最終回 機械少女は壊れない。(2)
天が裂け次元を超えて具現化したのは、朔夜専用機アーマードギアD型・六六六。機体名、鬼神デビルオン。かつて別世界線で朔夜が乗り込んだ同種の存在。
「あれはお父さんが作っていた機体、でもその前にわたしがこの手でシェルターの皆さんを……」
その先の言葉を巴は濁す。
巴は知らない。霧島には全ての世界線を観測できる傍観の異能を上位者地球から与えられている事を。
あのデビルオンは霧島が生存してる並行世界の一つから渡り歩いて来たのだ。そして勿論その動力源に使われてるのは、鋼鉄の乙女機械少女。
「お兄ちゃぁぁん! お待たせぇぇぇぇ! ちゅうーちゅうー」
「ったく。みんなが寝静まった夜に元気な妹だぜ」
並行世界線を渡り歩く力と傍観者の力。
母なる地球が朔夜達にこの二つを与えた理由。それはきっと人類と機械生命体。異なる種族の仲違い(家族喧嘩)を止めるため。
「これ以上、母ちゃん泣かせたくねぇな」
「乗らせません!」
腹部から砲身が飛び出す。狙いは朔夜。
バトルスーツを装着していても、命中すれば無傷でいられない。なのにフルフェイスマスクから覗く表情に変化が訪れなかった。
野性味ある鷹の目に強い光は宿り続ける。
その目を曇らせたい。ゾクゾクと巴の体は愉悦に震えた。
「おっかねえぜ」
そう言って朔夜は笑う。口角を吊り上げ犬歯が見えた。
逃げる気配など全く感じられない。当然だ。その必要が全く無いのだから。
巴のミサイルが朔夜に当たる手前で遮断され爆発する。熱い爆風が海風に混ざり、上昇気流に煽られ星空へ消えた。
間一髪、膝立ちしたデビルオンが朔夜を護る盾となったのだ。
「ビルド・インッ!」
開かれた胸部コクピットハッチへ、朔夜は飛び込む。
懐かしい感覚だ。毎日戦場で嫌というほど味わってきた粘つく血の臭いが、魂を震わせ生きることに喜びを与える。
フレキシブル構造の蛇腹がバトルスーツに接続し、デビルオンは朔夜の第二の肉体となり動き出す。
「お兄ちゃん!」
「ミア!」
全天周囲モニターの全面にハートマークが浮かび、ランドセルの中にいるミアの姿を映し出す。
「いるんだな。お前がここに」
「うん。お兄ちゃんは、妹の体内にいる!」
「言葉にするとなかなかヘビィだぜ」
「蛇腹だしね!」
ミアの姿から外の景色にモニターは切り替わる。
海面に映るは二体の巨神。
額に四本の角を生やす黒い鬼デビルオンと、千本の腕と無数の目玉を持つ白い獣GOD。
「あれがお姉ちゃんの、キガンティック形態」
「あぁ。巴の本気ってやつだ。怖いか?」
「うん。怖いよ。でもさ、それでもヒーローは引かないよね」
「おぅ。俺達がやらなきゃな」
怖い。それでいい。恐怖とは種の持つ生存本能。それを知る者のみが生き残る。
巨神化した巴は強い。デビルオンでも勝てるかどうか。
コアさえ破壊できればあるいは……。
コクピットルームの片隅に置かれている霧島の置き土産。
あれが勝利の鍵だ。
「行くぜミア! 世界を救いに。これがラストバトルだッ!」
肩アーマーに収納されていたトマホークを取り出す。
アーマード・ギアは、GODと同じ材質部品を使用している。決して攻撃が効かない相手じゃない。
「やぁぁってやるぜッ!」
右トマホークを叩き込む。
肉をえぐり緑の血飛沫が海を汚す。
「捕まえた」
白い腕達がトマホークごと、ぐるぐると右腕へ巻きついていく。
「うらぁぁッ!」
左トマホークを叩きつけ、絡む腕達を破壊する。
「肉を斬らせて骨を絶つてやつか」
予想通り無数の目玉で認識し千本の腕を動かすには、タイムラグが発生する。
それが攻撃のチャンスとなるか。
「くすっ」
「巴、何が可笑しい?」
「ダーリンはきっと、わたしがこの姿をうまく操れないと思ってるのかなと感じて」
「違うのか」
「当たりです。なんか嬉しい」
「嬉しい?」
「はい。気持ちが通じあってて」
「むーっ。二人だけの世界つくるなぁッ!」
やきもち焼いたミアが、朔夜の意思に反して機体を動かす。
「ミアやめろぉ、俺とデビルオンの動きはリンクしてるんだぞ。関節グキッってグキッって鳴るからぁやめろぉ」
「ダブル・トマホークブーメランッ!」
コクピットルームに響く朔夜の悲鳴とミアの叫びがこだまする。
「そこでわたしは考えました。今一番全力で動かせる姿形はなんだと」
変わる。異形なる巴の肉体が争うという環境に適応し、進化いや神化というべきかGODの銘に相応しい形へ変わっていく。
獣から人に近く。人よりは、我らが想い描く神に近い。
ツルツルした表面は見た目、真白い蝋。人の型を成しているが背中に後光の形で広がる千本腕。
生卵の頭部には、つり上がる大きな四つの目と微笑む唇があった。
「デュワッ!」
巴は鋭い呼気と共に、飛んでくるトマホークを後光でキャッチする。
「おいおいおいおい。トマホーク・ブーメランは必殺技なんだせ。それを無傷で止めるか」
「やはりこの姿がベストみたいですね」
ドロリ。受け止めた掌と共にトマホークが溶けていく。
「むぅ。あれは超高熱だね。お兄ちゃん」
「知ってるのかミア」
「自らも溶かす諸刃の剣。あの凄い熱量、お姉ちゃんの体も危ないから常時発動しないはず」
「できない、じゃなく、しないか。怖い技だ」
「でもお兄ちゃんは行くんでしょ。泣き虫のお姉ちゃんを助けに」
「……そうだなミア」
ミアには感じていた。自分はお姉さんだからと、虚勢をはり無理をする巴の心を。
百八人の姉妹イブの呪いを一人で背負った巴はもう限界だ。
それでも弱音を吐かない。吐けない。どんなに体を進化させようと心までは鍛えられないのに。
壊れるのだ。機械生命体だって。
「行こうぜ。巴を救いに」
「うん。お姉ちゃんは一人じゃない。あたし達がいるって事を教えるんだ。この拳でッ!」
「あぁッ!」
二人の動きが一つになる。デビルオンは朔夜でありミアであった。
「手取り足取り教えて。ダーリン」
水飛沫をあげて後光から火球が飛んでくる。成る程。千本腕を同時に操れないが少ない本数なら操れるときたか。




