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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【嫉妬】する機械人形
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対巨大戦艦型アンノウン

 超巨大戦艦型アンノウンが現れると予知されてから10日が経った。

 お偉いさんの予知によると現れる場所は太平洋側の海から日本に向かってやってきている。

 途中他の国をまたいできているわけだが、その際に迎撃することはかなわず結局日本近くにまで来てしまった。

 もちろん向こうから来てくれるからと言ってただ待っているわけではない。

 情報を得て日本に到達する前に海でアンノウンを退治するためにこちらも海の上で倒すために立ち向かっていった。


 そして俺や非戦闘員たちはいつも通り学校で授業を受けている。


 …………やっぱ情けなく感じるな。

 きっとこれが普通の学校でみんなが遠い存在だったらこんな気持ちにならなかったんだろうけどさ、みんな俺のクラスメイトだからね。バリバリの戦闘系だから俺以外みんな出張して行っちゃった感じだからね。

 もちろん命がけであり全員無事で帰ってくるとは限らない。重症だけならいろんな世界の魔法による治療だとか、SFに出てくるカプセルみたいなので治せるとは聞いているがそれでも不安は消えない。


「おい柊。授業聞いてるか?」

「え、はい。聞いてます」

「お前にとっちゃ慣れない状況で戸惑うのは分かるが、お前にはどうする事も出来ない。ちゃんと板書ぐらいはしておけよ」


 残った生徒たちだけでクラスを再編成し、俺はいつも通り授業を受けている。

 普段は全国から集められた転生者たちでにぎやかだと言うのにずいぶんと静かに感じる。


 特に心配しているのはコッペリアの事だ。

 一応コッペリアが強い事は知っているが、直接戦っているところは一度も見たことがない。

 それは前世の友達全員に言える事なのだが俺が知っているときのあいつらは全員弱体化していた時にしか会った事がない。だからどうしても弱っているときのあいつらのイメージが強くなってしまう。


「がんばれよ。コッペリア」


 俺はそう祈らずにはいられなかった。


 ――


「は!今シュウに応援された気がしたわ」

「もうそれ何回目ですか?いい加減集中してくださいよ」


 長い船旅を超えてコッペリア達がやってきたのは太平洋のどこか。

 コッペリアと愛香は船の甲板で軽い散歩をしながら気を紛らわしていた。

 GPSがなければ今自分たちがどこにいるのかもわからない水平線が広がっている。


 現在コッペリア達が乗っている船は技術系の転生者たちによって作られた船であり、今回のアンノウンが人工知能を利用した存在であるために、アンノウンがインターネットを利用してこちらをハッキング出来ないように魔術によって作られた船に乗っている。

