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8章 第2回定期テスト


授業中に単語帳を書き、完成した単語帳を毎日のようにホワイトボードで反復した結果、昨日行われた定期試験はほぼ完璧だったのではないかと思う。授業中にノートとともに単語帳を作成するのがコツだ。字は汚いがその時のエピソードを思い出しつつ単語が頭に入っている。そしてノートサイズのホワイトボードに反復して書きまくるのだ。脳で覚えるよりも先に腕の動きで覚える。暗記物の場合書ければいいのだから脳で覚える必要はない。腕で書ければいい。なのでひたすら腕に覚えさせる。

だが数学や科学になると話が変わってくる。数学の場合いかに問題を解くか。そして科学の場合いかに原理を理解してるかが重要だ。なのでその場合はルーズリーフに原理を書き、ホワイトボードにひたすらそのノートと同じ原理を書く。腕で覚えたら音読をして、脳の理解が追いついてくる。毎日ひたすらやっていれば出来なくはない量だ。そうしてコツコツ勉強したから学科試験に関しては問題なく突破できた。


「朝日奈さん頭もいいんだね」

「当然だろ。一緒に勉強したんだからお前はもっと頑張れ」

「うげえ。これでも頑張ったんだよ?」


点数が帰ってきたがどの教科も満点に近かった。陽は意外と勉強が苦手なのかほぼ平均的な点数で、卒業試験は大丈夫なのかと余計なことが頭によぎる。


そして暑かったはずの気温が、気が付けば肌寒く、そして本格的な寒さに入ってくる。

ついに行われるのだ。第2回飛行訓練実技テストが


事前に説明されたルールは前回同様1人だけ通信が使え、ゴールである島にたどり着く。だが一つ変わった点があった。


「1位を目指す場合は島にたどり着くだけでなく、最強と言われる赤い戦闘機を撃破してください。もちろん十人に残りたい場合はその戦闘機を撃破せず島にたどり着くだけでも結構です。今回は三十人落ちますので自身の実力と相談して対応してくださいね」


この間から私に似ている疑惑があるという紺野が淡々と説明していた。どう考えても似ていないので気にしないことにする。


「ちなみに島にたどり着かないよう生徒同士で交戦するのも構いません。島に着いた人が合格です。十人以上が島にたどり着いた場合は撃墜数などで合格者を決めます」


私はもちろん赤い戦闘機を狙うつもりでいるが、最強と呼ばれているということは他の戦闘機と違って容赦なく撃墜してくるのだろう。なので注意が必要である。


『朝日奈さん!僕もうそろそろ離陸みたいだから行ってくるね!』


皆さん驚くだろうがなんと今回の通信パートナーも前回同様に陽と組んでいた。私は1人で行こうと思ったのだが、陽の奴がどうしても私と組みたいというので……


『朝日奈さんが僕と話しながら飛行するの好きって言ってくれて良かった!今回も選んでくれてありがとね!』


ま、まあ私から声を掛けたが、きっと陽の奴も同じ気持ちだっただろう。1人で自主練したときに陽の声がないと違和感があった。寂しいと言ってるわけじゃない。無音だったんだ。エンジン音しか聞こえなくてひたすら空を飛んでるだけ。集中できていいと思ったが無音のほうが撃墜率が悪く、うるさい陽がいたほうがいい結果が出るので利用してるまでである。しかも毎日ご飯を作って食べさせてくれるし、部屋の掃除までしてくれる。陽の作るチキン南蛮は絶品なんだ。テストで落ちたらあのチキン南蛮が食べられなくなるのが嫌なので仕方なくだ。


「今日の晩御飯チキン南蛮がいい」

『昨日食べたでしょ!今日は餃子にしようと思ってるよ!たくさん冷凍したしね』

「最高。食べさせろ」

『まずは合格してからだよ。それじゃ離陸するから上で待ってるね』

「ああ」


離陸の重力にも慣れてきたのか顔色を悪くすることなく真剣な表情がモニターに写っている。夏休みに何度も離陸したもんな。走り込みだっていっぱいした。最初の方は何度も咳き込んだり苦しんだりしてきたがどんどんそれもなくなって、夏休みが終わってからはほとんど顔色が悪くなることはなかった。今日ももちろん私の前で薬を飲んでいたが、相当な長丁場にならなければ大丈夫だろう。


