クソッタレた人間界
「ここが魔界か……」
俺を魔界へと追放した魔法陣が光を失い、やがて空気に溶けたように消えていった。
ほんっと、どれだけ頑張ったところで、名声値が低ければ意味がないんだな……。最低ランクというだけで、魔界への追放までやられるなんて。
名声値の力は偉大だ。それは分かっていたつもりだった。名声値があれば金や人望には困らない。それに、システムから報酬や特典を得られる。
それに、俺を追放したあのアバズレ供のように、名声を利用して罪をふっかけることだってできる。
だから人は皆、配信を行って名声値を高めようとする。
自分の戦う姿、人を救う姿、スキルを利用した芸など様々な行動を世界中に配信し、人気を得ようと必死なのだ。
もちろん、俺もそうだった。
しかし、俺のスキルはとても世の中の人間から人気を得られるようなものではなく、どれだけ頑張っても名声値は低いまま。
挙げ句の果てには体を利用して名声を得たようなアバズレに利用され、こんなところに飛ばされる始末。
どうせ今回も、高身長イケメンと美少女三人組のダンジョン攻略!みたいな企画だったと予想できる。
それで目をつけられたのが俺だったが、能力が気持ち悪かったので企画には使えないと思い見捨てたのだろう。
「くそっ!」
苛立ちを抑えるため、スキルを発動して周囲の木々を薙ぎ倒そうとして、やめた。
それをしてしまったら、見た目だけでなく、心までが化け物扱いされてしまいそうだったから。
そう、スキルさえ見せなければ俺も普通の人として扱ってもらえる。あのアバズレたちも、最初はとても友好的だった。
スキルがちょっと特殊で引いてしまうかも。なんて伝えてみても「あはは! 何言ってるんですか! スキルの見た目なんて気にしませんよ!」なんて、明るく振る舞ってくれていた。
だから、今度こそ友達ができると思ったのに。あわよくば、有名人への一歩を踏み出せると思ったのに。
確かに、説明だけでスキルを見せていなかったのは俺も悪いとは思う。だけど、スキルの見た目だけであそこまで嫌うことあるかよ。
「もう、人間なんて嫌いだ」
そう呟いてみると、少し心がスッキリしたような気分になった。クソッタレた人間界からおさらばできた爽快感だろうか。
しかし、ここは魔界。人間界よりも数段やばいと言われている魔界である。
さらに、すぐに人間界に帰る手段がなく、帰ったとしても……いい人生は待っていないだろう。
スッキリと不安。そんな二つの感情が織り混ざって気持ち悪い気分だ。
「この魔界で生き延びて、いつか人間共に復讐してやる」
たしか、名声値をSまで上げることができれば、人間界、魔界、天界など、さまざまな世界に移動できるようになるはずだ。
そうなれば人間界へ戻って復讐ができるし、Sランク特典の力で能力を変更して人気者になることができるだろう。
そのためにも、まずは金だ! 強い魔物を狩りまくって金を貯め、金の力で人から名声値を買ってやる!
よし、決めた!金の力で魔族共を買収してやる!それが魔界での目標だ!
「……ふぅ」
思考が落ち着いたところで、一旦落ち着いて周りを見渡す。飛ばされた先は森のようで一応は安心した。
魔族の集落の真ん中なんかに飛ばされていたら、すでに死んでいただろうな。
空は赤く、地面はヒビ割れ乾燥している。よく見れば、周囲の植物の多くが魔物だった。流石魔界。先が思いやられるな。
これらをすぐ倒すのもいいが、どうせなら配信でもしようか。もしかしたら、魔族には俺の能力が好きな変人もいるかもしれないしな。
しかし、人間が魔界にいることがバレると厄介なことになりそうだ。配信の設定で顔が見えないようにし、配信を開始した。
8/11 加筆修正いたしました。