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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【怠惰】なぬいぐるみ
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段ボールで送られてきた友達

 今日も放課後の補修を受けて疲れて寮に帰ってくると、1人の女子生徒に呼び止められた。


「柊さん。君に荷物が届いてますよ」


 そう呼んだのは2年生の先輩、天音あまねしずく先輩。あだ名は『寮母先輩』。


 何故こんなあだ名がついているかと言うと、先輩はこの寮に住みながら寮母の手伝いをするバイトをしているからだ。

 この輪廻学園のアルバイトはいくつか存在する。放課後教室や廊下を掃除するバイト、購買のバイト、食堂のバイト、そして寮のバイトが存在する。

 先輩はその寮母の手伝いのバイトを中学1年の頃からしていたらしく、歴代寮母達よりもずっと寮を管理してきたらしい。

 そのため先輩の事をよく知っている人から『寮の真の支配者』『寮の裏ボス』『寮母・ザ・寮母』などと言われているとか。


 髪は水色で瞳は日本人と同じく黒い大和撫子。

 落ち着いた雰囲気もあるが、怒らせると怖いという事と、エロい話に耐性がないとクラスの男子から聞いている。

 あと誰にでも敬語なのだとか。


 そんな先輩の手には段ボールが抱えられていた。

 女性の胴体を隠してしまうほどの大きさなのだから結構大きいと言っていいだろう。


「俺宛ですか?」

「はい。相手方の住所に見覚えはありますか」

「えっと……あ、実家からだ。ここで開けても?」

「いいんですか?ご実家からなら何か頼んでたのでは?」

「何か送ってくれなんて頼んだ覚えないんですけどね……なんだろ?」


 そう言いながら筆箱の中からカッターを取り出し、開けていく。

 そして開けた段ボールの中には何か巨大な物と、1枚の手紙が入っている。

 まず手紙の方を確認してみると母親からだった。内容は『いい加減電話とメールに出ろ!!』と言うお怒りの手紙であった。

 確かにここの所電話やメールに気が付いていても、すでに夜中だから~っと全然返信していなかった。

 だからと言って何かと一緒に手紙を出さなくてもいいのではないかと思う。


 それにしても……このデッカイのは何だ?

 段ボールを床に置き引っこ抜くと、出て来たのは巨大なぬいぐるみだ。

 丸っこい二頭身で顔は眠っている感じで、小さな手足で卵型の時計を持っている。あと頭にはヤギの角と背中には小さなコウモリの様な翼もある。


「………………マジか」

「か、可愛い」


 そう呟いた先輩を脇に、俺は思いっきりため息をついた。

 何でこれが届くのかな……


「え~っと。この段ボールはどんな風に処分すればいいですかね?」

「え?ああはい。ここで出したので私の方で処分しておきますよ。あ、でも一応ご住所が書いてある部分だけはご自分で処分してください」

「分かりました」


 段ボールに張られた俺の実家の住所が書かれているシールをはがす間も先輩はこのぬいぐるみに目を輝かせている。

 どうやらクール系の先輩もこういった可愛い物が弱点だったらしい。

 女の子らしいと思っていると、その視線に気が付いたのか慌てて咳払いをしてから俺に言う。


「んん。それじゃそのぬいぐるみは部屋に持って行ってくださいね。あと出来ればですけど、どこで購入したか教えていただけませんか」

「あ~すみません。これ確かかなり前にクレーンゲームで落とした景品なんですよ。だからどこで売っているのか分からないんですよね」

「そうでしたか。それは残念です。それではこちらの段ボールはこちらで処分しておきますね」

「はい。よろしくお願いします」


 こうして入り口の前で俺は家から送られてきたぬいぐるみを持って自室に帰るのだった。


 ――


 俺は自室にそのぬいぐるみを持って来てベッドの上に置く。

 そのベッドの上に置いたぬいぐるみの真正面に座り、ぬいぐるみに向かって話しかけた。


「お前どうやって来たんだよ。まさか本当に家から送られて来たとか言わないよな」


 俺はぬいぐるみに話しかけるほど子供ではない。

 それでも見た目はぬいぐるみに話しかける男子生徒だからとてもシュールな光景なのは間違いないけど。

 ぬいぐるみは口を開けて欠伸をした後、間延びした口調で俺に聞く。


「ふわぁ~。あ、着いたんだぁ。おはよぉ」

「はいおはよう。そんで本当にどうやって来たんだよ」

「えっとね~。君のお母さんの所に行ってぇお願いしたの~」

「お願いしたの~じゃねぇよ。よく母ちゃんも送ってきたな」

「いいお母さんだね~。僕と君の関係を話したらぁ送ってくれた~」

「どんな関係って言ったんだよ」

「お友達ぃ~」

「そう……か。ありがとな」

「何でぇ~?」

「お互いに友達だって思っている間柄って意外と少ないらしいから」


 俺は友達の隣に座り直した後、友達を膝の上に乗せて抱きしめた。

 友達はくすぐったそうに身をよじった後、また欠伸をする。


「ここは良いねぇ~。嫉妬がよく独占したからぁ今だけ僕の特等席ぃ~」

「お前らまだお互いに名前で呼び合ってねぇの?」

「僕だけぇ~。あとはみんなと名前で呼んでるよぉ~。大切なぁ友達からの贈り物ぉ~」


 そう言って友達は俺の膝の上で深く座る。

 文字通り夢心地での気分で座っている友達の言葉にちょっとだけ安心した。

 友達に名前を付けたのは俺だ。だからもしその名前が気に入らないと言われたらどうしようかと思っていたのだ。

 それに俺は結構その場のノリで決めているというか、後先考えずに思い付いた事を言う。だから本当に気に入ってくれているか分かっていなかった。

 それなのに大切と言われると照れるけど嬉しい。


「それじゃこれからもベルって呼ばせてもらうぞ」

「ん~。そうだねぇ。それじゃ僕はもう寝るねぇ~」

「ああ。おやすみベル」

「おやぁ~……そう言えば今の君の名前って何だっけえ~?」

「柊だよ」

「それじゃぁ~柊ぅ~。おやぁ~すみぃ~」

「おやすみ、ベル」


 そう言ってベルは眠りについた。

 ベルの特性は1日23時間眠り続けて力を蓄えるらしい。でもあくまでもこれは起きようと思っている時だけらしく、起きる必要がなければ何日だろうと、何年だろうと眠り続ける。

 食事の必要はなく、とにかく寝る事で力を溜め続ける。っと言う力だったはず。

 つまり好きなだけ眠らせておけばいいだけなので非常に楽なのである。

 その代わり起きていられるのは1時間だけ。力を蓄えるためにはそれ以上起きると良くないらしい。

 燃費がいいんだか悪いんだか、よく分からないのがベルだ。


 俺はベルに布団をかけてから食堂で飯を食い、風呂に入って寝た。

 ベルの特性の恩恵と言うかおこぼれと言うか、ベルがすぐ隣にいるとすぐに寝れる。気が付いたら朝になり、心身ともにスッキリするので最強の安眠効果を持っている。

 最近慣れない環境のせいで疲れていたし、丁度いいやと思いながら寝た。

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