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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【嫉妬】する機械人形
9/80

コッペリアがいる日常

 コッペリアが来たからと言って俺の日常が変わる事はない。

 普通に飯食って、学校行って補習を受ける。早く補習終わってバイトしたいな~。


 どれだけそう思っても俺の意思じゃ何1つ変わらない訳で、今日も学校で体育と言う名の体力作りが行われている。

 俺に関してはいつも通りの体力作りだが、コッペリアに関しては違う。

 コッペリアは戦えるので既に体育では戦闘訓練を行っている。

 だが周りが予想していた戦いとは多分違うと思う。

 だってコッペリアは足技で相手を一気に倒すのではなく、わざと手や足を狙ってじわりじわりと追い詰めていっているからだ。


「え!?ちょ!!待って!!」

「待つわけないでしょ」


 口調は普段と変わらないがドSの面が強く出ており、わざとクラスメイトの足元を狙っているので相手が逃げ惑う姿を見て笑みを浮かべている。


「ああ、そんな風に逃げていちゃダメでしょ。そんな情けない姿を見せられたら――もっといじめたくなっちゃうじゃない」


 相手をしている女子生徒は悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 コッペリアは獲物をいたぶって遊ぶ猫のように情けない悲鳴や泣いている表情を見て更に興奮している。

 コッペリアの戦い方を話には聞いていたが、趣味が悪いと言われるのも納得だ。

 走り終えてスポーツドリンクを飲みながら休んでいると、愛香さんから声をかけられる。


「コッペリアさんってドSだったんだね」

「だよ。まぁ戦ってる所を見るのは初めてなんだけど」

「そうなの?前世での友達だったんでしょ。てっきり知ってるんだと思ってた」

「話には聞いてたぞ。でも実際に戦っている所は見た事ない。前世も戦いとは縁のない人生だったからな」

「それもそうだね。一緒に戦わないと分からない物だもんね」


 愛香さんも何か飲みながら言う。

 でもコッペリアはまだまだ本気でもないけどな。話でしか聞いた事がないけど、コッペリアの本気は非常に厄介な物らしい。話に聞いているだけなので実際にどれぐらい厄介なのか実感できてないけど。


「でも話によるとあれでもまだマシな方らしいぞ」

「……本当?」

「だってまだただの物理攻撃しかしてないし、特殊能力だか何だかはまだ使ってないみたいだからな」

「ああ、そういう意味ね。やっぱりあるか、奥の手」


 どうやら英雄業界で当たり前のことらしい。

 俺にとっては必殺技とかそんな感じかな~っと考えているが、違ったらゴメン。ただの予想だから許して。


「奥の手ってやっぱり必殺技みたいな感じ?」

「そんな感じだね。でもここにいるのはみんな異世界出身だし、どんなものが1番強いかどうか考え方もバラバラだし、これと結論付けるのは違うかな。それに奥の手だけは本当に親しい間柄じゃないと知らない事の方が多いから結構秘密にしている人もいるしね」

「複数の必殺技を持ってることもあるのか?」

「そうだね。ブラフなのかどうか分からないけど、必殺技と言って気軽に出してる攻撃がそうかもしれないし、さらに先の奥の手があるかもしれない。多分本当に必殺技となったら気軽に発動できないだろうしね」


 現実的に考えるとそんなもんか。

 多分警戒している相手は味方よりもまだ見ぬアンノウン達に対してなんだろう。どんな異世界の、どんなラスボスが現れるのかさっぱり分からないのだから警戒して当然だ。

 他の人から見たラスボスは大したことないと良いが、この間の淫魔みたいに特定の空間でしか戦えない、対処できないだなんてチートを持っていれば警戒するのは当然だろう。

 そういえばベルにも必殺技ってあるのかな?眠るだったら面白そうだ。


 ――


 全ての授業が終わり、補習も終わるとコッペリアが何やら気に入らなそうな表情で俺の事を待っていた。


「遅すぎじゃない。あなたそんなに頭が悪かったの?」

「特別頭の出来が悪いわけじゃないが、英雄だのアンノウンについて俺は今まで勉強してこなかったから、その分補習って形で勉強させられてんだよ。コッペリアこそさっさと帰ればよかったのに」

