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ミーア・オートマチック  作者: キサガキ


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20/32

ミーア・リターンズ。

 波の音が聞こえる。近くに海があるのだ。

「気持ちいいリズムだね。お兄ちゃん」

「あぁそうだな、みーあ」

 地球の鼓動が波となり、命の息吹は海風が運んでくる。

 生きているのだ。地球も。その母なる腕の中で我らも。

 そして人が造りだした機械生命体もだ。

「ふふんふふんるんたった」

 朔夜と手を繋ぎ、ぴったり寄り添うミアはご機嫌で歌っている。

 パワードスーツでもバッテリーでもない。朔夜のよく知るツインテールのミアの姿でだ。

 世界線を移動し再び戻って来たのだ。百年前の神嶋市へ。

 時刻は日付が変わろうとしていた。商店街のシャッターは閉まり、人の通りは殆ど無い。

 信じられない光景だ。地下シェルター育ちの朔夜からしたら、夜に外出するなんて狂気の沙汰としか思えない。

 資料では知っていたが、実際この目で見ると衝撃過ぎた。

 百年だ。僅か百年で人類は、地球の王の座を機械生命体に奪われてしまう。

 そんな並行世界なんて必要ない。

 朔夜とミアはフードを深く被りなおし、海辺目指して歩みを早めた。

 腕時計型のバックルに表示されるは、自分達以外の二つの光。

「旦那」

 神威とレイカはそこにいる。


 砂浜が足の形に沈み込む。

 この場所だ。最初の世界線で、神威達と戦ったのは。

「今回は待ち伏せしないんだな。神威の旦那」

「早かったな。朔夜待っていたよ」

 砂浜で座る神威は静かに、海を眺めていた。

 殺気を全く感じない。まるで別人格のジンの様に穏やかだ。

 レイカは何処にいる。キョロキョロと周囲を見渡すが見えるのは、流木やテトラポットだけ。

 身を隠すとしたら、その辺りか。

「フッ。レイカが気になるようですね。彼女は散歩をしてます。ミア迎えを頼みますよ」

「どうするお兄ちゃん?」

 ミアはレイカがGODの始祖になる事を知っている。

 どうするとは、戦うのかと聞いてるのだ。

「一緒に帰ってくるんだ。旦那とここで待っている」

 一人で姉妹殺しの罪を背負わせない。

「うん。わかった」

「さてと、朔夜座りませんか? あつ苦しい野郎の隣ですけど」

「へへっ。自分でいうかよ」

「覚えてますか? 朔夜。僕達最初の出会いを」

「忘れるかよ」


 *

 家族が殺された。朔夜の前で。

 人という種を地球上からデリートするため産まれた、機械生命体の手でだ。

 複数の世界線を超え、沢山の朔夜の記憶が混ざり合う。その弊害か。混乱し印象の強い出来事も、混沌として詳細は霧の中。

 夢を見てるみたいで、曖昧な矛盾の世界だ。

 それでも覚えている。

 六本脚の巨大機械生命体により、無惨にも奪われる命達を。


「……アァァァァッッ!」

 朔夜は叫んだ。声なき声で吼えた。真紅の海で溺死する寸前、海面へと顔を出す。

 地獄だ。ここは。朔夜以外に生きている者は無し。

 人類の叡智の象徴である人工知能が、同じ叡智である建築物を破壊していく。

 朔夜達はその巻き添えを食らったのだ。

 ふざけている。タイミング悪くたまたまそこにいた者達は、無駄に命を落としたのだ。

 命の価値とはそこまで軽いものなのか。

 朔夜は頭部を強くうち、額から流血している。


 今思えばそれがトリガーだったのかも知れない。朔夜が脳のリミッターを外せるきっかけになったのは。


「あぎぃぃぃるッ!」

 紅に染まった朔夜の名を呼ぶ者はもういない。

 咆哮し睨みつけるは家族の敵だ。

 錆た臭いが鼻を刺激する。血か。それともオイルの臭いか。不愉快だ。

「この臭いを止めてやるッッ!」

 六本足の一本に鉄骨が突き刺さっている事に、朔夜は気づいた。

 足下へ近づく朔夜は、ブンブンと煩いハエだ。追い払うため機械の足が動く。

 百パーセント開放された脳により、超人となった朔夜の視界が捉えるのは、ゆっくりと降りてくる鉄塊。

 巨大故に動きはどうしても、人と比べて遅い。それにしてもゆっくり過ぎた。

 足裏に貼られた、滑り止めの溝一本一本まで見える。

 どうしてかわかる。全てのスペックが、最大値を超えているからだ。

 いつまでそれが続くかわからない。続いても肉体に限界が来るかも知れない。

「へへっ」

 ならばその前に片づければいい。朔夜は笑い足に飛びつき、鉄骨が食い込む膝関節へ近づく。

 ギギギギと悲鳴をあげ、こぼれていく火花が熱い。

 関節が駆動するたび外装がめくれていく。

 朔夜の狙いはこれだ。

