4章 第1回定期テスト開始
ついにテスト当日がやってきた。連携相手である青島には『余計なことはするな』と何度も伝えている。2番目の島までは私が確実に守るから言った通りに動いてればいい。離陸する前に再度伝えると『朝日奈さん今世界一カッコいいんじゃない?』と調子のいいことをぬかしやがったので画面を殴っておいた。
『朝日奈さん。僕は今回着いて行くだけになるけどよろしくね』
「絶対2番目の島まで墜落するなよ。じゃなきゃ組んだ意味がないからな」
『役に立ってみせるよ!』
役に立つといっても燃料だけだがな。村雨は恐らく白メッシュと組んでるはずなので厄介だ。あいつは初日の訓練でも最後まで残っていたので、名前を確認すると五月有一郎という名前だった。撃墜数3位の奴だ。2位と3位で一騎打ちをしてほしいものだがそれも難しいだろう。まず2人とも私に敵意があるし、攻撃を仕掛けられることは予想しておいた方がいい。挟み撃ちにされたらたまらないからな。
『それでは皆さん。テストについて再度説明させていただきます』
先ほどまで青島が映っていたモニターが紺野に変わっていた。青島の楽しそうな顔を見ていたか……ってどうでもいい。一般男性の説明に耳を傾ける。
『地図でもわかる通り、目的地はかなり遠くに設定されています。燃料に注意して目的地までたどり着いてください。1位を狙いたいからと言って闇雲に燃料を無駄にしないようにしてくださいね。それでは離陸ボタンを押して空に向かってください』
皆一斉に!というわけにはいかないので、撃墜数が最下位の者から出発する。つまり一番最初は青島で、最後が私だ。村雨よりも後なのはラッキーだった。あいつもスピードを重視するだろうから私を待っている暇はないだろう。問題は青島の方だ。誰かに攻撃され撃墜されたら元も子もない。
『それじゃあ朝日奈さん!僕は先に行ってくるね!』
「……」
『いってらっしゃいくらい言ってよ!』
「どうせ後で追いつく。墜落するなよ」
『その心配はいらないよ!ほとんど動かないつもりだから!』
何だこの他力本願野郎は。どんどん先に進んで状況確認などをしてもいいはずなのに。
『確実にゴールしたいしね!朝日奈さんの役にも立ちたいから余計なことはしないよ!』
まあ、私の邪魔をしないならなんでもいい。モニターの中でサムアップをした青島は離陸ボタンを押し、『うぅ……!』と苦しい声を上げながら空へと飛び立った。
50人いるうちの最後なので離陸まで暇だ。その間に作戦をシミュレーションしようと思ったがそれができそうにない。
『ねえねえ朝日奈さん!今天野さんが僕の横を通り過ぎたよ!笑顔で手を振ってくれた!』
『見て!仮想空間なのに鳥がいるよ!攻撃しないように気を付けてね!』
『島までそれくらい時間がかかるのかな。お腹空かないといいな』
うるせえ。何だコイツ。なんでこんなに喋るんだよ。と、思ったがコイツは聞いてもないのによくしゃべるやつだった。忘れていた。しかし妙に聞き心地がいい。全く耳障りだと感じない。それどころか楽しそうな声に私自身が落ち着いていた。
「そろそろ出る」
『わー!やったー!朝日奈さんと一緒に飛行できるの楽しみだな』
「訓練でも飛んだだろ」
『それとこれとはまた違うんだよ!一緒に頑張ろうね!』
お前は何もする予定がないじゃないか。何を言ってるんだ。画面をパンチしてやろうと思ったが、楽しそうな顔を見てると心臓がざわざわして何もできなかった。そしてついに私の番がやってくる。
「じゃ、離陸するぞ」
『うん!』
紺野による一般的な離陸アナウンスが流れ、ボタンを押し空を飛ぶ。重力にも慣れてきたので離陸している間に青島の位置を確認する。
「お前ほとんど進んでないじゃないか。そっちに向かう」
『うん。みんなビュービュー僕の横を通り抜けてったよ』
「そうか。なにか変わったことはあったか?」
『うーん』
少し考えるということは気になる何かがあったということだ。何もなければバカそうな顔で『なかった!』って言うだけだからな。
「なんだ。早く言え」
『変わったってことでもないんだけど……』
「進路を確認したいから早く言え」
『あ、ごめん。あのね、最後に出た2人なんだけど』
最後に出た二人、2位と3位のはずだから村雨と五月だろう。あそこは組んでいるので何としても情報が欲しい。
『戦闘機の胴体の部分に何か模様みたいなものが書かれてたよ!』
「模様?」
『うん!先に出たほうが黒で縁どられた白い花で、後に出たほうが黄色い花だった!』
