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ミーア・オートマチック  作者: キサガキ


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15/32

覚醒 鋼鉄の鬼神。

 そうだ。ヨーヨーならば体液をかわして、攻撃出来る。だが……。

「でも残念ながらわたくしの鎧に、傷一つつけられない。そうね、例え貴方が隠し球を持っていたとしても、傷つければ分かってるわよね」

 ノコギリ刃を突きつけるレプリカの言うとおりなのだ。

 あの白濁した体液こそがサビの正体。卵やその周囲を守っていたピラニアの体内で満たされていたもの。

 そしてヨーヨーでは装甲を傷つけられないのも、また事実。それでも朔夜はあえて武器を変えずに使う。

 何故なら自分の勝利に絶対的自信があるからだ。

「イラつくわね、その俺最強だぜな態度」

 レプリカからすれば予想が外れた。他の人間と同じように、泣きわめき悲鳴をあげ無力を呪い死んでいく朔夜の姿が見たかったのだから。

「うん。だって俺最強だし」

「言ったわね。その痩せ我慢何処まて持つか、試してあげるわ」


 一定以上の距離をあけながら、二人は灼熱地獄を走り出す。ここがデットラインだ。越えれば錆びつく。

「ウフッ!」

 鎧から切り離され生きた弾丸が放たれる。

「うらぁっっ! 必殺大回転ッッ!」

 高速回転させたヨーヨーは身を守る結界だ。外敵の侵入を許さない。遠心力でパワーが増し、粉微塵に研磨する。

 能力発動のラインを超えてない為、体液を撒き散らす事無く削り節となった。

 体感で五メートル。レプリカ本体と距離を離せばいい。

 近づけば離れ、離れれば見失わない様追う。まるで幼子の遊戯だ。

 このままだと、決着には長期の時間を必要とするだろう。勝負の行き先は忍耐力にかかっていた。

 至近距離からの戦いを好む朔夜にとって、それは性に合わない。一方、レプリカは機械だ。飽きるという感情など無い。目的を果たす為に産み出された只の歯車である。壊れるまで永遠に動き続けるのだ。

「うふふっ。どんな戦法で来ようが長期戦になればなる程、わたくしの有利。勝利は確実となっていく。じわじわと距離をつめてあげるわ」

「へへっ」

「あらっ、絶望を感じ気が触れたかしら」

 朔夜が笑いだしたので、そう思ったのだろう。違う。最初から短期戦で決着つけるつもりだ。その為の布石。その為の時間稼ぎ。   

 今、巻いていた種が花開く。


「えっ……」

 突如レプリカの右腕が力を失った。次に肉体が動きを緊急停止する。トラブルが発生したのか。否、それは明らかに朔夜の攻撃であった。

「わたくしに一体……」

 続いて左腕と腹部が力を失い、ガクンと糸の切れたからくり人形はうな垂れる。

「一体何をした御門朔夜。これは貴方の攻撃よね」

 レプリカが疑問に思うのも無理は無い。何故なら動きを止める程の威力ならば、鎧はえぐれ発動した力がヨーヨーを錆びさせるからだ。ではどうやって、ダメージを与えたのか。答えは直ぐにわかる。