「あら、冷たいのね。私より冷たいんじゃないかしら。せっかく私と一緒に帰れるというのにその名誉を自ら捨ててしまうの?」

「それはお前が一人で帰るのが嫌なだけだろ。それともあれか、お前ベタなのが好きだから一緒に帰ろうって感じだろ」


 俺がそういうと不機嫌な表情を作った。

 どうやら当たったようだ。

 そしてコッペリアは腕を組んで鼻を鳴らす。


「ふん。あなた昔のほうが優しかったんじゃない。前はこんなこと言わなかったでしょ」

「そうかもな。それじゃ帰るぞ」


 俺がコッペリアの手を半分強引に手をつなぎ、寮に向かって引っ張る。


「ちょっと。強引すぎない?」

「そう言いながらしっかり手を握ってるやつが何言ってるんだよ。せっかく友達が待っててくれたんだ。一緒に帰るぐらいいいだろ」


 そう言いながら俺はコッペリアの手を離さないようにしっかりと握って寮まで帰る。

 その間特別な会話はなく、ただ手をつないで帰るだけだがコッペリアの顔はちょっと赤くなっている気がした。

 そして一緒に帰ると寮母先輩が驚きながら俺達に言う。


「お、お帰りなさい。コッペリアさんも今日はどうでしたか?」

「彼がいるから特に問題はなかったわ。他の人間ってあんな感じなのね。いいデータが取れそうだわ」

「えっと」

「こいつ今までろくに人間と接してこなかったんで新鮮なんだと思いますよ。それよりコッペリア、そろそろ手放すぞ」

「あら、最後までエスコートしてくれないの?」

「お前の部屋も分からないのにどうやってエスコートすればいいんだよ」

「それもそうね。それじゃ教えるからエスコートしなさい」

「男子が女子寮に入るのダメだから。ちなみに女子も男子寮に入るのアウトだからな」

「しょうもないルールね。どうせ見てないところで不純異性交遊ぐらいしてるんだから意味ないのに」


 それはそれで偏見が過ぎませんか?

 寮母先輩もいろんな意味で顔を真っ赤にされておりますし。


「コッペリアさん!?そういったことはできるだけ口に出さないでいただけませんか!」

「あら、でも事実でしょ?」

「それは偏見です!!最低でも寮内でそう言ったことは無いようにしていますから!!」


 寮母先輩は大声で騒ぎながら言う。

 うんうん。最低でも寮内ではそんなことできないよな。

 学生ばかりの都市という事だけあり、この町では18歳以上じゃないと入れない店は非常に少ない。

 居酒屋は駅前にしかないし、PCゲームは性的な18禁ゲームは販売禁止、ギリギリゲームショップでR-18Gのゲームが置いてあるかどうかぐらいのものだ。

 しかもいちいち身分証明書を見せないといけないという面倒な取り決めもあるらしいので、ラブホテルみたいな場所もない。

 だからそう言った事を目的とするのであれば家族全員がいない状態で彼女を家に上げるとか、どこかの空き教室やろくに使われていない体育館倉庫しかないらしい。

 あとこれは本当に噂であってほしいが……最終手段は外でエロいことをするらしい。

 もし偶然クラスメイトがヤってる所見たら俺どんな顔で学校に行けばいいのか分かんねぇよ……

 マジでエロゲみたいなシチュエーションでしかヤれないくらい厳しい環境だ。


「固いこと言わないでよ。半分冗談よ、私はシュウの知り合いに用があるだけだから」

「用ってどんな用事ですか」

「彼が持っているぬいぐるみ、あれに用があるの」


 ああ、ベルに用があったのか。

 俺以外の7人は長い付き合いらしいし、久しぶりに会って何か話したい事でもあるのかもしれない。

 まぁ目の前の寮母先輩はそれで納得はしないが。


「彼のぬいぐるみですか?それならまた明日でもよいのでは?」

「どうせ明日もこの時間ならいいじゃない。それじゃお邪魔させてもらうわ」

「あ!ちょっと!!」


 そう言いながらコッペリアは俺の首根っこを捕まえて男子寮の方に向かってしまう。

 俺は引きずられながらため息を1つついてから言う。


「今のは強引すぎるんじゃないか?」

「別にいいでしょ。それよりもあいつとも顔を合わせて話しておきたい事があるから」


 そんなことを言うコッペリアはどか真剣な雰囲気をまといながら言う。

 こうなるとコッペリアを説得するのは無理そうなので俺は自室に連れていく。

 そして俺が帰ると俺よりも先にコッペリアがベルに向かって言った。


「よくも1番乗りを邪魔してくれたわね、【怠惰】」


 コッペリアの声に反応してか、ベルが大きなあくびをした後少しだけ目を開ける。

 開いたまぶたはほんのわずかだが、その目は非常に鋭く感じた。


「あぁ~、コッペリアだぁ。久しぶりぃ~」

「ええ久しぶりね。それよりもよく私の1番乗りを邪魔してくれたわね」

「邪魔なんてぇしてないよぉ~。ただぁ効率的にぃ来ただけだよぉ~」

「それが1番むかつくのよね……どんな手を使ったの。彼を探し出すだけでも大変だったっていうのに」

「シュウのぉご両親にぃぬいぐるみとしてぇ送ってもらったぁ~」

「……ちっ。その手があったか」


 いや、その前に俺の実家の住所を当然のように知っている方が謎なんだけど。

 俺の個人情報どこかで漏れてないよな?SNSなんてろくにやってないのに何で知ってて当然みたいな雰囲気出てるの?