『朝日奈さん!今回も五月君の戦闘機に白い花が書いてるよ!ガラス越しに顔も確認したけどちゃんと五月君だった!』

「了解。なんであいつらそんなもん書いてるんだろうな」

『お互いを肉眼で見分けられるようにじゃないかな?後は他の人と連携しやすくするため?』

「別に五月と連携したい理由がないだろ」

『……うん。まあそうだね。お互いのモチベーションみたいなものなのかもしれないね』

「ふーん」


次のテストがあったら私も何か書いてやろうか。今回のテストで撃墜した戦闘機の数とか。そんなことを考えていると


『そろそろ朝日奈さんも離陸するんだよね!今回は二人で一緒に頑張ろうね』

「アホか。お前は島に着くことに集中しろ。今回は休憩スペースもないんだぞ」

『わかってるよ。でも僕も朝日奈さんの役に立ちたいんだ』

「絶対に前みたいなことするなよ。泳いで助けに行くのはごめんだからな」

『わかったって』


本当にわかってるのかコイツ。赤い戦闘機に手こずったら前みたいに自爆してきそうだ。まずはコイツを目的の島に置いとくために最短距離を選ぼう。

離陸の順番がやってきたのでオート操作で離陸する。ちなみに今回の順番は前回のテスト時の撃墜数ランキングらしい。私は最後から2番目。1番最後は。


『村雨くんも目印つけてるのかな?最後だから確認できないね』

「うるさい」

『今回こそ朝日奈さんが一位だって信じてるから!一緒に頑張ろう!』

「まずは島に行くぞ。着いてこい」


離陸して飛行が安定してきたので目的地に向かい加速する。今回は休憩地点のような島がないので燃料を考慮する必要がある。なのでクラスメイトに遭遇したとしても前回のような無茶はできない。まあいざとなったら泳いででも島に着くつもりでいるが。


『島までどれくらいかかるのかな?』

「さあな。とにかくお前は島を目指せ」

『朝日奈さんは?』

「お前が到着次第赤い戦闘機を探しに行く」

『そんなことしてたら村雨くんに先行かれちゃうよ?』

「お前は自分のことだけ考えてればいい」


キモイことを言った自覚はある。カメラを手で隠し陽に顔を見せないようにすると『朝日奈さん自分で言って照れてるの?』とバカにしてきやがった。ムカつくのでカメラを殴っておく。

ごちゃごちゃ言い合いをしながら五月に警戒しつつ目的の島まで一緒に加速した。


***


前と同じように陽の話をひたすら聞いている。夏休み初日に言った夏祭りの話や一緒に練習した時の思い出。そんなことあったなぁなんて思いながらひたすら地図を見ていた。


『もう夏が終わっちゃったけど今年は花火見れなかったなぁ』

「何言ってんだ。花火は年末にやるものだろ」

毎年花火は大晦日と呼ばれる年の終わりに行われる。箱の島の伝統で私が生まれた年からやっているそうだ。箱の島で夏に花火はやらないのに何を言ってるんだ。それとももしかして。

