一話
気がつくとそこに立っていた。
周りを見渡せば端があるかもわからない真っ白な空間。
上を見上げれば無数に広がる星空。
下を向けば誰もが見たことのある青い星。
……まあ、居眠り運転をしていたトラックに引かれた記憶が記憶が鮮明にあるから十中八九死んだんだろうが……。
「なんかあの世のセンス属性盛りすぎてて絶望的だな」
ーうるさいですよ、不破当麻。日本人の死後の世界はこういうものだと学んでわざわざ用意したのです。
突然頭の中に無機物な声が響く。
「うわ! びっくりした! 誰だよ!」
ーあなたたちの世界でいうと……神と呼ばれていますね。
普通なら信じないだろうが今いる謎の空間、頭に直接響く声、そして死に際の俺の記憶がすんなりと自称神の言葉を受け入れる。
ー理解が早くて助かります。あなたならこの後の展開も想像できていますね?
「異世界にいくのかな」
ー大正解です。
ピンポーン!と正解の音が鳴る。
無駄なことをしなくてよろしい。変な知識ばっかり取り込んでるな。
ーあなたは冷静で理解が早いようなので矢継ぎ早に説明してしまいますが、亡くなった人間の魂は普段なら浄化されて記憶を無くしどこかの世界で新たな生をもうけます。しかしあなたは我らの手違いで命をおとしてしまったため、特別措置として記憶を残したまま異世界に転移してもらいます。
「めちゃくちゃ短くまとめてくれてありがとう」
とんとん拍子で話が進んでいく。
もっと驚いたり、質問したりするとこなんだろうが特に言いたいことはない。
自分の性格が恨めしい。
「俺がいく異世界はどんなところなんだ?」
ーそうですね……。あなたがしていたゲーム「ドラコンファンタジー」と同じような世界観だと思ってもらえれば大丈夫です。
「ドラコンファンタジー」か。魔王率いる魔王軍と勇者が率いる人間が長きにわたり戦っているゲーム。まあ俺が思い浮かべている普通の異世界だと考えてもよさそうだ。
「で、チートみたいなのもらえるの?」
そこが一番重要だよ。
変に転生学んできたならそこらへんも用意しててくれよ。
ーもちろんです。私はあの世界の神達とは違ってバーゲンセールでお届けします。
あの世界の神達ってなに? まさか小説とかアニメの中の神様さしてしてるわけじゃないよね?
「それでどんな能力もらえるんだ! 全ての魔法使えるようになるとか、フィジギフになるとか? それとも別の種族になって取り込んだ相手の能力つかえるとかか!」
まあどんなことがあろうが俺も男の子。チートがもらえるとなれば心がおどらずにはいられない。
バーゲンセールと言ってるからには期待に期待を重ねてもいいよね?
ー全部です。
「は?」
ーだから、全部です。
……全部ってなに? そういう能力名?
俺がさっき言ったチートとかじゃないの? ちょっと変化球な感じのチートなの?
困惑している俺に気づいたのか神は話を続ける。
ー私は異世界物を見ているときにずっと不思議に思っていたのです。なぜ他の者たちは魔法など筋力など特別な能力を一つしか授けないんだろうと。
ーだから私は全てを授けることにしました。思いつく限りの全部のチートを。
そりゃ世界壊すレベルの力をあげてたらクソみたいな物語になるだろという突っ込みはいったん置いといて…
「それ大丈夫? 正直そんな力もらっても持て余す気がするし、俺が悪人だったらどうするんだよ」
ーそこは安心してください。全てのチートは百段階で調節できるようにしておりますし、あなたが悪いことには使わないと信じておりますので。
至れり尽くせりかよ。
なんだよ百段階の調節って、スマホの音量調整でもそんなにねえぞ。
「あんた神様でよかったな……」
ーそんなに感謝されてももうなにもでませんよ///
褒めてねえよ。何照れてんだ。
人間だったら確実に騙されてたぞって意味だよ。信じるの一言でこんなイかれたプレゼント初めてだよ。
ーすみません。話すのが久しぶりで楽しくてつい長々と話しすぎましたね。
「亡くなったやつって全員ここにたどり着くんじゃないのか?」
そういえばなんで俺がここにいるのか聞いていなかったな。
別に悲惨な死とか遂げたわけじゃないのに。
ー話すと長くなるので省略しますが貴方がここにきたのはたまたまですね。
え、俺運でたどり着いたの?
ー普通なら死んだ魂は道を通って天に行くのですが稀に道から逸れてさまよう魂がいるのです。要するに迷子ですね。
「言い方考えろ」
せめて運命とかにしろ。迷子はしまらないだろ。
はぁと神はため息をつく。
ー最近はインフラが整備されてきて千年位迷子いなかったんですよねえ。はぐれた魂を案内するのが私の役目なのに。それがさみしくてさみしくて…。
神の世界のインフラって何? 俺千年ぶりの迷子なん?
ていうか慣れてきてどんどん口調砕けてきてるけどそれはいいのか。
ーということで楽しい時間をありがとうございました。そろそろ貴方は送り出されます。よければまた会いに来てくださいね?
「俺も想像以上に愉快な神様と話せて楽しかったよ。次もし会うときはまた死んで迷子になったときだろ。そっちから会いに来い」
そういうと神はふふっと笑い、辺りが眩い光に包まれ始める。
ー私は世界に直接干渉できませんので降り立つ場所は指定できません。降り立つとウィンドウが出て場所の名前と特徴が表示されますので必ずご確認ください。あと身体は全盛期の力が出せるよう二十代くらいに若返らせておきますね。
突然、光の中に人影が現れる。
その姿はまるで物語の聖女のような……
ーでは私の加護と共に、不破当麻が良き人生を歩めますように。
その声を最後に俺は意識を失った。
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「???の記録」
…………行ってしまいましたか。
誰もいなくなってしまった空間で一人悲しみに暮れる。
千年ぶりの客人。それが私にとってどれだけ嬉しかったことか。
最初は威厳を保とうとしましたがところどころ突っ込んでくれるので無意識のうちに砕けてしまいました。
あんなに楽しかったのは千年を振り返っても初めてかもしれない。
「ふふっ」
つい笑みがこぼれる。
あの方は次の人生をどう歩むだろうか。最初に降り立つ場所くらい確認しとこうかしら。
そう思いウィンドウを開く…
「……いや、なんとかして会える方法を模索したほうがおもしろいかしら」
神がこう一人の人間に執着するのはよくないのかもしれないがどうせやることもないし、もしまた会えた時の話題としてインパクトがある。
思い立ったら即行動。
私は開いたウィンドウをそのままにして光の中へと消えていった。
……そのウィンドウに赤い文字が表示されてるのも確認せずに。
〔最果ての島〕
〈特性〉チート使用不可