始祖の座。
「お兄ちゃーん。ワカメーワカメーだよおお」
「旦那様見てくださいませ。魚、生きてる魚ですわー」
ミアは全身にワカメを巻き、レイカは巨大マグロを軽々と持ち上げ満面な笑みで近づいてくる。
「……だな。アイツらは大切な家族だ」
「どうした? 君らしくない」
二人はそう言って矛をおさめ、お土産を持って帰ってくる妹と恋人を出迎えた。
パチパチパチパチ。砂浜で焚き火の音が鳴る。朔夜と神威は、二人が手に入れた食材を残さず綺麗に食べた。
「へへへ。食った食った。満腹最高だー」
「フッ。僕達のいる未来では考えられない。食後にのんびりとしているなんて、計算外です」
「これが平和の味ってやつだな。美味ぇ」
生きる喜びを嚙みしめながら咀嚼する。
今の朔夜なら理解できる。脱走という重罪を犯してまで、神威がどうしてこの世界でレイカと暮らそうと考えたのか。
「なぁ旦那、取り引きしないか。俺はアンタ達と戦いたくない」
「内容にもよるね」
ゴーグル型のメガネ越しで、スッと目が細くなる。
「旦那。俺達のミッションを覚えてるか?」
「百年前の神嶋市で、GODのオリジナルとなる機械生命体を破壊する事」
「そう。それで俺達はそのミッション中仲間割れしちまった。俺がアンタを殺しレイカがオリジナルとなってしまう最悪のオチ」
「わたくしがオリジナルになる? まさかありえませんわ。だってわたくしは、この新天地で人として旦那様と生きていくのに、世界を破壊するなんてそんな計算間違っていますわ」
「……レイカさん。あのね、お兄ちゃんが神威さんを本当に殺したらどうする?」
「あらっ。それもありえませんわね。だって今もこうして、旦那様が生きていますもの。殺すつもりなら、顔を合わせた段階でドンパチしますわ。御門朔夜とはアナタのお兄さんは、そういう人でしょ。ミーアさん」
ドンパチした後なんだけどなと、朔夜は苦笑する。
「でもそうね……もし……もし旦那様が殺されたら、勿論復讐しますわよ。家族を殺されて泣き寝入りしない。人だから機械生命体だからと関係なく、それが残された者の使命よ。ミーアさん、アナタもそうするでしょ?」
「うーん。復讐か。どうだろう、わかんないや。わかってるのは、正義の味方を目指すかな。お兄ちゃんの意思を継ぐものとして」
「フッ。正義の味方ですか。忘れてましたね、その熱い魂を。続きを聞こうか。朔夜」
「だからよ、俺はこの世界線で旦那達と共闘したい」
「ふむ。ではわかりやすく、この世界線をアルファオメガルートと呼びましょうか。僕達で行う最初で最後のミッションですから」
「アルファオメガか。くぅ格好いい呼び名だ。しびれるぜ」
「ミッションは実行中。でもレイカはGODにならない。ではどうなると。このアルファオメガルートで、このあと果たして何が起こりどのような結末を迎えるのか。朔夜はそう言いたいのですね」
「あぁ。さすがだぜ旦那。伊達にメガネかけてない」
「フッ。むしろ僕の本体は、メガネです」
キラリ。ゴーグルが月光を反射する。
「旦那。アンタの大切な人を闇へ落としてしまった。すまねえ。全て俺のせいだ」
「いいえ。元はといえば、君や博士に相談しなかった僕の罪。そのせいで、大切な人達を苦しませている」
「お兄ちゃんは、あたしのヒーローだよ」
「旦那様。わたくしは、その罪を貴男と共に背負っていきますわ。何処までも」
「ありがとよ。旦那、取り引きだ。一緒にミッションクリアしようぜ。そのかわり俺は脱走したアンタ達を見逃す。二人で駆け落ちしてくれ」
「フッ。そう来ましたか。かなり譲歩したな。荒ぶる鬼神の異名を持つ君が、まるで別人のように丸くなった。復讐はいいのか?」
「あっっ俺はよっ。並行世界の旅で、沢山のルートを見てきた。その中では、いい奴もいたし悪いやつもいたぜ。機械生命体にも色んな奴らがいるだろうよ。旦那、アンタもそう思うだろ? レイカはいい女だ」
ボリボリ。バツ悪く朔夜は黒い髪をかく。
「うふふ。まさか朔夜様から、愛の告白を受けるなんて計算外ですわ。でも残念。わたくしの心は旦那様のもの」
「お、お兄ちゃん! レイカさんはみーあのお姉ちゃんだよ! まさか姉妹でウハウハしたいの!?」
ぽっとミアの頰が朱に染まり、ツインテールが逆立ち湯気が沸く。
「あぁん。でもでもお兄ちゃんが望むなら、みーあナニをされてもいいの!」
「脱がなくていいぞ!」
「フッ。それが取り引きの内容ですか」
「おぅ。俺達四人は最強のチームだ。だからジジィは、人類の命運を賭けたミッションに選んだ!」
「パパも未来で、あたし達が戻ってくるの待ってるね」
「そこを目指そうぜ。リリスや舞姫達も生きている日常のルートを作るんだ!」
「お嬢、姫にレイカを紹介する世界ですか。いいでしょう。乗りましょうか。貴男の車にね」
「へへっ。シートベルトを忘れるなよ」
山が動く。不動であった巨大な山がついに。
まさかこの時が来るとは、朔夜自身も思っていなかった。
目の前で立ちふさがっていた山。神威の口癖を真似るなら、正に計算外だ。
朔夜だけが並行世界を移動していたなら、神威とそして朔夜本人も変わる事は無かった筈。
無駄じゃない。今までやってきた事は。
大地を耕し種を蒔き発芽し、毎回枯れていく。
それでも諦めなかった。
心は挫け泣きわめき、憎しみを糧にしてでも歩みをやめなかった。
その長い旅路の果て、ついに実ろうとしている。
リリスの照れた顔。舞姫の明るい笑顔が浮かぶ。
「終わらせようぜ。旦那、暗黒時代を。日の光でよ」
「フフッ。東の国からメシアが現れると、かつて予言して人がいたとかいないとか。僕の計算では、その人もまた時間超越者だったのかも知れませんね」
「旦那はいつも外れてるから、当てにならねぇ」
「フフッ。確かに」
「当てなきゃな。そろそろ」
「フッ。僕の計算では、今度こそ当たるとでてます」
「全く頼もしい相棒だぜ」
朔夜と神威は口角をつり上げ笑い、力強く握手した。