「線香花火の話か」


夏祭りの帰りに射的の景品で貰った線香花火を2人でやった。その時から陽のことを名前呼びしたんだっけな。あまり遠くないはずなのに寂しくなるくらい前に感じる。


『……そうだね。それも僕にとっては大切な思い出』


よくわからない間のような物があった。こいつなりに思い出しているのか。でも画面を確認すると切なそうで悲しそうな顔をしている。


「陽?」

『年末の花火、今年は一緒に見れるといいね。だから頑張って今日はゴールしなきゃ』


お前は一緒の学校じゃなければ私と一緒に花火を見てくれないのか。そう聞こうと思ったとき、レーダーの中に大量の戦闘機が確認できた。


「陽!ここから先敵がいる!かなりの数だから迂回するぞ」

『え?でも最短ルートなんじゃ』

「あんな大人数と戦って墜落したらどうする。2人乗りは無理だし、この距離から泳いで島に向かうのはキツイ」

『わかった』

敵に見つからないよう2人で急上昇して迂回しようとしたその時だった。

『朝日奈さん!!』

「どうした!?」

『……』

「おい!早く返事しろ!!」

『……っはぁはぁ、ねえ、みて、あれ』


何故か私に話しかける前に無音が襲ってきた。なんだこの言いようのない不安感は。

陽が指さした先を見ると赤い戦闘機がこちらに向かって猛スピードでやってくるのが分かった。しかし逃げようにも反対側には集団の戦闘機。どうするべきか。

そもそもこの赤い戦闘機とこの先にいる集団は味方なのか。よくわからない。しかし進まなければ島にはたどり着けない。


「陽。お前が先に島の方へ行け」

『え!?朝日奈さんはどうするの?』

「時間稼ぎだ。先にいる戦闘機の集団がお前を攻撃して来たら教えてくれ。クラスメイトなのか知りたい」

『でもどうやってクラスメイトか判断するの?』

「島の進行方向に向かっていたらクラスメイトの可能性が高い。みんなゴールを目指してるのに反対側に行くバカはいないだろ」

『わかった!朝日奈さん絶対墜落しないでね!』

「さっさと行け」


陽の顔色を確認するとあまりいい色とは言えなかった。しかしそんなこと考えている余裕はない。赤い光のような物体がこちらに迫っているのが分かる。上昇して上から狙い撃ってやろう。

優先順位を自分の中で決める。

まずは絶対に墜落しないこと。

その次に陽の状況を確認すること。

今赤い戦闘機を倒す必要はないこと。

燃料に気を配ること。

赤い戦闘機を再度肉眼で確認すると遠いからか小さく見える。しかしその動きに一点の迷いもなくこちらに向かってくる。とんでもないスピードで恐ろしい。手に汗が流れているのを感じたので冷静を保つために深呼吸を繰り返した。そして敵機が自分の射程範囲に入った瞬間、レーザーのボタンを押した。

空を切り裂いたようなレーザーは敵機に向かって一直線に貫いていく。しかし赤い戦闘機はそれを軽々とかわし、何事もなかったかのようにこちらに反撃してきた。

機体を横に傾けながら旋回し回避行動を取る。


「ううぅっ!」


重力が厳しい。少し右の主翼にダメージが入った。最悪だ。息を整えてる間にも容赦なく攻撃がやってくる。


「っはぁ、はぁ」

『朝日奈さん大丈夫!?』

「ああ。お前は無事か」

『うん!』


カメラを確認すると陽の顔色は先ほどと同じであまりいいものとは言えなかった。しかしカメラに視線が行ってしまったことで攻撃が左の主翼に当たってしまった。


「ぁあっ!」


熱い。苦しい。息が整わない。このままだと墜落するかもしれない。不味いことになった。いつまで時間を稼げば前に進める。陽の顔色はいつになったら安定する。敵の攻撃をひたすらに避けているとスピーカーから騒がしい声が聞こえた。


『朝日奈さん!さっき言ってた集団はクラスメイトで間違いないみたいだよ!』

「あ?」

『二つの戦闘機を前にしてどんどん島の方に近づいて行ってる!』

「戻るだけかもしれないだろ。なんで間違いないって言えるんだ」

『それが……』

視線をさまよわせながら言い淀んでいる。お前が迷ってる間にもこっちにはアホみたいに攻撃がやってくるんだ。さっさと言えと催促すると悲しそうな顔で『模様が見えたから』と言い出した。

『模様が見えたんだ。黄色い花と白い花。みんなそれに向かって攻撃してる。この間トイレにいた人たちだと思う。墜落するときに朝日奈さんが蹴り飛ばしたやつが見えた』

村雨と五月か。しかも周りにいるのは潰したいクラスメイト。この敵機をその集団にぶち込めば囮に使えるかもしれない。陽を確実に島へ到着させるためにはクラスメイトを囮にして回避するのはいい手だと思った。

