食事とFランク特典
斬鉄人間の能力でボアを解体した後、持てるだけの肉を手やバッグに持った。その状態で住居を作るのに適した場所を探し、1時間ほど森を歩き回っていた。
「ここが良さそうだな」
周りに毒や花粉系の能力を持った魔物がおらず、近くに水場がなく魔物の溜まり場になりにくい場所を見つけた。ここなら住居を作っても危険が少ないだろう。
【土妖の爪】
土妖の力で土を除去し、洞穴式の簡易住居を作成しようと思う。ただ土を操作して除去するだけなので、変化面積は少なく爪だけでいいかな。
爪が土に変化していき、手先を中心に砂埃が舞う。いつ見ても気味が悪いと自分でも思う。アレナさんはこんな能力のどこを気に入ったんだか知らないが、ファンになってくれて本当に運が良かった。
縦に5メートル、横に5メートル、高さ2メートルに範囲を定めて土を除去していく。生き埋めにはなりたくないので周囲の土を固め、土の塊が落ちてきてもクッションになるように蜘蛛糸を張り巡らせた。
【蜘蛛の脚】
変化して得た8本の脚から糸を生成し、入り口も軽く塞いでおく。動物系の魔物が侵入してこないとも限らないからね。一応の対策だ、これで安心して眠れるな。
簡易住居が完成したところで、早速食事にしようと思う。今日は何も食事をとっていないので、流石にお腹がすいたな。
【水妖の爪】【火妖の爪】
水妖の能力で、拾い集めておいた木の枝から水分を抜いて乾燥させる。そして火妖の能力で火をつけ、上に平らな石をのせる。
ボアの肉をおよそ200gほど切り取り、熱された石の上において焼いていく。これはおそらく、石焼というやつだった気がする。
肉が焼ける心地いい音を聴きながらしばらく眺めていると、表面に火が通ったので塩を適当にかけて、ボアステーキの完成だ。早速いただこう。
「いただきます」
【斬鉄人間の指】
指一本を斬鉄人間へと変化させ、肉を少し大きめに、かつ一口大にカットする。カットしたことで現れた断面は少し赤く、ミディアムレアに焼けているな。
いきなり追放されたせいでナイフもフォークも箸もない。そのため、木の枝2本を綺麗に削ったもので箸を作っておいた。
肉汁の滴るステーキのうち、いきなり贅沢に真ん中の部分を箸で掴み、口へと運ぶ。
「うまい!」
噛んだ瞬間にジューシーな肉汁が口の中に広がり、肉の旨みを強く感じさせた。繊維っぽさや余計な硬さなどもなく、とても旨いし食べやすい。少し臭みはあるものの、自分で作ったからなのか、いつもより美味しく感じるな。
ステーキを食べ進めながら、今回得たFランク特典というものを確認しよう。システムを起動させ特典を確認する。
・ストレージ機能の開放
・スキルの能力制限をFランクまで解放
得た特典はこの二つだ。俺がストレージを手に入れられる日が来るとは……。
感傷に浸るのはここまでにして、早速余ったボア肉や荷物をストレージに入れてみよう。
【ストレージ】
ストレージ機能を使用すると、目の前に紫色の渦が出現した。大きさは大体手のひらくらいだが、それよりも大きいボア肉も吸い込まれるようにしてストレージにしまうことができた。
これで、今後の生活がグッと楽になるな。いちいち解体して余計な部分を捨てる必要も無くなったし、収入も上がりそうだ。
「うおっと」
気分が上がって気が抜けていたところで、いきなり簡易住居に振動が響き渡った。これは……出口へと近づき、外の様子を伺う。すると、ジャイアントトレントとトロールが戦闘していた。その他にも、魔物たちが活発に行動をしているのが見受けられた。
「そうか。昨日魔物が少なかったのは、転移の際に放出された大量の魔力を魔物たちが警戒していたからだったのか。」
そうなると、こうしてはいられないな。この簡易住居も危険だ。よく見たら、入り口の糸にも攻撃された跡が残っているではないか。
硬い糸を何重にも重ねていたので破壊されていなかったようだが、この周辺に切断力の強い魔物や火を扱う魔物がいたら危なかっただろう。運が良かったな。
これからどうするかというと、トロールとジャイアントトレントの戦いが終わったら、そこを漁夫の利するつもりだ。
それは危険じゃないかって?まあそうなんだが、強力な魔物同士の戦闘が起きているので、周辺の弱いモンスターたちは遠くへ逃げているだろう。それに、ランクの高いモンスターを倒した方が配信映えするだろうからな。
配信映えといっても、視聴者がいないと意味がない。アレナさん、今回の配信も来てくれるといいんだけど。