他から見ればデートらしいです
コッペリアがクラスメイトになってから1週間が経った。
意外とコッペリアはすぐに馴染み、意外とMな男子達から支持を得ている。女子からも意外と好意的に受け止められており、恋バナとかで盛り上がっている。
その恋バナの中に俺が含まれていることを除けば。
どうやら女子の中で支持を得た理由の1つが俺との恋バナらしい。俺はかなりの奥手でコッペリアがどれだけアピールをしても手を出してこないから困っている、という感じで話したら大うけしたらしい。
それによりこの学校では珍しい草食系男子である俺をどう攻略すればいいのか相談しているようだ。
それにより俺は男子達からコッペリア関係でよくからかわれるようになってしまった。
このご時世で珍しく肉食系男子ばかりであるこの学校では俺はかなりの異端だったようだ。
相手が好いてくれており、手を出しても構わないと言っているのだから手を出せばいいだろとよく言われる。
だが残念だな。手を出していいからと言われて手を出すほどの根性はない!!
と言っても俺の中で不安なのは俺がいいと思って行動したが結局コッペリアを傷つけてしまうようなことにならないか心配しているだけなんだけどな。
そのことを言うと「抱いて勇気もて」「卒業すれば自然と自信もつく」などのアドバイスになっているのかどうか分からないアドバイスばかり。
そして1人の男子が前世でハーレムを築いていたという話になり、下品な話で周りの女子から冷たい視線にさらされていることに気付かず、大火傷している男子達が哀れだ。
そんな感じでコッペリアが少しずつクラスメイト達に馴染んでいっていると、ある日こんな事を言われた。
「シュウ。今度の日曜日、買い物に付き合って欲しいのだけど」
「買い物?何を買いに行くんだ?」
「フィギュア」
「あ、あ~はいはい。納得」
確かに前世でそんな話聞いた事あるわ。
より正確に言うと彫刻とか人形とかそう言った類の物が好きなのだ。
「それで、何で俺なんだ?」
「だってそう言うフィギュアとかを売っている店を知っているんでしょ?他の人にも聞いたけど、込み入った小さな店で1回で行けるとは限らないらしいじゃない。だから連れて行って」
それも何となく分かる。
駅前にはビルが結構並んでいるのだが、大きな商業ビルの中ではなく小さなビルの中にあるから最初見つけるまで結構苦労したりする。
俺は慣れたので問題なく行けるが、慣れるまでは確かに1人ではいけないだろう。
「……はぁ。どうせ断っても無理矢理やれって言うんだろ。分かったよ、連れて行くよ」
「前半の言葉が要らないわ。でも連れて行くというからお仕置きはなしにしてあげる」
そう言うコッペリアだが随分とご機嫌の様だ。
全く。ちょっと買い物に付き合うだけでご機嫌になる何て意外と可愛い所があるもんだ。
それにしてもコッペリアの周りの女子達はこのぐらいの事で何で沸き立ってるんだ?上手くいったとか色々言ってるけど、内容はオタク趣味のフィギュアを買いに行くだけだぞ。ロマンチックな感じは一切ないぞ。
そして近くに居る愛香さんは何故か不機嫌そうな表情をする。
「どうかした?」
「……何でもない」
そう言ってそっぽを向かれたら何でと追及することもできない。
まぁ放っておけば時間が勝手に解決してくれるだろうと思い、それ以上不機嫌にならないよう気を付けながら過ごしたのだった。
――
そして日曜日。
俺は私服で寮のロビーで待っていた。
約束の時間の一応5分前に待機し、スマホをいじりながら待つ。
「あら。5分前に来ているだなんて意外とちゃんとしてるじゃない」
コッペリアの声が聞こえたのでスマホから顔を上げると、そこには初めて見るコッペリアの私服姿があった。
コッペリアの私服は意外とセクシー系だった。
上はかなり短い黒のTシャツでへそが出ているし、下はデニムのショートパンツと動きやすい服装。あと本当にへそ出しの服を着て出かける人がいるんだね。てっきり雑誌の中だけの事だと思ってたよ。
それに比べて俺はおちゃれらしいおしゃれはしていない。
どうせ知っている店のフィギュア向けの所に行くからと思ってよれよれのTシャツ着てきちゃったよおい。ちなみに靴は頑丈なビーチサンダル履いてる。
「シュウ……他にいい服はなかったの?」
「悪いが俺は美少女様と一緒に出掛けるような服は持ってねぇんだよ。今回が初めてだ」
「あら。それは嬉しい事を聞いたけど、初めてのデートがそんなよれよれのTシャツだとなめているとしか思えないわね。着替えてらっしゃい」
「ヤだよ面倒くさい。もともと気楽にいくもんだとばっかり思ってたからそんなガチのデートスタイルに対抗できる服なんて元々持ってない。このままいくぞ」
