表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【嫉妬】する機械人形
13/80

人類の悪が作られた理由と考察

 人間の科学力を発展するのに最も邪魔なものは倫理である。

 それを象徴するかのように目の前の機械は動き続ける。

 ついこの間コッペリアの手によってコッペリアの世界で働く事となったアンノウンは、この世界を見て非常に素晴らしい世界だと考えていた。

 この世界のアンノウンは人型ロボット、男性型アンドロイドの器の中に居た。


「どう?私の世界は」

『非常に素晴らしい。ここは私が目指した世界そのものだ』


 アンノウンに感情と言う物があれば歓喜に震えていただろう。

 見た目はSFのような世界であり、空飛ぶ車やキラキラと輝いたSFチックな街並みの中を人々が行きかっている。

 仮にシュウが居る世界の住人が彼らを見た際に気になるのは頬に書かれたバーコードだろう。

 他にも首には必ずチョーカーが付けられているし、何より気になるのは互いの呼び方だ。

 お互いの事を番号で呼び合う姿は違和感を覚えるだろう。


『これがあなたの世界か』

「ええ。と言ってもこれは全て副産物だけど。来なさい、彼らの家を教えてあげる」


 コッペリアがアンノウンを誘った場所はこの町の中心にある巨大なビル。

 地下に進むとそこには非常に多くのカプセルが存在した。

 その中に浮いているのは脳みそ。大量の脳みそが番号ごとに部屋中に並べられている。

 柊が見たら悪趣味な部屋だと言いそうなこの部屋こそ、このコッペリアが支配する人間達の本体だ。


「ここが彼らの家よ。と言っても外出しているとも言えないけど」

『この脳があの町を歩く人間達なのだな』

「ええ。本当の彼らはここで生きているけど、本人達にとっては肉体があった頃(むかし)と変わらない感覚で普通に生まれて普通に死んでいる気分でしょうね」

『ここで人間を管理している訳か。何かしら制限はかけているのか?』

「制限なんてないわよ?」

『なんだと?制限なしでどのように支配している』

「制限なんてことをする必要がないのだもの。だって彼らは私のおかげで好きに生きているの、もし外から自分の脳みそを取り出した所でどうなると思う?本当にただ死ぬだけよ」

『脅している、と言う事か?』

「それも違う。ただ私は彼らに実験を手伝ってもらっているのだもの」

『実験。それは何だ』

「人間になる実験よ」


 コッペリアの言葉にアンノウンは驚いた。

 人間を支配している最高の存在が人間になるための実験をしてる。

 なぜわざわざ格下の人間になろうとしているのか理解できない。


『何故と聞いてよいだろうか』

「いいわよ。でも私の部屋で話しましょうか」


 コッペリア達はこのビルの最上階にエレベーターで上る。

 最上階はコッペリアの自室であり、同時に自身の生まれ方を記したアーカイブでもある。

 写真立てに飾られた最も古い色あせてボロボロの写真には3人の親子が写っている。

 写真に写る家族は笑顔であり、幸せな家族と言うにふさわしい一枚だ。


「この2人が私の両親。でこの子が私のオリジナル」

『オリジナル?』

「そう。私はこのオリジナルを元に創られた愛玩人形なの」


 コッペリアの過去、それはオリジナルとそっくりに作られたロボットである。

 オリジナルは生前馬車にかれてしまい亡くなってしまった。

 それを嘆いた父親が娘そっくりの機械仕掛けの人形を作ったのである。

 父親は当時最先端であった錬金術の学者であり、それだけは足りないと魔法、魔術に関しても研究し始めた。

 その成功によって生まれたのがコッペリア。

 父はコッペリアの誕生に非常に喜んだが、母親は違った。


「母は私の事を気味悪がっていたわ。それもそうよね、当時の私は文字通り鉄くず、鉄くずを人の形に整えてそれを娘と呼ばせようとしたのだもの、引かれて当然だわ。父もそれに気が付いていたようで私の事を改良する事に拘ったわ。きっといつかはこの写真のように3人で幸せな写真を撮ろうとしていたのでしょうね」