「花……」
メッシュの色が白と黄色だからお互いわかりやすいようにそうしたのか。だが通信機と地図でお互いの場所はわかるはずなのになんでそんなこと。地図を見ながら考え込んでると
『それともう1個わかったことがあるよ!』
「村雨と五月についてか?」
『ごめん!それとは違うんだけど、さっき天野さん、えっと結人くんのほうがね?飛行してる僕に近づいてお互い頑張ろうって言ってくれたんだ』
世界一どうでもいい情報だ。結人ってことは弟の方だろ。あいつならそういうこと言いそうだ。何故そんなことをわざわざ私に報告する必要がある。
『接近したら話せるみたいだよ!主翼が接触しないくらいでの距離感なら通信機なしでも会話ぐらいは出来そう!』
……意外と優秀じゃないか。なるほど。もし他の奴と連携を取りたいときは近づいたら会話程度はできるってことだな。
「行く方向が決まった。私についてこい」
『うん!ゴールまで頑張ろうね!』
何となく素直に返事をするのが嫌だったので、画面に向かってサムアップをする。
地図を見ると他の奴らはもういない。こちらもスピードを上げて目的の島まで向かった。
***
しばらく青島のどうでもいい話を聞きながら目的の島まで飛行する。地図を確認すると何機か先行して飛んでいるのが確認できた。
『それでね、その時見た映画なんだけど』
「青島、この先に戦闘機がある。クラスメイトの物かわからないから注意しろ」
『わっ!本当だ!朝日奈さんありがとう』
映画の話をしてないで地図くらい確認しろ。クラスメイトだとしても先制攻撃されたらまずい。燃料を2倍にするためにはコイツを守らなければならない。ダミーの物でもクラスメイトでも青島を攻撃されたら一発で終わる。青島に自力で回避できる能力があるとは思えないからだ。
「今からお前は上昇して待機だ。私が言うまで動くなよ」
『うん。わかった』
私が一気にやれるとしても2機までが限界。しかし相手は2機以上いるため慎重に考える必要がある。接近すべきかそのまま機銃でごり押しするか。
青島の存在に気が付かれないように一気に下降する。まずはレーダーでどのような状態になっているかしっかり確認してから攻撃しよう。もしかしたら相手同士で潰し合っているかもしれない。
徐々に近づきつつ画面で確認すると、最悪なことに味方同士である可能性が高い。距離が近いのは恐らく通信機を使えないからだろう。
このまま上昇して攻撃せずに通るのもありだが、青島が攻撃されることを考えると、やはりここで潰しておきたかった。
下降した状態のまま下から一気に狙い撃ちできる距離まで詰めていく。相手もいきなり攻撃してくるとは考えないだろう。狙いを定めてロックオンをする。固まってるおかげで誘爆したら2機落とせるかもしれない。できる限り、真ん中の胴体部分を狙っていく。
自分が狙いたい場所にロックオンができたので容赦なく機銃をぶっぱなした。すると見事1機爆発してその隣にいた機体も爆発させることに成功した。
しかし相手はこちらを攻撃してこない。可笑しい。なんで、そう思っていると、モニターから『うわあ!』という青島の叫び声が聞こえた。
「おいどうした!何があったんだ!」
しばらくしても返事がない。ずっと苦しそうな声が聞こえる。レーダーを確認するとあろうことか敵は上昇している青島の機体に近づいていた。
青島は鈍くさいので避けられないだろう。なので下から容赦なくそいつらめがけて機銃を撃つ。
『うぅっ、はぁっ、はぁっ』
「大丈夫か!?今ぶっ殺すから待ってろ」
『ゲホッゲホッ、うん、頑張って耐えるから……』
青島の苦しそうな声を聞くたびに心臓に嫌な音が鳴り響く。なんでこんな声聞かなきゃならないんだよ。さっきまで楽しそうな声しか出してなかったじゃないか。
『うぅ、ゲホッ、ふぅ、』
心臓がバクバク鳴り響く。イライラが抑えられず、急上昇して敵の戦闘機に近づいた。敵の無様なやられ具合を見たらすっきりするかもしれない。どんどん敵が近づいてくるのを感じる。それに合わせて攻撃の数も増えてくるが関係ない。ぶち殺してやる。
肉眼でコックピットが見えるところまでたどり着いた。レーザーで狙い撃ちして確実に撃ち殺す。ロックオンなんて待ってられなかった。肉眼でガラス張りの人をレーザーで狙い、容赦なく攻撃を仕掛ける。その瞬間燃え上がる人間。気持ちがよかった。なんだ。こうやってやればただ撃墜するだけでなく、人間がやられる瞬間まで見えるのか。後残りは何機だ?3機ある。1機は機銃で頭をぶち抜き、もう1機は両翼を撃ち落として海に落下させてやった。ゾクゾクとした感覚が身体を支配する。まるで自分は人の命を好き勝手に握れる神様の気分を味わえた。
