第六話 疑惑
魔法少女により、怪我をしただけの騎士は何とかなったが、命を落とした者についてはどうにもならなかったし、生き残った騎士たちも、疲れ切っていた。
その為、オレたちは、ノナーク公爵領行きを中断し、王都へと戻ってきた。
昨日、助けてくれた魔法少女の、戦う時の凛々しい表情、怪我した騎士たちに向けた慈愛の眼差し、花咲く笑顔に、リンゴのような恥じらい。
彼女のことが、忘れられない。
「リチャード。オレは、あの者を妻として娶るぞ! お前の知恵を貸してくれ」
「畏まりました。お任せください」
「ああ」
オレの手元には、魔法少女が残していった、緑色の丸いものがある。
彼女の魔力外装の一部だ。
魔法少女の魔力外装は、その持ち主である魔法少女の魔力に反応する。
そのため、この緑色の玉があれば、その相手が本当にあの魔法少女であるのかの判定は出来る。
だが、魔法少女を見つけてこなければ、確かめることも出来ない。
「俺が、必ず、あの者の正体を突き止め、殿下のもとへ連れてまいります」
「頼んだぞ」
アレクサンダー王子の乳兄弟にして側近、リチャードは、とても優秀だった。
そのため、彼がアレクサンダーの自室の扉を叩き、報告にやってきたのは、その日の夜のことであった。
「魔法少女がやってきた方向、帰って行った方向には、ウィンザー男爵領がありました」
「早かったな」
「地図を確かめただけですから」
魔法少女であったことから、高い魔力を持っていることが分かるため、十中八九貴族の娘だろう。
オレは、ニッと笑って言った。
「明日の朝、さっそくウィンザー男爵領へ向かって出発するぞ!」
「いいえ、それはやめておいたほうが良いでしょう」
「なんでだ」
「事前の断りなく家に押しかけるわけにはまいりません」
「それもそうだな」
手を顎の下に当て、軽く考える。
「よし、決めた。リチャード、明日、ウィンザー男爵に、近いうちに、……そうだな、1か月後が丁度いいか。ともかく、ウィンザー男爵領のウィンザー男爵邸に伺う、という旨の書状を渡せ。今書くから」
「畏まりました」
オレは、ウィンザー家の娘と思われる女性を見初めたこと、そのためにウィンザー男爵領のウィンザー男爵邸に1か月後に伺うことなどを、書状に手早くまとめると、出来上がった書状を封筒に入れ、蝋をたらし、第三王子を示す印璽で押印した。
「リチャード、これを」
「お任せください」
オレは、一か月も待つことすらできず、資料室で、4年前に作られた最新の貴族名簿を読むことにした。
「ウィンザー男爵家のご令嬢。どんな名前なのかなぁ」
わくわくドキドキとした気分で、貴族名簿のページをめくる。
「ウィンザー男爵家は……」
ここで、この国の貴族制度について解説しておこう。
この国では、爵位は男性にのみ与えられる。そして、父親から息子へと継がれていく。
しかし、万が一男児がいない場合は、娘の夫に一時的に爵位が継がれ、男児が生まれると、その男児に爵位が受け継がれる。
継承される爵位には、上から順に、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵がある。
公爵は王族がなる特殊なもので、権威はあるが、兵力や財力の面では、侯爵の方が上であろう。
辺境伯は、南方の国境と東方の国境に一つずつあるだけだ。
男爵は、地域の有力者と言った感じである。
「ヴィクトリア・ウィンザー男爵夫人に、ヘンリー・ウィンザー男爵、エミリー・ウィンザー男爵令嬢に、クロエ・ウィンザー男爵令嬢か……」
その時、オレは、先日の舞踏会でやたらと絡んできた、下心丸出しの姉妹、エミリーとクロエのことを思い出した。
二人は、見た目だけは良かったものの、下心丸出しなうえ、言動の端々から、性格の悪さが滲み出ていた。
「あの二人は、絶対に違うな……。もう少し、調べてみるか……」
ウィンザー男爵家について調べて分かったのは、驚愕の事実であった。
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