 むき出しになっていく、ナノマシーンが寄生して造りだした歪なジャンクの中身。

 動くたび突き刺さっている鉄骨に、赤や青の神経がダメージを負う。

 ほっといてもこの足は、使い物にならなくなる。その時間を早めるため朔夜は短刀を差しこむ。

 機械生命体に侵略された世界で、朔夜は育ち生きている。

 戦い方は知っていた。

 刃が神経に斬りこみを入れる。これで反撃の準備は整う。ここから不具合が生まれ一時、動作を停止するはず。

 その前にアソコへ移動しなければ。

 朔夜の鋭い目が、機械生命体の背中を睨む。アソコにバッテリーであるコアが接続されているのだ。


「あらよっと」

 コアが眠るランドセルへたどり着く。

 ギギギギ。軋む音が高くなり機体は止まる。

 今のうちだ。再起動するまでの一分一秒無駄に出来ない。

 ナイフの刃をランドセルのハッチへ突き刺さす。

 思った通りだ。機械生命体達はボディをメンテナンスしない。

 人と違い物を大切に扱うという事がない。壊れたら廃棄しまた作ればいいと考えている。

 赤錆が浮かぶハッチをあけるのに、そう時間はかからなかった。

 外気が冷気を引き込む。

 ハッチの中央に浮かぶは、ハートマークのコアバッテリー(鋼鉄の乙女)。

 これが巨大機械生命体の本体であり、全てであった。寄生し増殖するナノマシーンの元がこれである。

「人類舐めんなッッ! からくり人形がッッ!」


「ふうっ……仇は討ったぜ……皆」

 コアが破壊され完全停止。脱力し大地に頭を擦りつける巨大機械生命体の上で、朔夜は一息つく。

 手元には刃が根元から折れたボロボロのナイフが置いてある。

「今までありがとな。相棒」

 機械生命体のジャンクから武器に使えそうなパーツを探そう。奴らと戦うには同じ材質が経験上いいと、朔夜はそう思い疲れ果て鉛となった肉体に鞭を打つ。


 刃になりそうな物はないか。パーツを漁っていると影に覆われた。

 気配を感じさせない。新手の敵なら危険だ。接近を許してしまった。

 慌てて顔をあげ身構えるとそこには、山がいた。

 身長二メートル。体重百キロの白銀髪の巨漢が、朔夜を見ている。

「に、人間かよ。驚いたぜ」

「これは君がやったのですか?」

「へぇ。何故そう思う? ジャンク漁りのゴロつきとか思わないか。普通はよ」

「ゴロつき? そうは見えませんね」

 白銀髪の男はゴーグル型のメガネをかけ瞳の色が違うオッドアイが、朔夜と機械生命体を交互に見ていた。

「アンタ、ニホン国の兵隊か。その白い軍服、はじめて見るぜ」

 ――フッ。男の分厚い唇は、笑みの形へ変わった。

「どの国にも属していません。僕は傭兵ですよ」

 男の腕章に描かれるは、血に染まる掌。

「傭兵部隊レッドアームズかよ。噂だと確か世界中の機械生命体を狩って、苦いコーヒー飲むんだよな」

「フフッ。甘いコーヒーも飲みますよ。自己紹介がまだでした。神威了です。猛禽類の瞳を持つ少年よ」

「御門朔夜だぜ。神威の旦那。アンタに頼みがある。俺を部隊に入れてくれ。機械生命体を全て破壊する力が欲しい」

「勿論です。僕達は来る者拒みません。それに最初から君をスカウトしようと、声をかけたのですからね」


 それが二人の出会い。運命の歯車が回りだした始まりの刻。


 *

 朔夜と神威は無言で海を見ていた。

「なぁ旦那にも記憶あるんだよな?」

「ありますよ。ジンの頃の世界線の記憶がね。お嬢に舞姫。家族のいない僕にとって、かけがえのない宝物です」

「ならわかった筈だ。家族を失う悲しみが」

「わかってますよ。僕はレイカを失いたくない。だから君を殺す。朔夜」


「そう来るよな。最初の世界線でも、アンタはそうだった」

 脳のリミッターを外す。これにより人が持つポテンシャルを百パーセント開放できる。

 目にも止まらぬ速度で、朔夜はサイレンサーのついた銃を引き抜く。

 狙いは躊躇せず、眉間に向けてトリガーを二度引いた。

 波の音に溶け込むわずかな銃声と潮に紛れた硝煙の匂いが、神威を撃つ。


 神威の白いロングコートが海風でなびく。

 左右の掌は小型の斧を握りしめていた。

 彼もまた脳のリミッターが開放されし、常人を遙かに凌ぐ者。

 そのオッドアイの瞳は、弾丸の弾道でさえも見逃さない。

 音も無く忍び寄る両刀の刃が空を切り裂く。

 綺麗な断面で二等分に分かれた弾丸は、大きく軌道を外し海と砂浜へ不時着する。

「へへっ。そう簡単にいかねぇよな」

「最初の世界線でのリベンジですよ。朔夜!」

「結構根に持つタイプだよな。お似合いだぜレイカと旦那は!」

「フッ。君とミアもお似合いですよ。ノリだけで生きている!」



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