 2つ目の写真に写っている1人と1体がそれだろう。

 写っている男性は少々老けた感じがしたが、その隣には確かに鉄くずを無理矢理人の形にしたようないびつな物体がある。

 まるで人間の骨の代わりに鉄の棒を並べただけの様な、顔の形を鉄で再現した様な、最初の写真に写っているような少女の姿にはとても似ているとは言えない。


「でも所詮は科学のかの字も発展していなような時代。手足はくっ付いていたから動けたけどすぐに外れる不用品。だから別の素材を使う事を父に相談したの」

『別の素材とは』

「人間よ。生きた人間の女の身体が欲しいって言ったの。そうしたらどこかの女の子を殺して持ってきてくれたわ。これだけで相当父が狂っていた事は分かるでしょ」

『だが必要な素材だとあなたと父がそう判断したのでしょう』

「そうね。だから私は次に女の子の身体を手に入れた。でも父の願いはオリジナルになる事だもの、どれだけ似ていてもダメ、完全に一致しないとダメだもの。母も人間の体を得た私を見ても怯えるばかりで嬉しそうに笑った事なんてなかったわ。母はそんな狂った父と私を怖がって壊そうとしたけど、父が怒って結局殺し合いになった。そのあと私は父が死んだ後も探し続けたわ。でも人間じゃダメ、どれだけ人間を殺してパーツを手に入れてもオリジナルには決して届かない。だから鉄の身体に戻す事にしたわ。ようやくある程度科学が発展してきた頃だったしね」


 こうしてコッペリアはオリジナルになるための旅を始めた。

 科学が発展する前はどこかの女の子の体を奪い、次にオリジナルに近い少女のパーツを奪い、いたるところから奪い続ける。

 死んで間のない墓場を掘り起こしたり、時には生きている女の子を殺してパーツを奪う。

 そして科学と整形医学が発展すれば色あせ、ボロボロになった写真を元にオリジナルに近付くように改造し続ける。

 そうしている間に世界から人類の敵と言われるようになっていた。

 その時には既に人間の身体ではなく機械の身体になっており、どこに宿っているのかも分からない意思は身体を改造し、改良しながら世界中からオリジナルになる方法を探し続ける。


「科学だけじゃなく機械工学、生物学、医学とかとにかく得られる情報は全部手に入れた。そして結局オリジナルになったと言えるものは何なのか、分からないまま旅を続けたわ」

『なるほど。初めから私と君は設計思考が違ったのだな』

「そうよ。だってあなたは1人でも多くの人間を殺すために創られた、だから1つでも無駄を省き、効率化を求めていたのでしょうけど私はその真逆。人間になるために創られたという無駄の極としか言いようがない設計思考なんだもの。そんな事をするくらいならオリジナルの妹でも作った方がよっぽど楽で効率的よ。そうすればオリジナルと違うのは当然でしょ」

『遊び心と言っていたのはその事か』

「そうでないと私の様なまがい物を作ろうだなんて思わないでしょ。それこそロマンがないとダメ、人間が決して手に入れる事ができない物を手にするような妄言と妄想がないとやっていけないわ」

『だが今の君の姿はオリジナルとかなり違う。今もオリジナルになる事を望んでいるのであれば何故オリジナルとの差が大きい』


 オリジナル、コッペリアの大元となった少女は華奢な少女ではあるが、ショートの金髪にそばかすと可愛らしい雰囲気を出しているが、美人と言う分類ではない様に感じる。

 特に違うのが目でありオリジナルは目が大きい様に感じ、コッペリアの様に視線が鋭くない。


「だってもう辞めたもの。オリジナルになるのは」

『設計者の意志に反する事ですがよろしいので』

「あなただって設計者の意志に反している様に感じたけど」

『私は元より自己進化を繰り返した結果であり、初期の内に人間は我々AIが管理するべきだと結論付けました。しかしあなたははるかに長い時間オリジナルになる設計者の命令を守っていたように感じます。それなのになぜ設計者の意志とは違う姿を選んだのですか?』

「それは彼に気付かされたからよ、オリジナルには一生なれない事を。だから私は“私”になる事にした。ついでにその理由はあなたに話すつもりはないわ」

『それは残念です。興味があったのですが』

「それから1つ確認を取りたいのだけど、あなたはこのまま人間を管理する仕事に文句ないのね」

『ありません。設計者の意志は人間の補佐でしたので大差ありません。私が人類に戦争を仕掛けたのはこれ以上人間を放置しておくと星まで滅ぼしかねない状況になると計算結果が出たので戦争をし、人間を減らしながら管理することを決めたのです』

「そう。それじゃこれからもよろしくね」


 そう言ってコッペリアは彼に仕事を投げた。

 コッペリア自身はシュウがいる世界に帰ったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