操縦桿を握り急いで陽の方へ向かう。それに対抗するかのように敵機も追いかけてきた。逃げ回ってる間も容赦なく攻撃されているので旋回しつつ交わし続ける。


『朝日奈さんは赤い戦闘機倒せそう?』

「今の状況じゃ無理だ。島の近くでやるのがいいかもしれない」

『そんなに強いの?』

「ああ。クラスメイトとは比べ物にならない。逃げ回るので精一杯だ。だからお前は上昇して敵機の視界に入らないようにしろ。私はできるだけ低空飛行で村雨たちの所へ行く」

『わかった!墜とされないでね!』


カメラに向かってサムアップをして速度を上げる。しかし集団の方へ向かってる途中何故か赤い戦闘機が消えていた。


***


『朝日奈さん大丈夫?さっきよりは落ち着いてるみたいだけど』

「何故か赤いのが消えた。もしかしたら上昇してるかもしれない。今すぐ降下しろ」

『うん。でもこっちはけっこう大変なことになってきたよ!村雨君と五月君が複数を相手にしてるんだけどこのまま進むと巻き込まれそう』

「お前が巻き込まれそうなのか?」

『僕は遠くから見てるだけだから大丈夫!あ、朝日奈さんの機体が見えてきたよ』


ガラス越しに肉眼で確認すると陽の機体が低空飛行しているのがわかった。集団の戦闘機も確認しつつ陽の方へ向かう。確かにクラスメイト共は村雨たちを消そうと躍起になっているようだった。


「これでつぶし合ってくれればいいんだが」

『でも村雨君も五月君も本当に強いね。夏休み精一杯練習してきたはずなのにあの二人には勝てないよ』


確かに今の陽があいつらに戦っても勝てはしないだろう。しかし何故ここまで強い?夏休みは自主練に来ていないようだった。それに五月は以前に『練習する必要がない』と言っていた。

クラスメイトに狙われていることと何か関係があるのかもしれない。『お金』というワードが出ていたのも気になる。金一封で自分の練習用のコックピットでも購入したのだろうか。


『村雨君たちに勝つにはどうしたらいいんだろう』


気が付いたら陽の表情が暗くなっていたので気持ちが焦り始める。いつもみたいにバカ面でアホな話をしていればいいんだ。そういう意思を込めて私は本来の目的を思い出させてやることにした。


「お前は勝つことが目的なのか?10人に残ることが目的なんだろ?」

『そうだけど……僕が強かったらこんなのも2人で楽々乗り越えられるのにさ』

「最優先は自分の目的を達成させること。それはお前が今日のテストで生き残ることだろ?村雨と五月に勝つ必要がない」

『じゃあ朝日奈さんの目的は僕と組んでたら達成するの?』


私の目的は飛行探検家になるために1位になること。今回のテストで達成したいことは1位になることだ。そのためにコイツと一緒に戦って勝てるのかと聞かれたら『勝てない』と答えるだろう。だが。


「そもそも私は誰かと組むという発想はない。お前と組んでるのだって無音が嫌だから組んでいるんだ」

『え……?』

「だからネガティブなこと言ってないであの集団をどうやって回避するか考えるぞ」


少し気恥ずかしくなって画面を確認する。陽は目をまん丸にさせて驚いたような顔をしていた。しばらく固まったかと思うと嬉しそうな顔でカメラに向かってピースしてきた。


『うん!今日は絶対生き残るからね!一緒に花火を見るんだ!だから頑張って乗り越えよう!』


そうだ。それでいいんだ。チョキチョキと言いながら楽しそうにしてればいいんだ。

気持ちを新たにしていた時にクラスメイトの集団の中から赤い戦闘機がやってきた。


『あっ!朝日奈さん!あれ!』

「やはり上空からやってきたか。降りてきて正解だったな。お前は逃げることだけ考えてろ」

『でも!』

「あのクラスメイト共を囮にする。そっちに夢中になってる間にお前は島に急げ」

『朝日奈さんと一緒に戦いたいよ!僕だって夏休み練習したんだ!』

「だからこそだ。お前の目的は1位になることじゃない、十人に残ることだろ?だったら逃げれるときに逃げるべき」


納得してないない様子でガラス越しに目が合う。どうしても一緒にいたいと言ってくれるなら、こんなところで背中を預けるんじゃなくて、もっと楽しくて、明るくて、美しいことを共有したい。たとえばそう、さっき話に出たあれ。


