円環 終わりと始まり。(前編)
ジャリッジャリッと音を鳴らし、靴底が渇いた砂を踏みしめ歌う。戦闘直後だが朔夜の足取りは軽い。ミアと再会を果たし心の重圧から解放された。
カミシマへ戻り舞姫達技術屋に修理を頼もう。そうすれば寝息をたてているミアが目覚めるかも知れない。
朔夜はコンパスの導きのままに地下へと進むルートを求め、彷徨い続ける。
「ここも外れか」
大型機械生命体GODの攻撃により、無差別に破壊された建造物の塊と土砂崩れによりルートは潰れ埋もれていた。
アーマードギアならば立ちふさがる巨大デブリを排除も出来ようが、バトルスーツでは不可能だ。
「他に近場でどっか無いか」
ふと思いヘルメットを脱ぐ。折角地上にいるのだ。肌で大気を感じたい。
頬に触れる優しい風は、朔夜の頭を撫でて去っていく。時刻はもう夕方近い。横倒しになったビルにオレンジ色の影が挿す。
「……おろ?」
妙だ。夕日は今、朔夜の後ろでゆっくりと沈んでいく。では前方からこちらへ挿すオレンジの光は何だ。この位置からだと、ビルが死角になって奥まで見えない。
角度を変え近づき正体が何か知る。
「う、うぁぁぁぁッ!?」
朔夜は叫んだ。喉が裂けそうになる程に悲痛の叫び声をあげる。
「わあああああぁぁぁ!!」
視界が血の色に染まる。ビルの死角から見えたオレンジ色の正体は、地下から吹き出す炎の海。
コンパスの位置はその真下を指していた。
地下から噴き出したのは、地獄の火龍マグマか。沸騰する大地が窪み、剥き出しになった地下空間から炎の柱が上がる。
「!」
朔夜は見た。柱の中に銀色のバトルスーツを着たジンと、鴉の仮面を被り黒い羽毛で出来た翼状のマントを纏う女性が鍔迫り合いしてるのを。
「旦那ッ!?」
ジンが機械生命体と戦っている。まさか朔夜とジンの留守を狙って。いやそこまでシェルターを守る兵士達は弱くない。
百年前奴らが活動を開始してから、数え切れない程他のシェルターは破壊され人々は死んでいった。
その戦況の中で、彼らはカミシマを守ってきたのだ。……だがと、朔夜の喉に魚の小骨が引っかかる。
地上を歩いていた時、機械生命体に一度も遭遇しなかった。有り得ない。奴らは全ての人類を駆逐する為、二十四時間休まず働き続ける。壊れると新たに造られた代わりが引き継ぐだけだ。
ミアに再会出来て気が緩み、今までそれに気づかなった。
もしも地上にいた周囲全ての機械生命体が、カミシマを狙ったのなら特級じゃない兵士達は無力。数の暴力に叶わない。
ここまでは予想できるが、ピースが一つ足りない。
カミシマシェルターの場所を地上から、どうやって見つけたのか。移動は全て地下道。アリの巣を参考に造られたルートだ。外敵が迷わず地下から目的地につける事は無い。
考えるのは後だ。今はジンと合流しなければ。二人が落ちていった落下点へ走り出す。
金属音が鳴り響く。ジンの巨大な斧と鴉の歪な形をした刀が激突し、散る火花は流星となる。
機械生命体と互角に力で渡り合うジンは、流石朔夜と同じ特級ソルジャーとしかいいようが無い。しかし人間と機械では差があり過ぎて、打ち合いでは不利だ。
長期戦になればジンとはいえ、集中力と体力を消耗する。そうなれば機械生命体の圧倒的な有利。時間さえ味方につければ勝利を手に入れてしまう。だがジンには朔夜がいる。二人ならば、勝利の女神はこちらに微笑む。
「ウラァァッ!」
タイミングを見計らい朔夜は二人の間に飛び込んだ。
ジンの斧を刀で弾く。腕が伸びきり一瞬鴉に生まれる隙。そこを狙い乱入する朔夜の超振動ヨーヨーは、鴉の脇腹を攻撃する。
鎧は硬くダメージは少ない。それでも上等だ。ジンが反撃できる時間を作ったのだから。
「フンッ!」
その意図に気づくジンの渾身の一撃。
「くすっ」
鴉は突然の乱入者に驚きもせず笑い、マント羽ばたかせ後ろへ飛ぶ。
「待たせたな旦那。一体何があった」
「御門くん。車で運んだナルカミ兵士の体内に機械生命体が潜んでいました。僕のミスです」
「いやそれなら俺もだ。頭部を撃ちぬいた後、死体を調べなかった俺の」
朔夜とジンも悪くない。人として死んだ死者をこれ以上冒涜したくないと思う、人間の気持ちを利用した機械生命体の作戦勝ちであった。
「リリスは舞姫は無事か」
「はい。侵入して来た奴らを吹き飛ばす為、シェルター爆破の指示を出したのはお嬢ですから」
「へへっ。アイツらしいぜ」
これで不安要素は消えた。二人は無事。地上にいた機械生命体はカミシマの自爆で消滅。なら残りは鴉のみ。全力で戦える。
「二人ならわたくしに勝てるとでも、御門朔夜」
「卑怯とかいうなよ、鳥頭」
脱いでいたヘルメットを再び被る。サブモニターには、寝息をたてているミアが映っていた。
「旦那、妹を紹介したい」
「ふふっ、ミアさんですね。楽しみにしてますよ。でもその前に」
「あぁ。皆で明日をむかえる為、目の前の障害を打ち砕く」
砂煙が舞う。二人は左右に分かれて、上段で構える鴉との距離を一気につめる。
「ウラァァッ!」
刃を生やしたヨーヨーが唸り、ここを打ってみろと言わんばかりの胴体目掛け跳ぶ。例え罠を仕掛けていても軌道は自由にかえられる。
「シュッ」
鋭い呼気と共にヨーヨーが届かない距離で鴉は刀を振り下ろす。タイミングはかるのに失敗したか。否。奴らは機械だ。計算を間違えない。
「うふふっ。計算通りよ」
――キンッ!
鳴り響く金属音と同時にヨーヨーが空中で弾かれる。刀の衝撃波で吹き飛ばされたのだ。
「まだまだ!」
ヨーヨーに繋がれた極細のワイヤーで出来たストリング(紐)を操り軌道修正する。それを目で追う鴉の背後へジンは飛び込む。
「フンッ!」
バトルスーツを装着しててもわかる。鍛えに鍛えあげた筋肉が山となり盛り上がり、フルフェイスヘルメット内でジンの顔に鬼が浮かぶのを。
両手で構えた超金属ヒヒロカネ製の斧の重さは一トン。獅子の咆哮と共に真一文字の螺旋を描く。
重厚な音が鳴り風を切り大気を斬り裂く巨大斧は、数え切れない程機械生命体を地獄へ突き落として来た。常勝無敗の両刃が、鴉の脊髄に激突する。




