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ミーア・オートマチック  作者: キサガキ


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16/32

機械少女は夢を見る。

 アーマードギアと一体化した朔夜の前方で身構えるは、サイを擬人化した巨大機械生命体GODとなった群雄体であった。

 二体共に身長は大差ないが、横幅を見ると倍以上の差がある。例えるならアーマードギアは丸みを帯びた女性。

 それに対してGODは、ボディビルダーの男。ゴツゴツと鍛え上げた筋肉は岩石で出来ていた。更に体を支える足と攻撃に使う拳は、隕石を模倣している。

「やる気満々だな。嫌いじゃないぜ」

 あちらがサイならアーマードギアは鬼だ。

 ボディを覆う滑らかなラインはしなやかな装甲で軽く、衝撃を吸収できる程の柔軟性と耐久力も兼ね備える。

 球体頭部に大小の四本角が生えたフェイスガードを被り、つり上がった二つの琥珀色に光輝く大きな瞳は、まるで地上に降臨した太陽の女神アマテラス。

 拳には鉤爪を生やす指先が出るグローブと、足は爪先が尖ったブーツを装備する。

 肉弾戦を好む朔夜と、それを得意とするミアの為に作られた武装であった。


「ブモォォォッ!」

 先手を取ったのは、サイだ。雄叫びをあげ御自慢の一本角を突き出し向かってくる。

「ぶもぉ? サイなのにぶもぉだって、お兄ちゃん。うぷぷぷ」

「へ、へへっ。そうだなミア」


 空耳だ。ミアはこの世界で鋼鉄の乙女という名の部品バッテリーにしか過ぎない。それでも朔夜には聞こえるのだミアの声が。

 アーマードギアと一体化した影響か、それとも只の気のせいなのか。それは神のみぞ知る。

「へへっ。どちらでもいいぜ、そんなの」

 そうだ。朔夜に答えは必要ない。今こうしてミアと共にいる奇跡。それだけが真実。他に理由等必要無い。


 ――ズドドドッ。

 砂塵を巻き上げ真正面からサイが突っ込んでくる。アクセル全開の暴走列車は誰にも止められない。

「来やがったか。行くぜッ! 相棒ッッ!」

「うん。お兄ちゃん! 大好きぃぃ」

 胸部に爛々とハートマークが浮かびあがる。百年間たっぷり睡眠を取り、ミアのコンディションは最高の仕上がりであった。

「シュゥッッ」

 朔夜は鼻から息を吸い込み、ヘソの下へ溜め込む。新鮮な酸素は気力へ変わり体の隅々まで満たされる。

 左半身を前にして右足を引く。広げた左掌は胸、握りしめた右拳は腰の位置へ置く。

 朔夜の動きにリンクしてアーマードギアは同じ構えをとった。

「オラッ!」

 タイミングを合わせた右拳の一撃は角へヒットする。

 ――にいいいっ。

 朔夜とサイは同時に笑みを浮かべた。両者共、絶対的な自身があるからだ。


 ――ピシッ。

 ヒビが入ったのは一本角の方であった。その瞬間サイは感じたのだろう。決して手を出していけない者に触れてしまったと。それは肉食獣の口内に頭を突っ込むのと同じ危険な行為。

 戦う。そんなレベルでは無い。産まれたての赤ん坊が世界チャンピオンとプロのリングで試合になるか。無理だ。リングはおろか観客席にすらたどり着けない。

 これがオリジナルの実力。レプリカでは決してたどり着けない最果ての地。どんなに時間をかけて戦略を練ろうが計算で導き出そうが、格の違いだけは埋まらない。

 ヒビが入り砕け回転して吹き飛ぶ一本角を横目に、サイは背中を向けて逃げだした。


「戦えッ! お前らはその為にこの世に産まれたんだッ! 俺達と同じ様になッッ!」

 それ以外、何の価値があろうか。この世界に存在する全てが日夜何かしらと、戦っている。誰もが皆、屍で作りあげた日常戦場を生き残っているのだ。戦いから逃げることは、絶対許されない。