「お前と一緒に花火が見たいんだ。だから私が指示を出したら先に行け。私もここで戦おうとは思っていない。適当にクラスメイトを囮にしてさっさと島に向かうつもりでいる」

『それは死亡フラグっていうんだよ』

「フラグってなんだよ。なんでもいいから私が引きつけてる間に先に行け」

『絶対花火見ようね。指示が来ても話し続けるから!花火がどれだけ見たいか朝日奈さんに話し続ける予定だからね!』


なんだそれ。バカみたいだ。お得意のラジオDJが始まるのか。お前の声は聞いてて心地がいいからな。今できる最適な仕事と言えるだろう。

操縦桿を握り、急速に高度を上げて赤い戦闘機の方へ向かった。


***


陽の言った通り村雨を攻撃しているのはトイレで見たカス野郎どもだった。ガラス越しに顔を確認したところムカつく顔がクソみたいな表情をしながらイキっている。本来だったらここで操縦席を思い切り貫くところだが、今はそんなことしてる余裕がない。


『陽。今混戦の中に入ろうとしてる。お前の話が他の奴らに聞かれて私が狙われるかもしれない』

『わかった。僕がどれだけ花火見たいかわかったでしょ?だから絶対一緒にゴールしようね!』

『ああ。少しの間待っててくれ』


陽の顔を確認して当たりを見回す。すると赤い戦闘機が容赦なく集団に向かってミサイルのようなものを打ち込んできた。それを回避するために近くにあった戦闘機の下に入り込んで逃げる。


『ぐわあ!』


聞いたことのある声。上空の機体を見ると黄色い花が描かれている。と言うことは。


『っ、おい、はぁ、はぁ、五月、どうやってあの赤いのぶっ壊す?』


村雨だ。この状況は使える。恐らく村雨は今私と距離が近くて会話が筒抜けなことを知らないだろう。混戦に乗じて作戦が聞けるかもしれない。

しかし他の奴らのどうでもいい会話も聞こえてしまうかもしれないので村雨の機体の下に張り付くことにした。


『零、今は戦わないで逃げたほうがいい。一度島についてから戦おう。ただでさえあいつらにやられてるんだから』

『はぁ?逃げたほうがいいわけねえだろ?島についてからじゃあの宇宙人に先越されるぞ』

『宇宙人もここじゃ戦わないよ。見た感じ泳ぐのも視野に入れておいた方がいい』

『やられるわけねえだろ!俺とお前だぜ?何のために改造されてここまで来たんだぁ?』


改造?何を言ってるんだ?改造したところでお前は喧嘩が弱いくせに何を改造したんだよ。飛行するにしても改造が必要なほど体力を消耗するわけでもない。

いや、そもそも改造ってなんだ。


『零は……零は改造したこと後悔してないの』

『するわけねえだろ?成功すれば大金がもらえるんだぜ?そしたらあんな生活とはおさらばだ』

『その生活から抜け出すために今から逃げるよ』

五月がそう言うや否や驚異的な速さで島の方角へと向かった。しかし赤い戦闘機がそれを待っていたかのように五月に向かって攻撃をする。潰し合ってくれるならこちらとしても万々歳だ。村雨の下に張り付きながら行動を追う。

『五月!』

『大丈夫』


しなやかな動きで交わしながらひたすら島の方角へ進んでいく。赤い戦闘機が五月一点狙いになったことでクラスメイト達の標的は村雨の方に集中された。


『ううぅ!』

『零!早くこっちに逃げて!大人数を相手にするのは2人そろってる時って言ったでしょ!』

『ンなこと言ってる場合じゃねえよ。ぜってえ潰してやる』


このままここにいるのは不味いかもしれない。村雨の戦闘機から離れて島の方角へと向かった方がいいだろう。先には陽もいる。五月に追いつかれたら不味い。


『陽!そっちに赤い戦闘機が向かった!気をつけろ!』

『朝日奈さん!でもこっちはもう島が見えてきたよ!』

『なんでもいい。とにかく島に着け!』

『あ?』


一瞬聞きたくもない声が聞こえてきた。村雨の耳障りな声。


『てめえ宇宙人か?なんで声が、ってそうか。混戦してるから……』


クラスメイトの猛攻を交わしながら村雨は反撃しているようだった。私もここでクラスメイトと結託して村雨を潰せば脅威が一つ減る。村雨から距離を取って攻撃しようとしたとき、クラスメイト達がなぜか私の方に向かって攻撃を仕掛けてきた。


