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「何しやがるクソガキ」

「御免なさい、手にタランチュラがいたように見えたからつい」

「百歩譲って本当にそんなもんが手を這いずってたら俺が先に気づいてるだろうが」

「不感症なのかと」

「殺すぞ」


 頭をガシっと掴みギリギリと握力をこめるとさすがに里津子も悲鳴をあげる。


「いたたた! 痛い痛い!」

「テメエの蹴りの方がもっと痛ェよボケ!」

「まあまあ中嶋さん。里津子ちゃんは中嶋さんの命を守ったんですし」

「それ本気で言ってるなら蹴るぞ」

「あっはっは」


 中嶋、清隆、里津子のやりとり、というか完全にコントと化したその状況を見ながら一華は思う。結局のところ、中嶋は今日ここに泊まるしかないのだろうな、と。もし何か他の手段を講じようものなら全力で阻止されそうだ。一応この事は報告しようと、一華は小杉のところへと移動した。

 それを見届けた中嶋も諦め、今日は泊まる事を決心する。どうせ何をしても無駄だろうという気が中嶋にもするので大人しくしていようと思った。家の電話を貸してくれといったら電話線を切断されそうだし、車を貸してもらえそうな人をもっとよく探そうとしてもたぶん貸してくれない気がする。中嶋を鬱陶しく思っている連中よりも、好意的な人の数が少しだけ多いからだ。


(その団結力を遺産問題で発揮しろよまったく)


 おそらく解決の糸口が見つかるまで引き留めてくる。さすがに明日になればなんとかなると思うが。ムスっと利用していた客室へと戻り、今まで聞き取った内容を整理する。と言っても先ほども見た通り、役に立ちそうな情報などは特にない。どうするか、と考えている時になんとなく思った。


(もしかして所長も前来たときこんな感じの対応受けてめんどくさくなって幽霊騒ぎにしたんじゃ)


 こんな状況になってしまってはそれが一番手っ取り早いのは確かだ。証拠もいらない、警察も呼ばなくていい、ブン投げっぱなしにできる好都合な展開だ。そうしちゃおうかな、とうんざりと考えていると一華が戻った。携帯が壊れてしまったのでうかつに会話を聞かれるわけにはいかない。完全に会話口調の独り言をいう変な奴に見られてしまう。


 一華が憑依し、小杉とのやり取りを直接見せる。そこには帰り支度を済ませ、足早に事務所を出ようとする小杉がいた。


「ごめんね一華ちゃん。私これからおばあちゃんちに行かなくちゃいけないの。他の人は皆手空いてないし、サトさんには頑張ってって言っておいて」

「……」


 絶句する中嶋から抜け出し、一華はちょこんと体育すわりをする。今何の言葉をかけてもきっと中嶋には火に油というかガソリンというかむしろ爆発物といった感じだ。

 ポフっと力なく座布団を枕にして倒れこむ。そのまま少し動かなかったが、ギギギっと一華の方に首を向けると口元に小さく笑みを浮かべて(ただし瞳孔が開いてて怖い)小声で言った。


「ちょっと御壬家じゃない奴にとりついて、あそこの祠もう一個蹴っ飛ばして来い」

『サトちゃーん、気をしっかり』

「小杉含めて全員呪われろ……いやまあ、実際不貞腐れてもしゃあないか」


 納得はいかないがこうしていても仕方ない。でっちあげでも何でもとにかくここの連中に何かしら示さなければ何も進まないのだ。最終手段は佐藤のように祟り騒ぎにしてしまうか、と腹を括る。一華に手招きをして再び自分に憑依させた。


(正直これだけはやりたくなかったんだが仕方ない。死んだ奴らの魂が残ってないか探して直接話聞く)

(今はそれしかないですかね。それやるとついてきちゃうかもしれないですけど。昼間に親族の家と死亡現場回っておけば今私が行けたんですけどね)


 一華の単独行動範囲はあくまで自分が行った事ある場所だけだ。一度行けば何度でも一瞬で行けるのだが、行った事のない場所は誰かに憑かないと行く事ができない。

 悪霊の気配は中嶋にはわかる。意志の強さにもよるが、遠い所からでもわかることが多いのでこの敷地内に悪霊がいないのは間違いない。あの祠と思われる妙な気配が邪魔していて感度が鈍っている気がするが、ヤバそうな悪霊はいないようだ。


(そこまで考えてなかったからな。まあついて来たら総弦に祓ってもらうからいい。しかし何で死んだのか自覚なかったりすると浮遊霊になってその辺で歩いちまうから、いるかどうかは微妙だな)


 全員これといった外傷がないので、もし殺人なら犯人ともみ合ったりしていない限り相手の顔を見ていないだろう。本当に事故なのか、事件なのか、それとも祟りの類なのか。それだけでもはっきりさせる必要がある。

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