「あぎぃぃるッ!」

 鬼は雄叫びをあげ怪鳥となり舞った。無防備の背中に飛び乗り首筋へ爪を突き立てる。装甲を砕き肉をえぐり骨を壊す。

 延髄にあたる部位が破壊され、サイは力つき大地へ倒れた。黒いオイルが混ざる土煙の中、殺戮が始まった。


 見つけた。切り刻み解体した部位の一つから、ピンポン球サイズまで小さくなった白銀に輝く球体が隠れている。

 これが機械生命体のバッテリーであり魂であった。 

 エネルギー源は何だ。消費するたびに縮んでいく球体は何で出来ている。自分や周囲に影響は。等々、技術者で無い朔夜にとって分からない事だらけだ。

 一つだけ分かっているのは、機械少女リリスシリーズは人の体液を欲しがる。それ故にミアとレイカは人が欲情する姿にデザインされたのだから。


 鬼神の手を通じて、朔夜に感触が伝わってくる。これは命だ。今まさに失われようとする機械生命体の命。ずしりと重量感のある感覚を朔夜は絶対に忘れない。

 ――命を奪うという事を。

 種族繁栄の為に殺す。そこに正義は無い。

 アーマードギアは、取り出したコアを握り潰した。


「すまねぇなミア。お前の手を汚させて」

 敵味方に分かれた同族を手にかける。彼女にとっては主の命令を実行しただけだ。そこに葛藤は産まれない。それは朔夜も理解している。機械少女の存在理由は愛玩用の人形として愛される事では無く、人型兵器として戦う事なのだから。

「俺らしくねぇ」

 一度失った相棒に再び会えた事で、朔夜の心境が変化したのだろう。これでは最初の世界線の神威と変わらない。


 ナルカミでの戦いを終えたアーマードギアは地上ルートを使い、カミシマに帰る途中であった。

 奇妙だ。道中地上世界を蹂躙する機械生命体に遭遇する事が、一度も無かった。一体もいないなんて有り得ない。周辺に生き残った人間がいないからか。

 見渡すは爆撃によって壊された沢山の建物。剥き出しになった鉄骨は人類の墓標の様だ。

「おろっ」

 アーマードギアの動きが鈍くなっていく。

 水中から地上に出て浮力から解放されると、体が重く感じる。あれに似た感覚を朔夜は感じた。

「どうしたミア」

 返事が無い。そういえば途中から朔夜が一方的に話すだけで、ミアの声を聞いていない。

「ぐっ」

 縦に大きく揺れ動く。駆動軸が脱力したのだ。これでは巨体を支えられない。悪手だ。試運転もせずに動かし、更にはバトルをしたツケが回ったか。サーボモーターに不具合が発生したのだ。

 下手をすれば機体に閉じ込められる可能性もある。朔夜は慌てて胸部ハッチを開けて、外に飛び出した。

「修理は舞姫達に頼むか」

 ここからは歩きだ。幸いにもカミシマシェルターに通じる地下通路は直ぐそこにある。

「……」

 ここにミアを置いていくのか。折角再会出来たのに、また一人残すのか。朔夜の手は自然とバックパックに伸びた。

「!」

 ロックを外すと氷霧が吹きだす。視界は真っ白に染まる中、見えたものはゼリー状の溶液に満たされた水槽と、その中で揺らぐ機械の脳みそであった。

 理解した。先程まで会話してたミアは幻聴。朔夜が脳内で創り出した妹に過ぎない。

 この脳みそこそが最初の世界線、零の世界から分岐したミアなのだ。百年の長い眠りで本来の体を失い、それでも朔夜に会えることを夢見る機械少女の願いがついに叶う。

「へへっ、待ってろとはいえないよな」

 百年待たせたのだ。もう一人にはさせたくない。

 掌を水槽に合わせた瞬間、手首から赤と青のコードが飛び出し接続する。これも霧島博士の遺産か。自動でダウンロードが始まった。

 バトルスーツのOS、オモイカネにミアのAIがコピーされていく。ヘルメットのサブモニターに映るは、瞳を閉じる薄赤色したツインテールの美少女ミアの寝顔。

「むにゃむにゃ」

 安らかな寝息を聞き、ダウンロードが上手くいったと朔夜は胸をなで下ろす。

「帰ろうぜミア。皆が待っている」

 



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