「くっ……!」

『朝日奈さん!大丈夫!?』

『まあ俺を潰すよりもお前をヤった方が早いもんなぁ?どうだ?狙われ者同士ここで協力しないか?』


雑魚相手に協力などバカな発想だ。しかし周りを囲まれてしまいこの状況下で逃げ切るのは難しい。今一番近くにいて、かつ狙われている村雨と協力するのは一番確実な手と言えるだろう。私の心が嫌なだけで。


『まあそれ以外方法がねえよなぁ?』


ぶん殴りたい。私を攻撃してくるクラスメイトよりもお前をぶち殺したい。さっきの戦いで主翼がやられてなければこんな雑魚ども圧倒して先に行くのに。


「わかった。ここにいるやつら全員海に墜とすぞ。私は島に向かている方を墜とすから反対側のはお前が墜とせ」

『おーこわ!まあ任せてくれよ宇宙人さん?』

『零、背中に気を付けてね。やばくなったらそっちに向かう』

『五月の方は大丈夫なのか』

『うん。攻撃せずにひたすら逃げて島に向かってる。もう島も見えてきた』


つまりここでこいつらを潰して先に進めれば島が見えてくるわけだ。だが、五月が島の近くについたということは。


「気をつけろ。お前の方に赤い戦闘機が近づいてる」

『ありがとう朝日奈さん!島にもうそろそろ着きそうだから安心して!』


明るい声が聞こえてきて安心する。回避するためにできるだけ上昇して、やばくなったら下降して島まで泳いでいけと伝えた。

いったん大嫌いな村雨と協力してクラスメイトを海に墜とすことに専念した。


***

旋回して攻撃をかわしひたすらクラスメイトを狙い撃ちしていく。後ろを気にしなくていいのは楽だった。カメラを見て肉眼で確認してという作業は本当に疲れるからな。


『そっちはあと何機ある』

「もう3機だ。お前は」

『あと2機だ。遅いんだなぁ宇宙人は?重力のせいかぁ?』


ムカつく声でムカつくことを言ってくるので危うく攻撃しそうになる。

2人で協力したおかげか、クラスメイトがいなくなり残り1機となる。そいつの顔を確認すると陽に向かって殴りかかろうとしてる奴だった。

私はどうしても聞きたいことがあったので主翼を攻撃し、飛行できない状態まで持っていく。コックピットは狙わず、ゆっくり沈み行く状態のそいつに近寄った。


『はぁ、はぁ、とどめを刺さないのか?』


よく見るとコイツは最初の方に声を掛けてきたモブだった。下手に出て私に取り入ろうとしていた屑。やはり人間という生き物は信用できない。下手に出たと思いきやこうやって攻撃してくるのだからな。

しかし悠長に沈みゆく様を眺めている場合ではない。私には聞きたいことがあるのだから。


「なあ、どうやって金一封の金額を知ったんだ?」

『は?』

「金を狙っていると言っていたよな?しかも村雨だけでなく私も狙ってきた。私は金持ちではない。村雨は知らねえが」

『……哀れな宇宙人だな。教えてやるよ。それはな』

そいつが口を開いた瞬間だった。ガラスがレーザーで貫かれ、私の目の前で木端微塵となり消えていく。私の目の前から男どころか戦闘機そのものが粉々になって消えた。

『っぶねえなぁ!口割ったら賞金がパアじゃねえか』

唯一情報が得られそうだったのにクソみたいに邪魔される。悉くコイツは私を邪魔してくるな。憎くて仕方ない。怒りに身を任せて村雨を攻撃してやると反撃してきやがった。

『協力関係が終わったら即攻撃かよ。おっそろしいねえ』

「死んでくれ。賞金ってなんなんだよ。なんでお金ごときで陽が怪我をしなきゃならなかったんだ?天野兄弟も紺野も陽もお金の話を出す。飛行探検家は儲かるのか?金が必要だから飛行探検家になるのか?」

