機械人形はアイを知る。(3)
「たっぷりとアイを教えてあげますわよ。その体にね、お姉様」
レイカの突きが巴の体を貫く。刃は右掌を貫通していた。これでマシンガンは使えない。
「それは楽しみ。レイカちゃん」
刀が抜けない。右手を強く握りしめたからだ。
「このままだと使いものにならなくてよ。お姉様」
「レイカちゃんもみーあちゃんも強い。なりふり構っていられる状況じゃないの」
掌を強く握った。黒ずむ紅のオイルが流れ、メキッメキッと悲鳴あげて泣く。それは刃の壊れた音か、痛みに耐え抜く巴の涙なのか。
掌を犠牲にして手に入れたのは自由。
「じゃっ!」
呼気と共に、左指をブイの形にしレイカの目玉へ刺しこむ。
幸いにも仮面を被ってる為、えぐり取られる事は無い。それでも一瞬、瞳を閉じてしまう。
限りなく人間に近づくため設計された愛故に。
「そうそれが、あなた達とわたしの決定的な違い。人間の弱点を攻撃されると反応してしまうの。そうでしょ?」
瞳を閉じて出来たゼロコンマの隙。それだけでもレイカに致命傷を与えるには、充分過ぎた。
――トンッ。右膝がレイカの腹部に触れる。
「さよならレイカ。わたしの可愛い妹」
膝頭から見えない砲弾が発射する。
レイカの腹に大きな大きな穴が空く。
――ひゅぅぅぅ。虚空から見える月が口笛を吹く。
それは地球から切り離され産まれた時から、生き死に全てを見てきた月が奏でるレクイエム。
その曲はもうレイカの耳に届かない。
ついに巴は一線を超えた。妹と呼ぶその一体に手をかけてしまった。
朔夜は動けない。動かないじゃなく動けない。それはミアも同じであった。
姉妹なのだ。喧嘩することはあってもそこにあるのは、強固たる絆。互いの気持ちをぶつけあい理解する。それが家族ではないか。朔夜もミアもそう思っていたのに。
「また間違えたのか。俺は……選択肢を」
リリスと舞姫の顔が浮かんだ。体を失い首だけになった二人は、血の海地獄で痛い痛いと朔夜に泣き叫ぶ。
「もう無理だ俺には……誰も救えない」
「お、お兄ちゃん」
はじめて見せる情けない姿に、ミアは動揺を隠せないでいた。
それだけ彼女にとって愛する主であり、頼りがいのある兄であったのだから。
「レイカッッ!」
神威は走りだす。計算外だ。やる事なす事、全てが。何が巴のスペックを把握するためだ。やったことは愛する彼女を死地へ送った事。情けないのは神威も同じであった。
「今の僕が出来るのは只一つ」
二メートルある身長と変わらない巨大斧を背中から引き抜き、巴に戦い挑む。
「……作戦はもういいのね。神威さん」
――にいいっ。口角をつり上げた巴に迷いは無い。
レイカであった物体を神威へ投げた。
「ッッ!?」
物凄い速度だ。瞬間音速を超えていた。だがリミッターを外した今の神威なら避けることも、破壊して反撃する事なども容易い。だが……。
「あぁ駄目だ。僕にはレイカを、愛する彼女を傷つけられない」
神威は斧から手を離す。飛び込んでくるレイカを受け止め、その分厚い胸で抱きしめた。
――ブチブチブチ。世界の壊れた音がする。
全身の骨と筋肉の支えを失った神威の膝が崩れていく。音速に耐えきれる生き物など存在しない。
「……レイカ、君を愛してるよ」
最後の力を振り絞り、神威は冷たくなったレイカに唇を震わせた。
今、命の灯火が消えようとしていた。
「旦那様」
奇跡か神の御業か。神威に抱かれたまま、動きを停止していたレイカの両手が動きだす。
呼びかけ、光を失った神威の頰に掌が触れた。
「さよなら」
奇跡なんて起こらない。
――ごきゃ。
神威の頭部がレイカであった者の掌で破裂し、砂浜を紅に染めた。