ラスト一匹。コイツを潰して青島の所に向かおう。右の主翼をレーザーで狙い、飛行が不安定になったところで一気に敵に近づいた。敵の顔をよーく観察する。
髪の長い女だった。そうか。コイツの学校生活も私がこのボタンを押せば終わりだ。何も悪くないのに、ただ私に見つかっただけで学校生活が終了する。怯えた女の顔。とても興奮する。どうやって消してやろう。私の目の前に現れたのが悪い。青島に向かって攻撃したのが悪い。私の方に来ていればこんなことにはなっていないのに。楽に消してやったのに可哀そうな奴らだ。髪の長い女と目が合った。決めた。機銃にしよう。ボタンを押そうとしたその時だった。
『ゲホッゲホッ、』
青島が謎に苦しみだした。咳き込んだ音が私のコックピット内に響き渡る。
撃ちぬこうと思ったのに。本当にイライラさせる。私の邪魔はしないんじゃなかったのか。
そんなこと考えてる間にも青島のうるさい音が私を鈍くさせる。
「耳障りだ」
思わず声に出て、そのムカつきを発散せるために女の頭を狙って機銃をぶっぱなした。
「助けてっ!!わたしにはお金がひつ……!」
女の声が聞こえたと思ったらドガンという爆発音とともに目の前の戦闘機が爆発した。でも気持ちが晴れない。女の悲鳴をかき消すほどに青島の苦しそうな音がうるさかったから。
耳障りだから黙れと言うために青島のほうに向かう。機体を確認すると損傷をしていないようで安心した。
「おい青島。何やってやがる」
『うぅ、はぁ、はぁ、ごめんね。ちょっとゆっくりすれば治ると思うから』
「耳障りだから黙っとけ」
『ん、ふぅ、もう落ち着いた』
青島の苦しい声は聞こえなくなったのに、眉毛を歪めて笑っているのを見てどうしようもない焦燥感に襲われた。なんだよさっきから。画面だけでなく肉眼でも青島が見たくなってガラス越しに確認する。胸に手を当てて呼吸を整えているようだった。
『朝日奈さん、ごめんね。もう大丈夫だから出発しよう』
「ああ」
ガラス越しに満面の笑みでサムアップをしている青島を見ると、先ほど私に襲い掛かってきた焦燥感はなくなっていた。
***
かれこれ飛行して3時間以上たつ。その間にも青島はどうでもいい話を楽しそうにダラダラ続けている。学校を卒業したらラジオのDJでもやれと言ってやろう。
先に進むにつれて戦闘機の数が増えていき、そのたびに青島に声を掛け敵を容赦なく撃ち殺す。たまに悲鳴が聞こえるのがたまらなく興奮させた。また青島の苦しそうな声で邪魔をされたら溜まったものではないので、下降して逆走するよう命じている。すると先ほどのように青島が攻撃されることはほとんどなく、戦闘機を倒しながら2つ目の島までたどり着こうとしていた。
『朝日奈さん凄いね!今何機撃墜させたの?』
「知らん。そんなことよりもうそろそろ2つ目の島に到着する。着陸の準備しておけよ」
『もちろん!』
そろそろ2人での飛行も終わる。コイツをかばいながら進んできたので村雨達とは差がついてしまったかもしれない。だが長時間の飛行になるのでどこかしらで休憩しているはずだ。まさかこんなに遠いとは思わなかった。訓練時とは比べ物にならないくらい体力が消耗している。
島についたら少し外の空気を吸って深呼吸をしよう。身体が固まってるから走り込みをしてもいいかもしれない。
「着陸するぞ」
『了解!』
重力に圧をかけてくるが慣れたもので青島の様子を見る。するとぎゅっと目をつぶりながら胸に手を当てて何かに耐えているようだった。だがこちらには何も聞こえてこない。咳き込んでいるようにも聞こえるが、重力の影響か?スピーカーでは何の反応もなかった。
そんな私の考えをよそに無事2人とも島に着陸する。画面を確認すると顔色を悪くした青島が必死に呼吸を整えていた。
急いでコックピットを開け青島のほうに向かう。
「おい!さっさと降りろ!」
ガラスをどんどんと叩くと青島がこちらを向いた。手で輪っかを作ってコックピットが開く。
「ふぅ、朝日奈さん。ここまでお疲れ様」
「それはお前もだろ」
「うん。でも僕は楽しかったからいいんだ」
楽しかった?さっきまで苦しそうな顔をしてたのに。顔色を確認するとお世辞にも良いとは言えない色をしている。
