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ミーア・オートマチック  作者: キサガキ


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22/32

機獣戦線。

「見て。お兄ちゃん、みんな。あれあれ」

 ミアが何かに気づき海を指差す。

 そこには青白い球体があった。

「蛍かしら。綺麗ですわね。この時代ではまだ存在するのね」

「旦那。どんどん増えてきたぜ」

 一つであった球体が分かれ、次々と増殖していく。

「ふむ。昆虫の類いではなさそうだ」

 今や数えきれない程、沢山の青白い球体が波乗りして遊んでいる。

「レイカ、ミア分析を頼みます」

 神威の指令に二人は頷き、深緑に瞳を輝かせた。

 人の姿はしていても機械だ。人間が道具を使わなければ出来ない事さえも、使わずともやってのける。

 神は人を造り人は機械を作った。これも進化の一端に過ぎない。

 進化した機械生命体が新たなる王となるのも、地球の意思なのか。

 それでも争う。抵抗して見せる。滅日が来るその刻まで人類は。

 それが人に与えられた獣のプログラムなのだから。

 例え大いなる母の箱庭遊びだとしても。足掻いてみせる。

 ――それが神に背く事だとしても、俺達は愛のため戦う。

「計算不能ですわ。あの光球体の集まりは、未知の存在。わたくしのデータベース、オモイカネに答えは無い」

「むーん。あれは……」

「知っていますの? みーあさん」

「あれはタイムホールの光だよ。あたし見たもん。レイカさんと神威さんが神嶋市に移動した時に、パパと二人で見た光。起動した後、あんな感じで光球が渦巻いてた」

 海の上を光球がグルグルと、反時計回りに螺旋を描きだす。

 波は裂けた。光の螺旋から人影が見える。

 それは蜃気楼か。幻か。小柄の少女が、プリーツスカートをなびかせ歩いてくる。

 カミシマから始祖となるべき機械の女王が、神嶋へたどり着く。

「こんばんわ。えーとわたしはあなた達のお姉ちゃんになるのかな。初めまして、武蔵巴です」

 腰まで伸びた黒髪が海風で動く。眉の上で切り揃えた前髪が、お姫様みたいでよく似合う。

 時代に合わせたつもりなのだろう、セーラー服を着ていた。

「お姉様? ……リリスシリーズの前に造られた数ある試作品の一つ、イブシリーズなのかしら」

「その銘はやめて。わたしも、あなた達と同じように名前をつけたの。巴と呼んで」

「イブシリーズだと、馬鹿な。計算外だ。アイシステムが無いため危険と判断され、リリスシリーズ完成と共に全て廃棄。人類軍が操るアーマードギアの部品に回された筈」

 ――ドクン。朔夜と神威に流れこむは並行世界の記憶。

 ナノマシンに犯されイブの呪いを受けた人類軍の兵器だったものが、人々を喰らうのを。

 弱肉強食。これもまた自然の摂理。地球の意思。

 今やピラミッドの頂点は人では非ず。

 これが進化というならば、我らはそれに争おう。生きるとは戦う事なのだから。


「へへっ」

「フッ」

「旦那も見たか」

「君もね」

 アルファオメガ世界線の未来。機械生命体イヴとその子供達に支配されていた。

「やらせねえよ! この無限に続く連鎖を俺達が終わらせる」

「フッ。懐かしいですね。もう一度君と背を合わせるとは」

「へへっ。計算外か?」

「いえ。計算通りです。朔夜、ミア。君達は後方へ」

「ラジャーだぜ」


 相変わらず甘いと、朔夜は神威を見てそう感じた。

 イヴは倒すべき天敵。破壊しなければ人類は滅亡する最終兵器。

 武蔵巴と名乗り服を纏い寸分変わらず人間と同じ姿をしていても、それは仮初めにしか過ぎない。

