第二話 継母と義姉たちがやってきた日
あの日、私の家にやってくるなり、継母は言った。
「いいこと、アリアナ。今日からあんたは、アリアナ・ウィンザーじゃなくて、売女の娘、アリアナよ! ぶふふっ」
「…ばいた?」
「あら、売女のくせに、こんな上等な服着やがってたのね」
「ぎゃは。この服、燃やしちゃおうよ!」
「あらクロエ、いい考えだわ。ぶふふっ。燃やしちゃいましょうか」
そう言うと、継母たちは、お母さんの服を、乱暴に暖炉に放り込み始めた。
私は、必死に抵抗した。
「ぎゃはははは、ぎゃは、ぎゃはははは。燃えろ燃えろ~!」
「止めて! 止めてください」
「ああ?」
ボコッ
下の義姉、クロエのこぶしが、私の顔面にヒットした。
私は、燃えやすい服が放り込まれ、炎の勢いが増している暖炉に、頭から突っ込んだ。
あつい、いたい、あ゛つ゛い、い゛た゛い
私は、燃え盛る暖炉から脱出しようと、必死でもがいた。
私が暖炉にいるにもかかわらず、服は構わず追加される。
「ぎゃはははは。あいつ、すげぇ必死だぜ」
「げひっ。お好み焼きの鰹節かよ!!」
「ぎゃはは。似てる似てる!」
私の右頬は、グチャグチャに焼け爛れ、そこにお母さんの服の一部だった、布が癒着した。
肺が苦しく、悲鳴を上げることも儘ならない。
私は、やっと暖炉の中から脱出した。
その時の私にとっては、何時間も炎の中でもがいていたように感じられた。
最早顔の火傷からは感覚が失われ、焼き肉の匂いが、妙にはっきりと感じられた。
「ぎゃはははは。灰塗れよ、あの子」
「今日からあいつのあだ名は灰かぶりね。ぶふっ」
「げひっ。流石お母さま。最高のネーミングセンス!」
「ぎゃは。もともと不細工だった顔が、さらに不細工になったわ!」
私は、父のヘンリーのもとへ走った。
「お父さん! 私…」
「なんだ、火傷なんかしやがって」
「えっ?」
「これじゃ、政略結婚にも使えないじゃないか」
祖父母はもう既に亡くなっていたので、お母さんが死んで、たった一人の血のつながった家族となったお父さん。
その、父からの、そんな言葉に、私の中の、何かが折れた。
その瞬間から、私は、抵抗するのを止めた。
― ― ―
そんなわけで、母の唯一の名残は、昔、母が、母のお古の服から作ってくれた、このエプロンだけだった。
エプロンは、上から降ってくる液体を、いつまでもいつまでも、アリアナが泣きつかれて眠るまで、受け止め続けたのだった。
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