「あ、これ?僕気圧にも弱いみたいで上昇したときにちょっと気持ち悪くなっちゃったんだよね。薬も飲んだんだけど上手く作用しなくて……でも外の空気吸ったらもう大丈夫!仮想空間なのに凄いよね!」
お前はこの学校を辞めてしまえ。前と同じようにそう言ってやりたかったが、ここで喧嘩をすると戦闘機を交換してくれないかもしれないので何も言うことは出来なかった。
「朝日奈さんはこれからどうするの?」
「少し走り込みをして最後の島に向かうつもりだ」
「えぇ!?走り込み?疲れてないの?」
「疲れたからこそするんだろ。身体がなまる」
「うへぇ意味が分からない」
「それはお前が走り慣れていないせいだ」
走り始めてから10年近く経つ身としては走らなければ身体が固まってしまうような感覚がした。走ると気分がすっきりして、身体も解れて、思考も整理できる素晴らしい運動だと思う。身体を軽くストレッチしながらあたりを見回す。
戦闘機が何機か置いてありその奥の看板には『道の駅』とでかでかと書いてあった。道の駅ではなく島の駅な気がするが、余計なことなので突っ込まないでおく。
身体も解れてきたのでいつもと同じようなスピードで走り出した。すると当たり前のように青島がついてくる。なんだよさっきまで顔色が悪そうにしてたのに。
「僕もついてく!しばらくしたらあそこでご飯食べようよ。僕お腹すいた」
「村雨に追いつかなきゃいけないから無理だ。走り終えたらゴールまで飛ぶつもりでいる」
「え!?でも村雨君はこの島にいると思うけど……」
「はぁ!?」
なんでそんなこと知ってる?と思ったが、そういえば戦闘機に謎の模様が書いてあると言っていたな。そうか。よく確認していなかったが私たちは追いついたのか。
「しかもね!朝日奈さんがいっぱい撃ち落としてくれたでしょ?だからこのままいけば僕も目的地までたどり着けそうだよ!」
心底どうでもいいな。コイツとはここでおさらばする予定なのでいつ発射しても問題ないはず。それにへまをしなければ島に行くには問題ない燃料は残してある。私のこれからの課題は村雨と五月をどう撃ち落とすかがカギになってくる。恐らく2対1で私のことを追い込んでくるだろう。
「はぁっはぁっ朝日奈さんいつまで走るの~」
コイツのことは無視だ。そもそもコイツは後はゴールすることだけ考えてればいいのだから私についてくる必要はない。その意味を込めてスピードを速めて置いていく。
「あっ!朝日奈さ~ん!!」
耳障りなのがいなくなったところで今後のことを予測する。私を集中して狙ってくるであろう戦闘機は2人。後の奴らは1位を目指しているなら私以外にも狙う必要がある。そいつらに村雨と五月を消してもらうのはどうか。だがしばらく様子見をしていると先を越されてしまうかもしれない。いや、村雨は私を狙ってくるだろう。訓練ではことあるごとに私を狙ってきていた。生徒同士での交戦が許されなかったので直接狙われることはなかったが、今回は私を撃ち殺すチャンス。そういうチャンスを無駄にするやつだとは思えない。それと同時に私もあいつを撃ち殺すチャンスなのだが。
そもそも私の燃料はどれくらい残っているのか。半分以上残ってたらラッキーだが青島がそんなに要領よく操縦できるか。色んな事を考えていたら先ほどの『道の駅』まで来ていた。青島が呑気にアイスを食べている。
「朝日奈さん!やっと戻ってきた!ここのアイス美味しいよ!バーチャルなのに凄いね!」
「食事じゃなかったのか」
「うーん、あんまり食欲がなくて……」
お腹すいたとか言っていたのによくわからん奴。アイスを食べてる青島を無視して戦闘機の方へ向かう。燃料をチェックして村雨たちが出発しているか確認しなくては。もしかしたらもう出てるかもしれない。
「朝日奈さんもう行くの?」
「ああ、確認したいことが終わったらすぐに出る」
「じゃあ僕も行こうかな」
「まだまだ戦闘機はここにたくさん止まってるぞ。それが全部出てから行け」
一番最後に行かなければコイツはきっと助からない。攻撃を受けたら咳き込んで終わりだ。あの狭いコックピットの中苦しんでる声が流れるのは不快なので安全なフライトをしてほしいものである。
「でも朝日奈さんが飛んでるところは見てたいからコックピットで待機してるよ」
「そうしろそうしろ。せっかくお前がここまで来れたんだ。無駄にするなよ」
「ありがとう!」
さっさと乗りに行こうと思ったら青島にグーの手を差し出された。なんだ?お前をぶん殴るぞという合図か?