 あとコッペリアがその方法で俺の手元に来た時、親にそういう趣味があると思われるからやめてほしい。


「ベルは抱えるぐらいの大きさだからいいけど、コッペリアの場合は段ボールのサイズ的に無理だろ。そんなデッカイ段ボール見たことねぇよ」

「あら?私はあるって聞いたことがあるけど」

「あったとしてもかなりレアだよ。さすがにその方法は諦めろ。そんでもって俺と一緒に学生生活なんて絶対できないだろうから今みたいに学生として入学した方が正解だと思うぞ」

「……それもそうね。怠惰のようにずっと寝続けるだなんて私にはできないわ。それに昼間はずっと一緒に居られるという事だし」


 機嫌を直してくれたようで何よりだ。

 それにしても何でもみんな俺にこだわるんだろう?懐かしい友達に会いに来ただけでいいんだよな?

 そのために異世界に来たというのはさすがとしか言いようがないけど。


「コッペリアもそろそろいいか?この時間帯に女連れ込んだって噂されると困るんだよ」

「あらどうして?私と一緒に居られるのは名誉なことでしょ」

「俺は小心者だから女連れ込んだと勘違いされて堂々としてられる肝っ玉はない。お前だって俺とそういう関係だと勘違いされるのは嫌だろ?」

「嫌だと思っていたら最初から来ないわよ。それとも本当にそういうことをして誤解じゃなくて真実にしてしまった方があなたも覚悟が決まるかしら」


 そう言って俺の事をそっと押し倒すコッペリア。

 俺はされるがままになっておとなしくベッドにあおむけになるが、俺はコッペリアに対して自分から抱きしめた。


「……シュウ?本気になってくれた?」

「そうじゃなくて、俺の考えを伝えたいから抱きしめただけ。確かにコッペリアの言うようにそういう関係になるのは嫌じゃないし、むしろ好きだ。でも俺はコッペリアの事を同時大切にしたいと思ってる。だからそう簡単にそういうことをしようとするな。俺はもう二度と勝手にいなくなるつもりはないから」


 そう抱きしめながら言うと、コッペリアはほんの少しの不満と、どこか安心したかのような声でそっとこぼす。


「そう。それなら少しやり方を変えてあげる」


 俺から離れながらも普段の少し威圧的な表情からは想像もつかないような優しい笑みを浮かべながら俺に言う。


「いずれあなたの方から私の事を襲わずにはいられないぐらい惚れさせてあげる」

「それはまた、とんでもない話だな」

「だって私から誘っても全然来てくれないじゃない。ならあなたの方から動いてもらえるようにするしかないでしょ」

「俺はお前の事を大切にしたいと言っただけなんだがな……」


 俺は苦笑いを浮かべているはずなのに、コッペリアの言葉がとてもうれしい。

 それに惚れるという意味だけならとっくに俺はコッペリアの虜だ。

 惚れたからこそ大切にしたい、ただそれだけだ。

 でもこれだけは口に出さないようにしている。ただの好きだと少しだけごまかしておかないと本当に襲ってきそうだからな。


「私だってあなたの事を大切に思ってる。だからこその譲歩よ。感謝しなさい」


 またいつもの威圧的な笑みに戻って少し勿体ないと思いながらもうなずいた。

 とりあえず今日はそれで満足したのかコッペリアは俺の上からどいてくれる。


「それじゃね、シュウ。また明日」

「ああ、また明日」


 そう言って玄関の方まで歩いて行って帰ってしまった。

 相変わらずだな、と思っているとベルが言う。


「僕はぁ~?」

「ベルの事も好きに決まってるだろ」

「それじゃぁギュっとしてぇ~。僕もギュ~」

「はいはい」


 俺の友達はどうも甘えん坊が多いらしい。

 コッペリアほどではないだろうけど、ベルが嫉妬しない程度に俺はベルが満足するまでギュ~をしてあげるのだった。

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