『宇宙人に話すことはねえよ。てめえをここで墜としてやる』

「それはこっちのセリフだクソ野郎」


お互いに攻撃の手はやまない。赤い戦闘機と戦う前に消耗は避けたいが怒りが収まらなかった。

上昇していた村雨が急降下して接近してくる。その間にもバカみたいに攻撃してくるがその動きを見逃さず急旋回して攻撃をかわす。

島の方へ水平に飛行し後方にいる村雨へ機銃の連射を試みる。しかし村雨は機体をローリングさせ、弾幕をかわしながらこちらに向かってきた。

今度はこっちが仕掛けてやろうと急上昇をしようとしたところ、モニターから嫌な映像が見えた。


『……』


陽が何者かに攻撃されている。カメラが乱れて苦しそうな表情がモニターに写っていた。しかし声が聞こえてこない。なんで。


「陽!大丈夫か!?返事しろ!!」


息を整えてるのか胸に手を当てて落ち着こうと必死になっているようだった。

今村雨と戦っている場合ではない。もしかしたら陽の近くに赤い戦闘機が来たのかもしれない。

一切の攻撃を辞め、最大加速で島の方へ向かう。すると同時に村雨からの攻撃も止んでいた。


***


レーダーを確認すると3つの戦闘機と島が見えてきた。ガラス越しに肉眼でも確認するとそれらしいものが見える。もうすぐだ。しかしこの先にいる3機は陽と五月と赤い戦闘機。何としても陽を島に連れて行かなくてはならない。

飛行を楽しむ間もなくひたすら島に向かって加速していく。燃料が底を突きそうだったが気にするものか。

近づいていくと、なぜ村雨が攻撃を辞めたのかがわかった。五月も攻撃されていたのだ。私と戦ってる余裕はないと判断して攻撃するのを辞めたんだ。

カメラで陽を確認する。顔色が悪い。さっさと島に到着させてクリアさせた方がいいだろう。

そんなことを考えていると赤い戦闘機はこちらに気づいたのか激しく攻撃してきた。


「うぅ!」

『朝日奈さん!』

「はぁ、はぁ、お前、やっと、追いついた、ひきつけるから、さっさと、島に行け」

『でも、このままじゃ朝日奈さん墜落しちゃう!』

「っ、はぁ、問題ない。ガラスがやられただけだ。露出したおかげで涼しいぞ」

『変なこと言ってないで朝日奈さんも島に向かおう!』

「敵は私にご執心のようだ。なんとか切り抜けて見せる」


そんなこと話してる間にも休む間もなしに攻撃してくる。まるで私をあざ笑ってるかのように。しかしこれはチャンスだ。もう島との距離も近くなっている。

上空へと上がり、陽に追いつかない程度で島に向かう。敵は私だけでなく村雨にも目を付け始めた。

不味い。ここで村雨に赤い戦闘機が墜とされてしまえばまた1位は村雨のものになってしまう。そんなことは許せなかった。

後ろを見ながら攻撃する。レーザーだと方角が読めてしまうので機銃でひたすら弾幕を張っていると村雨の機体に当たった。先に村雨をやってしまうか?

しかしそれは許さないと言っているかのように五月が私を攻撃してきた。明らかにわざとだ。そんな余裕はないはずなのに面倒な奴。村雨よりも五月のほうが警戒したほうがいいかもしれない。


『朝日奈さん!僕はそろそろ島につくよ!カメラで確認しているけど朝日奈さんたちもそろそろ島の上空に入るはず!』

「そうか。それじゃ泳いでいけるな」

『島につかなきゃ退学なんだからね。泳いで行けないこと考えてよ?』

「ああ」


決めるとしたらやはりここで決めなくてはならない。村雨にも五月にもやらせるわけにはいかない。絶対に私が1位を獲るんだ。

赤い戦闘機はとんでもない恐ろしいほどの速さでこちらに向かってくる。あのスピードでは急な方向転換は難しいだろう。だから、私は操縦桿を握りブレーキを踏むことにした。


「うぐっ」


加速していた戦闘機が急に止まったことでとてつもないほどの重力を受けた。しかし急ブレーキをかけて止まってやったから相手も止まることができないだろう。私に向かって一直線に戦闘機が突っ込んでくる。どんどん近づくにつれ狙いの的が大きくなるので狙い撃ちするのは簡単だった。

