって、涙が溢れた。
「自分が情けねぇ………」
「そうやってね、男の子は成長していくんだよ。」
恵未という女は、俺に手を貸す。
「さぁ、立ちな。保健室、行くよ。」
「ごめん……ごめんなさい………。」
取り返しのつかない事をした。
俺の人生の中で、二度とそれが消える事はない。
抱えながら、生きていく。
少しでも、次の犠牲者が出ないように、俺は、前に進むと心に誓った。