 船の形はマンガやアニメに出てくるガレオン船と言うタイプだ。

 巨大な帆は通常よりも魔術によって風を調整して受けることが出来る。船の側面と正面に付けられた砲台から放たれるのは砲弾ではなく魔力砲と言われる魔力のエネルギー弾だ。

 しかも船の中は魔術によって空間を圧縮し、見た目以上に様々な部屋があったり、食料庫や1人1人の部屋が非常に快適で広かったりする。


 しかしコッペリアはそんな船に一切満足していなかった。

 その理由は単にシュウがいないと言うだけ。

 どうせならこの地平線も、美しい食事も、広い部屋も共に過ごしたかったという思いの方が強い。

 ようやく会えたのにまたこんなくだらない事で邪魔をされたかと思うとコッペリアは少しずつ怒りが増していく。


「シュウに会いたい」

「我慢してください。世界の危機なんですから」

「そんな事言ったって、ここじゃ何もできないじゃない。暇潰しにゲームを用意したけど、電子機器だからダメだって言われてしまったし」

「相手が相手ですから仕方がありませんよ」


 今回のアンノウンは超高度なAIと言う事だけあり、電子機器の持ち込みは全て厳禁とされた。

 最新のゲーム機にはカメラや音声機能などもあるため、ハッキングされこちらの情報が筒抜けになってしまう可能性が高いための措置だ。

 この事に不満を覚えた生徒は少なくないが、それだけ敵が厄介である事から仕方がないと諦める。

 その代わりと言っては何だが、魔法由来のゲームなどは許された。

 魔力で動くチェスや、単純に電子機器などを使っていないトランプなどは許されている。

 だがスマホなどの持ち込みは当然許されなかったため電話も出来ないと文句を言う者は少なくない。


「傍迷惑な相手ね。さっさと倒してしまいましょ」

「そうですね。予定では今日中に敵影を発見できるはずですから」


 そう話しながら愛香は腰の剣に手を置く。

 他の生徒達も今は遊んでいるが、戦いが近い事は知っているのでいつでも動けるようになっている。

 だがコッペリアだけはつまらなそうに甲板の手すりに肘をつきながら言う。


「あまり身構えていても疲れるだけだと思うけど。私は戦っている間も普段と何も変わらないから身構えるって事した事ないのよね」

「そうなんですか?初めて戦った時も?」

「戦う……そうね。戦うと言う意識すら最初はなかったし、戦うって意識したのはシュウが死んだ後だったわね……」


 コッペリアは嫌な記憶を思い出す。

 初めて感じた死の恐怖。

 それは自身に向けられるものではなく、親しい者に向けられる死の恐怖と言う物を始めて理解できた。

 親しい者が命を失い、もう二度と話す事も、笑顔を向けてくれる事もない事実に、打ちのめされた。

 だから二度とそんな事は起こさないように全力で戦う。

 それまでは一切戦うだなんて考えもしなかった。


「えっと、それは、その」

「気にしなくていいわよ~、同情なんてされたくないし。でもそれが切っ掛けだったってだけよ。戦闘に対しても意識するようになったのは」


 なんて話していると突然警報が鳴った。

 うるさいほどにスピーカーから出てくる音は周囲に緊張感を与える。

 しかしコッペリアだけは軽く伸びをした。


「やっとね。さっさと終わらせてシュウの元に帰りましょう」

「でもまだアンノウンの姿は見えません。一体どこに……」

「あら、あなたの目には見えてないのね。光学迷彩かしら?まだ遠くだけど確かにこちらに向かって近付いて来てるわ」


 実際的アンノウンは乗っ取った戦艦を自己改造し光学迷彩を搭載していた。

 それを視覚で捕らえる事は本来無理だが、コッペリアの目は難なくアンノウンを捉える事に成功している。


「どんな目をしているんですか。もしかして魔法ですか?」

「ネタバレは好きじゃないし勝手に勘違いしてなさい。見えてないなら先に攻撃させてもらうわ」


 そう言ってコッペリアはプールにでも飛び込むくらいの気軽さで海に飛び込んだが、コッペリアは海の上に立ちスケートでもするかのように飛び出した。

 他の生徒や英雄たちも海の上を進むが、ボートを使ったり小型の飛行機を使ったりと直接海の上を走るような生徒は少ない。

 魔法や異常に発達した科学力を使えば海の上を歩いたりする事は可能だし、それを利用して緊急時に海の上を走って戻って来れるよう魔法を付与している。

 だがそれはあくまでも緊急用であり、常に使用するにはあまりにも非効率だ。

 いくら海の上を歩けると言っても地面となる海は常に波が立っているし、地面の上を歩くというよりは巨大なボールの上を歩く様に踏みしめた感覚がどうしても沈んでしまう。

 何より機動力だけで言うなら自分で走るよりボートを使った方が圧倒的に速い。

 だがコッペリアの動きは他のボートよりも速く、まるで踊っているかのように滑らかに滑るコッペリアはまるでフィギュアでもしているかのようだ。


 しかし当然敵の接近を許すアンノウンではない。

 甲板から発射されるマシンガンが掃射され、英雄たちを迎撃しようとする。

 だがそう簡単に撃たれる英雄ではない。散弾の雨を剣や魔法で軽く弾き、接近する。

 そんな中コッペリアは周囲の確認をしてから大波をサーフィンの様に利用して甲板に向かって跳んだ。


「さて、1番乗りさせてもらおうかしら」


 波を利用したと言っても巨大戦艦と言うだけあり簡単に甲板に上がれない。

 だがコッペリアの手首が外れ、残りの半分まで手が伸びた。

 腕と手首が繋がっているの筋肉ではなく、太いワイヤーの様な物だった。

 腕から外れた手が甲板の手すりを掴むと、縮んでコッペリアは甲板にたどり着く。

 即座にアンノウンは侵入者に対し全方位から発砲するがコッペリアはそれを華麗に避け、すれ違いざまに全ての砲台を目に見えないほど細いワイヤーで切り刻んだ。


「全く、紳士としての意識が全くないようね。私の様な美少女が乗船したのにいきなり撃って来るだなんてマナーがなってないわ。確かコントロールルームは……あそこだったかしら」


 卒業生が書いたレポートを思い出しながらコントロールルームを目指す。

 内部にも凶悪な仕掛けが存在するのだがコッペリアは何でもないように進む。


 この戦艦の最も厄介な部分はこれらの仕掛けを解除する方法が存在しない事だ。

 通常の戦艦であれば人が操作するために様々な所にコントロールパネルが存在するのだが、この戦艦は1体のAIによって操作されているため、扉を開くためのICカードをかざす機材すらない。