「朝日奈さん!頑張ってね!」
「……」
ちょっとムカついたのでパーで思い切りつかんでやった。
「痛い痛い!」
「じゃあな」
青島を振り返りもせずに戦闘機の場所に向かう。他の戦闘機の様子を見てみると、胴体に白い花が書かれている戦闘機があった。さっき青島が言ってた五月の物だろう。じゃあ黄色いのは?辺りを見回してみたがどこにもない。
汗が背中を伝った。挟みこまれるか、先を越される。いや、村雨なら確実に私を狙い撃ってくるはずだ。ということは挟み撃ちにされる可能性が高い。
さっさと青島の戦闘機に乗り込み、上空へ飛んだ。
***
青島は意外と要領が良かったらしく燃料は半分ほど残っていた。これなら先頭になっても問題ないだろう。しかも余計なことに外を見渡すガラスに『頑張れ』と鍵のようなもので掘った痕がある。そんなことしてる暇があるなら戦えと言いたいところだが、コイツが戦ったところで墜落するのが目に見えてるので言っても無駄だろう。
『朝日奈さん笑ってる?』
スピーカー越しに聞こえる声。ムカつくほどに楽しそうだった。嫌な汗が引く感覚。これから2対1以上で戦うことが確定してるのに青島を見ていると不思議と頑張らなくてはと思う。気色悪い。
「村雨が私よりも先に出ていたらしい。もしかしたら戦うことになるかもしれない」
「そっか。目的の島はもう見えた?」
「まだだ」
レーダーを確認しながら青島のほうを見ると先ほどとは違って寂しそうな顔をしていた。私はその顔が嫌いだ。見ていると安心できないから。
「朝日奈さんごめんね。僕が弱いせいで1人で戦わなくちゃいけない」
アホみたいな理由で悩んでやがる。そんなことお前が話を持ち出してきたときからわかり切ってたことじゃないか。何を今更罪悪感にさいなまれてるんだ。
「お前はお前のやれることをやった。他の奴らよりも燃料にアドバンテージがある」
「うん……」
「じゃあさっきみたいに適当なこと話してろよ。気が紛れる」
「え!?朝日奈さんあれ聞いてたの?」
「聞いてたも何も勝手に流れてきたんだ。嫌でも頭に入るだろ」
「えっへへぇじゃあ僕の好きなアニメの話なんだけど……」
お前はそうやって呑気に笑ってればいいんだ。青島の声をBGMにしながら戦闘機の集団がいるところを目指した。
***
ついにレーダーから島が見えてきた。
青島のどうでもいい話をBGMにしながら島の方へ進んでいくと、戦闘機の反応が出てくる。先ほど見た時は7機だったのに5機になっているから誰かが戦っているのだろう。ぜひとも村雨も潰しておいて欲しいものだがそうもいかない。訓練時でも私を狙いながら27機墜としてるくらいだから腕がかなりのものだということが分かる。
様子を見て接近しようと思ったところ、青島の声が聞こえないことに気が付いた。おいどうした。さっきまで言ってた飯の話はどうなったんだよ。宇宙の帝王と戦ってるんじゃなかったのか。
モニターを確認すると、顔を歪めながら息を整えていた。青島の背景を見ると空が見える。コイツがもう飛んでるということは五月ももう出たということだ。最後に出ると言っていたからな。
「青島。もう誰もいなくなったのか?」
『うぅ、はぁ、はぁ、うん、そんなところ』
「ゴールにつくまで位の燃料は残しておいたはずだ。合格したいんだったら先頭は避けてゆっくり来るんだな」
『うん、ありがとね、朝日奈さん』
「こっちは島が見えてる。お前ももう少しだ」
こちらから声をかけてやったのに歪んだ顔が治らない。私の心臓もバクバクと鳴り響く。先ほどと同じく背中には嫌な汗が伝った。
村雨と五月に挟み撃ちにされるかもしれないのでレーダーを確認する。すると後ろからとんでもない勢いで2機の戦闘機が飛んでいるのが分かった。私よりも下降に飛んでいるから上下で狙われるかもしれない。状況を確認して集団の所へ向かう。私の戦闘機だと見た目で判断できる材料がないから集団に紛れ込んでしまえば、何かしら身代わりにできる。
集団の機体は5機のまま。奇数だからそのうちの1機が村雨である可能性が高い。後ろのが射程範囲内に入る前にさっさと片付けなくては。
私自身が集団を狙える範囲にやってきた。どれから狙うべきか。この状態では黄色い花を見つけるのは難しい。闇雲に狙って刺激すると厄介だ。そんなこと考えていると急にスピーカーがうるさくなった。
『うぐぅ、あつい、くるしい』
『そんなことしたって僕は裏切らない!』
『一緒に外に出るって決めたんだ!だから僕はここに来た!』
『お金で動くもんか!僕の、僕のやりたいことが……!いたっいたい、くるしい、』
『ゲホッゲホッうぅ、』
バクバクと心臓がうるさい。言っただろう。耳障りだって。黙っとけと言ったはずだ。聞きたくない。お前の苦しそうな声を聞きたくない。走り込みの時も、飛行してる時も、コックピットの中で1人苦しんでるのを想像したくない。だから黙れと言ったのに。協力してやったんだから
「うるさいから黙っとけ!」
思わず声に出てしまった。集中できなかったから。村雨を潰すことしか考えていなかったんだ。するとスピーカーから嫌な音が聞こえた。
