機械人形はアイを知る。(5)
全て朔夜のせいだ。選び進むべき道をまた間違っていた。
やり直すか。どうせ巴に殺されるだけだ。ならばその前に自死を選ぶ。
「そんなわけねぇだろッッッ! ごちゃごちゃ頭の中でうるせぇよ」
リリスや舞姫は死んだ。寿命が尽きたわけじゃなく、残酷にもその命を狩りとられた。
並行世界を渡り歩き、無数の死を見てきたからこそ朔夜は理解したんじゃないか。
命の尊さを。その価値に人だからロボットだからとか違いなんてない。
「あぁぁっウジウジ考えるのやめたッ! 慣れない事するもんじゃねぇな。俺は正義。巴は悪。シンプルにそれでいいや! 全力で戦い世界を救う。救世主ミロクに俺はなるッ!」
「あっあぁああんっ。そうです。そうですよ。わたしが好きになった朔夜さんは、そんな人なんです!」
巴は頰を染め愛おしく、自らの体を抱きしめる。本人的には発情を表現しているのだろう。
巴の体内にあるイブシステムが感情を学習している。人が人とたらしめる強い欲求の一つを。
「ゾクゾクしちゃう。アナタの四肢を切断し、わたし無しでは生きていけないようにしてあげます。身動き取れないアナタは、わたしの側で人類が滅びる様を見るの。自死なんて勿論許さない。命尽きる前にアナタを機械に改造しわたしの一部となり、共にこの星の行く末を見守っていきましょう。それが母なる地球上位者の意思」
「おっかねえな。なら俺はそんなお痛する巴のお尻ぺんぺんだ」
「あぁああっん。なんて素敵」
巴は頰に両手を当てる。両目がハートマークとなり大きく輝いた。
「ふ、ざ、け、る、な」
巴の体内から、ミアの声が聞こえてきた。
「二人していちゃいちゃして!」
ぶくぅぅぅ。風船の様に大きく巴は膨れあがる。
「あ、べしいぃ」
巴は叫び破裂する。四散した中心で、ミアが口をへの字にして立っていた。
「さすが最新型ね。みーあちゃん」
ナノマシンが本体である巴にとって肉体は只の器。壊れたところで致命傷にならない。
対してミアにとって一時でも肉体を奪われたその代償は大きい。
それは兄である朔夜も、そして巴もわかっている。
機動する為必要なエネルギーを全て巴に奪われた。
ミアはもう長くない。
それを汲む巴は、ミアが朔夜の元へ歩いていくのを見送った。
「ごめん。お兄ちゃん。アタシもうダメだ」
「あやまるなよ。お前は最高の相棒で、最愛の妹だぜ」
「うん。また未来で」
「おうっ。未来で会おうぜ」
「巴お姉ちゃんをお願いね。アタシのアタシ達の大切な家族を」
「任せろ」
「うん」
ミアは朔夜に微笑み、人の姿へ戻った巴を見た。
「お姉ちゃんも未来で会おう。その時は姉妹でお兄ちゃんを取り合おうね」
「そうですね。この戦いはその為のもの。またね。みーあちゃん」
「その言葉が聞けてよかった。いしし、お兄ちゃんは渡さないよ。じゃあお兄ちゃん、アタシ行くね」
ミアの瞳孔に光は消えた。動きが完全停止する。
「さぁ始めましょうか。朔夜さん。世界を救う戦いを。アナタには勝ってもらわなくちゃいけません。全力のわたしに。そうじゃなきゃ意味がない」
「あぁ。わかっているよ。俺とミアの全力で機械生命体の呪いを解く」
「みーあちゃん? でももうあの子は……」
「あるんだよ。とっておきの隠し球がな」
朔夜は抜け殻となったミアの胸部中央に触れた。
「コネクト・ミア・インサートッッ!」




