第95話 Next Stage
1
(ま、まさか、義朝の身体に鬼切丸の白龍が移ったのではあるまいな?)
突如現れた白龍を見た師仲は動揺していた。能力が「金属を司る」以外明らかになっていない白龍と対峙していたからだ。
(巨大には巨大。私も変化をしよう)
師仲は黄龍の姿に形を変え、白龍と対峙した。
白龍は師仲の結界を破壊し、同時に顔を引き裂いた。
「地から離れない限りは無敵。お前を岩漿に叩き落すことだってできるんだぞ」
顔をすぐさま再生させた師仲は、他心通で白龍に脅しをかけた。
だが、白龍は彼の脅迫など意に介さず、手の周りを銅で覆った。周りに赤気が立ち上る。
「すぐに殺された雑魚の技で何ができる」
師仲は煽った。
白龍はそのまま正清の奥義で彼の身体を吹き飛ばした。そしてそのまま身体の温度を数千度にまで上げ、辺り一帯を真っ赤に輝くマントルの海にした。
(熱い‼︎)
身体を再生させると同時に、高音に適応するため、身体を溶岩にした師仲。が、白龍の放つ溶けた金属の海の方が遥かに熱い。
(白龍にこんな力があったとはな……)
師仲は半獣態となり、宙へ浮いた。
それに合わせるように、白龍も半獣態へと姿を変えた。
白い髪。青い瞳。白い鱗に包まれた両腕。そして頭上には角が生えていて、後ろには輝く光背。明らかに人ならざる何かであることがわかる。だが、顔立ちに人間であるときのそれがあることから、辛うじて義朝であると分かる。
「わかったぞ。貴様は弥勒菩薩の成り損ないというべきか」
「成り損ないがなんだ。仲間を、友と、兄弟と慕っていた奴を平然と殺すお前に言われたくはない!!」
義朝の張った結界は、師仲の幾重にも張られた強力な結界を破壊していった。そして、岩石の鱗で覆われた皮膚に傷を入れた。
「貴様、絶対に殺す」
義朝は空間を切り裂き、超次元への扉を開けた。
空間の裂け目からは、どこまでも続く黒い次元の裂け目が見えた。
「貴様、何をする!?」
哀願するように師仲は聞いた。
「もう二度と、戻って来るな‼︎」
義朝は右手を高温の熱を纏った真っ赤な刃に変え、彼を追い詰めたあの斬撃を何発も放った。
(クソ、身体が再生しない。それにあのよくわからん空間に吸い込まれていく)
焦る師仲。再生が遅れ、吸い込まれていくがままに黒い穴へと向かう。
「とどめだ‼︎」
義朝は思い切り刃と化した手刀から斬撃を繰り出し、師仲の核を斬り、次元の狭間へと落とした。
「ああああああああッ‼︎」
凄まじい断末魔とともに、師仲は血反吐を吐いて次元の狭間へ消えていった。
その後義朝は白龍の姿に戻り、大きな雄叫びを周囲に響かせた。その目は安らぎに青色の瞳から一転、外側は赤く、内側は金色に輝く不気味な目へと変わっていく。
2
「気が、変わった」
先ほど助けられた重盛は、頼政のもとにいた。義朝の開けた次元の狭間を使い、安全な頼政のところへ避難させたのである。
(私が助けられたときは、神仏の発する清らかで暖かな気だった。でも、今の義朝さんの気は……)
別人の、野性的で荒々しい気である。
「もしかしたら、人格を乗っ取られているのだろうな」
真ん中に黒いラインの入った白髪の青年となっている頼政は言った。
「人格が、乗っ取られる⁉︎」
「ああ。俺たちみたいな動物や神獣の力を持つ者たちは、圧倒的な腕力と力を得る。だが、その代償として、能力者の使う獣に人格を乗っ取られるのさ」
「それは大変じゃないですか!! 急いで止めないと」
重盛は義朝の方を見た。
白龍と化した義朝は、咆哮とともに異次元へと通じる空間の裂け目を生じさせ、辺り一面を覆おうとしている。
「義朝は強くても、俺たちみたいに神通力の使い方の訓練は受けていない。ゆえに、元々の神通力と鬼切丸の白龍の力は彼にとっては重荷同然。制御できなくなってこうなるのも無理はないさ」
「じゃあ、どうやったら義朝さんを止められるんですか⁉︎」
重盛は聞いた。
「普通の獣なら気を失わすか殺すかの二択だろう。だが、神仏に等しい存在となっている今の義朝に近づけば、永久に出られない異次元を彷徨い続けることになる。こうなったら、お前の父を封じている草薙剣の形代を、義朝に突き刺すしかない」
「でも、あれに触れては……」
蒼い炎を上げて黒焦げになってしまう。重盛がそう言おうとしたときに、
「いや、お前なら行ける。嫌なら俺が行ってもいいがな」
と頼政が言った。
「なぜ、草薙剣でなければいけないんですか?」
「神を殺せるヒヒイロカネと碧き大地の力の結晶の合金でできた神を殺せる唯一の剣だからさ」
「やってみます‼︎」
意気込んで重盛が行こうとしたときに、
「いや、やっぱりいい。もう型はついている」
「どういうことですか⁉︎」
「伏せろ!!」
頼政は重盛と近くで話を聞いていた頼朝を地面に押さえつけ、全身全霊の結界を張った。
同時に凄まじい爆発が起きた。
3
(どうなったんだろう?)
重盛は目を覚ました。
「父上のお身体に、剣が刺さってる……」
同じく目を覚ました頼朝は、義朝のいる方を見た。
先ほどの爆発でできた大穴の下に父はいた。鬼切丸を持ち、苦しそうに悶える父の体には、深々と剣が刺さっている。剣は草薙剣の形代同様七本に分かれている。が、違うのは、薄い青を帯びた白い剣であった。
黒い穴は塞がり、義朝の後ろに輝いていた光背が消えている。もちらん姿は先ほどの白龍から人間の姿に戻っている。
(それよりも何だ、このすさまじい気は!?)
先ほどから頼朝は、弥勒菩薩の成り損ないになった父や師頼政とは違う神聖な気を感じていた。暖かで周りを包み込むように優しい気を廃墟となった洛外の上空から感じる。
(まさか、斎院が動いたのではあるまいな!?)
二人は正体を確かめるべく、上を見上げた。
剣が落ちてきた方向には、尻からは外側が金で内側が瑠璃色の尾を生やし、青い炎を纏った翼で宙を舞う巫女服を着た少女の姿があった。少女の後ろにも、覚醒した義朝と同様光背が輝いている。
「やはりそうでしたか」
頼朝と重盛は納得しようとしたときに、
「お前ら、図が高いぞ!!」
頼政に頭を地面に押し当てられ、無理矢理土下座させられた。
少女は、
「源朝臣義朝、彼は弥勒菩薩に非ず」
と言い残し、義朝に刺さった剣を抜いて去っていった。
──転へ続く──