『やっぱりお前はクソ野郎だな』
男の声がコックピットに響く。いつもより低い声。背中から冷汗が止まらない。青島が怒ったのか。しかしモニターを確認すると青島はぐったりしたまま。
『先に行ったと思ってたか?残念だったなぁ?後ろから撃ち殺してやるよ』
ねっとりとした話し方。間違いない。村雨だ。青島と接近してこちらに伝えてきてるんだ。とんでもない速さでこちらに向かっている2機は青島と村雨だ。まずい。このままじゃ青島がゴールできない。逆走して撃ち殺そうと思ったところ、先に進んでいたはずの5機がこちらに向かってきて来た。
私に対し、前からも後ろからも容赦なく攻撃されていく。途端に襲ってくる熱風。
「ううぅう」
熱い。苦しい。よく青島の奴は耐えられたな。身体がしびれるように痛い。だがここで終わるわけには行かない。後ろの村雨と前の集団。圧倒的に前のほうが近いのでそちらへ猛スピードで向かう。血が沸き立つような感覚に襲われたがそんなの関係ない。ばらけた5機の中から黄色い花が書かれてる戦闘機を見つけた。あいつが五月。先にぶっ殺す。集団の中に飛び込み、目の前に来た1機に胴体ごと相手の操縦席に体当たりさせてやった。
「あぁあっ」
「ぎゃあああ!燃え死ぬ!!焼け死ぬ!!」
ビリビリと下刺激とともに聞こえる断末魔。残り何匹だ?村雨と合わせて6機。そのうちの1機を身代わりにして私だと思わせることは可能だろうか。いや、やるしかない。
白い花の視界に入らず、かつ、奪えそうな機体。レーダーで選んでいると村雨と青島もこちらに合流しそうだった。3機がこちらに挟むように攻撃してきたので、2機は画面を確認せず肉眼で撃ち殺す。ドガンと爆発した隙に残りの1機の操縦席上空をめがけて体当たりをした。
ガシャーン!という音と主に訪れる傷み。苦しい。辛い。熱い。でもやってやった。私の機体は墜落しそうだが、相手は気を失っているものの機体はしばらく持つだろう。乗り換えるなら今だ。
コックピットに散らばった破片を取り出し操縦席から出る。相手の操縦席のガラスが割れていたので、誰だかわからない人間を海に放り投げて操縦席に座る。
ガラスに『頑張れ』と書いてあった青島の機体とともに、この戦闘機のパイロットも海に落ちて行った。
しかしこの状態だと青島がどこにいるのかわからない。つまり村雨からも私は墜落したと思われてるだろう。この操縦席の通信相手は誰だ?
モニターを確認すると、天野兄だった。
『ゆいと……?なんで、だいじょうぶなんかじゃ、だから、おれがあさひなさんをやろうっていったのに、ゆいと?ゆいと?』
運よく混乱しているようだったので白い花の方へ向かった。もう島につく。五月がついてしまったら肉弾戦になる。そうなると1位を獲るのが本格的に難しくなるだろう。先に五月を消さなければ厄介だ。残っているのは戦意が喪失している天野兄と村雨と五月。2対1になるなら今この状況がベストだと言える。私がこの機体に乗っていることを知らないんだからな。
狙うとしたら前にいる五月と村雨どっちだ。レーダーを確認していると、こちらに1機近づいてるのが分かった。胴体に花の模様はない。ということは青島か。なんでこっちに向かってくる。攻撃するつもりか。そういえばさっき村雨と何か会話をしていたはず。お金の話も出ていた。瞬間、青島がこの学校に来ている理由を思い出した。
『朝日奈さんには悪いんだけど、僕は学費のためにここに来てるんだよ』
『僕の家あんまりお金に余裕がなくて、ただでさえ喘息もちなのに薬代とか通院代とかかかるでしょ?お金がいっぱいなくなっちゃう。だから少しでもお金が節約できて、はやく社会に出れるようにこの学校に来たんだ』
今回のテストは何だった。金一封だよな。金は渡すから朝日奈を攻撃しろと村雨に吹き込まれたんだ。コイツがここにいる理由は学費が安いから。喘息なのを無理してでも通わざるを得ないのなら、私を攻撃してきても可笑しくはない。
ああ、ああ。これだから人間は大嫌いなんだ。いつも下手に来ると思ったら急に裏切る。青島はやっぱりそういう人間だったということだ。
頭の中が青島のことでいっぱいになった。
『だからさ!また僕と一緒に走ろう!きっとその時にはもっと体力付けとくから!』
『朝日奈さん凄い!!本物のパイロットみたいじゃん!凄い!本当に凄いことだよ!』
そんなこと考えてる間にも青島がこちらに向かってくる。攻撃すれば勝てるのに。あいつに撃ち落とされるわけがないのに。私はどうしても攻撃できなかった。だって、私が攻撃してしまったら、コックピットで1人苦しむんだろう。今日も最後に見た顔色は最悪だった。楽しそうにアホ面晒してりゃいいのに無駄に頑張ってしまうから。
墜落したら負けを認めて、1位の座はあきらめよう。
両手を上げようとしたその時、青島が操縦席を開けて止まった。
「ほら、何も抵抗しないからさっさと撃ち殺せよ」
「朝日奈さん。燃料がなくなったパイロットが最後にとる行動って知ってる?」
「島に着くくらいは残しておいてやったはずだ」
