機械人形はアイを知る。(1)
――ダダダダダダッ。
連続的な銃声が聞こえた。人の枠を超えている朔夜の五感が捉えたのは、砂の中から打ち上がる沢山の花火。
儚く散っていく火花は、海へと帰る魚達だ。
「やりますわね、お姉様」
全ての魚を撃ち落とされ、レイカの眉がピクピクと動く。
「でもお姉ちゃんを引きずり出すことに、成功したみたいだよ。レイカさん」
「んもぅ。全身砂だらけ。お姉ちゃんは学習しました。砂潜るとこうなるのね」
巴は長い黒髪を振り回し、制服についた砂をはたきながら地表へ出てくる。
右手の五指から煙があがっている。どうやら指先から花火弾丸を打ち上げ(連射し)たのだ。
「もぅ朔夜さんの前で汚れちゃって。恥ずかしい」
巴はもう湧き上がる気持ちをプログラムのバクだとごまかさない。頰を染め墨色の髪を手櫛で整え、潤んだ瞳で朔夜を見つめる。これがきっと【愛】という感情の一つなのかと、素直に受け止めていく。
「わたし、変じゃないかな?」
「へへっ。可愛いぜ巴も、よ」
恥ずかしがる巴を見て、つい本音が漏れてしまう。
「むむっ。お兄ちゃん。デレデレと鼻の下伸ばしーて」
ミアはぷくっと頰を膨らま、朔夜の首をしめだす。
「ぐげぇぇ! や、やめろミアぁぁ。頸動脈しまってるって! 死ぬぅ死んじゃうぅからループ……うぅ」
「げほっげほっげほっ。危うく別の世界線に移動しちまうところたったぜ」
「むぅっ。お兄ちゃんが悪い-」
「そうですわ!」
意外だった。ミアのやきもちに、珍しくレイカが加勢する。やはり同じリリスシリーズだからか。
「お姉様! 旦那様だって素敵ですわよ!」
そうきたか。確かにレイカからすれば、複雑なのだろう。自分の愛する者が人気あるのも嫌だが、人気無いのもまた嫌だと。
ミアとレイカ、二人はまるで本物の人間の様に複雑な感情を持っていた。では巴はどうなのか。プロトタイプとして造られた彼女は……。
朔夜の隣で神威は期待を込めた瞳で、レイカが問いかけた答えを待っている。
「……ごめんなさい。お姉ちゃんは、マッチョの人はタイプじゃないの」
「大どんでん返しですわぁぁ!」
「だ、だいどん?」
なんだそれと、朔夜は首を捻るとミアが腕を組みニヤリと笑った。
「むうっ。大どんでん返し……」
「知ってるのかミア!」
「少し時代はズレてるけど昔、流行った言葉だよ。きっとレイカさん、過去へかけおちしようと決めた時に、その時代へ溶け込む為学んだんだよ。巴お姉ちゃんのセーラー服みたいに」
「へへっ。感心するぜ」
朔夜とミアはそんな事気にせずバトルスーツの上に、フードのついたコートを羽織るだけ。
当然といえば当然か。朔夜とミアにとって、過去へ来たのも任務のため。それが終われば故郷未来へ、戻るだけなのだから。
「見る目ないですわね。お姉様。でもそれでいい。それでいいですわ。旦那様の素晴らしいところは、わたくしが知ればいい!」
すらりと長く美しいレイカの脚線美が天高く伸びる。男ならつい見とれ釘付けとなってしまう程、見事なフォルムであった。
「おぉブラボー」
神威のメガネが輝き、拍手喝采する。その熱量は、芸術作品の試写会にも引けを取らない。
ピンヒールの踵に収納された刃は飛び出し、レイカの足が巴目掛けて振り下ろされる。
「体柔らかいのね。レイカちゃん」
巴はその攻撃に対して、微動だにしない。腕で防御すれば斬れ味鋭い刃で切断。避けなければ真っ二つとなるだろうに。
新型リリスにだって負けないという旧型イブの意地、プライドが邪魔をしているのか。それともシンプルに絶対的な自信があるだけなのか。
巴は刃を受け入れた。
「やったか」
「いや、まだだぜ。旦那。そう簡単に終われないようだぜ」
獣の動体視力を持つ朔夜は見た。桜色の可愛い唇で薄く笑う巴を。
刃付きの踵落としは確かに決まった。巴の頭頂部へ無慈悲に叩き落とした。それなのに嫌な予感しかしない。
殺気だ。生き物以外理解できない危険な信号を、沈黙する巴は発していたのだ。
巴はまだ死んでない。
「逃げなさいレイカ!」
朔夜同様、殺気に気づく神威は飛び出したいのを鋼の意思で堪えている。
「な、なんですの? これは……」
逃げ道は塞がれた。レイカの体がゆっくりと持ち上がっていく。
髪だ。墨色の腰まで長い髪の束が、レイカの足に絡んでいた。
幾重にも巻かれた束は、刃すらも通らない。これを使い巴は、踵落としを防御していたのだ。
「うんうん。レイカちゃん、弱点を狙うなんて流石よ。お姉ちゃんとても嬉しい。それでこそ戦う為に産み出された、機械生命体よね」
神話に出てくるメデューサの髪は蛇だという。バトルモードになった巴の髪も、それを彷彿させる蛇腹達がウネウネと不気味なダンスを踊る。
「うふっ。褒めるのはまだ早いですわ」
「デャァァァッッ!」
空中に浮かぶレイカの背後。死角となっていたそこに、満月をバックに飛んでくるミアの姿があった。
「アーマ-ド・ドリルパンチッ!」
ミアの動きに連動した巨大サブアームが、正面から巴を打ちぬく。
螺旋状に回転するサブアームの拳はドリルとなり、天を貫く柱となる。