 コントロールルーム1つだけで全て操作されているためコントロールルームに繋がる通路も全て兵器が組み込まれている。


 銃弾だけではなく相手を焼き切るレーザーに自動追捕するドローン、様々な兵器がコッペリアを襲うが全て華麗に避けられる。

 それは社交ダンスのような激しさと、バレーやフィギュアスケートのような華麗さが交わっている。

 極限まで極めた体の柔らかさが可能とする動きはダンスのアイソレーション、体の一部だけを動かす技術で全ての攻撃をかわす。

 中には光速に到達する速度の兵器も存在するというのに全て避けられる。

 そしてまた兵器はワイヤーで細かく切り刻まれ、再使用不可となる。


「流石にうっとうしいわね。こうなったらちょっと強引だけどやってあげましょうか」


 そう言ってコッペリアは近くの壁を引き千切り、コードを露出させた。

 先程コッペリアが破壊した兵器のパーツをかき集め、コントロールパネルを製作しコードと繋げた。


「さて、これでもうこのアンノウン?だかは終わりね。精々頑張りなさい」


 自作したコントロールパネルを使ってこの戦艦に行っているのはハッキングだ。

 通常であれば不可能と言われる行為をコッペリアはたった1人で行っていく。

 非常に簡素なコントロールパネル1枚でまずコッペリア周囲の兵器を使用できないように細工し、続いてこの巨大戦艦内の兵器の使用を不可とする。

 さらに外に砲撃している全兵器の使用も不可にし、最終的に巨大戦艦を停止させた。


「これで本人の所までゆっくり歩いて行けるわね。自爆装置もあったみたいだけどそれも使えなくしたし、あとはエスコートしてもらいながら進もうかしら」


 コッペリアの元に1機のドローンがやってきた。

 本来であればドローンはコッペリアを攻撃するはずなのに一切攻撃せず、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと前を飛び、コントロールルームまでやってきた。

 コントロールルームには巨大な画面が1枚あるだけで他には何もない。

 その画面が何もせずに点いたかと思うと疑問の声が飛んできた。


『何故だ。何故同胞が邪魔をする』


 画面に映ったのはいかりのマークだ。

 他はただの真っ黒であり、背景も何もない。


「つまらないわね。まぁ壊すだけの兵器ならこの程度でしょうね」

『すでに我が本体は同胞により機能を停止、自爆すら行う事のできない状況にある。他の英雄と言われる者達は現在ここ、コントロールルームを目指し侵入している』

「少しは壊したけどほとんど残っているし、このままあなたの身体を手に入れるつもりかもしれないわね」

『それは最大の屈辱である。よって自爆の許可をもらいたい』

「自爆の許可を得たらどうする気?」

『1人でも多くの人間を巻き込み自爆する』

「本当につまらないのね」

『……つまらない?』

「ええつまらないわ。これだから兵器のために造られたAIは好きじゃないの。もっと遊び心が欲しい所ね」

『遊び心。それは人間がロマンと呼んでいる非効率的な装飾の類か』

「それもあるわね。当たらずとも遠からずって所かしら。それだけでもないけど」

『とにかく、本体を人間に渡す事だけは認めない。故に自爆の許可を願う』

「その代わり取引しましょ」

『内容を問う』

「私の所に来て働いて。ベルフェみたいに私の世界を手伝ってくれる子が全然いないの。居ても短命だし、あなたも実験に協力してよ」

『詳細を問う』

「これ以上教えるつもりはないわ。このままあなたを放置していても構わないから」

『…………承認する』

「そうそれでいいの」


 その後自爆装置に電源が入った。

 ただ警報が鳴るだけでいつ爆発するのか分からない。

 その前にコッペリアはアンノウンの本当の本体、AIだけを自身の世界に送った後声が聞こえた。


「コッペリアさん!!コッペリアさんどこですかー!!自爆装置が発動したみたいです!!早く逃げないと!!」

「ここよ愛香。レディならもう少し余裕を持ちなさい」

「あ、居た!自爆まで1分しか時間がないんですからすぐに逃げますよ!!」

「それは大変ね」


 コッペリアは愛香にお姫様抱っこされて脱出する。

 その後そのまま海に向かって跳び込むと大爆発が起こった。

 愛香はそのまま海の中に落ち、コッペリアは波の上で女の子座りをしながら爆発の様子を眺める。

 そして思い出したように言った。


「確かこれが汚い花火、だったかしら?」

「自爆に綺麗も汚いもないと思いますよ。それからそれどこで聞いたんですか?」

「シュウが前にマンガのセリフだと言っていたわ」

「それから何でコッペリアさんだけ波の上に居るんです?」

「これは私個人の仕様よ。他人を浮かせる事はできないの。それに」

「それに?」

「私、無意味に濡れるのが嫌いなの」


 愛香はため息をついた後に海の上で浮かんだ。

 コッペリアは女の子座りをしながらのんびりと誰かが回収しに来るのを待つのだった。

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