「もうないんだ。だからね。僕が知ってる歴史ではあることをするんだよ。でもその前にどうしても朝日奈さんの顔が見たくなってここに来ちゃった」
「は?」
「じゃあね朝日奈さん。いつかどこかで会う機会があったら、その時は、陽って呼んでよ。僕の名前。青島陽」
「何言って……」
「バイバイ!」
そう言って私に攻撃してくるのかと思ったらとんでもない勢いで島の方へ向かった。燃料がないんじゃなかったのか。黄色い花の方へ一直線に向かっていく。何だ、何をするつもりなんだ。頭が考えることを拒否している。青島の胴体が赤くなった。
一瞬、とんでもない光に包まれたと思ったら、雷が落ちたような爆発音が私の耳を貫いた。
熱風がここまで燃えるように飛んでくる。光った部分からは黄色い花の機体も、青島の機体も消えてなくなっていた。
自爆したことに気が付いたのは、白い花の機体が私を無視して通り過ぎた時だった。
怒りに全身が支配される。村雨の奴。この混乱に乗じて1位を奪うつもりなんだ。心のないやつ。大嫌いだ。殺したい。五月がいなくなった今肉弾戦でも問題なくなった。首元を蹴り倒して、顔面を踏みつけ、最後に破片で肺を貫いてやる。苦しませて後悔させてやる。
島に向かうために私も最大火力で島に向かう。するとそれを阻むように何かに攻撃された。村雨ではない。解放された操縦席がうるさくなった。
『お前のせいで弟が!弟が!死んでしまえ!弟を阻むお前なんか消えてしまえ!!』
ああ、そうか。天野兄か。忘れていた。でたらめに攻撃してくるせいで碌に前に進めない。島まであと少しだというのに。こっちは村雨を殺したくて仕方ないのに。今はお前の相手をしてる場合じゃないんだ。そんなことしてる間にも村雨がどんどん島に近づいていく。許せなかった。一気に急上昇して再度天野の機体に向かう。上から押さえつけるように操縦席を潰そうと思ったら上手くいかなかった。天野の機体に乗っかり、私と天野の機体は島に墜落した。
島へ放り投げられる身体。天野兄は泣きながら地面に転がり込んでいる。村雨は。その辺のとがった破片をもって村雨を探す。いない。青島の仇。早くこれで刺さなければならないのに。フラフラと彷徨っていると後ろから何者かに襲われかけた。気配を感じたので間一髪で避けられたが、顔を確認するとびしょびしょに濡れた五月だった。私と同じように鋭い破片を持って、死神のような形相で睨みつけている。
お前がいて青島はいないのか。死んでしまえ。1対1なら勝てる。ムカつきのあまり破片で胸を刺そうとした瞬間。
『今回の1位は村雨零さんになりました。おめでとうございます。島にたどり着いた方、テストを断念する方はヘルメットを外してご帰宅ください。お疲れさまでした』
カランという音が二人の間に流れる。もうお互いに攻撃しようなどと思っていなかった。
***
私は必死に走っていた。五月が泳いでここまで来たのなら、青島もまだ間に合うかもしれない。走って走って海を見ると、戦闘機のかけらがたくさん転がっていた。海に飛び込み青島を探す。すると浮かんでいる戦闘機に誰かがいるのがわかった。青い髪の男が主翼部分に身体を乗せている。
「うぅ、金髪か?」
天野弟。私がさっき海に落としたはずなのに気絶してなかったのか。それに何かを掴みながら何とかして浮いているようだった。
「さむい、さむくてどうにかなりそうだ」
掴んでいるのは黒いフワフワとした髪。青島だった。気絶はしているものの、まだここにいるということは島について叩き起こせば合格になるかもしれない。天野弟から青島を奪い取り、浮かんでいた戦闘機に載せる。
「なあ金髪、やっぱさっきの怒ってるか?」
「怒ってない」
そう言って天野弟も戦闘機にのせてやる。ダメ元で燃料を確認すると大量に残っていた。離陸はできないが、島まではこれを使っていけそうだ。エンジンを稼働させて島まで向かう。
「青島本当に無茶するよな」
「見てたのか」
「ああ。俺ずっとここにいたから青島の通信機とつながってたんだ」
ノロノロペースだが島に近づいていく。その間に青島が目を覚まさないかと思ったのだが、苦しそうな顔をしたまま呼びかけにも応じない。天野弟が身体をたたいたり、耳元で名前を叫んでもぐったりとしたままだった。呼びかけに諦めたのか、天野弟は気まずそうに「ごめんな」と言ってきた。
「お前、今回1位じゃなかったのに怒ってないのかよ」
「何に?」
「邪魔した俺たちに」
「さっきも言っただろ。怒ってない」
「でも俺が邪魔しなきゃ1位になれてたかもしれないんだぜ?島について目的を達成させられたじゃねえか」
そもそも村雨と五月の2人を地上で相手にすることは無理だったので島に着く前にどちらかを片付けておく必要があった。偶然そのタイミングで攻撃してきたのが天野だったというだけで別にこいつらのせいではない。元々テストも攻撃することは問題無いのだから気にする必要はないのに。だが、理由を言って慰めるつもりもないので適当に流すことにした。
「で?青島は目覚めそうか?」
「全く。っていうか陽って呼んでやれよ」
は?
