ベルとの暮らし
ベルのおかげで毎日安眠と快眠を楽しんでいるおかげか、かなり体調が良くなった。
慣れない環境のせいかなかなか眠れず、結局起きて動画を見たりゲームをしてしまったりで寝れていなかったのだ。
でもそんな悪循環もベルおかげで改善されたので最近授業で居眠りをしなくなった。
流石に体育で疲れた後は別だけど。
ベルとの共同生活はぶっちゃけ何もない。
基本的に寝てばかりだし、授業中は俺の部屋で寝ているだけ。夜は少しだけ起きてちょっとおしゃべりをしてからまた寝るの繰り返しなので手間が一切かからない。
色んな意味で楽過ぎる。
そんなある日、俺は愛香さんに声をかけられた。
「柊君最近顔色良くなったね。何か良い事あった?」
そんな事を聞かれた。
特に隠す事もないので正直に言う。
「最近安眠できるようになったからそれで顔色が良くなったんだと思う」
「ようやく学園に慣れてきたって感じだね。最近は体育の後にしか居眠りしてないし」
「その件は申し訳ありません」
「仕方ないよ。私達みたいにずっと訓練を続けてきた訳じゃないから。あとお願いあるんだけど……」
急に声の音量を下げて耳を貸す様にジェスチャーされた。
何だろうと思いながら耳を愛香さんに向けると、そっと話してきた。
「寮母先輩に聞いたんだけど、家から可愛いぬいぐるみが送られて来たって本当?」
その言葉を聞いた後、お互いに顔の位置を戻すとつい苦笑いをしてしまった。
寮母先輩何言ってるんだよ。
隠している事ではないが、話す事でもないだろ。
「まぁ。なんだ。事実です」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ。誰だって可愛い物は好きなんだから。それでお願いなんだけど、そのぬいぐるみ今度見せてくれない?」
そう愛香さんに言われた時、背筋がものすごくぞわっとした。
何となくだが他の男子からの殺気だと思う。
あまりにも恐ろしいので振りむいて確認とかしたくない。振り向いたら殺される様な気がするんだ。
でも結局のところ、この質問に対して答えなければならない訳だし、見せるぐらいなら大丈夫かな~っと思わなくもない。
「えっと、良いぞ」
「ホント!ありがと~。私も可愛いの好きなんだよね。あの雫先輩が女子会の時に何度も可愛かったって言ってたから気になってたの!それから雫先輩とか他の女子達から写真が欲しいって言われてるんだけど、撮ってもいいかな?」
「まぁいいよ。ただのぬいぐるみだし」
こうして俺は他の男子達の殺気を受けながらも愛香さんを部屋に招く話になってしまった。
いやね、他の男子が怖くない訳じゃないけどさ、流石にストーカーチックな事はしない――
「君に盗聴器を付けさせてもらった。愛香さんに変な事したらみんなと話し合いだよ」
………………はい。
やっぱこの学校の連中怖えよ。
クラスの男子がすれ違いながらどこかに盗聴器を仕掛けたらしい。いったいどこに仕掛けたのか分からなかったが、探して外したらもっと怖い目に遭いそうな気がする。
しかも今までとは本気度が違う。手段を選ばない所が特に怖い。
背筋がぞわぞわとなりながらも俺はうんと言ってしまった以上連れて行くしかないのであった。
――
「悪いな、補修終わるまで待ってもらっちゃって」
「あんまり気にしなくていいよ。ぬいぐるみの事を他のみんなと話してたからすぐ時間になっちゃったぐらいだよ」
そう言いながら一緒に歩く。
誰かと一緒に帰る何て小学校以来だな。中学からは部活とかでバラバラになりやすかったし。
そう思いながら特に会話もなく帰る。
特に何もなく俺の部屋に着いてベルを見せた。
「ほら、これが例のぬいぐるみだ」
「可愛い!!写真撮っていいんだよね!」
「写真だけならいいぞ」
そういうといろんな角度からベルを写真に収める愛香さん。
確かにベルは可愛いと思うが……そんな興奮するほどか?
女の可愛いは暴走すると面倒とは聞いた事はあるが……実際に目の前にしてみると本当に大変そうだ。
「抱っことかもしてみていい!?」
「どうぞ~」
ベルには悪いがしばらく愛香さんが満足するまで愛でられてもらおう。
満足するまで俺はカバンの中身を片付けたり、手を洗ったりする。
その間愛香さんはベルに夢中で俺の事なんて一切目に入っていない。しれっと着替えをトイレに持っていって着替え終わってから小さい冷蔵庫から水を取り出して飲んでいると、愛香さんが満足そうな表情をしていた。
「満足した?」
「満足……でもやっぱり意外だね。柊君あまりこういうの興味なさそうだから」
「かなり昔からあるぬいぐるみだからな。子供の頃はおもちゃとかぬいぐるみとか関係なく、気に入った物は欲しがってたからな」
「へ~。でもこれってクレーンゲームで取ったんでしょ。この大きさだと大変だったんじゃない?」
「確か……倒れてそのまま落ちて来たって感じじゃなかったっけかな?よく覚えてないけど」
思い出すように言うがほとんど嘘だ。
ぬいぐるみとか関係なく欲しい物をねだったのは事実だけど、クレーンゲームで手に入れた訳じゃない。
愛香さんは抱きしめていたベルを俺に返してからベッドから立ち上がった。
「満っ足した!それじゃベルちゃんの写真はみんなと共有させてもらうけどいいよね?」
「いいぞ。写真ぐらい」
「ありがと!それじゃまた明日ね!!」
そう言って愛香さんはあっさりと部屋に帰っていった。
これでゆっくりできると思っていたら、ドアをノックされた。
「なんだ?忘れものか?」
そう思って開けたらクラスの男子達だった。
「君が愛香さんに何もしていない事は証明された。盗聴器を回収しに来た」
「そ、そうか。証明されてよかった」
そして俺に盗聴器を付けた彼が俺の制服からほくろみたいな盗聴器を回収し、あっさりと帰った。
本当にあんな盗聴器とか存在するんだな……スパイ映画とかでしか見た事ねぇ。
とにかく他の男子達から粛清される事なく無事に済んだのだからこれでいい。
そう思ってベットで横になると、ベルが話しかけてきた。
「今の女の子ぉ……彼女ぉ?」
「違うよ。ただのクラスメイトだ。あえて言うならベルのファンだ」
「僕のかぁ。ならよかったよぉ~」
「何が?」
「コッペリアがぁ嫉妬しそうな話だからぁ」
「え、あいつも居るの?」
「多分~。この学校にはぁ居ないとけどぉ」
それを聞いて俺はほっとした。
コッペリア。ベルと同じように出会った友達。
女で色々と嫉妬深い性格だったので面倒なのだ。
「それじゃそれでいい。というかそう簡単に全員集合になるとは思えねぇ」
「どうだろぉ~?案外ぃ早く一緒になるかもぉ」
それは個人的には嬉しいが、騒がしい学校生活にもなりそうだと簡単に予想できる。
特にコッペリアは人間として生まれてくる可能性は低いか。
あいつの言葉を信じるのであれば人間として生まれては意味がない。
「まぁ~そのうちぃ君に会いに来るだろうけどねぇ~」
「そうなったら幸せだな」
もう会う事はないであろう友達と会う。
それはきっと素晴らしい事だ。