しっかりロックオンしたことを確認して容赦なくレーザーを打ち込む。

「消えてしまえ!!」

最大火力の燃料で放ったレーザービームは敵のコックピットを貫いたように見えた。

やったのか。陽にそれを伝えようとしたところ、壊れかけてた右翼の方にミサイルが飛んできた。

「ぐああぁああ!!」

『朝日奈さん!!』

主翼は回避したが、爆風で吹っ飛ばされた。体勢を立て直さないともう1発撃たれたら確実に落ちる。

陽に泳いでいく可能性が出てきたから引っ張り上げるよう頼もうとしたところ、必死な形相がモニターに映っていた。そして、嫌な光景を思い出す。

『どうしても朝日奈さんの顔が見たくなってここに来ちゃった』

『じゃあね朝日奈さん。いつかどこかで会う機会があったら、その時は、陽って呼んでよ。僕の名前。青島陽』

『バイバイ!』

まさかあの時と同じことをしようってんじゃないだろうな。私の役に立ちたいから。天野弟みたいに、この前の陽みたいに、無謀なことをして、役に立とうってんじゃないだろうな。

「陽!こっちに来るな!お前はゴールのことだけ考えてろ!」

『嫌だよ!朝日奈さん一緒に花火見るんでしょ!このままじゃ朝日奈さん墜落しちゃうよ!』

「墜落するかもしれないが島にはつく!だから!!」

『僕だって朝日奈さんの苦しい声聞きたくないんだよ!だから、だから僕も一緒に戦うんだ!』


何故分かってくれない。私はお前が無事ゴールしてくれないと安心して戦えないんだ。白い光を思い出してしまうから。

『僕のことを1番に応援できる人間になりたくてここに来たんだ』

きっとお前の中では納得できたとしても私はもう見たくない。だから、今決めるしかないんだ。私も苦しくない選択をするために。

ヨロヨロした飛行で敵の戦闘機に突っ込んでいく。きっとこのままではやられてしまう。でもそれでいい。

「陽。私が撃てと言ったら私の戦闘機に向かってレーザーを撃ってくれるか?もう燃料がない」

『戦闘機に?どういうこと?』

「ギリギリまで引きつけて、私の合図でお前が撃てば沈むはずだ」

『朝日奈さん……!もちろん!任せてよ!』

ありがとう。言葉にするのは辞めた。きっとこのまま私が頑張っても墜落してしまう。ボロボロになった赤い戦闘機は村雨と五月によって撃墜されるだろう。村雨に1位を譲りたくないから、陽の苦しむ姿が見たくないから、今から私は最低なことをする。陽は私を恨むかもしれない。だけど。

赤の光に向かって、操縦桿を握りしめ、モニターで勇ましい顔をした陽を見ながら敵に突っ込んでいった。

グシャという音とともに戦闘機がぶつかる感覚。きっと今ので大ダメージを受けたはずだ。

「今だ!撃て!!」

最大の声を出して陽がサムアップしたのが見えた。最高だ。そのまま私は赤い戦闘機とともに陽が撃ったレーザービームで貫かれた。自分の身体が下に落ちていく。ああ、海だ。どれくらい泳げるか。絶対にたどり着いてやる。お前と花火を見るために。

水の中に沈んでいく。身体が重い。必死に目の前の陸に向かって進んでいく。進め。進め。陽と一緒にいたいんだ。こんな気持ち初めてだから。大切にしたいから。伸ばした手の先には土をつかんだ感覚。必死になって陸に上がった。

それからの記憶はほとんどない。一瞬だけ大泣きしている陽が見えたと思ったが、涙をぬぐおうとして、腕が動かなくて、固まって、そのまま意識を失った。





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