第五話 アレクサンダー王子
オレは、アルデンティア王国の第三王子、アレクサンダー・アルデンティア。
舞踏会が終わり、やっと下心丸出しの令嬢たちの相手をしなくて済むと思ったオレは、北方にある、避暑地に向かうことに決めた。
アルデンティア王国の北西部を覆う、巨大な山がちな森林地帯の、東端を突っ切る街道を通り、ノナーク公爵領へ向かう予定だ。
オレは、乳兄弟であり、側近のリチャードとともに馬車に乗り、近衛騎士たちに護衛されながら、ノナーク公爵領へと向かっていた。
それは、街道のそばに設けられた、野営や休憩用のスペースで、少し遅めの昼食を食べていた時のことだった。
「「「ギヒヒヒヒ」」」
「うわぁ~! 魔物だぁ~!」
護衛の一人がそう叫んだ。
食事の匂いにつられて魔物が現れることは、そう珍しいことではない。
しかし……。
「多すぎんだろ……」
オレたちはいつの間にか、大量のゴブリンの群れに囲まれていた。
ヒューン
ズシュッ
ザシュ
弓矢で、剣で、一匹ずつゴブリンを減らしていく。
「ファイヤーブラスト!」
「アイススピナー!」
オレ自身も、魔法を使って、ゴブリンたちを攻撃する。
森の中では火魔法は非推奨だが、緊急事態なので、仕方がない。
リチャードも、得意の氷魔法でゴブリンたちを攻撃している。
「くそっ、キリがねぇ」
空が赤らみ始める。
夜になったら、もう勝ち目はない。
グサッ
その時である。護衛の一人がゴブリンの突き出した槍により、その脇腹を、貫かれたのは。
「バルガス!!」
戦線が、崩壊する。
「うわぁぁぁぁ~」
護衛たちが、一人、また一人と動かなくなる。
まだ動いている者も、多くが血を流している。
「「「ギィヒヒヒヒーー!!」」」
血の匂いに興奮したゴブリンたちの雄叫びが響き渡る。
「あぁ、もう、お終いだ……」
バルガス、レオン、ウィリアム……
キラーン!
「サワーライムスターダストストリーーム!!
森の中から飛び出してきたのは、緑色の魔力外装を身に纏った、凛々しい魔法少女だった。
「もう大丈夫です。私が来た」
大きく跳躍していた彼女の足が地面に降り立つと、髪がふわっと持ち上がった。
戦いは、ものの数分で終了した。
「酷い怪我……」
彼女は、その優しそうな顔を、曇らせる。
「ハートフルサワーライムヒーリングシャワー!!」
緑の雨が降り、その雨粒に触れた騎士たちの傷口が、淡い光を放ちながら、消えていった。
「これでもう、大丈夫ですよ」
愛らしい、笑顔の花が咲く。
オレは思わず、彼女のもとへ駆け寄った。
「助けてくれてありがとう、レディ」
オレは、右手で魔法少女の右手を少し持ち上げ、軽く口付けした。
魔法少女は、リンゴのように顔を赤くした。
「あ、あの、ど、どういたしまして……」
「レディ、あなたの名前を聞かせていただけないだろうか?」
オレは、魔法少女の瞳を、まっすぐに見つめながら、彼女に尋ねる。
魔法少女は、あちこちへ視線を彷徨わせながら、口を開いた。
「あの、すみません。さようなら!!」
魔法少女はアレクサンダーの手を振りほどき、森の中へ走り去ってしまった。
彼女がオレの手を振り解いた時にとれた、緑色の魔力外装の一部を残して……。
「あの魔法少女は、いったい、誰なんだ?」
オレは、ライムの形をした、その緑の球体を握り締め、そう呟いた。
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