「ちょっと待ちなさいよ」
俺は動くとコッペリアはすぐに俺の隣に立った。
それからコッペリアは意外そうに言う。
「あなたって意外と派手な服が好きなのね」
「派手ってどこが?」
「その服の後ろ、確か東洋で言うところの龍のデザインよね。背中一杯に書かれているんだから派手と言ってもいいんじゃない」
「残念ながら、俺にはこういう服しか似合わねぇの。もっとこじゃれた服着てる奴と出かけたかったらそういう感じのする奴捕まえな」
「そのデザインも良いじゃない。でもできればドラゴンがよかったわね」
「あったら買うかどうか考えてみるよ」
そんなことを話しながら俺とコッペリアは休日の街に出かけた。
学生ばっかりの町とはいえ、いや学生ばかりだからか有名なハンバーガーチェーンとか、学生にもお手軽なファミレスなど駅前にはいろいろ揃っている。
特に目立つのは駅前にある巨大なショッピングモールだろう。ビル20階建てでファッションに電化製品、ゲームやカードショップなどいろいろ揃っている。
と言っても今回向かうのはそのショッピングモールではない。
そのショッピングモールの裏にある小さな路地にひっそりと存在する店の1つだ。
「ここに私の欲しい物があるの?」
「うんここ。と言っても俺も入るの5回目ぐらいだけどな」
「……業務用スーパーと書いてあるのだけど」
「あ、それはこの店を探す時のトラップだ。この店の2階がショップなんだよ」
俺はそう説明しながら業務用スーパーに入る前の階段に足をかける。
コッペリアは俺の後を追いながらもちょっと信用できない様な顔をする。まぁ初見でここがフィギュアを売っている店とは思わないよな。店も一応プラモ屋だし。
「……へぇ。品揃えは悪くないじゃない」
「まぁ俺はプラモ側の一角しか利用してないけどな」
この店はフィギュア側とプラモ側で2つに区画が分かれている。
プラモの方は戦闘機から戦車、ロボット系までいろいろ揃っている。フィギュアだと最近アニメ化された可愛い女の子から西洋のドールまでそろえている。
だからコッペリアはその品揃えに感心しているんだろう。プラモだけ、フィギュアだけの店はこの辺だとあまりないんだよな。
「そっちがフィギュア系を置いてるから。俺は少しプラモ見てるから好きなの選んできな」
「ええ。あまりこの世界のフィギュアには詳しくないけど、私のお眼鏡にかなうフィギュアはあるかしら」
そう言ってフィギュアの方に行ってしまったので俺は一応プラモの方を見る。
さて、俺が好きなシリーズは……やっぱり新作は出てないか。個人的に人型ロボットのプラモより動物型のロボットプラモが好きなんだけどな……
昔はそれなりに色んな種類のプラモがあったのに、今じゃ人型ばっかりで個人的につまんねぇんだよな。あ~あ。やっぱり人型ロボットの天下なのかね……
「買ってきたわよ」
俺がプラモを見ていたらコッペリアがそう言ってきた。
両手に店のビニール袋を持っている。袋の様子から……4つは買ったな。
「何買ったんだ?」
「これよ。作品の事はよく分からないけど、好みだったから買ってきたわ」
そう言って見せてくれたのは女の子が様々な機械を身に着けたフィギュアだった。背中には飛行するためのユニット、手にはガトリングを持っていて凛々しい雰囲気を出している。
本当にコッペリアはSF系が好きだな。
「他の3つは同じシリーズか?」
「それぞれ違う作品らしいけど、別にいいでしょ」
「別にいいな。あ、帰りに原作のビデオでも借りてくか?」
「DVDかBlu-rayでしょ」
個人的にビデオの方が言いやすいんだよ。だってレンタルビデオ屋だぞ。元々は。
とりあえずコッペリアが買いたい物は買ったし、あとはどうするか聞いてみる。
「後どうする?帰るか?」
「せっかく遊びに来たのにもう帰るのは勿体ないでしょ。もう少しブラブラしましょうよ」
「でも手にフィギュア持ったままじゃ遊び辛くないか?コインロッカーでも探すか?」
「問題ないわよ。こうすれば手が空くわ」
そう言ってコッペリアはフィギュアをどこかにしまった。
「そんな事出来たのか?」
「知らなかったの?私達にとってこれぐらい出来て当たり前よ」
「俺とお前らが会った時そんな事出来る素振りもなかったじゃねぇか」
「あれは本当に限界まで弱っていたからよ。姿が違うのもそれで納得しなさい」
「……そう言えばそうだったな」
俺とコッペリアとの出会い、まぁそれはベルとの出会いとそう変わらないものだが、非常に大切なものだ。
あの日、あの場所で俺とベルとコッペリア達に出会ったのは運命だったのだろうか?
