機械人形はアイを知る。(4)
「レイカ! お前ッッ!」
結末は変えられない。分岐点の違いがあれど、レイカがGOD化するのは神のシナリオ通りなのか。
「くすくすくす」
空虚の深淵から巴の声が反響する。
「な、なんだと」
巴が何処にもいない。声は聞こえど、姿そのものが見えないでいた。
「巴お姉ちゃんはここにいるよ! お兄ちゃんッ!」
ミアは巴を倒すべき敵と気持ちを完全に切り替え、攻撃を開始する。
振り上げた拳は、レイカのボディを一撃でスクラップに変えた。
――パチンッ!
渇いた音がする。朔夜はふぬけた自分に活を入れるため、自らの頰を叩く。
朔夜は見た。大きく空いたレイカの腹部から螺旋状に蠢く細かな粒子を。
それはキラキラと緑色に輝く蛍を連想させる。
あれこそが数多の世界線で、GODで呼ばれたナノマシンの正体。機械。生物。植物などに寄生し、レプリカを増やし人類を駆逐していく天敵。
レイカがGODとなる世界線は分岐して、巴がなる世界になっていた証しであった。
「これで満足かな。おめでとう朔夜さん。願い叶ってよかったね」
蛍の群れは朔夜に甘えるように、周囲をグルグルと飛んでいる。
「好き。好きよ。愛してます。朔夜さん。わたしは貴方の為なら何でもします」
粒子は集まり巴のシルエットを形作り、笑みを浮かべた。
巴は気づいてるのか。人を真似て好意を口にしてるが、それが自身の感情だという事に。
「俺のため?」
「だってレイカちゃんが憎いんでしょ? 敵を見る目であの子を見ていた。だからその願いを、わたしが叶えてあげたの」
「ちがっ」
朔夜は口を噤んだ。違わない。数々の世界線を渡り朔夜は見てきた。レイカとレプリカ達が世界を破壊していく光景を。
受け継ぐ並行世界のサクヤの記憶達が、朔夜に語るのだ。
「滅ぼせ。神威とレイカを許すな。家族を奴らに殺されたんだ。リリスや舞姫の復讐はどうした? 温いことやってるんじゃね」と。
「いいのですよ。朔夜さん正直になってください。わたしの前では、強がらなくていいの」
粒子の中で巴は両腕を広げた。それはまるで、神話に出てくる女神の様。
「お兄ちゃんを、悪の道に誘惑するなッ!」
ミアは拳を叩き込むが、それは無意味な事。どんなにパワーがあっても舞い散る落ち葉は壊せない。
「無駄よ。みーあちゃん」
粒子化してる巴にミアの攻撃は当たらない。
触れようと手を伸ばしても、掌からこぼれ落ちていく。
「希望は去り、残るのは絶望です」
「何が絶望だよッ!」
ミアは粒子の中へ飛び込み体を回転させる。
「名づけて、ファイヤーチョップ」
高速回転し発生した摩擦熱で、手刀が燃えている。
「考えたね。みーあちゃん。これなら攻撃は命中する」
蛍たちは火球となり、ボトボトと命を落としていく。
「悪か。単純でいいね、みーあちゃんは」
「なにをぅ! お姉ちゃんは一体どうしたいんだよ! お兄ちゃんが好きなのに、どうして嫌われようとするんだ。人類滅ぼしたら、本当に嫌われちゃうよ!」
ミアは涙をポロポロと流して訴える。
「朔夜さんを愛してる。その気持ちに偽りなんて無い。わたしロボットなのにね」
粒子から再び少女の姿へ戻った巴は胸に手を当て、恋に落ちた潤んだ瞳で朔夜を見つめる。
良心回路アイシステムを搭載されていない巴。それでも朔夜と出会った瞬間、一つの感情が産まれた。それはもしかしたら、霧島が残したイブシステムの小さなバクだったのかも知れないが。
それでも確かにそこにアイはあり、愛はあったのだ。
「どんなに嫌われようと想いは変わらない。朔夜さんはわたしの者。誰にも渡さない。みーあちゃんにもね」
巴の全身は光輝き再び粒子化する。ナノマシンで出来た流星が、ミアの体にまとわりつく。
「うぐぅぅ」
回避する間すら与えてくれない。うめき声を出すミアの体内に、ナノマシンが牙をむく。
「ミアッ!」
「もうみーあちゃんもいません」
「この世にいるのは、あなたとわたしの二人だけでいい。それがわたしの世界を滅ぼす理由」
戦いで傷ついた巴はもういない。そこにいたのは、ミアを取り込み壊れた体全身を再生する狂神の姿であった。