 巴は人型の兵器。復讐する憎き仇。

 神威はそれでも信じたいのだろう。

 復讐の鬼である朔夜とも分かり合えたのだ。機械生命体の巴とも理解し合える筈だと。

 朔夜もまた人の事言えない。変わったのは自分も同じ。

 信じたいのだ。人の姿を模した巴を。

 彼女は人間に憧れて名前をつけたのだと。

 人当たりのいい神威なら切り開けるかも知れない。

 機械生命体と共に生きていく世界を。


「初めまして、武蔵巴さん。僕は神威了。君の妹レイカの夫です」

「そうレイカちゃんね。殺気混じりで睨む後ろにいる悪い子ちゃんの名前は?」

 にっこりと巴はいたずらっ子を見る表情で、ミアに笑いかけた。

「……ミアだよ。巴お姉ちゃん」

 巴は朔夜と神威の存在を無視している。それがミアは気に入らないのだ。

「もう一度言って」

 ミアの不機嫌が気に障ったか。巴の眉尻はピクリと動く。本当に人みたいだ。只の高校生の美少女にしか見えない。

「み、ミア」

「そのあとです」

「巴お姉ちゃん」

「はぁぁん! そうです。そうですよ。わたしは二人のお姉ちゃんなの」

 語尾にハートマークをつけ、体をクネクネと動かし喜び悶える。

 ミアの前に生まれた機体だが、同じ霧島博士というマッドサイエンスティストを父に持つ。やはりミアと同じようなリアクションをとるか。

「へへっ。俺は朔夜。ミアのお兄ちゃんだ。よろしくな、巴」

 凄く親近感が湧く。彼女なら人類と機械生命体の架け橋になる。

 朔夜、神威。ミア、レイカ。そして巴。この五人が力を合わせ同じ方向を目指せば、災厄な未来を回避できる道がきっと見つかる。

 そう朔夜が確信した時だった。

「ギリッ!」

 隣にいるミアが奥歯を強く噛み締めた。


「巴お姉ちゃんッ! 挨拶は基本だと、パパに教わらなかったの!」

「ん? お姉ちゃん、かわいい妹ちゃん二人に挨拶しましたよ。みーあちゃん反抗期なの?」

「じゃなくてぇ! うぅう」

「ミアさん、あとはわたくしが。巴お姉様。どうしてわたくし達が怒ってるか、わかるかしら」

「うんっ? もう嫌だわ。レイカちゃんたら。怒ってるって、それじゃまるで人みたいじゃないの」

 当然だ。イブシリーズは、感情を学ぶ良心回路アイシステムを搭載していない。

 生物の感情など理解出来るわけがないのだ。

「……感情が無ければ、到底理解できませんわね」

「巴、お前が俺達を無視してる事に二人は腹をたてているんだぜ」

「……」

「だからお姉ちゃんッッ! そういうとこだよッッ!」

「そうですわ。わたくし達の大事な家族を無視するなんて、いくらお姉様でも許せませんわ」

「短気おこすな。お前達二人の気持ちは、俺と旦那が知ってるから」

 ――チラチラ。

 気のせいだろうか。巴の視線を朔夜は感じた。

 表向き無視してるが、朔夜を必要以上に意識してる。やはり倒すべき敵で警戒してるのか。そうだとしても全く神威に対しては無反応だ。

 ――チラチラ。

  また見た。バレてることに気づかない巴の視線は熱い。それはまるで巴自身が産まれて初めて味わう微熱。甘くて苦い初恋の味。


「家族? 敵の間違いよね。なぜわたしが敵と挨拶をかわさなければいけないの。レイカちゃん、みーあちゃん、殺しなさい。人類は戦う為に産み出された種族。母なる地球上位者にとって危険な存在よ。あなた達のその愛情もプログラムに過ぎないの。来なさい。お姉ちゃんが削除してあげるから」

 前言撤回。やはり駄目なのか。話し合いにすらならない。巴は聞く耳を持っていない。

 人類は敵と朔夜達に巴は宣戦布告する。それが彼女との最初の会話であり、開戦の合図であった。



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