いや、そんな訳ないか。
運命と言うのはおそらく神様が用意してくれたイベントの様な物で、言い方を変えれば神様にとって都合の悪いイベントは起きるはずがない。
きっとみんなとの出会いはただの偶然だった。これが1番納得できる。
「それで、とりあえず次はどこ行く?」
「そうね……そろそろお昼だし何か食べたいわ」
コッペリアが腕時計を確認しながら言う。
確かに12時近いが……逆にこの時間帯だと店は混んでいる様な気がするんだよな。もうちょっとずらして午後2時ぐらい……は俺の腹が限界だな。
多少待ち時間があってもいいかと思いながらコッペリアに聞く。
「それで、何食べに行く?」
「何かいい所はないの」
「いい所って言われてもな……大抵はスーパーとかで済ますし、飯食うとしても安いチェーン店ばっかりだからな……」
「それじゃここに行きましょ。クラスの女子に教えてもらったの」
見せてくれたスマホに映っているのはどっかのパンケーキ屋の様だ。
個人的にパンケーキは腹に溜まらないイメージがあるのであまり昼飯と言う感じはしないが、他に良い店も思いつかないのでまぁいいか、と頷く。
「コッペリアがいいならそれでいい」
「それじゃ行きましょ。駅前にあるからすぐそこよ」
コッペリアはそう言いながら俺の手を引っ張る。
特別急がせている感じではないが、その手はしっかりとつかんで離さない。
俺はその様子を感じながら本当に寂しがり屋だな、と思いながらパンケーキ屋に行った。
――
パンケーキ屋に入るまで少し時間が掛かったが、無事店に入りパンケーキを食べる事は出来そうだが……やっぱスゲーな。俺のアウェー感。
店内は女性をターゲットに絞っているのか薄いピンクの壁をしており、それ以外は変な装飾などはないシンプルな内装だがやっぱり居辛い。
例え店がシンプルであったとしてもその客や店員がほぼ女性で占められているのはやっぱり俺にはプレッシャーに感じる。一応男性客も居ない訳ではないが、分かりやすいぐらいにイケメンで、彼女さんと一緒に来ました~って雰囲気を出している。
これ人気があるって言っても味とかじゃなくてカップルと行く、みたいな言葉が先に付くんじゃないか?気軽に友達と一緒に来る店じゃないって。
「…………悩むわね。どれも美味しそう。シュウはもう決めた?」
「う~ん。よく分かんないから取り合ずこの1番シンプルなパンケーキにする。2枚重ねならある程度腹に溜まるだろ」
「それじゃ私は……このメガベリーベリーパンケーキにするわ」
注文する品も決まったので店員を呼んで注文したあと俺達は向かい合う。
元々対面するような席に座っていたが、窓際で少し熱いな。いや、ちゃんとエアコンはついてるけど日差しが眩しいと言うか、太陽の光が熱いと言うか。
でもクラスではコッペリアも他の友達が出来た様なのでこうして2人っきりになるのは久しぶりだ。特に話す内容がないのが問題だが……こういう時どう切り出せばいいんだろ?
最近クラスメイトと仲良くしてるか?……最近話してない父親か。
「こうして2人で話すのも久しぶりね」
なんて切り出したらいいのか分からない時にコッペリアの方から切り出してくれた。
これは助かったと思いながら返事をする。
「確かにな。そっちはそっちで女子同士で仲良くやってるようで何より」
「あなたも男子達と仲良くしてるじゃない。邪魔はたまに入ってたけど」
「邪魔って俺達の関係を勝手に勘違いしてるだけだろ?そんな風に言わないでやれよ」
「その子達の事じゃないわよ。1人厄介なのがいるの。簡単に言えば恋のライバルってところね」
「ひがみかなんかか?」
「そんな感じね。ま、譲らないけど」
そう言って俺の事を見ながら加虐的な笑みを浮かべながら舌で唇を舐めるのをやめていただけませんかね?
