11 貴重な情報
少しすると清隆が夕飯ができたと呼びに来た。通されるとそこそこ立派な料理が並んでおり、清隆が作ったのかと聞けば首を振る。
「康君が差し入れで持ってきてくれたんです。康君は二番目に死んだ従兄弟の息子で、里津子ちゃんの従兄弟になりますね」
「普段から差し入れがあるんですか」
「いいえ、今日が初めてです」
「……」
ニコニコとさわやかな笑顔で答う清隆と、お通夜のような顔をした中嶋。
『いやまあ、そりゃあ怪しいよねえ』
どう考えても胡散臭い。里津子が叔母から食事に招待されて警戒した理由がよくわかる。何故急に差し入れを持ってくるのかと本人に問い詰めたい気分だ。
しかも中嶋の目の前には清隆の母がもぐもぐと康が作ったご飯を食べていて、ポツリと「じいさん……」と呟くものだからまだじいさんを殺し足りないのか、それともこの料理にじいさんの味でもするのかと喉まで出掛かかる。
いや、きっとこの家はじいさんが料理をしていてその味を受け継いだ康の料理に愛する夫の面影を思い出しているんだ、そういう事にしておこうと強引に自分を納得させる。
「食べないんですか?」
「胸糞悪くて」
「ですよね、さすがに僕も食べたくないです」
胸糞悪い理由の半分はお前の母親だとはさすがに言わずにぐっと堪えた。結局康からの差し入れの料理には手をつけず清隆に許可を貰い自分で作る事にした。と言ってもおにぎりと粉末スープしかないが。料理を食べ終えた母親を部屋まで連れて行くと言い清隆たちは席を外す。その間にささっと夕飯を済ませることにした。
『メニューがショボイ』
「いいんだよ、自分で作る時はこんなもんだ」
『さっさとお嫁さん貰ってください』
「世の中一人暮らしの人間に非常に生きやすい環境が整ってるから問題ない」
そんな事を話していると玄関の開く音がして誰かが入ってくる。田舎って他人の家も自分の家のように入ってくるな、と思っていると姿を見せたのは里津子だった。ジロっと睨めば眉をハの字にしてトボトボと寄って来る。そしてスっとスーパーの袋を差し出した。
「康が料理持ってったって聞いたから、代わりのもの持って来た。ちゃんと買ってきた惣菜だから変なの入ってないよ」
見れば惣菜の他に飲み物やお菓子も入っている。ついでに湿布と、封筒が一つ。
「これは?」
「携帯の弁償代」
中を見れば三万入っている。小さくため息をつき、袋だけ受け取り封筒は返した。
「金はいい、どうせタダ同然で新しいの手に入る。俺ガラケー派だから」
「珍しい」
「スマホにしたらやらなきゃいけない仕事が増える」
そういって里津子の額にデコピンをした。デコピンとは思えないバヂンという音が鳴り、里津子が額を押さえて屈みこむ。
「いったあ!」
「当たり前だ、痛いようにしたんだ。反省しろ」
『よく言うよ、デコピン一発でチャラにしてあげてるくせに。なんだかんだで優しいよねーサトちゃんって』
プッスーと息を噴出して笑う一華に同じくデコピンのポーズを見せると慌ててそっぽを向く。中嶋に一華を触ることはできないが、総弦なら触れられる。後で何か言いくるめて攻撃されてはたまらない。まして総弦など喜んで殴りかかってきそうだ。幽霊には人権なんてねえからという持論で相手が老若男女誰であっても彼は容赦しない。
「丁度いい、聞きたかったんだが何にビビってるんだ」
「気がついてたんだ」
「俺にタレコミしたのもそうだけどな。そうまでして俺を引き止めたい理由が何かあるのか」
「ただの独り言だと思って聞き流してくれていいんだけど、昔親戚の沙代さんって人が教えてくれたんだ。ウチの一族は呪われてるんだって。祠に封じた悪い霊がずっと私達を恨んでて、いつか皆殺しにしてやるって言ってたんだって。おじいちゃんも他の人もそんなの信じてなかったけど」
皆殺し。そのキーワードに中嶋は目を細める。
「その沙代さんってのはどの血筋なんだ」
「えーっと、おじいちゃんの一番したの妹。もう亡くなってるけどね」
清隆から教えてもらっていた相関図のメモを眺めると、まず清隆の父が長男、中嶋の部屋を盗み聞きしていた年配の男性が次男で里津子の祖父、その次が長女で今回3番目に死亡した女性でなので、兄弟の末っ子がその沙代という人物だ。
「ウチって御壬っていうでしょ? 本当は壬っていうのが体の身で、御身っていう苗字だったらしいよ。御身は生贄って事なんだって。それで祠の中にいるものから恨まれてるっていうのもあって御が恨みって意味の怨、『怨身』っていう意味にもなるって聞いた。生贄も恨まれてるのも縁起悪いからって明治くらいに苗字変えたらしいけど。祠が壊れて四人も死んだんじゃ、そういうのもあるのかなって思うじゃない」