「さっき聞いてたぜ?通信機越しにお前らの会話。目覚めたら一番に呼んでやれ」
一瞬突き落としてやろうかと思ったが、気が付いたら島についていた。私が先に島に足をつけ、青島を抱えた天野弟を引っ張り上げる。
「青島本当に大丈夫か?さっきから呼んでも呼んでも反応がねえんだ」
ぱちぱちと叩いてみても耳元で叫んでやっても何の反応もない。全く動いていない。いや、可笑しい。肺が動くはずだから、肩か胸が動くはず。恐る恐る口元に耳を当ててみると息をしていなかった。
「おい!青島!!息をしろ!!水を吐き出すんだ!!」
「え!?どうした急に!」
「コイツ息してない!」
「えぇ!?心臓マッサージしろ!!」
「心臓マッサージってなんだよ!」
青島が息をしてない現実と初めて聞く単語にどうすればいいのかわからなかった。口を開いて吐かせるために指を奥に突っ込んでも何も反応が得られない。どうしようどうしようどうしよう。必死に呼びかけてるのに。このままヘルメットを外しても元に戻らなかったらどうしよう。焦って天野弟と青島に呼びかけていると、何かに引っ張られた。
「うわあ!」
「どけ屑」
後ろに思い切り放り投げられ尻もちをつく。黒髪と金色のダサいメッシュが青島の身体に触っていた。
「クソ野郎!!勝手に触ってんじゃねえよ!!青島から手を放せ!!」
「黙って宇宙人さん」
「お前が宇宙人だろうが!ぶち殺してやろうか!!」
濡れた身体を白メッシュの巨大な男が押さえつけてきた。コイツのせいで動けない。先ほどの死神のような表情とは全く違って舐め腐ってやがる。天野弟は呆然とした顔で青島と村雨を見ていた。ボーっとしてないで何とかしろ。マッサージとやらをやってくれ。こいつらじゃ何するかわからない。
村雨と五月はなんでまだこんなところにいるんだよ。さっさと元の世界に帰れ。邪魔だ。青島に触らないでくれ。もしかしたらコックピットの中の暗い部屋で1人苦しんでるかもしれないんだ。お前らが触ったら余計に苦しむに決まって……
「ゲホッゲホッゴホッ」
青島のいつもの苦しそうな声。白メッシュを思い切り蹴飛ばして青島の方へ向かう。さっきまで息をしていなかったけど、水を吐き出して何とか息を吹き返したようだ。
「あれ……?ここは、まだ島?」
声が聴けたことに安心して、思わず目の前が滲む。良かった。間抜けな顔をした青島と目が合った。途端に安心したような表情に変わる。
「朝日奈さんゴールできたんだね。良かった……」
良かったのはこっちの方だ。でも上手く言葉にできない。何と言えばいいのかわからなくて視線を彷徨わせることしか出来なかった。手を握ってやるとそれに安心したのか再び目が閉じられる。
「おい青島!大丈夫か!!また息が止まったんじゃ……!」
「気を失ってるだけだクソアホ宇宙人。心臓マッサージもしらねえバカが戦闘機に乗るなんて恐ろしい話だな」
腕を握ると確かに拍動してるのを感じる。肩の動きも安定していて、表情も苦しそうではなかった。とりあえず青島が大丈夫なのを確認して村雨たちのほうを見る。
「まずは零にお礼を言いなよ。来なかったらどうなってたかわからないんだから」
「……」
「行こうぜ五月。味方に自爆させるなんて情けねえ真似する奴に用はねえ」
「零泣いてたもんね。泳いでここまで来たから許してよ」
「うるせえよ。おいクソボケ宇宙人!」
村雨が目の周りを赤くさせてこちらをにらみつけてくる。本当だったらその辺にある破片で喉を貫きたい所だが、青島のこともあるのでこちらも睨み返すだけにとどまってやった。
「次も俺が勝つからなぁ?せいぜい次のテストでも苦しめ」
「じゃあね宇宙人さん。もう味方を自爆させちゃダメだよ」
2人ともどこかに行く予定なのかヘルメットを外さずそのままどこかへ歩いて行った。
天野弟はプルプル震えながら寒すぎサムギョプサルなどと意味の分からない呪文を言い始めたので足を蹴ってやった。
「何はともあれ青島が無事みたいでよかったな」
「ああ」
「んじゃ俺たちもそろそろ出ようぜ?さみいから温まりてえよ」
「先に戻ってろ。私には確かめたいことがある」
天野弟と青島を放置して先ほど3人で乗った戦闘機へ向かう。どうしても気になることがあった。天野弟が青島と通信機でつながっていたと言うし、海の上に落ちてもあれほど燃料が残っていたんだ。しかもほとんど攻撃を受けた痕跡がない機体。
「なんだよ金髪。気になるじゃん……ってさっきの戦闘機?」
「メッセージだ」
案の定操縦席のガラスには『頑張れ』と鍵のようなもので掘った跡が刻まれていた。