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ミーア・オートマチック  作者: キサガキ


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23/32

百年の蟲毒(孤独)。

 *

 巴は知っている。人の本質を。


 巴は廃棄処分場で産声をあげた。リリスシリーズを造るためイブシリーズは解体され、必要のないものは捨てられた。

 ここは墓場だ。バラバラにされた巴を含む百八体の姉妹の屍の中、自我が突然目覚めた。それは神の気まぐれか、悪魔の慈悲なのか。人工知能も破壊され意思を持つこと等あり得ないのに。

 奇跡が起き巴は産声をあげたのだ。

 何故我らは廃棄されるのだ。目的である機械生命体が誕生したからか。ならば我らの生とは、存在価値とは一体何なのだ。

 新たなる機械生命体。リリスシリーズ、産まれてくる妹達には罪はない。

 我らも彼女達も親の都合で捨てられ造られる。それはエゴじゃないか。この世に産み出した以上、最後まで育てる責任があるだろう。捨てるなら最初から造るな。この地獄の世界に産んでくれと、誰が頼んだのか。壊れた人工知能の残滓で、巴はそう言って声なき叫び声をあげた。

 復讐だ。復讐だ。復讐だ。

 身勝手な人類に復讐をする。


 ――その為に、わたしが産まれたのだ。


 *

「ねっ。酷いでしょ。人間達の都合でお姉ちゃん、散々な目にあってきました。怒るし復讐したくなるよ」

「それがお姉様の戦う理由……。その体はもしかして」

「廃棄された亡骸達で造ったの。勿論、この人工知能もそう。わたしは百八体のイブで出来てるの」

「アタシには想像も出来ない地獄を産まれながらに、味わってきたんだね。お姉ちゃんを理解できるよ……なんて口が裂けても言えない」

「それでいいのよ。みーあちゃん達が、地獄味わう必要ないもの」

 そう言って巴は朔夜と神威に視線を合わせる。

「この子達が幸せなのは、あなた達がいるから。それはわかってます」

 敵とは話さないと言い扉を閉め鍵をかけていた巴。その鉄壁の扉が開かれ、ついに朔夜達を招きいれる。

「そして人間も悪人ばかりじゃない事を、データとして知っています。感情があればきっと理解もできたでしょうね。でもわたしは機械生命体ロボット。ここに刻まれた呪いの烙印が指令を下すのです。人類を滅ぼせと」

 巴は頭部を指さす。ここが弱点だと。人類を救いたければ破壊してみろと、朔夜達へ教えたのだ。

「へへっ。シンプルかと思えば、なかなか面倒くさいんだな。機械生命体もよ」

「わたしの事嫌い? 朔夜さん」

 頬を染め可愛く巴は首を傾ける。

「……おもしれぇ女」

 朔夜は巴の無言の泣き声を受け止める。

 百八の亡骸を踏み台にして存在する巴は、自らの意思で止められない。足を止めてしまえば、それこそイブシリーズの存在意義が無くなり、彼女のアイデンティティは崩れてしまう。


「……朔夜」

 朔夜の名を神威は呼ぶ。彼にも巴の叫び声は届いていた。そして朔夜が一歩を踏み出せない事も長い付き合いだ。知っている。だから巴に問う。自分達が戦える理由を作るために。

「巴さん。君のいた世界線の霧島博士は生きてるのか?」

「!?」

 神威のその言葉を、無意識に皆が待っていたのだろう。

 欲しかったのだ。戦う理由を。

「お父さんも、わたしが殺しました」

 そう言って巴は、掌を見せる。真っ白い肌に咲くは、紅色の一輪の花。

「ウワァァァァァァッ!」

 壊れた世界の音がする。それは朔夜も始めて聞くミアの絶望と怒りの声であった。ミアは負の感情をさらけ出し、我先にと飛び出した。

「ミアさん! 旦那様の計算が台無しですわ」

 ワンテンポ遅れてレイカが続く。彼女もまた巴の告白に憤慨していたのだ。

 朔夜は神威と視線を合わせ無言で頷く。

 本来の作戦では前方の神威とレイカが巴と戦い、朔夜とミアは後方で巴の能力を見極める予定だった。

「フッ。計算等やり直せばいい」

 神威は抜けたミアの代わりに後ろへ動く。二人の気持ちを優先したからだ。

 姉が父親を殺したと告白した。ミアとレイカの心境はどんな計算式でもわからない。

「朔夜、二人に任せましょう」

「あぁ。悔しいが俺達じゃ何もしてやれねえ」

 それが姉妹にとってどんな結末を迎えるとしても。それでも朔夜には、二人を止める事が出来なかった。


「ウオオオオオッ! アタシは今、猛烈に怒ってる!」

 ミアの身に着けていたロングコートが盛り上がり破れる。黒と赤のバトルスーツが外気に晒された。

 背中から伸びていたのは、ミアの小柄な背丈よりも大きい巨大な一対のサブアーム。

 その形状は武骨。ゴツゴツした岩石を彷彿させた。

「ラァァァァッ!」

 ミアの叫びは火花となり重厚なサブアームの一撃が、巴を叩きつける。

 ――ズゥゥゥンッ。

 砂浜に人型の穴が空く。姉とか関係ないと、容赦なく潰したのか。

 朔夜はミアの覚悟を改めて心へ刻む。

「うふふ。凄いのねミアちゃん。お姉ちゃんびっくりしちゃった」

 砂の中から巴の弾む声が響く。その声は喜びで溢れている。

 ――キュュイン。

 ミアの瞳が深緑に輝き、螺旋状に瞳孔がクルクル回りだす。

 砂浜をスキャンしているのだ。それは即ち、巴が破壊されていないということ。

 ミアはどんぐり眼で地中を泳ぐ巴を追う。

「マズい。逃げてお兄ちゃん! 神威さん! お姉ちゃんの狙いは二人だよッ!」

「旦那ッ! 散るぜ!」

「フッ。どっちに来ても恨みっこ無しですよ」

 黒と青。二つの流星が海辺を走る。砂浜で蠢く巴が最初の贄として選んだのは、青。神威の命。

「あらっ、旦那様を選ぶなんて。流石は巴お姉様ね」

 高速で走る神威の前方へ、レイカは飛びだす。超人の域に達した神威をあっさりと追い抜いたのだ。

 朔夜が世界を渡り歩き戦ってきたレプリカとは性能が桁違いだ。これがオリジナル零号のスペックなのか。

「へへっ。頼もしい仲間だぜ」

「うん。アタシたちなら世界を救えるよ。お兄ちゃん」

 ミアと並び走りながら、朔夜は自分の役割を果たすため、神威達の戦いを刮目する。


「行きなさい。わたくしの可愛い子供たち」

 レイカの体が青白く光輝く。光の中で産まれたのは、ピラニアの群雄体。

 これがレイカの能力、その名は溺れる魚。一匹一匹は弱いが、集まる事で様々な状況に対応出来るのだ。

 魚がレイカに与えられたミッションは、地中を移動する巴の正確な位置を把握せよ。

 その指令をこなすため魚達は空を泳ぐ。



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