本当に食われるんじゃないかと勘違いするから。
「恋のライバルか……ん?つまりその子俺に惚れてるって事??」
「当然じゃない。そうでなきゃライバルなんて生まれないわ」
「へ~。俺なんかに惚れる奴がいたとは、驚きだ」
「……本当に他人事ね。シュウに関係してくる話なのに」
「そりゃ実感が沸かないって言う方が正しいが、それでもやっぱり意外だ。だって俺英雄学校の劣等生だぞ?マジで何もできない一般人。サポートも戦いも出来ないザ・ノーマル。それともそういうのが保護欲を掻き立てる、とか意味わかんない事を言う感じの娘?」
「保護欲とかではないわね。でも彼女、一般人と付き合いたいと言う欲があるみたいだから自然とシュウの事を気にかけていたみたいね」
「一般人がいいって確かにうちの学校じゃ貴重だな。いや、あの学校が特殊なんだけど」
「そうよね。私はただの人間にはまだなってないのよね……目標に到達するために頑張っているけど、まだまだ道のりは厳しそう」
「そんな事を言わてもな……」
コッペリアの目標はまだ達成できていないらしい。
こいつの目標を叶える方法ってよく分かんないんだよな。俺みたいな凡人じゃどれだけ考えた所で無駄なのかも知れないけど。
「それでも目標に近付く事は出来てるか?」
「そうだと嬉しいのだけど」
「随分弱いなセリフじゃないか。珍しい」
「これでも生まれてからずっと考えている事なんだからたまには不安になるわよ。あなたの言葉をもらってから気は楽になったけど」
「え~っと……何て言ったっけ?」
コッペリアはよくその話をするが俺はよく覚えていない。
その時のコッペリアにどんな言葉を投げかけたのかさっぱり覚えていないのに、コッペリアはどこか嬉しそうに話すから申し訳なく思う。
「ふふ。そんな表情をしなくてもいいわ。あなたにとって本当にただの日常会話でしかなかったでしょうし、特別はことを言ったつもりもないんでしょうね。でも私だけ覚えていて、シュウが覚えていないのは癪だけど」
「それなら当時の事を詳しく教えてくれよ。教えてくれれば思い出すかも知れないからさ」
「いやよ。自分で思い出しなさい」
いたずらっ子のような笑みを浮かべながらコッペリアは言う。
本当に表情と言うか、感情を表に出す様になったよな。
いや、前は出したくても出せなかったと言うべきか。
そんなに昔話に花を咲かせているとパンケーキが運ばれてきた。
俺のは2枚重ねのシンプルなパンケーキ。パンケーキの上にはバターが乗っており、隣にはお好みでかけるメイプルシロップかハチミツの入った小さな瓶。
これは予想通りだし問題はないが……問題はコッペリアの方だ。
コッペリアが注文したパンケーキは4枚重ね。
しかもケーキの様にパンケーキの間に生クリームと小さな粒、多分ベリー系の果物が生クリームの間に挟まれている。
しかしそれで終わりではなく1番上のパンケーキの上にさらにフルーツが山盛り。こちらはベリー系だけではなくバナナとかキウイとか乗っており、中心にはバニラアイスが乗っかっている。
「お前……これ食い切れるのか?」
俺は不安になりながらも聞く。
ただのパンケーキ4枚くらいなら俺だって簡単に食べきれる。でも俺は甘い物はそんなに得意ではないし、元々菓子はあまり食べない方だ。だから甘い物を大量に食べると聞くと正直胸焼けがする。
「特に問題はないわよ。それじゃいただきます」
コッペリアは何て事のない様にパンケーキを食べ始めた。
本当に食べきれるのか少し不安になりながらも俺もパンケーキを食べ始める。
あ、初めて専門店のパンケーキ食ったけど意外と美味いな。どうやったのか知らないけど生地はふわふわだし、自分で作る平べったいホットケーキとは違う。
でも言い方が違うだけで同じ物らしいな。なんで言い方が変わったんだろ?
なんて思いながら食べているとコッペリアがこちらをじっと見ている。
「どした?やっぱり甘すぎたか?」
「そうじゃなくて、それ使わないならちょうだい」
「まさか、このメープルシロップか?」
俺はまさかと思いながら持つと、コッペリアは頷いた。
マジか……そう思いながらも俺はメープルシロップを渡す。
するとコッペリアは中心にあるバニラアイスの上にメープルシロップをかけ始める。少しアイスを溶かしながらシロップはパンケーキ全体に広がり、ついでにフルーツにもかかる。
流石にこれは甘すぎじゃないか?そう思いながら見ていたが、コッペリアは一口食べると満足そうにうなずいた。
マジか……その甘ったるそうなのがいいのか……
「?やっぱりメープルシロップ欲しかった??」
「いや、大丈夫だ。俺バターしか使わない主義だから」
「そう」
俺が気にするなと言うとパクパク食べていくコッペリア。
その様子を見て俺はパンケーキ2枚だけなのに胸焼けがするぐらい食べた気分になったのだった。
――
パンケーキを食べた後またブラブラした後に軽く俺の趣味、マンガやゲームを少し眺めてから寮に帰ってきた。
そして男子寮と女子寮に分かれている所で俺達は分かれる。
「今日は楽しかったわ。それじゃまた明日学校で」
「おう。また明日な」
こうして俺は久々に休日に誰かを過ごしたのだった。