「おらぁっ!」

 朔夜は心臓にダメージを負い動きを止めたレプリカへヨーヨーを放つ。魚顔した兜へ命中するものの、今回もまたヒビ一つ入らない。だが朔夜は満足にうなずく。

 派手さは無く地味だがうまくいったのだ。全ての攻撃はレプリカに深刻なダメージを刻む。

「な、なにかしらこれ。体が軋むわ……」

 右腕が肩から外れた。それだけではない。左腕と胸部も関節ジョイントが砕け崩れていく。もう人の形を保てない。

「け、計算不能だわ」

 首の根元がグラグラと揺れるレプリカが見たものは、欠損した部位から流れ溢れだす白濁した体液。

「まさか!?」

「そうだ。そのまさかだぜ」

 ――内出血。

 超振動ヨーヨーの攻撃は身体表面で無く、内面へダメージを与えていたのだ。

攻撃を受けた鎧は一見ダメージ無さそうに見えるが、内出血により錆びて腐っていく。

 痛覚さえあれば、異変に気づけたのに。

 機械生命体はドンドン強くなっていく。だがそれはあくまでも学習し、バージョンを更新してるだけだ。

 生命体の持つ、喜び。怒り。哀しみ。楽しみの感情は理解出来ずプログラムで行動し、感覚も無く変わりにセンサーで反応するだけの只の機械。

 朔夜はそこに狙いを定めた。

 生き物にとって危険信号である痛覚が理解出来ないレプリカは、ヨーヨーの攻撃など単なる無駄と判断すると。


「……やれやれだ」

 戦いは朔夜が勝利した。目の前でレプリカは錆びていく。それでも表情が曇っている。いるのだ。未だに沢山のピラニア達が。

 本体は消滅した。エネルギー源を失った筈なのに、どうして動いている。

 考えられる事は一つ。本体から動力源のコアを切り離し、群れの中へ隠したのだ。

 そのタイミングは恐らく卵の時。あれは大きく目立つ。空に浮くなら尚更だ。朔夜の意識を向けさせるには、正にうってつけ。その間に周囲を泳ぐ群れへ、コアは移動した。

「まぁ弱点を抱えながら、バトルなんてするわけねぇか」

 機械生命体も必死なのだ。生存競争に勝利する為に。共存出来ない以上、地球に残るのは片方だけだから。

「さて次はどの手で来る?」

 読めない、ピラニア達は群雄体。どんな形にでもなれる。だが本体を倒しサビの力は封じた。あとはコアが隠れる一匹を見つけ、パイルで貫く。

「へっ、そうきたか」

 遙か頭上で残されたピラニア達が一つに集まり、異形な化け物になっていく。これが奴らにとって最強の手札なのだ。

「――聞こえますか。御門くん」

「おぅ。旦那無事か」

「――はい。全員カミシマへ避難完了しました。それと先程、助っ人がそちらへ」

 破壊されたシェルターの天井から太陽が見える。善も悪も生物も無機物も関係なく、母なる光は優しく大地を照らす。

 陽光眩しく紅蓮に輝きスポットライトを浴びて、四本角を生やした【彼女】がステージへ降りてくる。

「あぁ、速攻で来たぜ。無敵のアイドルが、よ」

 朔夜の前方へ颯爽と着地したのは、身長五メートルの黒鋼の鬼神。

 真新しい左腕の関節ジョイントは、舞姫に頼まれてジンがナルカミから持ってきた部品であった。

 大きく前方に突き出す胸部には、爛々と真紅のハートマークが浮かび上がっている。


「へへっ。張り切ってるじゃねぇか。ミア」

 朔夜の心に沸き立つは激情。口角をつりあげ笑い、鋭い瞳は涙で潤む。喜びと興奮で全身に流れる血が、熱く滾っていく。

「うぁおおおおおおおおおおおおッッッ!!」

 朔夜は叫ばずにはいられない。体外に吐き出さなければ沸騰する血潮で爆発しそうだ。ついに姿形は違うとはいえ、最高の相棒ミアと朔夜は再会できたのだ。

「ビルドインッッ!」

 スライドする胸部へ朔夜は飛び込む。

 ギアはバトルスーツの上から纏う巨大な鎧だ。レバーやペダル等、操縦機器は存在しない。ではどうやってこの巨体を操るのか。

 バトルスーツに赤いラインが浮かびあがり、各関節にフレキシブル構造の蛇腹が接続される。

「!」

 バトルスーツを通して朔夜の五感がギアとリンクする。朔夜の足は大地を踏みしめ、腕は風を感じる。耳からは炎で燃える音を聞き、鼻は失った命の匂いを知る。

「絶対許さねぇッ!」

 朔夜は巨大機械生命体GODとなった群雄体を睨んだ。

 アーマードギア零弎と一体化した朔夜は動きだす。

「いくぜッ! 俺は今猛烈に怒っているッッ!」

 百年間沈黙していた鋼鉄の乙女、機械少女ミアをバックパックで背負いファイナルラウンドが始まった。



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