弁明と追放
ダンジョンから出て十数分歩くと、冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドは3階建ての大きな建物で、街の中でもダンジョン付近に建てられていることが多いそうだ。
余談だが、どこかのダンジョン都市はダンジョンを囲むように作られているそうで、冒険者ギルドはダンジョンの入り口付近にあるとかないとか。
よし、早いとこ報告に行こう。あの3人パーティーは、今頃逃げたり身を隠している頃だろうな。
戦闘中に味方を見捨てる行為は犯罪であり、数万〜数十万ゴールドの罰金などが課せられるそうだからな。
しかし、今回はそこまで重い罰則を与えてもらうつもりはない。
能力を隠していたこちらにも少しは非があるし、軽いペナルティーを課してもらえる程度に報告しようと考えている。
重く大きいギルドのドアを押し開けると、先程俺を見捨てた女性3人パーティーの姿が伺えた。
「どうしてギルドにいる?」
てっきり逃げていると思い込んでいたので、ついつい口に出てしまった。その声で女性3人パーティーのうち、支援職の1人がこちらに気づいたようだ。
「あ! あの人です! 私たち、あの人に襲われて逃げてきたんですぅ!」
は?俺に襲われた?何を馬鹿なことを言っているんだ。もしや、報告されることを怖がり、先にギルドに虚偽報告をして罰則から逃れるつもりなのか。
「彼女たちの言っていることは事実ですか?」
女3人パーティーの報告を受けていた受付嬢がそう問いかけてくる。もちろん事実無根だと答えよう。
「事実ではありません。それどころか、彼女たちは戦闘中に俺を見捨てて逃げ出したんです」
「いいえ! 私たちは襲われそうになったから逃げただけよ! どうせ、あの気持ちが悪い能力を利用して、私たちを滅茶苦茶にするつもりだったんでしょ!?」
僕の主張を遮るように、魔法使いの女がヒステリックに叫んだ。まさか、本当に襲われると勘違いしていたのか?
「待ってくれ、俺は」
「ほら! 証拠の配信もあります! 見てくださいこの気持ちの悪い邪悪な能力を。きっとこれまでもその顔面で女の子を釣って、ダンジョンの中で襲っていたんでしょう!?」
ありもしないことを散々言われているな。これまでも、能力が気味悪いせいで起きたトラブルはいくつかあったが、ここまでやられることはなかったぞ。
この流れは非常にまずい。中立だったはずの受付嬢も、こちらを女の敵を見るような目で見ているし、いつの間にか野次馬たちに囲まれている。
「それにほら!見てくださいこの人のチャンネル、このルックスと視聴回数で低評価100%、名声値Gランクですって!犯罪者に違いないわ!」
くっ、チャンネルを特定されていたか。これは本当にまずいな。まるで、俺が本物の犯罪者みたいじゃないか。
自分で言うのもあれだが、ルックスには少し自信がある。しかし、ルックスに釣られて寄ってきた視聴者は、能力を見た途端低評価を押して去っていく。
罵倒のコメントを残さないだけましだ。そして、もちろんファンなど存在しない。なので名声値は最低のG。
極悪犯罪を犯したものは、死刑の代わりに名声値を全て没収され、Gランク落ちさせられる。そのため、名声値Gランクとは極悪犯罪者の象徴でもあるのだ。
「なんだ、Gランク落ちの犯罪者かよ」
「早速やったのか?よくやるよな」
「てか、あのパーティーアイラ様のパーティーじゃん。」
「ほんとだ、名声値Cランクのアイラ様を狙うなんてバカだな〜。それで、まんまと逃げられて報告されてるわけか。」
「Gランク落ちの次ってなんだっけ?」
「あー、あれだよ確か。魔界落ちだ」
野次馬たちの会話が聞こえて来る。ここには俺が犯罪歴を持っていないことも、そもそも女パーティーを襲っていないことすら信じてくれるような人間はいないようだ。
それはそうか。相手は名声値Cランク。みんなそっちを信じるに決まっている。
魔界落ち確定か……魔界に落とされた人間で、3日間生き残った人間はいないと言われている。そんな地獄のような場所が魔界だ。
しかし、このクソッタレた人間界にいるくらいなら、魔界に落ちてもたいして変わらないんじゃないか。
ニヤついた顔でこちらを見る女3人パーティーの顔を見ていると、不思議とそんな風に思うようになっていた。
抵抗することを諦めた俺は、二日間の投獄の後、魔界へと追放された。
あとがき
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